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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第四章 裏切りの暗黒騎士編

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第97話 天使か聖人

 










「逃がさん……。絶対に逃がさんぞ……」


 私はブツブツと呟いていた。

 脳裏に浮かぶのは、もちろん暗黒騎士のことである。


 まるで、恋をしているのではないかと思うほど四六時中奴のことが頭にある。

 もちろん、そんなわけないが。


 奴が私よりも自由になることが許せないだけである。

 私を捕らえていたのは、暗黒騎士だ。


 奴がいなくなれば、自動的に私も自由になることができるはずだ。

 それだったら、私はこれほど強く彼に執着していないだろう。


 問題は、あいつのせいで私は四天王なんて馬鹿げた役職についていることだ……!

 これじゃあ、あいつがいなくなっても私は逃げられないじゃないか……!


 だから、暗黒騎士を元の場所に引き戻すのである。

 私だけつらい思いをするのはおかしいからな。


 暗黒騎士もつらい思いをしなければならないのだ。

 そんな私は、今魔王軍の幹部と共に、ルーナの私室にいた。


 ……やっぱり、人間で高潔な女騎士である私がここにいるのはおかしいと思う。


「お集まりいただきありがとうございますわ」


 ルーナに全員の視線が集まる。

 魔王軍の幹部から一斉に目を向けられるというのは、かなり恐ろしいことだろうに、彼女の鉄仮面は微塵も揺らがない。


「事が事でしょう。まさか、あいつが洗脳されるとは……」

「はんっ! しょせん、その程度の奴だってことだろうが!」


 魔王軍四天王のオットーとトニオである。

 久しぶりに見た気がする。


「いつも突っかかってまともに相手にされなかった奴が、よく言えるものだ」

「なんだと!?」


 そして、相変わらずの仲の悪さ。

 まあ、一度殺しかけたのと殺されかけた関係だからな。


 だからと言って、今ここでぶつかられても困るのだが。


「おやめくださいまし」


 ルーナの言葉が、スッと通った。

 小さい声だったが、しかしその冷たさはオットーとトニオを止めるには十分すぎるほどの迫力があった。


 ……大丈夫か? 私、漏らしていないか?


「今は、そのようなじゃれ合いをする時間すら惜しいですわ。オットーが言ったように、それほど事態は切迫していますの」


 ルーナは少し間をおいて、言った。


「魔王軍最高戦力である暗黒騎士様。彼が、在野の研究者ユリアによって洗脳され、彼女の操り人形に陥ってしまいましたわ」

「……どうすることもできないんじゃない?」


 それは、メビウスの言葉。

 しかし、誰もが思っていることだったかもしれない。


 暗黒騎士が敵に回る。

 それが、どれほど絶望的なことか。


 まあ、逃がさんがな。

 あいつだけ幸せになるのは許さん。


 地獄まで引きずり落としてやる。


「ご主人がそのつもりだったら、私たちじゃあどうしようもできない。無理」

「たとえそうだとしても、仮に暗黒騎士が罪のない人々を傷つけるのであれば、それを止めなければなりません。それこそが、彼のためでもあります」


 メビウスの後に、テレシアが続ける。

 魔勇者として堕ちた後も、なおも一般人のことを思っているらしい。


 いや、一番大切なのは自分だろう。

 私は暗黒騎士が罪のない人々を傷つけても構わない。


 幸せにさえならなければ、何でもいい。

 ただただ不幸になってほしい。


「無茶を言うな、勇者。お前も奴と戦ったことがあるから分かるだろう。あれは、我々が一斉に襲い掛かったとしても、倒せる存在じゃない」


 暗黒騎士と戦い、そして打倒されたオットーが言う。

 説得力が違う。


 しかし、それを聞いたトニオがあざ笑う。


「だからよぉ、ビビってるんだったら黙って震えてろ! 俺がどうにかしてやるよ!」

「貴様程度で、あいつをどうにかできるわけないだろうが!」


 そんな会話ばかりだ。

 紛糾する。


 本来であれば、ルーナがここで一言言って、場を鎮めるのだろう。

 だが、暗黒騎士が敵に回るという異常事態に、全員が正常ではなくなっていた。


 ……なんだ、この会議は。

 こんなことのために、時間を費やすのか?


