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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
最終章

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最終話 あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?

 










 王国が落ちた。

 その知らせは、世界中を駆け巡った。


 なにせ、王国は帝国ほどではないものの、まさしく列強国と呼べるだけの国力があった。

 その国が落とされたとなれば、当然世界のニュースとなる。


 そして、それがたった一人の男によって成し遂げられたことだと知れば、なおさらである。

 魔王軍最高幹部暗黒騎士。


 ただでさえ広まっていたその悪名は、さらに際立つ。

 言うことを聞かない子供に対し、親が『暗黒騎士が来るよ』と言えば嘘のようにいい子になる。


 暗黒騎士が近くにいたという誤報だけで、国家非常事態宣言が出される。

 世界は、暗黒騎士というたった一つの存在だけで、大きく振り回されることになった。


 それもそうだろう。

 国が滅ぼされるというのであれば、大規模な軍隊を差し向けられるということがある。


 それは、事前に察知できるし、だからこそ前もって対処や心づもりをしておくことができる。

 だが、暗黒騎士は一人だ。


 ひょっこり現れても、なかなか気づくことはできない。

 初動は確実に遅れる。


 そして、その遅れは間違いなく命取りになる。

 その混乱している間に、暗黒騎士が単身で中枢に乗り込み、国崩しをしてしまうことだってあるのだ。


 そんなことはありえないと笑うのが普通だ。

 だが、実際に彼は王国でやってのけてしまったのである。


 暗黒騎士は、それができる。

 その脅威は、とくに国家の上層部に位置する人々に大きな衝撃と恐怖を与えたのであった。


 一人でふらりと現れて、国家を滅ぼし歩く。

 まさに、無敵の兵器である。


 暗黒騎士は、単体で最強の抑止力になったのである。

 これから数百年、人類は魔族に表立って敵対することはできなくなったのだ。


 暗黒騎士。

 彼は、ある意味で世界平和を一人で作り出したのであった。











 ◆



「フラウの護衛に信じて送り出した暗黒騎士様が、王国を一人で滅ぼして帰って来ましたわ。自分で言っていて、何が何だか分かりませんの」


 ジト目で見てくるルーナ。

 俺も分からん。


 今頃、遠くの場所で悠々と生活を送れていたはずなのに。

 どうして俺はこの魔族の国に戻ってきているんですかね……。


「どうしてそうなったの?」


 メビウスが腕にへばりつきながら尋ねてくる。

 柔らかぁい。


 しかし、彼女の問いかけに対する答えは、分からんの一言である。

 なんで俺は王国を一人でつぶしてんの?


 バカなの?

 もう目立ちまくって仕方ないわ。


 目立てば目立つほど逃げられなくなるって分からないの?

 知ってるわボケ。


 目立ちたくて目立ってんじゃねえんだよ。


「……私もついていくべきでした」


 テレシアは悔いるように顔を歪める。

 こいつはアンデッドとなり魔族になったくせに、いまだに善性が抜けきっていないようだ。


 随分とひどい目に合ったから、以前ほど強烈ではないようだが。

 お前がいたら、アルマンドの相手を押し付けて今頃逃げ出せただろうに……。


「それに、フラウが戻ってきたと思ったら、王国側の使者としてやってくるとは……」

「なに、私は元四天王。穏便に魔族との関係を発展させたいと思う人間が多くてな。それで、私が選ばれたわけだよ」


 ニッコリと詐欺師のような気持ちの悪い笑みを浮かべているのは、フラウである。


「こ、この美少女の笑顔を見て詐欺師って……」


 こいつは魔王軍四天王ではなく、王国の王女としてこちらに来ていた。

 不本意ながら俺が王国を落としてしまったし、その後始末をしているわけだ。


 そんな面倒なこと、普段なら絶対にやらないはずだが……この女、王女という肩書で四天王を辞め、俺から逃げられると思って受け入れやがったな。

 なんて奴だ。


「それにしても、暗黒騎士は寄り道が好きだなあ。フラフラとどこかに行こうとするから、呼び止めることに必死だったぞ」


 俺がさらにこいつに怒りを募らせている理由。

 それは、明確だ。


 おのれ……!

 まさか、こいつが俺についてくるとは……!


 こいつが目を光らせていたせいで、逃げようにも逃げられなかったぞ。

 ふざけるなぁ!


 こいつがいなければ、うまくフェードアウトすることができたのに!

 何度か逃げ出してみたが、未来を予知しているのかと思うほどの先回りで、すべて潰されてしまった。


「さて、私から言える王国の意見は、こうだ」


 イライラを募らせる俺を見て、フラウはふっとあざ笑い、ルーナに告げる。


「王国は魔王に従属する」


 かなり歴史的なことだ。

 人間の国が、魔族に屈服するというのは、それだけ大きなことである。


 まあ、俺は興味ないんだけど。

 自分のこと以外関係ないし。


「そして、王国の監視、また連絡要員として、暗黒騎士が欲しい」

【却下だ】


 自分のことに関係していた。

 このクソ女、いきなり何をとんでもないこと言ってくれちゃってんの?


