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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第76話 許して

 










【おい、知り合いか?】


 業火の中から歩いてくる女を見ながら、隣にいるフラウに問いかける。

 あんなの、知らないんだけど。


 どうしてこんなにも敵意と殺意を向けられているのかもさっぱりだ。

 俺ほど善良な魔族はいないというのに。


 まったくもって不敬極まりない。


「私はまったく知らないぞ。というか、お前の名前を出しているんだから、どう見てもお前目当てだろう。知らないのか?」

【あんなデンジャラスウーマン知らない】


 どうやら、フラウも知らないようだ。

 役立たず……。


「今の音はなんだ!?」

「こっちだ、急げ!」


 勝手にフラウに失望していると、にぎやかな声が聞こえてくる。

 駆けつけてくるのは、ルーナによって配備されていた俺の護衛である魔王軍の兵士たちだ。


 重要な地位にいるから、護衛がつくのは当然だと言っていたが……。

 なんだろう。絶対監視の目的もあるよね。


 俺が好き勝手動かないように楔を打っているよね?

 あの冷徹魔族繁栄させるウーマンのことだから、純粋に俺を心配して護衛をつけるなんて考えられない。


「人間!? また侵略か、殺せ!!」


 俺の家が燃やされ、そしてその前に人間が立っているということに気づき、彼らは一斉に襲い掛かる。

 ……え? あれ、人間だったの?


 魔族みたいにすさんでいる見た目なんですけど。

 銀色の髪はボサボサで艶やかさは微塵もないし、肌もカサカサだ。


 目はギョロリと血走っていて怖いし、ブツブツ薬物中毒者のように独り言をつぶやき続けているのも恐怖を感じる。

 なんか衣服がボロボロで豊満なスタイルが見えるのはいいんだけど、あんなやばそうな奴にはさすがの俺も興奮しない。


 いけいけー!

 明らかにやばそうだし、さっさと捕まえてくれー!


 これが終わったら、ルーナのところに行って新しい家を貰おう。

 せっかくだし、宮廷みたいなのがいいな。


「私に……暗黒騎士以外が……」


 そんなことを考えていれば、絶体絶命であるはずの人間が、ポツリと呟く。

 ……あれ?


 そういえば、こいつどこかで見たような……。

 あの銀色の髪には、一人心当たりがあるのだが……。


 まあ、どうでもいいや。

 俺の家を焼いているし、ロクな奴じゃないだろ。


 とりあえず、さっさと捕まえてくれー。


「近づくなぁ!!」


 一瞬である。

 一瞬で、襲い掛かっていた魔族の兵士たちが、血の霧に姿を変えたのだった。


 …………ぬ?

 何が起きたの?


 あれだけいた頼りになる仲間たちはいったいどこに?

 ビチャビチャと音を立てて、真っ赤な液体が地面に飛び散る。


 その後ろでは、俺の家は燃えているし……。

 うーん、この……。


「ご指名だぞ、この色男め。じゃ、私はこれで……」


 フラウはいい笑顔を俺に見せながら、さわやかに去ろうとする。

 目の前で起きた瞬殺劇を見ているため、脂汗も大量に浮かばせているが。


 ははっ、こやつめ。

 そんなスムーズにこの場から逃げられるとでも思っているのか?


 俺はがっしりと彼女の腕をつかむ。


【俺たち、ずっと一緒だろ?】

「ぎゃああああああ! 気持ち悪い離せええええええええ!!」


 お、お前!

 あの女から逃げられないことよりも、俺が気持ち悪いっておかしいだろ!


 そりゃ、言ったことは……。

 あ、確かに気持ち悪いわ。


 俺もフラウとずっと一緒とか、絶対にごめん被る。

 何だったら、今すぐ全部押し付けて二度と関わりたくないくらいなのに。


「おかしいですよ」

【ひぇっ】


 女が話しかけてくる。

 怖い。


 虐殺する人とお話しすることなんて何もない。

 フラウあげるから見逃して。


「どうして私には誰もいなくなっているのに、あなたにはそんな笑いあえる人がいるんですか?」


 ……こいつは何を言っているんだ?

 笑いあえる人?


 どこにいるの、そんなの。


【笑いあう?】

「思いっきりけなしあっていたよな。目、大丈夫か?」


 俺とフラウが思わず言ってしまう。

 この女が言うほどの和やかな雰囲気は微塵もなかった。


 むしろ、お互い殺意と敵意をぶつけ合っていたのですが……。


「私には誰もいないのに。私よりも強いあなたが、どうして……。不公平じゃないですか!!」

【許して】


 ダン! と地面を蹴りつけ、そこを陥没させる女に、俺の口から自然と許しを請う言葉が出ていた。

 まったくこっちの話を聞いてくれない……。


 どういう環境で生きてきたの、この子?

