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第8話 拒否権ないだろ

 










 ルーナ。魔王の一人娘。

 息子であるデニスとは兄妹である。


 色素を一切抜いたような真っ白な髪は長く、腰の位置よりもさらに下に垂れる。

 二つに縛ったツインテールは、彼女の子供らしさを強調している。


 くりくりと大きな目は好奇心に満ち溢れており、キラキラと輝いて宝石のようだ。


 その希望に満ち溢れた目を向けるのはやめろ。気分が悪くなる。

 みずみずしい唇が開かれれば、とがった八重歯がちらちらと見え隠れする。


 褐色の肌は生まれつきらしく、きれいだと自画自賛していた。

 なんでそんな話を俺にしたのか。


 何よりも特徴的なのは、とがった耳である。

 正直、彼女に興味は微塵もないので聞いていないのだが、明らかにエルフとかそういうタイプである。


 ダークエルフ? エドワールはエルフ種ではなかったから、半血か?

 どちらにせよ、面倒ごとの臭いしかしない。


 魔王の娘で、派閥のトップで、アホで、ダークエルフで、半血?

 もうスリーアウトどころかファイブアウトである。


 絶対関わりたくない。

 ……のだが。


「お久しぶりですわね、暗黒騎士様! 久しぶりって言ってくださいまし! 言ってくださいまし!」


 だというのに、俺はなぜかこのアホ娘に懐かれている。

 なんでや……。別に特別なことはしていないだろ……。


 ……と思ったが、少し考えれば簡単な話だった。

 魔王の娘という立場上、だれかれと自由に交流することはできない。


 必然的に会話できる者も限られるのだが、父はボケてるし、兄はそもそも敵対派閥のトップだ。

 じゃあ、四天王はというと、オットーは敵対派閥。トニオは同派閥とはいえ、別にルーナに忠誠を誓っているわけでもなんでもなく、ただオットーの敵でいたいだけ。


 同性のメビウスならばとも思うが、あいつ面倒くさがりだから一切交流しないし。

 となると、消去法的に残っているのは俺しかいないというわけだ。


 ……いや、それでも、おかしいんだけどね。

 俺の見た目、がちがちの鎧で武装して、しかも得体のしれない瘴気を身体からあふれさせている化物だぞ?


 どうして懐くの?


「あー! やっぱり抱き着いたら冷たいし痛いですわ!」


 赤くはれた額を抑えながら、絶叫するルーナ。

 ……ああ。アホだからか。


 アホだから、俺に懐いているのか。

 しかし、その際に重たげに揺れる胸は素晴らしい。拍手したい。


「……ルーナ。ここには近づくなと言っただろう」

「お兄様! そうは言われましても、みんないないと暇ですわ。ここに来れば、みんな集まっているから楽しいですもの!」

「…………ちっ」


 忌々し気に舌打ちをするデニス。

 ルーナは兄のことを慕っているようだが、兄はそうでもないようだ。


 まあ、敵対派閥だしなあ。

 デニスは本気で魔王になるために行動しているのだろうが、ルーナはどう見てもそうではない。


 ただ、純粋に家族と交流をしようとしているようにしか見えない。

 そんな彼女がトップなのに、いまだにデニスが呑み込めていないということは……よっぽど魔王になられるのが嫌な奴らがいるんだろうな。


 嫌われすぎだろ。笑えるわ。


「ルーナ、か……?」


 ルーナを見て、エドワールの目に光が戻る。

 ふがふが言っていたのに、理知的な光が戻ってきていた。


「はい、お父様! ルーナですわ! もう難しい会議は終わったんですの? わたくしと遊びましょう!」

「……ああ、そうだな。そうしようか」


 薄い笑みを浮かべるエドワール。

 その表情は、父親そのものだった。


 デニスからすれば、自分の意見に追随させることができなくなり、不快なのだろう。

 このこともあって、ルーナをこの幹部会議に入れたくなかったんだろうなあ。


 それはどうでもいいんだけど……。

 ……なにこのほのぼの家族風景。


 なんで俺は他人の家族のホンワカ光景を見せられているの?

