第125話 一人で国を滅ぼす男
「極悪人を捕まえろ!」
鬼の形相……かなり必死な顔で襲われるので、俺は超ビビっている。
怖い怖い怖い。
ここまで強く反応させてしまうようなこと、俺何もしていないよね!?
あ、もしかしてフラウのことだろうか?
血だらけのあいつを担いでいたことが、もう知れ渡っているのだろうか?
そういえば、王位継承権を持っているのが、もうフラウ以外にいないんだったな。
そんな奴を殺しかけた魔族がいれば、ヘイトも高まるか?
「王女殿下のみならず、王弟殿下までも危害を加えた暗黒騎士を許すな!」
おかしいぞ?
俺がまったく知らないことも入っているんですけど?
王弟ってなに?
フラウは勝手に毒にあたって倒れたし、王弟の方は全く知らないし!
どうなってんだ!
いくら俺が温厚で優しくてイケメンだからと言って、これ以上理不尽なことをされると本当に怒るぞ!
【なんのことを言っているのか、さっぱり分からんな】
「貴様……! ここまできてもしらばっくれるつもりか! アルマンド様が、貴様の仕業だと断定されたぞ!」
あいつ何してくれてんの!?
いきなり飛び出してきた知っている名前に、俺は目を見張る。
あいつ、どうして俺をそんな陥れようとするの?
そんな悪いことしていないよね?
ちょっと喋ったことがあるくらいだし。
なんだあいつ……。
「そもそも、貴様の目的はなんだ!? 王国に来て、殿下たちを殺して……何がしたいんだ!?」
魔王軍を辞めて鎧を脱ぎたいっていうのが目的ですね……。
【……さてな。自分で考えてみたらどうだ?】
馬鹿正直に俺の目的を話すわけにもいかないので、何とでも取れるようなことを言っておく。
すると、騎士たちはハッとひらめいた顔をする。
「……っ! や、やはり……!」
やはり?
「たった一人で、王国を滅ぼすつもりか!?」
えぇ……?
言われたことが理解できない。
何がどうなって、俺がたった一人で王国を滅ぼすことになっているの?
やるやらないの問題じゃなく、無理だろ。
というか、一人に滅ぼされる国ってどうなの?
「そんなことは……そんなことは、絶対にさせん! 幸せに暮らす王国民を守るのが、俺たち騎士だ!」
勝手に盛り上がる騎士たち。
ええ人や……。
俺がそんなことをするつもりは毛頭ないから、見逃してもらっていいかな?
「かかれえええええええええ!!」
俺の祈りも届かず、騎士たちは嬉々として襲い掛かってきたのであった。
ぬわあああああああ!?
◆
騎士たちは、自信があった。
暗黒騎士を倒すことができるという、大きな自信が。
それは、今まで厳しく、血反吐を吐くような訓練に耐えてきて、様々な任務をこなしてきたという経験から裏打ちされている。
魔物の討伐や懸賞金がかけられるほどの犯罪者の捕縛などといった、経験である。
魔族は強い。
その中でも、魔王軍大幹部である暗黒騎士は、別格だ。
一対一なら、確実に殺されるだろう。
だが、仲間と一緒なら?
同じ釜の飯を食い、様々な困難を共に乗り越えてきた仲間とのきずなは、非常に強固である。
それに加え、ここは王国。
ホームグラウンドだ。
地の利もあるし、暗黒騎士側には援軍もない。
完全に一人なのである。
いわば、一人と一国。
あまりにも規模が違う。
いくら個人としての能力が恵まれていたとしても、一つの国に敵うはずもない。
なのに……。
「なのに、何だこれは……」
宙を舞う騎士たち。
吹き飛ばされ、地面を転がる。
鍛え上げられた護国の戦士たちが、何も為すことができずに、無力に倒れ伏していく。
「ひるむな! 攻め続けろ!」
「相手はたった一人だ! 我々が負ける理由など、どこにも……!」
それでも、負けられないと。
ここで退くことはありえないのだと、自分たちを奮い立たせて立ち向かう。
何せ、下がればもはや自分たちの守るべき存在が巻き込まれてしまう。
騎士として、それは絶対に認められない。
それなのに……。
「ぎゃあああああ!?」
止められない。
止まらない。
多くの騎士たちが捨て身の覚悟で決死の突撃を敢行するのだが、奴の歩みが止まることはない。
ゆっくりと、しかし確実に近づいてきていた。
【数をそろえれば、私を屠れると思ったか?】
砂煙の吹き上がる中、赤い目の光を輝かせながら近づいてくる男。
魔王軍最高幹部・暗黒騎士。
この男を屠るためだけに、数百の騎士が挑み、そして傷一つつけられていない。
【度し難いほど楽観的だ。たとえ、貴様らが十万、百万といようとも、私に敵うことはない。低レベルすぎる】
「き、貴様、どこまで我々を愚弄すれば……!」
カッと頭に血が上る。
それでも、怒りのままに攻撃を仕掛けなかったのは、優秀な騎士だからこそである。
そのまま突っ込んでいれば、彼もまたほかの同僚たち同様の結末を迎えていただろう。
【国崩し、だったな? 望むのであれば、やってやろう】
だが、その時に突撃しようがしまいが、結果は変わらなかった。
暗黒騎士の剣の一振りで、衝撃波が生まれて騎士たちを吹き飛ばす。
誰一人耐えることできず、数十人の騎士が宙を舞う。
ドサドサと地面に崩れ落ちていく騎士たちにとどめも刺さず、暗黒騎士は歩く。
息の根を止める価値すらない。
そう言われていることに等しかった。
「ほ、本当に、こいつは……」
この国を、たった一人で滅ぼしてしまう。
それを最後に、彼は意識を飛ばすのであった。
暗黒騎士が、王城へと向かうのを見届けることはできず。




