お前が謝れ!
「あのー……一体いつになったら、ケント達はここに来るんですか?」
カムデンメリーのバカ魔法使い達にケント達を呼ぶから逃げるなと言われてあれから何分経ったのだろうか。
俺達を囲むギャラリーは増えるが、待てど暮らせどケント達は来ない。
もう夜になったぞ。
絶対理容室終わったろこれ。
明日、王様に会いに行くのにこのボサボサの長髪で行けってのかよ。
しかも、あまりにケント達が来るのが遅いから、俺の女神の黒を偽物の女神の剣と決め付けておもいっきり手で掴んだ魔法使いは大分前に仲間の魔法使いに病院に連れていかれたし。
三人いたはずのバカ魔法使い達も、既に一人しかいない。
口調こそ丁寧だが、口を開けばメリサさんを侮辱するような事しか言わない魔法使いだけが残った。
「あの……もう帰って良いですか? そろそろ宿のチェックインもしないといけないので」
「も、もう少しで勇者ケント様がき、来ます! お、怖気付くのは分かりますが、逃げないで下さい!」
「いつまで待てば良いんですか……」
メリサさんの元同僚は未だにもう少しでケント達が来るから、ここで待っていろと言っている。
……俺達はそのセリフを何度聞かなきゃならないんだ?
メリサさんイライラしてるよ絶対。
それ以上に俺はイラついているけどな!
どうせカムデンメリーの魔法使いを怪我させたという濡れ衣は着せられているんだから、残った魔法使いを腹いせにぶん殴って事実にしてやろうかと考え始めた頃だった。
「すみません! 遅れました!」
俺達を囲んでいたはずのギャラリーが突然聞こえた声に反応するように道を開ける。
声の主は勿論……勇者ケントこと俺の幼馴染、渡辺健人だった。
ん? いつもケントの周りには地味ーズ女子が三人いるはずなのに、今日はオカッパだけか。
オカッパって事は剣士サラこと、山口沙羅か。
後の二人、アンリとニーナはどうしたんだ?
「ケント様! 忙しいところ申し訳ありません!」
残っていた魔法使いは、ケントの元へ状況を説明しに行く。
……うわあ、さっきまであんな醜い顔をしていたのに、勇者様が来たから急に女の顔ですか? あー嫌だ嫌だ。
「……いえ、勇者なので。それよりもアンリとニーナが力を合わせないと治せない程の怪我を負った魔法使いが病院に運び込まれてビックリしましたよ」
「あの者が、ケント様の幼馴染と名乗るあの者がやったのです!」
「……幼馴染? あっ……」
「えっ、まさか……上野?」
だから、俺がやったんじゃねーよ。
勝手にそこの魔法使いの仲間が自爆しただけだろ。
「すいませんね、メリサさん。ちょっと行ってきますよ。あ、手出しは無用です」
「……ジンさん。仮にもあなたの幼馴染はこの国の勇者です。命を奪うのだけはお辞め下さい」
「ははっ……分かってますよ」
心配しないで下さいという意味を込めた笑顔をメリサさんに向け、俺もケントとサラの元へ向かう。
「ん? いつもお前が侍らしている女は、三人じゃなかったか?」
魔法使いとケントの話は聞こえていたが、わざとらしく俺はケントに聞く。
「言い方が悪いぞ、ジン。彼女達は仲間だ」
「上野! 何その口の聞き方!」
「うるせえ、オカッパ。お前には聞いてねえんだよ。下がってろ、ブス!」
「ジン!」
俺の言葉が癪に触ったのか、ケントが出てくる。
一対一。
まるで決闘だな。
元の世界じゃ一対一の決闘なんて見たこと無かったな。
「ジン! お前何やってるんだ! 魔法使い、しかも女性に大怪我を負わせただけでなく、俺の仲間のサラを侮辱するなんて……! 今すぐ謝れ!」
「その言葉、お前にそっくりそのまま返してやるよ! この勇者が!」
「!?」
ケントはまさか自分が怒鳴られるとは思っていなかったのか、ビビって借りてきた猫のように大人しくなる。
こちとら野球部だったんだぜ?
帰宅部だったお前よりデカい声を出すなんて朝飯前なんだよ。
何が謝れ! だよ。
ふざけんな……お前の……お前らのせいで、一体何人の人間が死んだと思っているんだ。
(「ママ! ママーーーーー!!!!!」)
(「あなたぁぁぁぁぁ!!!!! どうしてぇぇぇぇぇ!!!!!」)
(「嘘だ! 嘘だと言ってくれよ!」)
ああ……あの日。
ファウンテンの街が地獄絵図となった日。
仮設の救護所で、泣き叫ぶ人々の声や姿が鮮明に思い浮かぶ。
母親を殺され泣き叫ぶ少年。
兵士である旦那を殺され発狂した若妻。
そして、恋人が助からないという現実を受け入れられず、救護所の魔法使いに怒り狂う、俺と同い年くらいの男の人。
特に印象に残っていたこの三人の姿を、俺はしばらく忘れる事は出来ないだろうな。
そして、俺はお前達を一生恨むだろうな。
あんな絶望で溢れた光景は、授業の歴史で見た戦争に関してのビデオでしか見たこと無かったよ。
それをお前達は……俺に見せたんだ。
だから、絶対許さない。
「ケント! お前達が周辺の街や王都からの応援が着く前に、ファウンテンを離れたから、ヴェルディアの部下達に襲われてファウンテンは壊滅状態だよ! 一体何人が! 何人が死んだと思っているんだ! この役立たずの無能共が!」
「なっ……」
ファウンテンの街の人や兵士達、そして死んでいった人達がケント達勇者パーティーに対して言いたくてしょうがないであろうことを大声で、大勢のギャラリーの前で代弁した。
もちろん、俺も言いたかったに決まっているだろ。
大声で、こんな風に大勢のギャラリーの前でな!
ここまでご覧いただきありがとうございます。
カクヨムでは111話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。




