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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第70話 囚われ

 










 ゆらり、ゆらり。

 まどろみの中にいるため、それはとても心地いい。


 しかし、起きなければならない。

 そう叫ぶ冷静な部分があり、テレシアはそれに答えて無理やり意識を覚醒させるのであった。


「……っ!? こ、ここは……」


 そして、起きた時の衝撃はすさまじいものだった。

 まず、テレシアがいたのは、あの暖かな食事の場ではない。


 冷たく、どこまでも無機質な場所。

 巨大な試験管とでもいえばいいのだろうか?


 テレシアは全裸でそこに閉じ込められていた。

 全裸、ということに多少の羞恥は感じる。


 慎ましい胸や普段なら隠されている場所が、すべてさらけ出されているのだから。

 しかし、この緊急事態で羞恥のために動けないなどといった弱弱しい女ではなかった。


 なんとか脱出しようと試みるも、この試験管の中でテレシアの四肢は拘束されていた。

 無理やり引きちぎろうとしても、それを壊すことはできなかった。


 それは、本来ならば巨大な魔物を拘束するものだった。

 それが、見た目は華奢なテレシアに取り付けられているため、過剰にも思える。


 だが、彼女は勇者だ。

 これがなければ、あっさりと試験管から抜け出していたことだろう。


 どうにかこの場から抜け出そうと視線を巡らせるテレシア。

 目の前でこちらを観察するように眺めていた男と目が合うのは、すぐ後のことだった。


「やあ、おはよう。身体の調子はどうだい?」


 ニッコリと浮かべている笑みは、食事をとっていた時と何ら変わらない柔和なもの。

 しかし、全裸に剥かれて拘束されている今の自分を見てそのような笑みを浮かべているのだから、彼も破綻者であることは明らかだった。


 そして、友好的な間柄には戻れないことも。


「身体は問題ありません。気分は最高に悪いですが」

「そうか。まあ、それは当然だろうね。誰だって、起きて拘束されていたらいい気分にはならないよ」


 テレシアの嫌味も、ツァルトは笑みを浮かべて頷く。


「どうしてこういうことをされたのか、お聞きしても?」

「もちろん。これから、君にはいろいろとやってもらうことになるからね」


 答えてくれないかもしれないと思っていたが、ツァルトはあっさりと口を開く。


「まあ、簡単だよ。君に、友愛派の刺客として武断派を壊滅させてほしいんだ」


 やはり、という感想をテレシアは抱く。

 初対面の自分をこうして捕まえていることは、いくつかの理由に絞られる。


 他には、勇者である自分を捕らえて王国へ打撃を与えるなどもあったが、その理由は乏しい。

 確かに王国と帝国は仲が悪いが、ここまで直接的に敵対行動をとるのは不可解だ。


 それゆえに、ツァルトの言ったことは、テレシアをすぐに納得させた。


「もう知っていると思うけど、今友愛派と武断派は衝突中だ。だけどね、どう考えても友愛派は武断派に勝てないんだよ。勢力も圧倒的に相手が上だし、軍人のような戦闘にたけた者は友愛派よりも武断派を選ぶし。ぶっちゃけ、今もとても厳しいんだ。ちょっとやらかしちゃったから、あっちも完全につぶす気できているしね」


 友愛派が武断派に押されているというのは、テレシアも聞いていた。

 逆転するためには、予想できない強大な一撃を加えなければならないことも。


 ツァルトにとって、それはテレシアなのである。


「だけど、君ならこの難局を変えられる。なにせ、魔王軍四天王を倒したほどだ。武断派に隠し玉がないとは言えないけど、勇者という存在は一気にこの勢力図を変えられる劇薬になる」


