アテナたんと赤ちゃん
「ちちうえっ!!ちちがひつようなのですっ!!ちちをくださいっ!!!」
アテナが大慌てででっかい籠をぶらさげて飛んできた(物理)
「どうしたんだ一体?」
アテナはたいていの場合兄を頼ってしまうのでちと寂しくなかったかと言えば嘘になる。たまにはこうして父を必要としてくれるのも良いものじゃ。
「なきやまないのです!!あにうえがとにかくちちがひつようだとおっしゃるのです!!」
……泣き止まない……?何がだ……??そういえばアテナがぶら下げてる籠からぎゃんぎゃん動物のような声がするが……
「……それ、いったいどこで拾って来たんじゃ……??」
「なんかはらっぱにおちてました!!」
……捨て子かよ。色々事情があって育てられない子がいるのは仕方ないけど、せめて孤児院連れてくとか他に方法はなかったのかね?
野原に放置してたら飢えるまでもなく獣や蛇に襲われてすぐ死んでしまいそうだ。さっきからギャンギャン泣きわめいてるのは腹が減ってるんだろうが。
「たぶん腹が減ってるんだろう。とりあえずヘラに頼んで乳を分けてもらおう」
「ちちとはちちうえのことではないのですか?ははうえにおねがいすればちちをだしてもらえるのですか?」
「……とりあえずヘラんとこにそいつを連れていけ。たぶんいいようにしてくれるから」
「はい!!」
納得したアテナは赤ん坊を連れてヘラのところに去って行った。
翌日、藪をぶんぶん飛び回りながら何かを探しているアテナを見かけた。
「おお、アテナか。昨日の赤ん坊はどうした?」
「ははうえがちちをくれまして、いまはすやすやねむっております!あにうえとこうたいでめんどうをみることにしたのです!!」
「ふむふむ、感心感心。それで、お前は何をしているんだ?」
「へびをさがしているのです!!」
「蛇?」
「きのうあかちゃんをみつけたとき、へびがかごにはいりこもうとしていたのです!そしたらあかちゃんがへびをつかんでぶんぶんふりまわして、えいってちぎってきゃっきゃとわらっていたのです!きっと、このこはへびであそぶのがすきなのです!!」
「……ちなみにどんな蛇……?」
「なんかね、2めーとるぐらいで、ぴかぴかしてて、みどりいろっぽいの」
「そんなでかい蛇ぶん回して遊んでたのか?」
なんだか普通の赤子とは思えんのだが……よくよく見てみると誰かに似ているような気がする。
「籠の中に何か身元の分かるもの入ってなかったのか?」
「う~んう~ん……そういえばおくるみにじゅうしょとなまえかいてあった!!」
「ちょっと持ってこい」
どれどれ……テーバイ城内アムピトリュオン方、ヘラクレス……って、これワシが夫に化けてアルクメネに産ませた子じゃないか。なんで野原に放置されとったんじゃ?
「とりあえずお家に帰してきなさい」
「え~っ、かわいいのに」
「こやつはテーバイに亡命中のミュケナイの王子だぞ。誰がさらってきたか知らんが、今頃親が必死に探しておるじゃろう」
「おうじさま!!それはたいへんです!すぐかえしてきます!!」
アテナはすさまじい勢いですっ飛んでいった。もちろん物理的に。
その後、家に帰されたヘラクレスはすくすくと成長し、義父を助けて戦争で大活躍したり、うちのヘラを怒らせて狂気にとらわれたりするが、それはまた別のお話である。