セトロベイーナ女王の決断
「皆さん、もう心配はありませんよ。帝国の勇者は逃げました。仲間を二人ほど始末したら、ビビって逃げたみたいです」
女王様達がいる客間へと戻った俺は、もう岸田がビビって逃げた事を伝える。
この客間に戻っている間に寺原から先に色々と聞いていた。
どうやら、岸田が現在仕えているアルラギア帝国は、周辺の国を滅ぼしては侵略し、植民地化しているらしい。
ハッキリとは分かっていないが、寺原の話だと二十を超える国がアルラギア帝国に滅ぼされ、殺された人は民間人も含めれば軽く百万人はいるんじゃないかと。
今回、攻めに来たのもセトロベイーナが傘下に入る気配を見せないから、ここの宮殿をぶっ壊して女王様を拉致すれば、セトロベイーナを植民地化出来ると計画があったと。
だが、五十嵐と園部コンビが自分達の遠距離攻撃を跳ね返された挙げ句、死にかけた事でパニックになり、とても戦闘で使える状態では無くなったので、岸田と五十嵐と園部は一旦アルラギア帝国に戻る事に。
何故、亜形と寺原は残っていたのか聞いたら、岸田は追い付かれる事を恐れて亜形と寺原を足止めにしたらしい。
亜形に岸田は、オレ様が出るまでもねえから寺原と二人で雑魚は倒しておけと言ったみたいだが、飛んできた矢が(俺が威力も速度もマシマシにして跳ね返した矢)自分の恋人である五十嵐とその友人の園部に向かって来た時に近くにいた高木を盾にして防ぐという暴挙に出たせいで高木が死んだから、もう岸田とは共に戦いたくも無いし、一緒にいる理由も無いと寺原は言っているが……果たして信用して良いのかね。
女王様に報告したはずなのだが、最初に反応して来たのはリベッネだった。
「さっすが勇者様! ……って、その女!」
「まあまあ、早速殺そうとしないで下さいよ。色々こいつには聞きたいことがありますし」
「……そうですね、勇者様の言う通りです」
おお、怖い。
まあ……散々嫌がらせを受けたり、セトロベイーナの人間を殺されまくったのだから、岸田の仲間である寺原を殺したくなるよな。
ん? リベッネの反応を見るに、寺原はリベッネを含んだセトロベイーナの兵士達に岸田の仲間として顔が割れているだけでなく恨まれているのか。
……あれ? これ、寺原処刑待った無しじゃね? 俺、余計な事したかも?
「……サツキは誰も殺して無いのに……」
「そんなのは、この世界の人間には通用しないぞ寺原。お前が岸田の仲間だった事は一生忘れては貰えないだろうよ」
「……変わらないね。上野くん……。そうやって、遠くから正論だけ言って、サツキ達を助けてくれないの。元の世界でもそうだった」
「……」
遠回しにお前は見殺しにしていただろと言いたかっただけだったが、寺原に言い返され黙る。
遠くから正論だけ言って、助けてくれなかったじゃないかとは、この女……。
完全に忘れてやがる。
お前が、上野くんが余計な事言うと更に扱いが酷くなるから余計な事しないでって言ったの忘れてるのか? 忘れてるよな? この言い種だと。
……まあ良いや。
処刑になっても知らね。
絶対に助けないでおこう。
「あ、そうだった。城門とか庭園とか結構酷い事になってますよ。……後は、命を落とした兵士達も……」
寺原の非難を聞こえなかったかのように、露骨に話題を変え、リベッネに聞く。
が、すぐに護衛騎士達が答えようとするリベッネを制し、代わりに答える。
「それは、私達の仕事です。勇者様、アルラギア帝国の勇者を追い払って頂きありがとうございます」
「気にしないで下さいよ、勇者様! 軍の人間なら仲間の死を何度も……見て……きまし……たから」
「泣くなバカ! さっさと、外の様子を見に行くぞ! 勇者様に救われた命がある俺らがメソメソ泣いてちゃ、命懸けで女王様を守った仲間達が浮かばれねえだろ!」
「本当にありがとうございます! ……それと、女王様達を頼みます」
俺に感謝の言葉を言って、護衛騎士達は外へと出て行った。
……強いな。
一番辛いのは、あの人達だろう。
仲間が殺されているのに、その辛さを押し殺して、外の現状を見に行くなんて、俺には出来ない。
「……ええっ? な、何でよぉ……何でサツキを睨んでいくのみんなぁ……サツキは何もして無いのにぃ……」
後ろで責任転嫁している、死刑囚の独り言がマジでウザい件について。
何もしなかったから騎士達に睨まれてしまったという事に気付けよ。
「大丈夫だった?」
「お怪我はありませんか?」
「あ、サンドラさん、メリサさん。俺は大丈夫ですよ。ただ……ここの兵士達が十数人ほど殺されて、城門も庭園も破壊されてしまいましたね」
サンドラさんもメリサさんも、俺を心配し怪我は無いか聞いてきたので、俺は大丈夫だと答え、外で何かあったか簡潔に話す。
俺達の様々なやり取りを聞いていた女王様が、何かを決めたかのように頷き、俺の元へ来る。
「あの……勇者様、まずは心から感謝を申し上げます。わたくし達を守ってくれてありがとうございます」
「いえ、俺がいた世界の人間がやった愚行ですから。俺は皆さんを守って当然なんです」
「……サツキの事は守ってくれなかったクセに……」
うるせえぞ、死刑囚。
お前は黙ってろ。
女王様と俺のやり取りを邪魔すんな。
「……あの、わたくしに付いて来て貰えますか?」
「え? ま、まあ……」
「申し訳ありませんが、勇者様にだけ来て欲しいんです。お仲間とその後ろにいる女は連れてはいけません。オーゼキ様の所へご案内します」
「……え?」
「女神の藍を勇者様に……託します」
女王様は、涙目になりながら俺にそう伝えるのだった。
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カクヨムでは113話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。




