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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第73話 暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士

 










「いや、凄いね。凄すぎて、ちょっと困ったな……」


 苦笑いするツァルト。

 そして、彼女の前に立つのはナナシである。


 ここは、友愛派トップであるツァルトの邸宅。

 少し前には、武断派頭目ノービレ直々に襲撃を仕掛けてきた場所である。


 本来なら、すぐにでも移動して居場所をくらませる必要がある。

 だが、ツァルトはここに滞在したままだ。


 なぜなら、姿をくらませる必要性が皆無だからである。


「…………」

「ああ、君を責めるつもりはないんだ。ナナシは僕の命令通りに動いてくれただけだからね。ただ……勇者の力は、ここまで強いとは思っていなかっただけさ」


 ツァルトが困っているのは、ナナシの有用性である。

 あまりにも強すぎる。


 突出しすぎれば、周りからの反感を買う。

 出る杭は打たれるというやつだ。


 事実、もはや帝国掌握にあと一歩まで迫っていた武断派は、友愛派だけではなく様々な勢力から嫌われ、攻撃を受けていた。

 ああなるのは、困る。


 対応できる人材が、武断派よりも少ないのだから。


「ノービレには逃げられてしまったけどね。部下の忠誠心は素晴らしいよ。自分の命を投げ出して、主の逃げる時間を稼ぐなんて普通にできることじゃない」


 あの襲撃の際、ノービレを仕留めることはできなかった。

 ナナシの力ならば、彼女を殺すことも可能だっただろう。


 できなかったのは、彼女が連れていた護衛たちの献身。

 文字通り、自分の命を捨ててノービレの前に立ちはだかったのである。


 決死の覚悟を持った者は、強い。

 ナナシは見事彼らを皆殺しにしたが、その隙に生まれたわずかな時間は、ノービレが逃げるには十分すぎるものだった。


 あそこで仕留められなかったのは残念だが、ツァルトはそれほど不満を抱いていない。


「武断派との戦争も、友愛派が有利になっている。たった一人の力でそうなるんだから、勇者は凄いね。戦術で戦略をひっくり返しているんだから」


 ツァルトの心からの賞賛も、ナナシは返事をすることはない。

 喜ぶことも、怒ることもない。


 ただ、ツァルトの独り言を聞いているだけだ。


「さて、悪いけど、君にはもっと働いてもらうよ。狙うのは、ここの武断派の拠点だ。幹部がいるから、ノービレの居場所を知ることができるかもしれない。ああ、もちろん尋問はこちらでやるから、安心して暴れていいよ。幹部だけは殺さないようにね」

「…………」


 ナナシは答えることなく、フラフラと揺れながら部屋を出て行った。

 扉が締められ、一人になるツァルト。


 背もたれに全体重をかけながら、深く息を吐く。


「……心はなくなった、か。あれだけ高濃度の薬を、短期間に多量注ぎ込んだんだ。それも、当然か」


 自分でやったことなのに、どこか他人事のようだ。

 だが、ナナシに……いや、テレシアに対して、何も思っていないということではない。


「僕は、君には謝らない。後悔もしない。だけど、約束する。誰もが自由に暮らせる、平和な世界を作ると」


 それこそが、彼女への贖罪になると信じている。


「その目的の大きな進展まで、あと少しだ……!」











 ◆



 ツァルトの屋敷の廊下を歩くナナシ。

 それなりの広さだが、ノービレの屋敷のように豪華絢爛ではなく、また過度に巨大ではない。


 そのため、しばらく歩いていればそれほど時間がかからず外に出ることができる。


「おやおやぁ? あなたは初めましてですね? ここにいる人のことは覚えているようにしているのですが、あなたは知らないなあ」


 しかし、それは誰かと遭遇しなければの話だ。

 残念ながら、ナナシは遭遇してしまった。


 アルマンドという、とてつもなく面倒くさい男に。


「…………」

「おや、無視ですか。クール美女ですかね? ぜひともお近づきになりたいですね」


 まったくもって反応せず、見向きすらしないナナシ。

 だというのに、アルマンドは向かっていた方向の逆戻りになってしまうというのに、彼女についていく。


 非情に煩わしく、怒りを覚えても不思議ではないのだが、当然ナナシはそれにも反応しない。


「話してくれないのであれば、私が話しましょう。なに、話題には事欠きません。あなたを楽しませてみせますとも」


 反応はない。

 だが、そんな中でもひたすら話し続けるのは苦にならないのがアルマンドだ。


 こうしていれば、大体鬱陶しがった相手がこちらに意識を向けてくれる。

 そうすれば、その相手で遊ぶことができる。


「そういえば、最近帝国内での勢力図が大きく変わりましてね。あの最大勢力を誇っていた武断派がみるみるうちに衰退していき、友愛派が猛烈に拡大しているのですよ。どうしてでしょうか?」