 私は、そのことを考えて……。

 バン! と強くテーブルをたたいた。


 全員の視線が自分に向けられる。

 魔王軍の幹部の視線を集めるということは、普通の私なら絶対にしないことだ。


 だが、これは普通ではないのだ。


「そんなくだらない話は、後でやれ。今は、暗黒騎士を止める止められないじゃない。止めなければならないし、その方策を考える場だ。違うか?」

「ブチ切れている……」


 誰かが呟いたが、私の視界は怒りで真っ赤になっていた。

 当たり前だ。怒らないはずがないだろ。


 どいつもこいつも役に立たねえ……。

 お前らの命を費やしてでも、暗黒騎士を連れ戻せ。


「あいつは何としてでもこちらに引き戻さなければならない。そうだろ?」


 幸せになることは許さん。

 奴が解放されるためには、まず私の解放が前提条件である。


「……確かに、その通りですわ。暗黒騎士様の力は、これから先必ず必要となります。彼をここで手放すわけにはいきませんわ」


 私が問いかければ、ルーナが応えてくれる。

 よし。奴はまだ暗黒騎士を利用するつもりだろう。


 こうして打算が分かる奴が相手だと、随分と話が進みやすい。


「だけど、実際にどうするの? 言っておくけど、私はご主人に勝てる自信はないよ」


 メビウスはあまり表情を変えず、無情なことを言ってしまう。

 四天王最大火力持ちがそんな甘えたこと抜かしてどうするんだ!


 もっと熱くなれよぉ!


「正直、私は今すぐご主人の元に行きたいくらいなんだけど」

「はぁ!? 何ふざけたこと言ってやがる! 俺たちを裏切るつもりか!?」


 トニオは驚愕の声を漏らす。

 私もびっくりだ。


 こいつ、何言ってんだ!?


「もともと、四天王もノリでなったみたいなものだし……。私のご主人、暗黒騎士だし。ご主人の言う通りに動くのが良いドラゴン」


 キリッとした顔で何言ってんだこいつ。

 このドラゴン、暗黒騎士のペットみたいになっているじゃないか!


 黒竜がペットって、あいつやばすぎるだろ。

 マジで暗黒騎士だ。


「その暗黒騎士が、望まず誰かの言うことを唯々諾々と従う人形になっているんだぞ? お前のご主人がそんな情けない姿で、仕える気になるのか?」

「……それはちょっと嫌かも」


 ようしっ! 裏切り防止ぃ!

 私の言葉に、ちょっと嫌そうに眉を顰めるメビウス。


 どうやら、自分が仕えるのはいいが、ご主人様が誰かに仕えるのは嫌らしい。

 ……一応、暗黒騎士は魔王よりも下のはずなんだけど、それはいいのだろうか?


 正直、メビウスに抜けられてあちらに立たれたら、マジでどうしようもないしな。

 余計なことは言わないようにしよう。


「そ、そうですね。その通りです」


 少し口ごもりながら、テレシアが言う。

 ……もう一人怪しい奴も牽制することができたな。


 この野郎。あんなに人のためアピールしていたくせに、暗黒騎士の元に行くつもり満々だな。


「だが、暗黒騎士への対策はどうする? ここにいる奴全員で一斉に飛び掛かってみるか?」


 嫌です。

 私が斬られたらどうするんだ。


 世界の損失だぞ。


「……それで、どれくらい持たせられそうですの?」

「さあな。私は奴の本気を知りません。私と戦った時なら一時間は持つ。だが、もし奴の本気がそれ以上なら……想像したくもないですね。まあ、私は奴のすべてを引き出せたとは思っていないが」


 魔王軍の総戦力と言っていいこいつらが一斉に襲い掛かっても、一時間しか持たないの?

 雑魚じゃん。


「なら、別に暗黒騎士と戦わなくてもいいだろ」

「どういうことですの?」


 私を全員が見る。

 どうしてこいつらはどいつもこいつも暗黒騎士と戦おうとするのだろうか。


 戦闘狂かな?

 危ないものに積極的に近づいてどうする。


「ユリアを狙えばいいだろ。あいつ、ろくに戦えないらしいし」


 私の言葉に、『えー……』という視線が向けられる。

 な、なんだ。


 妙案だと思ったのに。


「……確かに、それなら」


 しかし、ルーナは分かってくれるようだ。

 さすがは魔王様。


 私は信じていた。


「倒して洗脳が解けるかどうかは分かりませんが、正面から暗黒騎士様とぶつかるよりはマシですわね」


 どうやら、私の案が採用されるようだ。

 ふっ……天才と呼んでくれ。


 ……ユリアをボコボコにしても、洗脳が解けないの?

 え? じゃあ、暗黒騎士を引きずり戻すことができないの?


 ……じゃあ、戦う意味なくない?


「……外道ですね」

「!?」


 白い眼が向けられている。

 どうして……!?


 天使の間違いだろ。

 それか、聖人。


「では、ユリアをまずは排除する方向で進めましょう。……そのこともあって、彼女のことも話しておいたほうがいいでしょうね」

「ユリアって奴のことか?」


 興味がない。

 もうまったく興味がない。わかない。


「ええ。彼女がわたくしたちを憎悪し、復讐する……理由も」


 あ、強制回想イベントですね。




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