 まあ、見た目からロクでもなかったのは分かるんだけど。


「何もしていないのにとりあえず謝る精神、嫌いじゃないぞ」


 俺を見て、慈愛の笑みを浮かべるフラウ。

 そんな笑顔を向けるのは、たぶん間違っているぞ。


 それに、すでに俺の隣で土下座しているお前には負ける。

 動いたことに気づかないほどのナチュラルでスムーズな土下座への移行だった。


 恥を知れ。


「あなたを守ろうと立ち向かってきた人がいる! あなたと一緒に笑いあう人がいる! どうして!? どうしてどうしてどうしてどうして……私には……!!」


 ボサボサの銀髪をかきむしり、頭を振る女。

 何だか凄い勘違いをされて、それで殺意を向けられている気がする。


 これはいけない。

 悪い勘違いだ。


「暗黒騎士いいいいいいいいい!!」

【八つ当たり!?】


 凄まじい勢いで突撃してくる女に、俺は悲鳴を上げることしかできなかった。











 ◆



 縦横無尽に動き回り、様々な角度から剣が振るわれる。

 どれもこれも必殺。


 すべて急所を狙っているので、一太刀でも浴びせられれば、血を噴き出して命を奪われることだろう。

 ガガガガッ! と音が間に合わずに次の音に飲み込まれるほどの、苛烈な連撃。


 それを何とか防いでいるのは、ひとえに鎧さんである。

 当たり前だよなあ。


 ぶっちゃけ、俺だけの力でこの対処をしなければならないとなれば、二秒と持たずに血まみれにされていることだろう。

 だって、もう目の前で何が起きているのかさえ分からん。


 腕が上に持ち上がったと思えば横に構えられ、下からの斬撃を鎧で防ぐ。

 もうわちゃわちゃしすぎていてさっぱりわからん。


 何よりも怖いのが……。


「あははははははっ! 楽しいですねぇ。こうやって、あなたと戦うのをずっと焦がれて切望していました! やっと……やっと、この手であなたを殺せる!!」


 血みどろになりながら、それでも笑って俺を殺そうと剣を繰り出してくる女。

 怖いよぉ。


 あの血、俺の返り血ではない。

 だとしたら、もうのたうち回っている。


 だが、俺が攻撃して噴き出した女の血でもない。

 相手の猛攻を防ぐことに必死で、まだ碌に攻撃を当てられていないのである。


 では、何の血か?

 それは、彼女の身体から自然とこぼれだしてくる血だ。


 目から、鼻から、耳から、口から。

 そして、全身の皮膚が割れた場所から。


 ドクドクと血が流れだしているのである。

 ……こわぁい!


 アンデッドよりもこわぁい!

 どういう状況になったら、あんな死に体になるの!?


 まず、自分の身体をどうにかしろよ。俺を殺そうとしないでさあ。


「どうしたんですか、暗黒騎士! あの時、私を一瞬で圧倒したあなたは、いったいどこに!? もっと本気を見せてください!」


 訳の分からないことを言いながら、嬉々として攻撃を仕掛けてくる女。

 俺はいつも生きることに必死だぞ!


 ……しかし、あの時っていうことは……。

 俺は、こいつと一度会っている?


 いや、でもこんなクレイジー血みどろ女だったら、一度会っただけで忘れるはずがないんだが。

 うーん……。


 鎧さんに身体を操作させつつ、俺は考え込む。

 誰だ……。


 やたらと俺に執着し、殺意をぶちまけてくる迷惑極まりないこの女は、いったい……。

 どこか特徴的な場所を見て、思い出すことを試みてみよう。


 まず、殺意に満ち満ちた血走った目。

 ……知りませんねえ。


 っていうか、知りたくない。

 じゃあ、かなり発育したスタイル。


 ……知りませんねえ。

 じゃあ……銀色の髪か?


 色々な髪色の人がいるこの世界だが、銀は珍しい。

 俺が知っている中でも、たった一人だ。


【…………】


 え、いやいや……マジで?

 だって、もっと艶やかだったぞ、あいつの銀髪は。


 しっかりと手入れされていたし、少なくとも水分が微塵も含まれていなさそうで、血と煤でボサボサになったこの女の髪とは全然違うし。

 ……まあ、一応聞いてみるか。


 ほら、可能性の低い選択肢から潰していった方がいいだろうし。


【貴様、勇者だったのか?】


 俺がそう尋ねると、息もつかせぬ猛攻を仕掛けてきていた女の動きが止まる。

 プルプルと肩を震わせてうつむいている姿は、怒りを我慢しているように見える。


 え、マジ……?


「……今まで、分かっていなかったんですか?」


 分かるわけないじゃーん。

 めちゃくちゃ変わってるじゃーん。


 ひと夏超して一皮以上剥けすぎているぞ。

 身長もチビだったのに、大人だし。


 胸も大人サイズだし。

 あと、その血みどろの身体はなに?


 とんでもない重病だったりする?

 早く病院に入院した方がいいよ。


 俺のことは放っておいてくれて構わないからさ。

 親切心からそう言おうとすると、彼女は激怒した。


「なんで! 分からないんですか!!」


 無茶言うな!!




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