 ……帰ろ。


「あっ、暗黒騎士様! 少しお待ちください」


 こっそりとこの場を後にしようとすれば、ルーナがドドドド……と近づいてくる。

 走ってくる音が怪獣なんだが。


 そんな彼女は俺の前で急ブレーキをかけると、黒々とした鎧に手を伸ばしてきた。

 ……めっちゃいい匂いするんだが?


 アホのくせになんて奴だ……。

 彼女はうーんと手を伸ばし……少し身体を離すと、にっこりと笑った。


「ここ、スライムがついていましたわよ?」


 ルーナの手につままれていたのは、うぞうぞと蠢く液体だった。

 嘘つけ。そんなおぞましいものが俺の身体についているわけないだろうが。


「では、さようなら」


 そこを追求する時間を与えられず、ルーナはひらひらと手を振った。

 ……どこか、それがいつものアホな雰囲気ではないと感じつつ。


 面倒くさそうなので、関わらないでおこう。











 ◆



「帰ったか。やはり、面倒くさかっただろう? 疲れ切っているようで、何よりだ」


 ヘロヘロになって帰宅した俺を出迎えたのが、ベッドに寝転がりながら本を読んでいたフラウである。

 勇者と戦闘を行った時よりも、はるかにラフな格好だ。


 生足がほとんど出ている短いズボンをはき、胸元が見えてしまうような緩い服を着ている。

 こいつ、俺のセーフティーハウスでなんて格好してやがる……。


 しかし、そんなある意味扇情的ともいえる光景を目の当たりにしても、俺は興奮することはなかった。

 それよりも……怒りが大きい。


 ガチャガチャと彼女のそばに歩いていくと、無防備にこちらに目を向けてくる彼女の頬を思いきりつまんで、引っ張った。


「いひゃひゃひゃひゃっ!? なにするんだ!?」


 心底なんでやられているのかわからないといった表情をするフラウ。

 なんでわからないの?


 しかし、ぐにぐに柔らかい頬を引っ張り、かつ涙目になっているフラウを見れば、少し溜飲が下がる。

 飯1か月抜きで勘弁してやろう。


「……む? 何か鎧に挟まってるぞ? 紙?」


 反撃とばかりに俺の鎧をガンガン殴りつけてきていたフラウが、そんなことを言う。

 鎧に挟まる? どういう状況?


 しかし、確かにフラウの手には折りたたまれた紙があった。

 ……嫌な予感がする。


 中身を見ないで燃やそう。証拠隠滅だ。

 この世から抹消しようと手を伸ばすも、それよりも先にフラウが紙を開いた。


 何してんねん!


「えーと……なになに? 『今日の夜、一緒に遊びましょう! ルーナ』だとさ」


 開いた口がふさがらない。

 大きく開きすぎて、顎が外れそうだ。


 あのアホ娘が、遊びましょう……だと?

 何度も言うが、あれはアホだ。


 派閥争いでかなり押されていることにも気づいていないし、それどころか自分がトップに祭り上げられていることにすら覚えがないかもしれないようなアホだ。

 それゆえ、唯一まともに交流できる俺を遊びに誘ったということは、そのまま受け止めてもいいことなのだろうが……。


【嫌です……】


 派閥争いに一切関与せず、これからも与するつもりは毛頭ない。

 だからこそ、どちらかの勢力とだけ仲良くすることは避けたい。


 ルーナと会いたくなんて微塵もないのだが……。


「拒否権ないだろ」


 にっこりと笑うフラウに、俺はうなだれることしかできなかった。

 魔王の娘のお誘いを、四天王が断れる……こともできるだろうが、そうしたらそうしたでまた面倒で……。


 とにかく、今日のフラウの晩飯は雑草だ。

 そう決めて、ため息をつくのであった。




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