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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第74話 消えうせる

 










「やあ、久しぶりだね。座ってくれ。まあ、武断派みたいに豪華な家具ではないから、座り心地はあまりよくないかもしれないけどね」


 ツァルトはにこやかにほほ笑んで目の前の彼らに、席に座るよう勧める。

 今や、武断派を追い落とし、破竹の勢いで快進撃を続ける友愛派のトップ。


 そうそう会える人物ではないのだが、彼らはツァルトの方から招かれていた。


「……なんで俺たちを呼んだんだ?」


 招かれたのは、かつて勇者パーティーに加入していた二人……ルーカスとシヴィだった。

 自分たちの仕出かしたこともあるため、すぐさま王国に戻るわけにもいかず、帝国でただ無為に時間を潰していた彼らを、ツァルトは招待していた。


 ちょうど、二人が帝国を出て、どこか遠いところに行こうと話し合っていたころだった。

 ツァルトに促され、椅子に座る。


 すぐにワインが差し出され、飲んでいく。

 質素な生活を心がけているツァルトには珍しく、非常に高いワインだ。


 飲む気なんてなかったのに、悔しいことにどんどんと飲めてしまう。


「君たちが帝国を離れると聞いてね。最後に、お礼を言おうと思ったんだよ」

「そんなの……」


 求めていない。

 ただ、静かに去らせてほしい。


 シヴィが言外に告げても、ツァルトは首を横に振る。


「君たちが求めずとも、僕がやりたいんだよ」


 そういうと、ツァルトは深く頭を下げた。

 あの友愛派のトップが、今では何の地位にもない外国人二人にである。


「ありがとう、勇者を売ってくれて。彼女のおかげで、僕たちは信じられないほど飛躍することができた」

「…………ッ!」


 強く歯をかみしめる。

 こんなのは……こんなのは、感謝でもなんでもない。


「おや、どうして君たちがそんな顔をするんだい? 君たちがしたことじゃないか。恥じることはない。君たちは金銭も受け取らず、ただ勇者を引き渡してくれた。怖いという理由だけでね」


 ニコニコと笑いながらツァルトが言う。

 感謝していると言うが、内容は明らかに煽っている。


 後ろめたさ、罪悪感を持っている二人は、頬を引きつらせる。


「ほ、本当に感謝しているの!?」

「もちろんさ。感謝しているから……」


 彼らをいじめようなんてことは微塵も思っていない。

 だからこそ……。


「できる限り、楽に死なせてあげようとしているんだ」


 ポカンと二人が口を開ける。

 何を言われた?


 聞き間違いだろうか?

 ツァルトはニコニコと柔和な笑みを浮かべるばかりである。


「がはっ!?」

「ぐっ、おぇぇ……っ!」


 次の瞬間、二人は口から血を吐き出す。

 ルーカスはテーブルの上のワインを払いのけ、シヴィは耐えられずに倒れ込んでしまう。


 その惨状を前に、ツァルトは優雅に自身のワインを飲んでいた。


「な、んだ、これは……!?」

「あまり口に合わなかったかな、このワインは?」


 ワイン……そうだ。

 二人がここに来てから口に入れたのは、このワインだけ。


 そして、原因として考えられるのは、これしかなかった。


「テメエ……最初から、俺たちを……!」

「当たり前じゃないか。今回のことを、ペラペラと喋ってもらっちゃ困るんだよ。そういう火種が、後々命取りになることもあるんだからね。そういう危険の芽は、摘んでおかないと」


