第十話 『一緒に甘い物でも食べない? 三人でさ』
『先生との面談はもう終わった?』
手に持ったスマホには、妹の澪からのメッセージが届いていた。
授業終了後の面談を終え、教室で一人帰り支度をしているときのことである。
「うん?」
僕はそのメッセージに違和感を覚えた。
急遽決まった面談のことを、妹が知っているはずがないからである。
「雨宮、ちょっといいか?」
授業が全て終わり、莉子と下校しようとしていたとき、担任の先生から僕は声を掛けられた。
例の柔道対決を行った飯田について面談がしたいとのことだった。
そのため、僕は莉子を先に帰らせ、面談を開始したのである。
当然ではあるが、先生へはあの対決後、既に事情を説明していた。
ただ、本当のことを言うわけにはいかず、「二人で技の掛け合いをしていて、少しヒートアップしてしまっただけ」という説明をしていた。
飯田も同じような説明をしていたらしく、先生はそれ以上は突っ込んで聞いては来なかった。
今回の面談は――。
「ちょっと聞きたいんだが……、飯田は、大丈夫そうか?」
そう質問してくる先生は、どうやら飯田と僕とのその後の関係を聞きたいわけではなかったらしい。
転校してきた飯田がクラスに馴染めているかを確認したいようだ。
「段々クラスに馴染んできていて、特に問題ないと思いますよ」
「そうか」
僕の言葉に安堵の表情を見せる先生。
実際、今はクラスメートとも楽しそうに話していることが多く、問題ないだろうと僕は思っていた。
なお、僕との関係も問題ない。
あの柔道対決後、飯田は僕から距離を取るようになった。
どうやら捨て身で何かしてくる奴と思われたらしい。
僕としては、望むところだった。
一度莉子のターゲットになりかけた飯田とはできるだけ距離を置きたい。
まあ、今後柔道対決を行ったとしても負けるつもりは全くないが……。
そして、面談を終え、教室でスマホを確認したところ、澪のメッセージが届いていたというわけである。
『面談終わったなら、一緒に甘い物でも食べない? 三人でさ』
二つ目のメッセージもよく分からない。
『三人』とはどういうことだろうか?
甘い物を一緒に食べるくらい仲の良い共通の友人なんて、僕は思い付かないが……。
そう考えていた僕は画面をスクロールして、メッセージに添付してある写真に目を止めた。
「!?」
と、同時に、手早く荷物をまとめ、ダッシュで教室を出た。
写真には、笑顔の澪とともに、少し恥ずかしそうに顔を赤くしている莉子が写っていたからである。
雨宮家長女――僕の妹『雨宮澪』。
澪は、僕の二学年下で現在は中学三年生である。
僕と違い、性格は明るく、人付き合いも非常に上手い。
所属している陸上部では、一年生の頃から100メートル走と走り幅跳びで学校のエースとなっていた。
妹がもらった賞状やメダルなんかも家にはいっぱいある。
はっきり言って、僕の自慢の妹である。
そんな妹だが、今まで莉子とは会ったことはなかったはずだ。
別に兄妹仲は悪くないので、莉子の話をしたり、色々と相談には乗ってもらってはいたのだが……。
「余計なことを話してなきゃいいけど……」
今の高校には、僕が通っていた中学から来ている生徒は非常に少ない。
妹は高校入学前の僕を知る貴重な人物なのである。
◆ ◆ ◆
二人がいたのは、以前莉子と一緒に来たスイーツ屋さんだった。
肩で息をしながら、僕は入り口の空色に塗られたドアを開けた。
「お兄ちゃん、こっち~」
店に入ると同時に澪の声が飛んでくる。
声のした方向を見ると、澪が手招きをしていた。
「莉子、大丈夫……か?」
莉子の隣に座るなり、僕は自身でもよく分からない質問を投げかけていた。
「うん、私は大丈夫。妹さんから陸のことを色々聞かせてもらってたの」
笑顔で嬉しそうに答える莉子。
そんな様子に僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
どうやら嫌な話を聞かされたわけでも、ましてや、澪に嫌々付き合っていたわけでもないようである。
「お兄ちゃん、『大丈夫?』というのは、可愛い妹に対して言うべきことでしょう?」
完全にスルーされていた(自称)可愛い妹はちょっと腹を立てているようだ。
「ん? それはどういう意味で?」
「私がついさっき、変な男に連れ去られそうになったんだから」
「え!? ええっ!?」
「でも、もう大丈夫よ。莉子ちゃんが助けてくれたから!」
驚く僕に、何故か胸を張って自慢げな澪である。
被害者である澪の元気いっぱいな説明によると――。
駅の裏通りを歩いているときに、変な男に絡まれたらしい。
その男に腕を掴まれて、どこかに連れて行かれそうになったそうだ。
周りにいた大人たちは誰も助けてくれなかったが、包丁を持った莉子が颯爽と現れて男を追い払ったらしい。
「莉子ちゃん、物凄~~~く格好良かったんだから!!」
胸の前で手を組み、莉子の活躍を熱く語る澪。
「さらには、『もう大丈夫だから……。もし男が戻ってきても、あたしが八つ裂きにしてやるから』って、私のことを元気付けてもくれたんだから!!」
どうやら澪には、莉子がスーパーヒーローのように見えたらしい。
僕はそんな澪の話を聞いて、再度胸を撫で下ろしていた。
ここまで元気よく話す澪は特に問題ないだろう。
そして、『もし男が戻ってきたら八つ裂きにする』ということは、現在は八つ裂きになっていないということである。
しかし、分からないことがある。
僕が変な男に絡まれていたら、莉子は必ず助けにくるだろう。
ただ、僕以外の人を積極的に助けるようなタイプだっただろうか?
「……妹さんがね、陸にとてもよく似ていたの」
僕が思い浮かべた疑問を感じ取ったのだろう。
少し恥ずかしそうに澪の話を聞いていた莉子が口を開いた。
「そんなには、似てないと思うんだけどね?」
澪は不思議そうな顔をしている。
兄妹なので顔つきなど、全く似ていないわけではない。
更には、澪はショートカットで、年齢の割には背も高めである。
しかし、人違いを起こすくらいかと言うと……。
もしかしたら、莉子なりの何かが存在するのかも??
「うん、とりあえず、それはそれとして。莉子、ありがとう。澪を助け――」
「――やっと見つけたぞ!!」
僕の声を遮り、大きな声を上げたのは、人相の良くない見知らぬ男だった。
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