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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第77話 勇者と聖剣

 










「なんで! 分からないんですか! 私は! ずっと! あなたのことだけを! 考えていたのに!!」


 ひぇぇぇ……!

 女……いや、勇者の攻撃が激しさを増している。


 やばぁい!

 鎧さんでも対応できない攻撃が、ごくごくわずかではあるが発生し始めている。


 すなわち、俺の身体にダメージが入るということ。

 それは、絶対に許されず、認められないことだ。


 こういう時のために肉盾(フラウ)がいるのだが……。


「おい、今私のことを凄い言葉で言い表そうとしていなかったか?」


 そういうフラウはひどく離れた場所にいる。

 ははっ、どうしてそんなに離れているんだい?


 別に、取って食ったりしないのだから、もっと近づいてくればいいのに。

 ほら、来なよ。来いよ。


「私は高みの見物を決め込む。全力で抗え、暗黒騎士」


 黒幕かな?

 すべての原因、諸悪の根源であるラスボスが言いそうなことを言うフラウ。


 あれ、女騎士なんですよ。

 本来であれば、『くっ、殺せ!』とか言うはずの女騎士なんですよ。


 微塵もそんな風に感じたことはないけど。

 あいつを騎士にした人間の国ってバカなの?


【そもそも、貴様の援護なんていらん】


 そう、援護はいらない。

 盾になってほしいだけで……。


 と、そんなことを考えている俺だが、言っていることに偽りはない。

 ぶっちゃけ、もうすぐこの戦いは俺の……鎧さんの勝利に終わる。


 それは、確定事項だ。


「はぁ、はぁ……! ごふっ! あ、んこく、騎士ぃ……!」


 口から吐血しながら、血走った目で睨みつけてくる勇者。

 怖い。これ、しばらく夜にトイレ行けなさそう。


 ……鎧来てからトイレとか行ったことなかったわ。

 そもそも、催さないからな。


 ……あれ? 俺もう死んでいる……?

 いや、今はそんなことはどうでもいい。


 ともかく、俺はもうすぐしたら、この地獄から解放されるということである。

 もちろん、俺が殺されておしまい、なんて誰もが望まないバッドエンドではない。


【貴様、もう限界だな】


 勇者の身体は、もう悲鳴すら上げていない。

 死体とほぼ同然であった。


 俺は、一度も彼女に攻撃を当てられていない。

 だというのに、満身創痍なのは勇者の方である。


 その身体の急激な成長に、いったいどれほどの犠牲を必要とするのか。

 戦闘は、基本的に身体が大きい方が有利である。


 勇者は俺を殺すために無理やり身体を成長させたのだろうが、それは逆効果だ。

 そのような人そのものに反逆するような行為は、報いを受ける。


 身体を成長させた副作用として、血みどろの勇者がいるのだろう。

 そして、その報いは今もなお彼女の身体を蝕んでいる。


 命は、刻一刻となくなっていっているのだ。


「限界? 馬鹿なことを言わないでください。あなたを殺すまで、私は決して……」

【意気込みはいい。だが、身体はもはやついてこれていないだろう。私を殺すまでの時間が、今の貴様には足りない】


 このまま戦い続ければ、どうなるかは分からない。

 それほどの力を、勇者は短期間で身に着けた。


 その代償に、ボロボロの身体である。

 寿命も大幅に縮まり、今すぐ戦闘を止めたとしても、一年も持たないのではないだろうか?


 激しい戦闘をしていれば、なおさらだ。

 つまり、俺はただひたすら勇者の攻撃を防ぎ、耐えればいいのだ。


 それだけで、勝手にあっちは倒れてくれる。

 もはや、必勝法が見つかっているのである。


 ……よし、せっかくだし煽っておこう。

 マウントをとるのは好きだからな。


【貴様はよくやった、人間にしてはな。私も貴様のことは覚えていよう。数日程度な】


 一刻も早く忘れたいんですけどね。

 全身血みどろの女に死ぬ気で襲い掛かられるとか、トラウマ不可避だわ。


 全力で頑張って一日で忘れてやろう。


「私を忘れるつもりですか? あなたがいなければ、もう私には誰もいないというのに……? そんな……そんなこと……」


 ガクリと肩を落とす勇者。

 ショックで動けない……というよりも、もう身体が限界なのだろう。


 ただ立っているだけでも、血が溢れ出している。

 ありとあらゆる穴から、皮膚から、ダクダクと。


 勇者が立っている地面には、明らかに致死量と思える赤い湖が生まれていた。

 もう、勇者には動く力すら残っていない。


 時間の経過を待つだけで、おしまいだ。

 幸いなことだったのは、勇者が聖剣を使っていなかったということだろう。


 どういう理由があったのかは分からないが、魔族に特別効果を持つあの剣がなかったことが、俺にとって救いだった。

 なにせ、少し斬られただけでも大ダメージを負う剣だ。


 今回みたいに、何度か切りつけられていたら、堪ったものではない。


【貴様の負けだ。介錯くらいはしてやろう】


 俺を傷つけたことは許さん。

 最後はこの俺自らの手で処分してやろう。


 ちょっと気持ちがスッとするはず。

 そう考え、うつむく勇者に近づいていこうとした時だった。


「あ……」


 フラウが声を上げる。

 それは、ヒュンヒュンと風を切り裂きながら飛来した剣を見たからだ。


 それは、勇者のすぐ近くに突き刺さる。

 うん? 誰か勇者に投擲攻撃でもしたのかな?


 俺の護衛(名目上)は、一瞬で勇者に皆殺しにされたと思っていたのだが……。

 もしかして、生き残りがいたのか?


 まあ、止めを刺すのは俺だ。

 余計なことはせず、引きこもっておけや。


「おーい、暗黒騎士ー!」


 遠くから呼びかけてくるフラウ。

 相も変わらず遠い。


 もっと近くに来いよ。

 盾にできるのに。


「気を付けた方がいいぞー」


 ……気を付けた方がいい?

 フラウの言葉に首を傾げる。


 気を付けるって……何を?

 もう勝負……というか、この戦いは終わりだ。


 あとは、勇者が力尽きるのを待つだけ。

 これ以上、何に気を付ける必要が……。


「それ、聖剣だぞー」

【…………なに?】


 俺はじっと勇者の隣に突き刺さった剣を見る。

 ふむふむ。確かに、あれは勇者が以前俺と戦った時に使っていた聖剣だ。


 ちょっと色がどす黒くなっているけど、形はあの時と変わっていない。

 ははっ。どうして聖剣を持っていないんだろうと思っていたが、今から使うのかー。


【……まだやるつもりか?】


 もうやめよう。

 争いは何も生まないから。


 だから、その剣をこちらに渡しなさい。

 俺が責任を持って埋めておくから。


「ツァルトにどこかに売り飛ばされたと思っていましたが……。こんな時でも、こんな私でも、あなたは駆けつけてくれるのですね」


 おやおやー?

 俺の言葉が届いていないのかなー?


 早くその剣をこっちに渡そう! なっ!

 持っていてもいいことないよ。


 いらないよ、それ。

 なんだったら、お互い剣を捨てて拳で戦おうぜ。


「私は……魔を屠る……。いいえ、あなたを……暗黒騎士を殺す……テレシアです!!」


 勇者はそう叫ぶと聖剣を握り、怪しく輝く光が辺りを照らすのであった。

 ぎゃあああああああああああ!!




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