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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第三章 血みどろ勇者編

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第69話 うふふっ

 










「……帝国って、今とんでもないことが起きているみたいね」


 シヴィがポツリと呟く。

 王国での居心地の悪さから帝国へと拠点を移動させてきたのだが、まさか帝国で内戦と見紛うほどの派閥争いが起きているとは……。


 しかも、直接的な殺し合いが起きているほどだ。

 決してかかわるべきではないだろう。


「予想外だぜ」

「あんたが提案してきたんでしょうが!」


 ルーカスにシヴィが吠える。

 二人のいつも通りの会話にふっと息を抜きながら、テレシアは口を開く。


「ですが、直接的に関与しなければ、ここで活動しても即座に危険だということではないでしょう。王国では依頼の件数も減っていたこともありますし、帝国に来たのは間違いではありません」


 なにも、この派閥争いに関与しようなんてことは考えていない。

 ただ、目の前で命が奪われることを見過ごすわけにはいかないだけだ。


 ならば、あちらも積極的にこちらを潰そうとしてくることはないはずだ。


「でも、最後のあいつの言葉……。それを考えれば……」

「……確かに、彼にどこまで影響力があるのかは分かりませんが、油断はしない方がいいかもしれませんね」


 自分たちが邪魔をして、最後に心に突き刺さる捨て台詞を残していった男。

 シヴィは、どちらかと言えば臆病だ。


 だから、余計に気になってしまうのだろう。

 テレシアも、あれがただの脅しだとは思えなかった。


 それゆえに、警戒を解くことはないのだが……。


「でも、まあ助けた奴はえらく感謝してくれたし、プラマイゼロじゃね?」


 ルーカスののんきな言葉に、テレシアは笑みを、シヴィは露骨に嫌そうに顔を歪めた。


「勇者ってこともバレちゃったわよ」

「別に、隠すつもりはありませんでしたし、構いません」


 それに、帝国ではそれほど名は知れていないだろう。

 あくまでも、王国の勇者だ。帝国ではない。


 内戦に近い派閥争いを繰り広げているのであれば、なおさら他国の勇者に構っている暇はないだろう。


「では、さっそく依頼を受けに行きましょう」

「ほんと、暗黒騎士に夢中だな」

「違います」


 テレシアは不服そうに頬を膨らませるのであった。











 ◆



「やあ。ようこそ、待っていたよ」

「…………」


 依頼を受けて暗黒騎士を殺すために力をつけているはずのテレシアの姿は、なぜか帝都の屋敷の中にあった。

 自分でもここにいるのは不本意なので、憮然とした表情である。


 普段からあまり表情が変わらないので、その感情に気づいているのは仲間の二人だけだ。

 目の前でニコニコと柔和な笑みを浮かべている男は、気づいていないだろう。


 ……いや、もしかしたら、気づいていてわざと知らないふりをしているかもしれない。

 どうにも、彼はそういった演技をするのがうまそうだ。


「僕はツァルト・フレイジア。よろしくね」

「か、格好いい……!」


 なんとなく察しているテレシアとは違い、シヴィはその見た目にやられてしまったようだ。

 ミーハーなところがあるので、この反応は予想通りと言えば予想通りであった。


「……どうして私たちを招待してくださったんですか? 普通の王国民ですが」


 理由が分からない。

 今も、ツァルトは歓迎の意味を込めて、テーブルにいくつもの料理を並べていた。


 こうして今会っているのが初対面であるのに、いったいどうして?


「なに。僕の派閥の子を助けてくれたと聞いてね。ぜひお礼を言いたかったんだよ」

「僕の派閥……?」


 怪訝そうに眉を顰める。

 そんなテレシアに、ツァルトはニッコリと笑いながら告げた。


「ああ。一応、友愛派のトップを務めさせてもらっているんだ」

「……っ」


 喉を詰まらせる。

 友愛派。それは、先ほど武断派の男に殺されそうになっていた者が所属している派閥であり、内戦に近いほど苛烈な争いをしている一方だった。


 その首魁が、こんな柔らかそうな男だとは、思っていなかった。


「あっ、僕が君たちを巻き込もうとしているわけじゃないよ。ただ、本当に純粋にお礼がしたいだけなんだ。なにせ、僕たち友愛派は人数がとても少ないからね。彼も貴重で大事な仲間の一人なんだよ」

