なあ? そうだろ? 国分?
「観念するんだな! お嬢ちゃん!」
「なあに、そんな悲しそうな顔をしなくていいぞ? 俺達のことを満足させる。たったこれだけのことだ。簡単だろ?」
「あ……あ……ど……どうして」
ロールクワイフ共和国の勇者パーティーである国分が、派遣軍のおっさん達に囲まれていた若い女性を助けるどころか、むしろおっさん達に従えという意味の言葉を掛けたため、女性は落胆している。
逆に、派遣軍のおっさん達三人の中でも、荒い言葉遣いをしていた二人は、スケベそうな顔しながら、嬉しそうに連れて行こうとする。
……何が簡単だよ。
お前らおっさん達の相手なんか簡単なわけがねえだろ……特に精神的に。
鏡見てから言えよ。
同じ男ではあるが、本当に気持ち悪かった。
なので、この二人には少し黙っていて貰おう。
国分と三人いた派遣軍のおっさん達の中でも、一番上そうな奴には話があるし。
「エクスチェンジ。女神の紫。あの気持ち悪いおっさん二人を動けなくしろ。パラジー」
女神の紫によって使える毒魔法の一つ、パラジーを使って、女性を連れて行こうとしていたおっさん二人を麻痺させる。
効き目は抜群だったようで、おっさん二人は地面にぶっ倒れて、そのまま動けなくなっていた。
「あ……あ……」
「う……く……」
誰がこんなことをしやがったんだと言いたげに、おっさん二人は呻いているが、デッドリーポイズンで殺されないだけ、ありがたいと思って欲しい。
もし、女性を連れて行こうとしていたのが、元クラスメイト……女神の加護持ちの人間だったら、迷わず俺はデッドリーポイズンを使っていただろうからな。
……って、女の人怪我してるっぽいな。
痛そうにしてるし。
まあ、俺の相手にはならないとはいえ、軍人の男達に思いっきり掴まれたり、引っ張られたりしていたんだから、無理もない。
「麗翠。この女の人の手当てを頼む。腕とか掴まれたりして、多分痣になってる」
「あ……う、うん。分かった……今の持ち合わせじゃ、簡単な手当てしか出来ないけど……で、でも大丈夫……かな……?」
「……やっちまった以上はしょうがねえ。それに、この女の人を見捨てて、アルラギア帝国軍の人間に好き勝手させるのは、岸田達の悪行を肯定するのと一緒だ」
「……そうだね。私達が派遣軍の人達に逆らって、この街の人を助けても、結局困るのはロールクワイフ共和国の人達なんだから……って言い訳して、自分に言い聞かせていただけかも。うん、助けよう、仁」
……別に、麗翠の考えは間違っていないし、なんなら正しいんじゃないかな。
自分達がアルラギア軍に逆らって助けても、結局困るのはロールクワイフ共和国の人達という考えは。
実際、麗蒼、国分、丸杉、竹内、佐々木、そして麗翠の六人で、岸田達+アルラギア帝国軍を相手にして戦っても、厳しい戦いになっただろうし、ロールクワイフ共和国に甚大な被害をもたらしたと思う。
園部の強化魔法か女神の加護で、パワーアップした岸田の女神の橙による爆撃攻撃と、急所必中弓矢使いの五十嵐の遠距離攻撃を、麗翠ぐらいしか防げる人間がいそうにないからな。
だが、今は違う。
岸田達とアルラギア帝国軍はボルチオール王国侵略で忙しい上に、神堂と戦わなければならない。
となれば、アルラギア帝国軍や岸田達もただでは済まないし、苦戦もするから、ロールクワイフ共和国なんて構っていられる状態じゃない。
……もし、神堂が簡単に負けたら、もちろん一気にヤバくなるんですけどね。
無いとは思うけど。
岸田達とネグレリア、俺はこの両方と戦ったわけだけど、どっちがキツかった? と他人に聞かれたら、圧倒的にネグレリアだと答える。
そのネグレリアが、俺以上に神堂のことを警戒していたんだから、大丈夫だな。
うん、大丈夫だと思おう。
それに、神堂と取引して手に入れた女神の黄もあるし。
何とかなるか。
いや……多くの人の命が関わっているんだ。
何とかするんだよ。
覚悟を決めたんだから、揺らぐな。
「……その女の人を頼む。俺は、バカな元クラスメイトに用事があるんでね」
麗翠に女性を任せて、俺は何が起こったのか分かっていない国分と派遣軍のおっさん達の残り一人の元へ行く。
「き、貴様! 何をした!? ……いや、それはどうでもいい! 従属国であるロールクワイフの冒険者ごときが、宗主国であるアルラギア帝国軍の派遣軍の人間に対して逆らう……これがどういうことだか分かっているのか!?」
残り一人のおっさんは、やったのが俺だと分かったのか、声を荒らげて怒鳴りつけてくる。
だが、思わずニヤけてしまった。
良い返しが思いついたので。
「ハハッ! おや? 俺にそんな口調で話すのは辞めてもらいたいですね? いくら、あなた達がアルラギア帝国軍の一員でも、俺とあなた達とでは、永遠に埋まることのない差というものがあるんですよ。主に実力がね? なあ? そうだろ? 国分?」
「!?」
怒鳴っていたおっさんは、驚きのあまり黙ってしまう。
そりゃそうだ。
さっき国分が自分達に言った言葉で返されただけでなく、俺が国分を知っているから。
つまり、俺が女神の加護持ちということに気づいたからだろう。
「……生きていたのね、あなた」
「お前こそ」
悔しいのかは分からないが、二年ぶりに会った元カノは顔を紅潮させていた。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
カクヨムでは123話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。