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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第83話 散歩していたら

 










 何が起きているのか、まったく理解できない。

 脳が処理できないほど、信じられない光景だった。


 戦争で負け、敵軍に蹂躙されるということはよくあるし、レーリオも理解している。

 だが、今襲われている村は、王国だ。


 そして、この討伐隊も王国だ。

 どうして、同じ国の人間が、一方は虐げ一方は虐げられなくてはならないのか?


「何をしている!?」


 近くにいて、財物を懐の中に収めていた一人の男に怒鳴りつける。

 男は憂鬱そうに、邪魔をするなと言わんばかりに顔を歪める。


「ああ? なにって……戦争前の決起会だろ? 俺たちは、これから命を懸けて戦うんだぜ? なら、死ぬかもしれないって時の前に、いい思いをするのは当然だろうが」

「死ぬつもりなら、どうして財物を盗む! ここから逃げかえり、その先の人生のことを考えているからだろうが!」


 怒鳴られて、男が発露した感情は、怒りではなく理解できないというものだった。

 まさか、この討伐隊に多くの傭兵が参加している理由を知らないのか?


「なに怒ってんだ、お前。いい子ちゃんぶってんじゃねえよ。お前だって、こういうことをするために討伐隊に入ったんだろ?」

「なっ……!?」


 知らないはずはないだろう、と男は汚い歯を見せながら笑う。

 犯罪者は選択の自由がなかったからともかく、利で動く傭兵がどうしてこれほど集まったのかと言えば、これが理由だ。


 略奪許可。

 すべてのものを盗み、犯しても、罪にはならない。


 その暗黙の約定があったからこそ、これほど多くの傭兵が参加しているのである。

 当然、男もレーリオたちが同類だとばかり思っていた。


「だいたい、これをしてもいいって言ったのは、あの貴族の坊ちゃんだぜ? 俺たちは、命令されて仕方なくしてんだよ。ぎゃはははは!」


 聞くに堪えない笑い声を漏らす男。

 彼の指さす先には、笑みを浮かべながらこの地獄のような惨状を見る身なりの整った男がいた。


「お前らもやれよ。楽しいぞぉ、力を振るうのは。相手を抑圧するのは。屈服させるのは! 奪うのは! ぎゃははははははは!!」

「……付き合ってられるか!」


 このまま話していてもらちが明かないことが分かったレーリオは、男から離れて身なりの整った男の元へと向かう。

 肩を怒らせている彼に近づく者は、荒くれ者たちでもいなかった。


「おい! どうするんだ、レーリオ!」

「どうもこうもないさ。貴族のバカに、一言言ってやる!」

「ま、待てよ! そんなことしたら……!」


 タイストは顔面を蒼白にする。

 この王国において、貴族というのは絶対だ。


 自分たち庶民とは、次元の違う存在。

 彼らの意向は、司法さえも捻じ曲げる。


 貴族が黒と言えば黒になるし、白と言えば白になる。

 今まで、どれほどその強大な権力に殺された民がいるだろうか?


 だが、レーリオにとってそんなことは関係ない。

 村にいたからこそ、貴族の影響を強く受けてこなかった。


 それゆえに、タイストほど貴族に対する恐怖がなかった。


「この村程度にあるもので満足できるのか。しょせん、泥にまみれる傭兵らしいな」

「おい!」


 レーリオは貴族の男に声を張り上げる。

 後ろでタイストはあわあわしていた。


「……なんだ、貴様。口の利き方に気をつけろ。私を誰だと思っている? 恐れ多くも諸侯からの信頼を得て討伐隊指揮を任せられた、アドルフ・イジドール・シュラールだぞ!」