 この俺が連絡要員?

 そんな些事、この俺にさせるつもりなの?


 不敬だぞ。

 それに、そうしたらマジで逃げられなくなるだろうが。


「暗黒騎士一人で王国一つが丸まる魔族のものになる。それほど悪い提案ではないと思うが?」


 悪いわ!

 逃げられないだろうが!!


 ニヤリとあくどい笑みを浮かべてくるフラウ。

 ルーナ!


 そんな顔をしている奴の言葉なんか、信用したらダメだぞ!


「……ずっとはダメですわ。暗黒騎士様は、まさに最強の抑止力。魔都にずっといないというのは、不穏な動きを見せる魔族の蓋になりえませんもの」


 やったぜ。

 俺は最初からルーナのことを信じていた。


「ですが、暗黒騎士様が王国にいれば、目下の仮想敵国である帝国にも睨みを効かせることができますわ」


 ……ん?


「ですから、暗黒騎士様には一月ごとに、交互に滞在してもらいましょう。それがいいですわ」


 よくないですわ。

 やっぱり、この魔王って無能だわ。


 地獄に堕ちろ。


「ああ、異論はない。……暗黒騎士が逃げられないような状況ならばな」


 ああ! 今本音出たよ!

 聞いていたか、ルーナ!?


「……ずっと会えないのは、さみしいですもの」


 ああん!?

 ブツブツ言ってねえでちゃんとフラウの言葉を聞けよ!


「さて、私は王国に戻るよ。次の王は宰相にゆだねることは決まっているけど、王族の象徴としてあちらにいないといけないからな」


 俺を陥れることができて、満面の笑みである。

 許せねえ……。


 だがなぁ、フラウよ。

 この俺が、お前の一人勝ちを許すような男だと思うのか?


「え? 私の聞いていた話と違いますね」

「……ん?」


 テレシアの言葉に、フラウが小首をかしげる。

 その表情が凍り付くのは、次のメビウスの言葉だった。


「フラウが女王になるって言っていたけど?」

「…………ん?」


 ビシリ! と固まるフラウ。

 彼女はゆっくりと、ギギギ……と顔をこちらに向け……。


 にっこり。

 兜越しでは分からないだろうが、雰囲気で満面の笑みを浮かべている俺がいた。


 そう、俺は王国を離れる際、難を逃れていた国王を脅し、次期王をフラウにするように仕向けたのだ。

 そもそも、あの王は自分の血族に王位を継いでほしかったようで、宰相よりも娘を選ぶのはそれほど難しいことではなかった。


 つまり、フラウが戻れば、待っているのは王国の女王である。

 しかも、魔族に屈服した、人類の裏切り国家の女王だ。


 いやー、大変だろうなー。


「き、貴様……! まさか、私の知らないところで根回しを……!?」

【なんのことだ?】

「しらばっくれるな!!」

「なんで二人は勇者と魔王みたいな会話をしているんですか?」


 テレシアのツッコミが入る。

 元勇者、現魔勇者の御言葉である。


 ふっふっふっ。

 フラウめ、自分だけが勝ったと思い上がりやがって……。


 そんな都合のいいこと、許すわけがねえだろうがぁ!


「新女王フラウに、最強の抑止力暗黒騎士様。なんだか、随分と変わってしまいましたわね。ですが、お二人がいれば、世界もうまく回っていきそうですわ」


 俺の都合のいいように回っていないんですけど。


「これからもよろしくお願いしますわ、二人とも」

【…………っ!!】

「…………っ!!」


 ルーナの言葉に、にらみ合う俺とフラウ。

 ちくしょう。


 いつかこいつを出し抜き、俺は魔王軍を辞め、悠々自適な生活を送ってやる!











 ◆



 その時代は、有史以来激しい衝突を繰り広げてきた人類と魔族の間で、かりそめの平和を作り出せた時代だった。

 それは、史上最強の魔族『暗黒騎士』と、史上最高の女王『フラウ』による、二人の作り出した平和と後世で評価されている。


 その期間は、たったの20年。

 しかし、その20年で人類と魔族の戦争は一切なく、もっとも世界が発展した期間となった。


 暗黒騎士と女王フラウの最期を知る者はいない。

 だが、彼らは確かに存在し、世界に大きなものを齎したのであった。











「ごらぁ! 私に女王なんて押し付けて、逃げ切れると思うなよ! 絶対に道連れにしてやる……!」

【は、はな……離せごらぁ!】


『あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?』 終わり。


今回で完結です!

10か月ほどのお付き合い、本当にありがとうございました。

良ければ、下記から評価してもらえると嬉しいです。

また、新作の方も投稿していますので、ぜひ下記からご覧ください!

それでは!

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