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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第78話 早くフラウを盾にしなければ!

 










 め、目がぁ……目がああああああああああ!!

 俺はのたうち回ろうとする身体を、必死に抑え込む。


 まともに光を見てしまった。

 しかも、どうやら普通の目つぶしではないらしく、ジクジクと痛んで涙が止まらない。


 そんな攻撃手段もあるの、聖剣って!?

 やっていること狡いぞ!


「おー。目つぶしか。まったくもって効果的だな。むしろ、些細な物理攻撃なら一切効かない暗黒騎士に、最も有効な攻撃かもしれん。うむ、参考にしよう」


 なに冷静に解析してんだぶっ飛ばすぞ!!

 援護ぉ! 早く俺を援護しろぉ!


 倒れるという隙を見せたら、間違いなく命を奪われる。

 その一心で立っているのだが、それでもフラフラしているし、そもそも視界が回復していない。


 目の前がぼやけて、何も見えない。

 そして、これもまさしく隙に該当する。


「はああああああああ!!」


 一気に距離を詰めてきた勇者が、俺に切りかかる!

 やめてぇ! 男の人呼んでぇ!


 先ほどまで死にかかっていたとは思えないほどの連撃。

 かすれる目で見れば、噴き出していた血が収まって……はいない!?


 普通に出血しているし、そもそもその量が増えている気がする。


「あははははっ! 防戦一方じゃないですか! 私は全力でこの聖剣と一緒に戦っていますよ! さあ、あなたも本気で私にぶつかってきてください!」


 勇者の連撃が、鎧さんでも対応できないほどのものになり始めている。

 いくつかの斬撃が、鎧にあたっている。


 普通の鉄ではないのだろう。

 攻撃が俺の身体を切り裂くことはないが、衝撃は重たいし非常に痛い。


 ぶっちゃけ、兜の中で大泣きである。


【ぐぉっ!?】


 さらに厄介なのが、聖剣の力だ。

 魔族に特別効果のあるそれは、普通のダメージを何倍にも膨れ上がらせる。


 俺が消滅していないのは、ひとえに直接刃が身体に触れていないからだろう。

 鎧さんにさえぎられていなければ、俺はすでに消滅していたに違いない。


 ちくしょう!

 なんでこんなクレイジーデンジャラスウーマンが俺のことをこんなに憎んでいるんだ!?


 俺、別にお前を貶めたことも仲間を殺したこともないじゃん!

 一回だけ勝ったことがあるっていうだけじゃん!


 全然納得できないんですけど!

 あと、その聖剣なに?


 魔改造されてあるんですけど。

 あのキラキラ輝いていた剣はどこ?


 魔剣じゃね? それ。


「ごぷっ!? ごふっ、げほっ、げほっ!」


 攻撃を止めて、勇者は血を吐く。

 うわぁ……もう塊みたいな血じゃん。


 絶対に安静にしておいた方がいいって。

 俺のためにも。


【その剣、貴様の命を吸い取っているな。もうやめておけ。死ぬにしても、死に方がある。無駄に苦しんで死ぬ必要があるか?】


 ペラペラとしゃべる鎧さん。

 え? やっぱり魔剣じゃないですか。


 色もどす黒いもんね。

 俺と戦った時の輝きは微塵もない。


 ただ、あれは同じ剣なんだよな。

 どうしてあそこまで変容しているのか。


 勇者の変貌に連れられて変わったのか、それとも誰かが介入して聖剣を作り変えたのか……。

 後者のことは考えないようにしよう。


 無駄な敵が増えそうだ。

 いないいない。


 勇者を陥れた敵なんていない。


「ごふっ……! 苦しむ必要は、あります」


 血を吐き出す勇者。

 もう俺と出会ってからの出血量だけでも、致死量だと思う。


 それよりも前に血は流れていたし、俺と遭遇する前のことも考えれば、死んでいなければおかしいくらいなのに。

 これが、勇者に選ばれる人間か。


 魔族よりも化物みたいだな。


「あなたと、戦えるのなら……。あなたが、私を見てくれるのなら……。どうせ尽きるこの命、こうやって燃え尽きるまで使うのも、悪くありません」


 血走った目で睨みつけてくる勇者。

 じゃあ、もう見ないからどっか行ってくれない?


「これは、私のわがままです。憎んでいるあなたに、お願いです」


 そういうと、彼女の目には殺意と敵意以外の感情が浮かんでいるのが分かった。


「私を、一人にしないでください」


 すなわち、それは寂寥。

 親に置いて行かれそうになっている子供。


 捨てられそうになっている飼い犬。

 血にまみれた勇者は、まさにそのような雰囲気を漂わせていた。


 いや、そんな目で見られても……。

 俺も常に一人だし。


 というか、そもそも一人ってそんなに嫌か?

 面倒ごとに巻き込まれないから、絶対に一人の方がいいぞ。


 俺はフラウを生かしておいたことを普通に後悔している。

 押し付けるにしても、もう少し考えて人を選んだ方がよかった。


「人間は他者とのかかわりで、初めて『生きる』ことができる。お前のような頭のネジがマズイ方向に締まっている奴は別だがな」


 知った風な口をきくフラウ。

 そうか。お前も俺と同じだな。


 バカみたいに歪んだネジで頭を作っているから、こんなバカ(フラウ)が完成してしまったのだ。

 神様がおふざけで作った人間がフラウである。


「どうして、私以外の人と喋っているんですか?」


 え……?

 ポツリと勇者の呟いた言葉は、驚くほど冷え切っていた。


 どうしてって……。

 あれ? 俺、口に出してフラウと会話していたっけ?


「私にはあなたしかいないというのに……。あなたは、私以外にもいるんですか? そんなの、不公平じゃないですか」


 ひぇぇ……。

 血走った目で睨みつけられ、俺の身体は一瞬で委縮して動けなくなる。


 こ、この暗黒騎士様を人睨みで動けなくするとは、とんでもない人間もいたものだ。

 許して。


「ふははっ、頑張れよ暗黒騎士。私は楽しく見させてもらうとしよう」


 ふ、フラウの野郎……!

 ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべやがって……!


 俺は兜の中でギリギリと歯をかみしめ、睨みつけていると……。


「ああ、そうだ。暗黒騎士ばかり叩いているからダメなんですね。彼に近づいてくる大本をたたかないと、いつまでたっても変わりませんね」

「……ん?」


 おやおやぁ?

 なんだか変わってきましたね。


 俺にとって幸運に、フラウにとって不運な方向に変わってきましたねぇ!

 どうやら、勇者のターゲットにフラウも登録されたようである。


 まだ受け入れることのできない奴は、首を傾げて冷や汗を大量に垂らしている。

 うんうん。その顔がお前には似合っていて、俺は好きだぞ。


「だから、あなたが私しか見られないようにしてあげます」


 だが、俺の嗜虐に満ちた笑顔は、すぐに凍り付く。

 なにせ、勇者の持つ聖剣から、すべてを飲み込むような黒い魔力が吹き荒れているからである。


 おかしいな。

 鎧さんがたまに使う斬撃と色がほとんど一緒なんだけど。


 もしかして、勇者って魔族だった?

 しかも、その魔力量って鎧さんにも匹敵するような……。


 ま、マズイ!

 早くフラウを盾にしなければ!


「諸共消し飛んでください。『シュナイデン』」


 俺は必死にフラウの元に近づくが間に合うはずもなく、勇者から巨大な黒い斬撃が撃ち放たれたのであった。




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