 アドルフは目を吊り上げさせ、レーリオを睨みつける。

 平民風情が貴族である自分に、『おい』などという呼びかけは不敬極まりない。


 貴族の気分を害せば、身に覚えのない罪を着せられて投獄されることだって十分に考えられる。

 実際、後ろにいるタイストは顔を青くしているが、レーリオはひるまずに言葉を続ける。


「あんたが誰なのかはどうでもいい。このバカ騒ぎを、今すぐ止めさせろ。俺たちは略奪者でも侵略者でもない。復讐者だろうが!」

「ふむ……貴様の言うことも一理ある。だが、これは来るべき復讐戦のために、英気を養っているのだ」

「なんだと?」


 意外にも、アドルフは応戦するように声を張り上げることはせず、言い聞かせるように穏やかな声音だった。

 そのことに拍子抜けしつつも、しかしアドルフの言葉を聞く態勢に入ってしまう。


「見ろ、あいつらの嬉々とした笑みを。士気はかつてないほどに上がっている。戦いにおいて、士気はとても重要だ。そうだろう?」

「それはそうだ。だが……!」


 士気の高低は重要だ。

 しかし、だからと言ってその上げる方法で他者を貶め、傷つけることがあっていいはずがない。


 アドルフの言葉を否定しようとするが、それよりも彼は先に口を開く。


「今回の戦いで暗黒騎士を倒せれば、人類にとって計り知れない大きな前進となる。魔族をそのまま押しつぶすことができるかもしれない。ならば、あれら庶民の犠牲など、許容できるし、許容されなければならない。すべてが成功した暁には、歴史に彼らは名を遺すだろう」

「こいつ、頭がおかしいんじゃねえか?」


 貴族に対する恐怖があるはずのタイストでさえも、この感想である。

 士気を上げるためとはいえ、誰が守るべき民を蹂躙してもいいと言うのか。


 無能どころか、暴君。

 まったくもって理解できないあり方である。


「わかったら、大人しく下がるか貴様らも参加しろ。ほら、見ろ。あそこで、また士気が上がりそうだ」

「っ!?」


 嗜虐的な笑みを浮かべるアドルフが見つめる先には、一人の少女を追い回す傭兵たちがいた。

 その犯罪そのものの光景に、レーリオはのどを詰まらせる。


 巨大な男たちが、寄ってたかって逃げる少女を追い立てる。


「へへへっ、待てよぉ。楽しもうぜぇ。ちゃんと優しくしてやっからよぉ!」

「い、嫌……っ!」


 下卑た言葉も、目も、少女にとって耐えがたいものだった。

 必死に逃げるが、荒事に慣れた男たちと、普通の生活しかしてこなかった少女。


 数も違うし、脚の長さも違う。

 次第に追い詰められていき、彼女はついに男たちに囲まれてしまった。


「誰か、誰か助けてぇ! 私たちが何したのよ! 何も悪いことしていないのに……こんなの嫌ぁ!!」


 男たちに手足を押さえつけられる少女が、悲痛な叫び声をあげる。

 しかし、周りは下卑た笑い声をあげるだけ。


 彼女のことを助けてくれる者など、誰もいなかった。


「クソ!」

「レーリオ!」


 いや、ここに一人いた。

 レーリオである。


 彼は少女の元へと走り、彼女を助けようとする。

 数は圧倒的に相手が有利。


 しかも、自分以上に命の取り合いに慣れている。

 苦戦は必至だし、下手をすれば返り討ちにあって殺されるかもしれない。


 だが、それでも目の前の泣き叫ぶ少女を見捨てることができなかった。

 なぜなら、幼馴染ならば……テレシアならば、必ず助け出していただろうから。


 あと少し……あと少しで手が届くというところで。


「あ……?」


 少女を抑え込んでいた暴漢の首が、ポーンと飛んだ。

 あまりにもあっさりと、まるで風船のように。


 空高く舞い上がる生首を、誰もがポカンと見上げていた。

 そして、次の瞬間に噴水のように飛び散る真っ赤な血液。


 血を浴びながら、少女は目の前で起きたことが理解できない。

 そして、暴漢たちは気づく。


 圧倒的な死と絶望に。


「あ、あ、ああ……暗黒、騎士……」


 魔王軍最高幹部、暗黒騎士がそこに立っていた。











【散歩していたら……なに? この状況……】




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