「そう、ですか」


 そうは言われても、なかなか信用できることではない。

 自慢じゃないが、テレシアは自分の力に自信を持っていた。


 実際、魔王軍四天王を倒した実績があるのだ。

 まさしく、強者ということができるだろう。


 ツァルトがそんな強者を手中に収めるために、今回のことを……と考えても不思議ではない。


「さあ、食べてくれ。毒なんて入っていないよ。僕も食べるしね」


 にこやかに笑いながら言うツァルト。

 確かに、おいしそうな食事が並んでいる。


 下品な豪勢さはないが、質素というわけでもない。

 絶妙なバランスの食事は、テレシアたちも楽しみたいと思う。


 だが、相手が相手だ。

 ためらって手が出せないでいると……。


「……まずは、俺が食う。それで大丈夫そうなら、お前らも食え」


 ルーカスがそんな提案を小声でしてくる。


「ルーカス、しかし……」

「戦闘はお前にまかせっきりなんだ。こういうことくらい、させてくれよ」


 笑みを浮かべるルーカス。

 彼はハラハラとするテレシアをしり目に、少しずつ用意された食事をとっていき……しばらくたってから、テレシアたちに向かって頷いた。


「……大丈夫そうだ」

「ありがとうございます。では……」


 本当は食事とかいいから、早く依頼を受けたいのだが、さすがにここまで準備されているのをしり目に背を向けることはできない。

 テレシアの優しい性分である。


「ああ、遠慮しないでくれ」


 目の前で試されていたというのに、気分を害した様子もなく、ツァルトも勧める。

 そして、食事が進んでいく。


 少しずつお酒も入ってきたとき、ツァルトが切り出した。


「そういえば、君たちは勇者なんだって?」

「ええ、まあ……」


 舌鼓を打っていたテレシアは、歯切れ悪く答える。

 あまり大きな声で誇示するべきことではないだろう。


「あまり詳しくはないけれど、聞いているよ。王国で民を困らせる魔物を次々に屠る希望の象徴だとね。いやぁ、うらやましい。帝国にも、そういう人がいてくれたら、僕みたいなのが派閥のトップになる必要もないのにね」


 そこには、嫌味も含みもなかった。

 だから、テレシアは思わず疑問を口にしていた。


「望んでその地位にいるのではないのですか?」

「まさか! こんなところ、誰か変わってくれるなら、いつでも変わりたいよ」


 とんでもないと手を振るツァルト。


「僕たちの理想は、争いのない平和な世界だ。そんな目標を掲げている人が誰もいないから、仕方なく僕が先頭に立っているだけだよ」

「争いのない、平和な世界……」


 オウム返しに呟いてしまう。

 それは、まさしく善良な人間なら一度は夢想する世界だ。


 だが、すぐにそれは幻想で、叶わない夢だと理解する。

 すべての人間が子供のころに納得することのできることを、この男はまだ本気で追い求めているのだ。


「そうさ。誰もが自由に生き、奪われない世界。そんな世界を、僕は作りたいと思っている。だから、武断派にこの国を渡すわけにはいかないのさ」

「どうしてですか?」

「そりゃあ、彼らの目的が戦争だからだよ。王国などの他国に戦争を仕掛けて人類を統一し、魔族との存亡をかけた一大決戦を挑む。それが、武断派の目的さ」


 眉を顰めるテレシア。

 もちろん、ツァルトの言うことをうのみにすることはできない。


 彼からすれば、敵対派閥の評価だ。

 今は内戦のような状態ならば、悪く言うのは当然だろう。


 しかし、好印象を武断派に抱くこともない。


「なるほど、確かにそれにすべて成功すれば、この世界は帝国人にとっては住みやすい世界になるだろうね。まさしく、理想だ。だけどね、その過程でどれほどの犠牲が出ると思う? 数百万……いや、数千万の命が失われることになるだろう。そんなことを、認めるわけにはいかないのさ」


 聞く限り、武断派は帝国のために行動しているのだろう。

 帝国人にとっては、理想的な派閥に違いない。


 しかし、ツァルトはそれを否定する。

 彼の望む平和な世界は、武断派では作れないと確信しているからだ。


 だが、安易にテレシアが同調することはできない。

 この派閥争いに首を突っ込むことは、決していいことではない。


「……あなたの思想は分かりました。ですが、支援するわけにはいきません。そう簡単に首を突っ込める話でもありません」

「……ああ、その通りだね。さあ、食事の続きをしよう。今日は、お礼の意味を込めたものなんだからね」

「はい」


 ツァルトは機嫌を損ねることもなく、笑みを浮かべて勧める。

 テレシアは頷き、提供された酒を飲む。


 ……それから、テレシアたち三人はツァルトの屋敷から出てくることはなかったのであった。











 ◆



【おっ、ここにも四葉。俺の部屋を四葉で埋め尽くそう。そして、全身で四葉の幸運オーラを受け止め、幸せになるんだ。うふふっ】




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