 友愛派の救世主に、テレシアを祭り上げる。

 それが、ツァルトの目的だ。


 実を言うと、これはすべて計画されたことだ。

 テレシアという勇者が王国にいて、魔王軍四天王を倒したという情報が入ったときから、これはずっと考えられていた。


 たまたま彼女たちが帝国に来ていたから……などというようなあやふやなものではない。

 彼女たちは自分の意思で帝国に来たのではない。


 ツァルトの計画通り、帝国にやってきたのである。


「私があなたの言うことに従うとでも?」

「従うさ。そういう風に作り変えさせてもらうからね」


 そのことを知らないテレシアは、絶体絶命の危機だというのに、その強さは微塵も陰りがない。

 キッと睨みつけられるが、ツァルトも余裕があった。


「薬。これって色々と便利でね。まずは、僕の言うことに従うように精神を壊す。そのあとは、肉体だね。君は確かに強いけど、今のままじゃあ武断派を切り崩すことはできない。壊滅してもらうためには、もっと強くなってもらう必要がある。それを、全部薬でやるのさ」


 真にテレシアという人物をそのまま味方にするのは、不可能だろう。

 だが、ツァルトは彼女そのものを求めているわけではない。


 彼女の力……勇者の力だ。

 それを得るだけならば、洗脳でも何でもしてしまえばいい。


 そして、彼女の力の底上げも手伝おう。

 いくら強くても、武断派は数も多いが個々の能力が高い。


 それらを一網打尽にできるほどの力を、テレシアに与えよう。

 非合法的な薬と改造によって。


「あなたは……! 私たちに言った理想の世界は、嘘だったのですか……っ」

「何をバカなことを。本気に決まっているだろ」


 テレシアからすれば、このような非道な行いをする者が世界平和なんてことを言っても、欺瞞にしか聞こえない。

 だが、そんなことは微塵もない。


 ツァルトは、本気でその世界を切望している。


「本気で争いのない平和な世界を作り出そうと思っている。僕は本気だ。そのために、今まで様々なものを犠牲にして、その上に立っているのだから」


 その言葉に、偽りは一切なかった。

 崇高な目的のために、多くのものを犠牲にしてきた。


 それを無為にすることはできない。


「だから、その過程で何かが犠牲になるのは、仕方のないことなんだよ。何か大きなことを成し遂げるためには、何か大きなものを失わなければならない。その一つが、君だ」


 人命は尊い。

 ツァルトはそう思っている。


 しかし、世界平和という目的も尊い。

 その尊い目的を果たすためには、人命を犠牲にしなければならないのだ。


 当然のように言ってのけるツァルトに、テレシアは背筋が凍り付くような悍ましさを覚えていた。

 他人に死を強要できる者は、たとえどのような目的を持っていようと邪悪である。


 テレシアはそう思っていた。


「狂っています……」

「そうかもしれないね。だけど、僕は僕の信じる世界を作り出す。そのために、礎になってもらうよ」


 どのような罵倒を受けようとも、ツァルトは止まらない。

 いや、もう止まれないのだ。


 ここで止まれば、ツァルトはツァルトでなくなってしまう。


「とはいえ、君の精神はとても強そうだ。じっくり時間をかければ人形にできるんだろうけど、不幸にも僕たちにあまり時間はないからね」


 ため息をつくツァルト。

 どうにも武断派は……いや、ノーレは友愛派を徹底的に潰したいらしい。


 苛烈な攻勢は緩まることなく、友愛派は風前の灯火だ。

 それを打開するために、テレシアの力を使いたいのだが、彼女は大人しく協力してくれるつもりはないらしい。


 ならば、時間をかけて洗脳していくしかないのだが、その時間もない。

 それを聞いて、テレシアは怪訝そうに眉を顰める。


「どうするつもりですか?」

「知っているかい? 薬っていうのはね、心に隙間があればあるほど依存し、効果があるんだよ。だから、君の心を崩そう」


 そう言うと、ツァルトは指を鳴らす。

 重たい扉が開いて、そこから入ってきたのは……。


「ルーカスさん、シヴィさん!」


 テレシアの仲間であり、今では心を許すことのできる数少ない存在である、ルーカスとシヴィだった。

 歓喜の笑みを浮かべるテレシア。


 二人の顔色が、ゾッとするほど暗いことにも気づかず。




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