 反応を引き出すためには、相手が気になること、または感情を揺さぶることを話さなければならない。

 友愛派ならば、間違いなく話題はこれだ。


 武断派との抗争。

 少なからず関係しているのであれば、反応がまったくないというのは考えにくい。


「血にまみれ、武断派を殺しまくる戦乙女がいると聞きましてねぇ。まるで、そう……化物みたいな」


 アルマンドは爆弾も投げつける。

 化け物という言葉。


 それに激高し、襲い掛かられても不思議ではない。


「…………」


 しかし、ナナシはそれにも反応しない。

 ただ、ひたすらに足を動かし、歩き続ける。


 ツァルトの命令に応えるために。


「うーむ……この言葉でも揺さぶることはできませんか。あなたみたいな超越的な存在は、異質なものを例えればショックを受けると思ったのですが……。それほど、ツァルトさんの洗脳が丁寧だということでしょうね。まあ、あなたみたいな人に、そうそう自由意思を持たせていれば、怖くて懐に入れられませんしね」


 わざわざ逆なでするようなことを言ったというのに、ここまで無反応だと、逆に感心してしまう。

 アルマンドは、ツァルトがナナシにしたことを知っていた。


 直接見せられたのだから、当然だろう。

 そして、ナナシが勇者であったことも。


 四天王を倒すことができるほどの力を持っているナナシ。

 その気になれば、自分を殺す刃となるものを、あのツァルトが大人しく招き入れるはずがない。


 その洗脳は、完璧だった。

 なにせ、人格すら崩壊させてしまっているのだから。


「しかし、どうしたものか。このままでは、面白くない」


 悩むアルマンド。

 友愛派が武断派を逆に追い詰めていくところは面白かった。


 下克上というのは、いつどこで見ても楽しいものである。

 だが、あまりにも順調すぎる。


 もちろん、武断派もこのままやられるはずはないだろう。

 トップがノービレである以上、切り札も用意しているはずだ。


 しかし、ここまで友愛派に……ツァルトに風が向いていると……。


「邪魔したくなるんですよねぇ」


 その硬く丁寧に積み上げられた積み木を突き崩したらどうなるのだろうか?

 かかった梯子を外したらどうなるのだろうか?


 その妄想だけでも楽しくて堪らない。


「とはいえ、これでは遊ぶこともできないようですし……」


 友愛派の快進撃は、目の前の女が関わっていることは分かっている。

 ゆえに、彼女を刺激すれば、もっと面白いことになるかもしれないと思ったのだが……。


 やはり、アルマンドに見せつけることはある。

 ツァルトは、彼がどれほど突いたとしても、決して洗脳は解けないという自信があるのだ。


 だからこそ、自分と彼女を引き合わせたのだろう。


「仕方ありませんね。彼女の傷も癒えていますし、そろそろまた遊んでもらうとしましょうか」


 実際、ナナシを刺激する言葉は見つからなかった。

 だから、彼と遊ぼう。


 一番自分を追い詰め、遊んでくれたあの男で。


「暗黒騎士に」

「――――――」


 世界から音が消える。

 その違和感に、アルマンドは首をひねる。


 何もおかしいことは言っていない。

 自分がきっかけか?


 そして、この静寂を作り出しているのは……こちらをハイライトのない瞳で凝視してくるナナシだ。

 今まで、何をしても、何を話しても、顔さえ向けてこなかったこの女は、ただただ感情を感じさせない目で見据えてくる。


 彼女自身も、よく理解できていないようだ。

 パサパサの水気を失った唇が開く。


「あ、んこく……きし……?」

「おや、これですか……」


 ニヤリと笑うアルマンド。

 ナナシのウィークポイントを見つけられたようだ。


 化け物とさげすまれることでもない。

 人を殺した罪悪感に付け込むことでもない。


 彼女の感情を動かすのは、魔王軍最強を誇る暗黒騎士だった。


「暗黒騎士……暗黒騎士ですよ。あなたがご執心だった暗黒騎士。あなたで遊んでも面白くなさそうなので、彼と遊んで来ようと思います。彼もあまり表に出さないようにしているようですが、どうにも弄れば面白いお人のようで……」

「暗黒騎士……」


 何度もささやく暗黒騎士という名前。

 何かを刺激し、面白さを発揮させるために。


 ナナシもポツポツと呟く。

 その名前は……その名前は……!


「そうです! 暗黒騎士! 何か思い出せますか!? いやいや、思い出せなくても、無理にでも思い出してください。それこそが、私を楽しませて……」


 歓喜の笑みを浮かべるアルマンド。

 これ以上突いたら、何が出てくるのだろうか?


 どのようなものにせよ、とても面白いだろう。

 そんな勘がする。


 アルマンドはその直感を信じてさらに付け入ろうとして……。


「暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士暗黒騎士」

「ひぇ……」


 超ビビった。

 ナナシは……いや、テレシアは思い出す。


 どうしてこんなことになったのか。

 自分の当初の目的は何だったのか。


 それは……それは……!


「暗黒騎士いいいいいいいいいい!!」

「あ、ちょっとこれまず……」


 直後、光が飛び、近くにいたアルマンド諸共屋敷の一部を消し飛ばしたのであった。











 ◆



「草の匂いが凄い。暗黒騎士は草食動物? 肉の方がおいしいよ?」

【食べるものじゃない。幸せになるためのものだ】

「麻薬?」




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