第96話 オーケー、ボス
俺はユリアに従い、魔都の郊外に来ていた。
セーフティハウスとして、ユリアが用意していたものだ。
おそらく、今回のことはずっと計画されていたんだろうな。
準備も周到で、まさに計画通りといった雰囲気だ。
しかし、許せんのは俺に無断で変な魔法を仕込まれていたことだ。
一瞬とはいえ、鎧さん以外の力で身体が勝手に動いたのは恐怖としか言いようがない。
あの初撃をルーナに向け、あまつさえ避けられていたと思うと肝が冷える。
絶対殺されるじゃん……。
裏切りとか許さないようなタイプだし。
だから、フラウを最初に狙ったのはよかった。
仕留められなかったのは至極残念だが……。
もはや、奴に価値はない。
俺のすべてを押し付けるまでもなく、俺はこの洗脳を利用して逃げ出すことができるのだから。
ある程度まで適当にユリアに従い、頃合いを見て逃げよう。
もうこいつは鎧を解除するとか任せられる次元ではない。
魔王に……ルーナに喧嘩を売ったのだ。
どっちが勝つかは知らんが、どちらにせよ以前までのように研究を任せることはできなくなるだろう。
新しい奴探さないとなあ。
自分でやるという選択肢はない。
「さて、どうしたものか。こんなにも早く私が犯人だとばれるとは思わなかった」
ユリアは小さく呟く。
ルーナが思っていた以上に有能で早く行動したから、計画通りにはいかなかったようだ。
ちなみに、計画通りというか、思い通りにいかないことがほとんどの俺は、それくらいでまったくうろたえない。
もともと、四天王を辞めたいっていうところからスタートして、今では大将軍とかいうふざけた役職に昇進しているほどだからな。
意味わからん。
「もう少し魔族全体を混乱させてから動こうと思っていたんだけどね」
【お前はどうするの? というか、そもそも何がしたいのか分からねえんだけど】
いきなり身体を操られたものだから、彼女の目的が分からない。
まあ、人の身体を勝手に操ろうとする時点でろくでもないんだけど。
どれほど高潔な目的があったとしても、俺を操ろうなんて不届き千番。
「魔族への復讐さ。私はそのためにこれまで生きてきたんだから」
【復讐って言っても、結構やり方とかいっぱいあるしなあ】
それほど珍しい理由でもないだろう。
こいつは人間らしいし、魔族と人間の確執なんて海よりも深い。
ユリアも魔族に何かをされて恨んでいるとかだろうが……。
自分の復讐に俺を巻き込まれても困るわ。
「君の力を使って、魔族を皆殺しとかどうかな?」
俺にどれだけの業を背負わせるつもりだ、こいつ。
兜越しとはいえ、白い眼を向けてしまう。
人の命を奪えば、めっちゃ呪われそうだろうが。
嫌だわ。
だから、できる限り人殺しなどはしたくないのだ。
責任を取りたくないから。
「まあ、それはいくら君でも難しいだろう。というか、そんなことをしていたら、まず私が殺されるだろうね。私は戦闘能力なんてかけらもないし、それほど大規模なことをしようとすると私では君についていけない。そうして離れたら、格好の的だ」
自分のことしか考えていないとか、正気を疑うわ。
もっと周りの人のことを考えろよ!
俺のこととか!
「ちょっと早いけど、考えていた計画を前倒ししよう。魔王を、殺す」
【えぇ……】
思わずげんなりとした声を漏らしてしまう。
めっちゃ嫌なんですけど。
あのルーナと戦う?
嫌だよ。絶対にこっちも痛い目を見るじゃん……。
直接やり合って鎧さんが負けるとは思えないが、ルーナも当然そう思っているだろうし、そうすると間接的な攻撃を仕掛けてきそうなんだよな。
こう……メンタルがやられるような。
そういう、何をされるか分からないという怖さがあるので、敵対したくない。
「そのためには、それなりに大きな混乱を引き起こさないとね。魔剣を暴走させ、各地で暴れさせよう」
【それだけのことができるのに、どうしてこの鎧のことは調べられないの?】
遠距離に置かれた道具を介して、使用者を操るなんてすごいことだ。
俺にはさっぱりと理解できない能力である。
それだけの技術と能力があるなら、どうしてこの鎧を脱がせてくれないのか。
もっとしっかり俺の役に立つようなことをしろよ!
「まったくもって未知だからだよ。魔剣なんて、ずっと昔から世界にあったものだから、研究するのは容易だ。だけども、君の鎧はまったくこの世には存在しなかったもの。そういうものは、もっと時間をかけないと分かりっこないよ」
なんで怖くなるようなことを言ってくるの?
この世に存在しないものとかいう訳の分からないことを言うのは止めてくれる?
じゃあ、どうしてこの鎧は存在しているんだよ。
そんな理解の及ばない頂上的なものを身に着けて、しかも脱げないんだぞ。
俺の恐怖をあおるな。
「……それにしても、操られている弊害か、凄く話しやすいね。今の方が私は好きだよ」
【そうですか】
俺はお前としゃべりたくない。
怖くなる一方だから。
もう口を全部塞いでもらっていいかな?
【というか、俺も魔族なんだけど、それはいいの?】
魔族への復讐が目的のユリア。
そして、俺も当然魔族である。
俺も復讐対象に入るんじゃないの?
殺すと言われても困るけど。
言われたらダッシュで逃げてやる。
「私の指示通りに動いて魔族を殺してもらって、その後に自害してもらっても構わないけど」
ひぇ……。
なんて性格の悪いことを言いやがる。
ルーナかな?
「だけど、まあいいよ。君とは長い付き合いだし、どうも普通の魔族とは違うようだしね」
ちょろいぜ。
自身の安全が保障されたことにより、兜の中で満面の笑みである。
「さて、行こうか。魔族を滅ぼそう」
【オーケー、ボス】
俺はこっそりとフェードアウトしよう。
ユリアに付き従いながら、俺はそう計画するのであった。
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