 人身売買のように年若い勇者を貰い、そしてそれを薬物漬けにして洗脳し、非合法な殺しをすべて押し付けている。

 言葉にすると分かりやすいが、とんでもない外道である。


 目的のためにそれも仕方のないことだと理解しているが、一般庶民が理解できるとは思えない。

 その不安要素がある限り、いざ帝国を手中に収めんとするときに、突然足元が崩れ落ちていくことだってある。


 そんな毒を、ずっと残しておくことなんて、ツァルトがするはずもなかった。


「俺たちが、そんなことを……!」

「信じられると思うかい? 仲間を恐ろしいという理由だけで売り飛ばした君たちを」


 信じてくれ、なんて言えるはずもない。

 自分たちは、心の底から信じてくれた少女を、ツァルトに売りつけたのだから。


 歯がみすれば、隙間から血が漏れる。


「し、シヴィ……!」

「身体が小さいからかな。毒の周りが早いね。まあ、君もすぐに後を追うことになるから、安心してよ。二人仲良く、地獄に行ってね」


 シヴィはすでに倒れて動かなくなっていた。

 ルーカスは身体が大きいので、まだ完全に毒が回っていないのだろう。


 逆に言えば、小柄な体躯のシヴィはすぐに全身に毒が回り、命を落としたのだ。

 猛毒は、致死性で即効性もある。


 解毒薬も飲めない今、ルーカスの命は今まさに消えようとして……。


「――――――ッ!?」


 ズドン! とすさまじい音と衝撃が走る。

 また何かツァルトが余計なことをしたのかと顔を上げれば、彼もまた怪訝そうな顔をしていた。


「何が起きているんだ……?」

「いや、考えるよりはまず行動だね」


 そう言って、ツァルトは壁の一部を触ると、そこだけガコンと音を立てて開いた。

 隠し扉である。


 中には、どこかにつながっている階段が見える。

 いざというときの隠し通路だ。


 まったくもって想定されていないことが、この屋敷で起こっている。

 そう察したツァルトは、すぐさま逃げることを選んだ。


 その危機管理能力の高さが、彼を今まで生かしておいたのである。


「がっ……!?」


 だが、逃げるには少々遅すぎた。

 扉を突き破り、凄まじい勢いで飛来したのは剣。


 それは、ツァルトの腹部を貫き、壁に縫い付けた。

 何が起きたのか理解できない。


 剣で刺されたツァルトも、毒を盛られていたルーカスもだ。

 そんな中、ツカツカと音を立てて部屋に入ってきたのは……。


「な、どうして、君が……ごふっ!」


 勇者テレシア。

 薬物による洗脳が終了し、ツァルトから新しい名前として、皮肉を込めてナナシと呼ばれた女だった。


「はぁ、はぁ……洗脳が、解けた……? 念入りにしていたはずなのに、なあ……」

「暗黒騎士……暗黒騎士ぃ……!」


 テレシアが答えることはない。

 理知的に、理性的にツァルトに反撃したのではない。


 ただ、本能の赴くままに、自身に危害を加えた男への復讐をしているだけだ。

 すなわち、薬物の影響が完全に除かれたわけではない。


 一度壊れた人格は、取り戻すことはできない。

 テレシアは、ずっと壊れたままだ。


「……どうやら、完全に解けたわけでもないらしい。不完全に……ああ、そうか。彼が……。まったく、余計なことを……。調子に乗って、君のことを教えるんじゃなかったな……」


 血を吐き出しながら、苦笑いを浮かべるツァルト。

 彼の脳裏に浮かぶのは、アルマンド。


 テレシアは薬物によって身体をめちゃくちゃにされているため、寿命も大幅に減っている。

 ずっと自分を支えさせるわけにはいかないので、代わりにアルマンドを求めたのだが……どうやら、それは失敗のようだった。


 あの男も、そしてこの女も、制御できるはずもなかった。

 テレシアはそんなツァルトに近づいてくる。


「君は、僕を殺す権利がある。だけど、もう少し待ってほしかったな……。あと少しで、皆が……あの子が求めていた、自由で平和な世界が……」


 そんな彼女を見て、ツァルトはかつての幼なじみを思い出す。

 決して似ていないのに、かすれる目に映るのは、自分にいつも笑いかけてくれた優しい幼なじみだった。


 彼女が理不尽に殺されたことこそが、ツァルトが平和な世界を求める原動力だった。

 腹を貫かれ、助からないことは分かっている。


 もしかすれば、幼馴染は迎えに来てくれたのかもしれない。

 志半ばだが、彼女と一緒にいられるのであれば……。


「あああああああああああああああああああ!!」


 そんな感傷に浸っていたツァルトは、その途中でさえぎられる。

 腹部を貫いていた剣をテレシアが握り、力づくで両断したのである。


 噴水のように血が吹き上がり、壁や天井を真っ赤に濡らす。


「お前が……テレシアか……?」


 呆然とテレシアを見るのは、ルーカスだ。

 彼もまた命を落とそうとしているのだが、そんな恐怖も忘れて彼女を見る。


 これが、あの優しかったテレシアか?

 誰にも……それこそ、魔族にすら慈愛を与えた勇者。


 それが、真っ赤に返り血を浴びて立っている。

 それに、身体が信じられないほど急激に成長している。


 子供から大人だ。

 いったい、彼女はどのような目に合っていたのだろうか?


 自分がした行いの結果だが、だからこそなおさら信じられなかった。


「はぁ、はぁ……! あんこく……暗黒騎士……!」


 ギロリとテレシアの目がルーカスを捉える。

 その目に、今まで向けられてきていた温かい色は一切残っていなかった。


 そもそも、理性すら残っていないのだから、それも当然だろう。

 ただ、殺意にまみれた目で睨みつけられ、ルーカスは恐怖でも怒りでもなく……受け入れた。


「……そりゃそうだよな。お前がこうなったのは、全部俺らのせいだ。だから……殺せよ」


 近づいてくるテレシアに、ルーカスは言い放つ。

 ツァルトに毒を盛られて殺されるくらいならば、テレシアに報復で殺される方が何倍もいい。


 その想いを込めて、彼はうっすらと笑みを浮かべた。


「前も言ったが……お前との旅、悪くなかったぜ」

「――――――!!」


 そうして、ツァルトの邸宅はすべての命が消えうせるのであった。




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