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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
最終章

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122/129

第122話 俺ほどの聖人になんてことを……

 










【うおおおおおおおお!!】


 マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!

 俺の頭の中にあるのは、それしかない。


 そんなことを考えながら、フラウとジークリットを抱えて爆走する。

 生身の俺だと絶対に二人の人間を抱えて動くことなんてできなかっただろうが、そこはさすがの鎧さん。


 難なく運ぶことができている。

 ……いやいや! 今はそんなことを呑気に考えている場合ではない。


 どうするんだ、これ!?


「はぁ、はぁ……!」

「ぐぉぉ……ど、どうして、私が……暗黒騎士にぃ……!」


 うなされていても俺に押し付けようとしてやがる、このクソ王女!

 しかし、ダラダラとこぼれる血は、フラウたちに余裕がないことを明白に教えてきていた。


 まだ何も押し付けられていないのに、勝手に死なれるのは困るというレベルじゃない!

 とはいえ、俺はどうすればいいのか。


 ジークリットが倒れた時に病院を勧めたのは、あくまでもフラウがいるからだ。

 あいつは王女。


 一般人はそれを知らなくても、人間だ。

 駆け込めば、病院だって普通に受け入れることだろう。


 だが、俺は魔族。

 しかも、人間たちの間では悪名が知れ渡っている暗黒騎士である。


 そんな俺が、病院に駆け込んだとして、まともに対応をしてもらえるのか?

 普通に考えて無理だろう。


 人間が魔都の病院に駆け込もうとしたところで、追い返される。

 それと同じことだ。


【まあ、最悪脅せばいいか】


 至極あっさりと解決策が見つかった。

 そう、脅せばいい。


 こいつらを治療しないと殺す、なんて適当なことを言っていれば、よっぽどの意固地でない限り治療するに違いない。

 そもそも、同胞である人間を助けろ、と言っているのだ。


 拒否される理由がないな。


【よし、完璧。とりあえず、病院を探さなければ……】


 フラウをたたき起こして病院の居場所を言うか?

 いや、死ぬか。


 ……仕方ない。

 適当に歩いている奴を見つけて……。


 キョロキョロと首を動かしていれば、道を歩く一人の男が。

 周りを見れば……ほかに人はいない。


 よし。


【おい】

「ぬぉ!? な、なんじゃい!」


 声をかければ、びくっと震える男。

 まあ、自分よりもはるかに大きい全身鎧の男に、突然声をかけられればこうなるか。


 俺ならチビる。


【この近くに、病院はあるか? 病院でなくとも、治療できる者がいればいい】


 俺の言葉に、ちらりと担がれている二人を見やる男。

 怯えの表情から一転、驚きに目を丸くするが、すぐに冷静さを取り戻す。


「む……それなら……」


 どうやら緊急事態ということもあって教えてくれるようだ。

 ふー、まずは一安心だな。


 あとは、こいつらをちゃんと治してくれるかどうか……。


「おい!」


 ビクッと肩が跳ねる。

 恐る恐る振り返れば、こちらを凝視する複数の騎士が。


 お、王国騎士の皆様じゃありませんか。

 ちわーっす。


「き、貴様、その二人は……!!」


 騎士たちの目は、当然ながら俺が担いでいるフラウとジークリットに。

 ええ、血だらけですね。


 魔族、暗黒騎士、血だらけの二人、しかも女。

 あ、やべ……。


 ツーアウトか?


「あの方のおっしゃっていた通りだ。よくも殿下を……! 許せん!!」


 スリーアウトみたいですね。

 騎士たちは剣を抜き、俺に向ける。


 ひぇ。

 ぎらついた剣の怖さったらない。


 俺は掌を奴らに向ける。


【よせ】


 誤解です!

 いきなりメイドが血を噴き出したし、おそらくフラウはそいつの血を浴びたからこうなっているんです!


 ……ということは、メイドは毒を盛られていたのか?

 タイミングを計り、内面から弾けるような?


 ……恐ろしすぎる。

 誰だ、あいつを唆したのは。


 いや、今はそんなことを考えているときではなく、命乞いをするのだ。

 フラウほど覚悟は決まっていないが、自分の命のためなら頭くらいいくらでも下げられる。


 他人のためは無理だけど。

 よし、もう一声命乞いの言葉を……。


【無駄に(俺の)命を散らすつもりか?】

「ひっ……!?」


 震える騎士たち。

 あれ? 何か俺の意図とは違った伝わり方していない?


「た、たとえ魔王軍最強と言えど、殿下は王国の光! その殿下に害をなした貴様を、許すわけにはいかん!」


 あかん!

 やっぱり間違った意図で伝わっている!


 ここは、しっかりとちゃんとした意図を伝え……今、あいつフラウのことをなんて言った?

 王国の光……?


 闇じゃなくて?

 そのことに疑問を覚えてしまっていたため、弁解する時間を無駄にしてしまい……。


「かかれえええええ!!」

【ちょっ……!?】


 一斉に襲い掛かってくる騎士たち。

 なんでこんなことになるんですかねぇ!











 ◆



 暗黒騎士の悪名は、表立って魔族と衝突していない王国でも広がっている。

 いわく、最強の魔族。


 魔王を守る絶対的な盾。

 この暗黒騎士を倒さない限り、人類の大敵である魔王を滅ぼすことは不可能とされている。


 当然、それほど悪い意味で有名になれば、かの騎士を倒さんとする者も現れる。

 正義感にあふれる者、魔族に対して強い恨みを抱く者。


 多額の懸賞金もかけられているため、ただ報奨金目当ての者。

 暗黒騎士を倒したという名誉と名声を手に入れたい者。


 多くの屈強にして高い能力を持つ人々が、暗黒騎士に挑んだ。


 ――――――そして、帰ってきた者はいない。


 それが、暗黒騎士。

 人類最大にして最悪の敵である。


 そんな男が、王国に現れ、血だらけの王女を担いでいる。

 ようやく虜囚の身から解放され、王国へと戻ってこられた王女。


 王位継承権を持つ王子たちが次々に命を落としたことから、もはや彼女はただの王女ではなく、王国の希望ともいえる存在になっていたのである。


「絶対に王女は渡さんぞ、暗黒騎士ぃ!」


 それゆえに、絶対に引くことは許されない。

 多少の恐怖はある。


 だが、彼らは騎士として、王族を見捨てて逃げ出すことなんてできるはずもなかった。

 ちょっとした功名心があったのも事実だ。


 この暗黒騎士を倒せば、自分たちは一生この王国で生きていくに困らないだけの報奨金と名声を手に入れられるだろう。

 王女を救い、自分たちもいい思いをする。


 そんな考えの元、暗黒騎士に突撃し……。


【雑魚が。そんなに死にたいのであれば、死ぬがいい】


 暗黒騎士が剣を振るう。

 一振り。


 そのひと振りで、騎士たちは再起不能になった。

 あふれ出る黒い魔力の斬撃が、瞬く間に騎士たちを飲み込んだ。


 殺されていないのは、暗黒騎士が手加減したから。

 それは、騎士たちにもしっかりと伝わっていた。


「ば、けもの……!」


 かすれ行く意識の中、騎士は最後にそう言い残すのであった。


【俺ほどの聖人になんてことを……】




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