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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第二章 ドラゴンスレイヤー編

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第52話 過去

 










「ねえ、お父さん。どうして私たちは人間と一緒に暮らしているの?」


 幼いメビウスが、父にとびかかりながら問いかける。

 父もドラゴン。


 現在は人間の形態をとっているが、その身体はたくましく、子供が一人飛び掛かってもビクともしなかった。

 しっかりと受け止めてくれることが分かっているからこそ、メビウスも甘えることができる。


「それはな、お父さんが昔、人間に助けられたことがあったんだよ。だから、そのお返しだな。人間は弱いから、魔物に襲われたらひとたまりもない。それを助けるのが、恩返しになると思ったんだよ」


 メビウスたち家族は、竜の巣から離れ、人里に近い森の中に住んでいた。

 彼らがいることによって、魔物はここらに近づかない。


 すなわち、人々も魔物の被害にあうことはない。

 それゆえに、辺境の小さな村とは思えないほど、安全で豊かな村が近くにはあった。


 それが、父なりの恩返しだった。


「ドラゴンのくせにって言われたよ?」

「人間にもいろいろいるからなあ。お父さんを助けてくれた人みたいに優しい人から、メビウスをいじめる悪い人までね。そういう人間とは、接する必要はないよ」


 だが、その恩恵も受け続けていれば、人間は感謝を忘れて当たり前のことだと思うようになる。

 大人はそう思っていても口には出さないが、それを見ていた子供が影響を受け、口に出すのはよくあることだろう。


 メビウスにちょっかいをかけてきた人間の子供も、それにあたる。

 それを聞いていた母が、にっこりと聖母のように美しい笑みをこぼす。


「メビウス、そのガキお母さんに教えなさい。ぶっ殺すから」

「お母さん、過激」


 父は震える。

 妻は本気でやりかねないからだ。


「まあ、これはお父さんの生き方だ。メビウスが同じ生き方をする必要はないよ。ドラゴンは自由な生き物だ。メビウスが生きたいように生きなさい」

「メビウス。ブレスが吐けるようになったら、お母さんと一緒にメビウスをいじめた人間を燃やしに行きましょう」

「お母さん、ちょっと黙ってて」


 せっかくいい感じで話しているのに、母が入ってきたら色々と崩れてしまう。

 殺意をみなぎらせる母を、必死になだめようとする父。


 それを見て、メビウスは笑っていた。

 メビウスは幸せだった。











 ◆



 それから少し時間が経ち、ドラゴンの象徴であるブレスを吐くことができるようになったころ。


『グオオオオオオオオオオ!!』


【奴】に襲われた。

 悲鳴を上げて、父の身体から血が噴き出す。


 いつも人間の形態をとっていた彼は、雄々しく巨大な竜の姿である。

 誰にも負けない最強の父が、今は血みどろになり、傷だらけになっていた。


 相対しているのは、同じ最強の魔物であるドラゴン……ではなく、人間。

 それも、たった一人である。


 ドラゴンとして活発な活動をしていなかったメビウスたちは、ほとんど知られていない存在だった。

 知っているのは、ふもとの村の人間たちだけ。


 そう、彼らはメビウスたちドラゴンの情報を、【奴】に売り飛ばしたのだ。

 自分たちが魔物から守られている恩も忘れ、竜殺しに情報を売った。


 その理由は簡単だ。


【ドラゴンは、金銀財宝をため込んでいる】。


 そんな噂があったからである。

 不確かで、噂の出どころすら分からない。


 だが、もし本当だったら?

 一攫千金じゃないか。贅沢して暮らしていくことができるじゃないか。


 もし、他の誰かが抜け駆けをして、そのあるかもしれない財宝を独り占めすれば?

 焦燥は駆り立てられる。


 ずるい。独り占めは許せない。

 しかし、その財宝を手にするためには、ドラゴンたちを何とかしなければならない。


 鍛えもしていない村人たちに、彼らを出し抜くことなんてできるはずもない。

 そんな時、とあるドラゴンスレイヤーに出会った。


 竜殺しに特化した人間。

 本来であれば、とてつもない報酬を要求されるのだが、幸いにして、そのドラゴンスレイヤーは金銀財宝に興味はないようだ。


 まさに、好都合。

 ドラゴンスレイヤーにドラゴンたちを処分させ、ため込んである財宝は自分たちのものになる。


 そんな浅はかな考えだった。


『逃げなさい、メビウス!』


 だが、そんな考えに載ってきたドラゴンスレイヤーは、まさしく一流の竜殺しだった。

 母も竜化し、まだ竜化できないメビウスを逃がそうとする。


「で、でも……! お父さんとお母さんが……!!」

『大丈夫。あとから必ず追いつくから。あなたを一人にはしないわ。いじめっ子を燃やすって、約束したでしょ?』


 獰猛に笑う母。

 しかし、それがいつもの母の笑顔でないことは、子供のメビウスにも分かった。


 もし、ここで背を向けて逃げ出したら、両親と二度と会うことができなくなる。

 そんな直感があった。


「はぁ……話は終わったか?」

「お父さん!!」


 炎の中から姿を現すドラゴンスレイヤー。

 彼の傍には、地面に倒れて動かなくなった父の姿があった。


 大量の血液が大地にしみていく。

 それを見て、メビウスはとっさに父の元へと走り出していた。


『メビウス、戻りなさい!』


 母はメビウスを止めようとするが、もう遅い。

 メビウスの傍には、ドラゴンスレイヤーが立って剣を振り上げていた。


「ドラゴンは皆殺しにしてほしいって言われていてな。はあ……普段はガキは殺さないんだが、悪く思うな」


 何度もため息をつきながら、疲れ切った表情の人間は、剣を振り下ろした。

 父の血を存分に吸った剣が、まさにメビウスの命も刈り取ろうとして……。


 割って入ってきたのは、母だった。


「お、母さん……?」


 パッと散るのは、母の血である。

 メビウスの前で倒れ込んだ母。


 竜化が解除され、人間になる。

 その方が、力も消費せず、できる限り長くメビウスと共にいられるから。


「大丈夫、大丈夫、だから……。逃げなさい、メビウス。あなたは、私とお父さんの……宝物なんだから」


 呆然とするメビウスに、母は笑いかける。

 血の気のない顔だ。


 真っ青になっており、呼吸も浅く短くなっていく。

 それでも、母は笑顔を向けた。


 自分の言うことに逆らって飛び出した娘に対して、笑顔を。


「逃がさねえぞ? はぁ……全員殺さないといけないからな」

「そう」

「……?」


 ドラゴンスレイヤーは首を傾げる。

 今までの会話を聞いていれば、これほど落ち着いた返答をするだろうか?


 娘を殺すと言われているのに……。

 しかし、ドラゴンの穏やかな声音は、決して娘を見放したものでもあきらめたものでもなかった。


「あまりドラゴンを舐めるなよ、人間」


 ギラリと光る眼は、今にも死に行く者とは思えない。

 ゾッと背筋に冷たいものが走る。


 それは、今まで数多くのドラゴンと相対して屠ってきた彼をしても、初めての経験だった。

 とっさに飛びずさる。


 それと同時、彼女の身体は光り、生命力ともいえる魔力が膨れ上がった。


「お母さ――――――!!」

「――――――愛しているわ、メビウス」


 白い光の中で、最後に見た母の表情は、慈しみに満ちた笑顔だった。




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