第113話 もっと早く言えよ!!
【…………】
「ぼけー……」
俺とフラウは、テレシアに焼き討ちされてから新しくなった新居で暇を持て余していた。
フラウなんて、自分の口から『ぼけー』というほどである。
バカみたいだ。
長い金色の髪を散らばらせながら、ぐったりと上半身を俺の膝の上に乗せてくる。
ええい、邪魔だぁ!
「……平和だなぁ」
【ああ……】
魔王軍が平和というのはどうなのだろうと思いつつも、別に荒事が好きではないので、俺ものんびりと答える。
「なんでもないようなこんな日常が、幸せなんだなぁ……」
【ああ……】
フラウの口からとんでもなくいい言葉が飛び出してくる。
まるで、誰かの言葉をそのまま言ったようだ。
しかし、本当にそうだ。
こうして何もすることがなく、のんびりとした時間を過ごすのも、とてつもなく幸せを感じさせてくれる。
「最近、色々あったからなぁ」
【……身体を張っていたの、ほとんど俺なんだけど】
しみじみというフラウに、思わず白い眼を向ける。
こいつ、逃げ回って安全圏から見ていただけだよな?
すると、俺の膝の上でぐでーっと力を抜いているフラウは、その状態のまま、呆れたように俺を見上げてくる。
「当たり前だろ。私は人間だぞ。あんな化物の戦いに何度も巻き込まれていたら、命が何個あっても足りないわ」
【お前、一応俺の気まぐれで生かされているってこと、忘れていない?】
「忘れてない、忘れてない。女騎士として忘れてない」
どういう理論?
女騎士だからなんだよ。
【ただ、まあこういう時間があることはいいよなあ……。何も面倒なことが起きず、命を懸ける必要もなく……】
「まったくだ。……ただ、状況が好転していることもないんだけどな」
痛いところをついてきやがって……。
こいつの言う通り、状況は良くならない。
悪い方向にもいかない代わりに、いい方向にいくこともないのだ。
俺にとってのいいこととは、もちろん鎧を脱いで魔王軍を辞めることだが……。
【お前にとっての好転って、俺から逃げることだろ? 絶対に逃がさん。地獄の果てまでも追いかけてやる】
「私のこと、好きすぎだろ……」
【ポジティブすぎる解釈は止めろ】
地獄の果てまでも追いかけると聞いて、自分のことが好きすぎると断定できる自分大好き具合に引く。
普通ビビるだろ。
少なくとも、俺はフラウからそんなことを言われたら吐く。
【まあ、俺は待つしかないしなあ。ユリアが俺を鎧から解放してくれることを待つだけだ】
「他力本願……恥ずかしくないのか?」
【お前に言われても、微塵も心に響かない】
自分の力で何かを成し遂げたことってあるの、お前?
ちなみに、俺も基本的に全部鎧さんがやっているので、特にない。
胸を張るぜ。
「あー……そういえば、どうして私はここにお前と住んでいるんだっけ?」
暇すぎるからだろうか。
普段なら絶対にしないような会話を投げかけてくる。
どうして住んでいるって……そりゃあ、お前……。
【お前が逃げないように】
「に、逃げないぞ。本当だぞ」
【なんでそんな動揺しているですかね……】
冷や汗をダラダラ大量に流して目をそらす女を、どう信頼すればいいのか。
まあ、微塵も信頼していないので、問題ない。
「しかし、若くて美人で器量がいい絶世にして傾国の美女と一緒にいれば、色々と大変じゃないか?」
【え? そんな人、どこに……?】
「私だぞ」
その自信はどこから来るの?
確かに見た目だけはいいが、中身がドブ以下だから相殺されてマイナスになっているぞ。
しかし、とんでもないことを聞いてくる。
言葉のつながりから鑑みれば、性欲的なことを言っているのだろう。
どうして密着しながら性的な話をしなければならないのか。
それも、フラウだぞ。
飯の話をする方が盛り上がりそうなんだけど。
【まあ、俺も以前までだったら少々困ったことがあったかもしれないな。だが、この鎧がある限り、そういった心配は一切ない。なにせ、触れないし】
「あー……」
性欲は俺にもある。
だからこそ、女体を見てうっひょいと歓喜する。
だが、処理できるかと言われればできない。
そもそも、触れない。
鎧がガッチガチに防御しているからである。
……これが脱げた時、使い物にならなくなっていたらどうしよう。
とはいえ、そういった事情があることから、たとえフラウと四六時中一緒でも、どれほど密着していたとしても、何ら問題ないのである。
だから、逃がさん。
俺のすべてを押し付ける対象を、逃がすはずがないだろうが……!
「ほら、私の方だよ。私も健康でうら若い乙女だ。そういうこともあるだろう?」
【記録も任せろ】
「お前は何を言っているんだ」
フラウの処理映像か。
何度も言うようだが、見た目はいいのだ。
性欲を処理している姿を記録して売りさばけば、なかなかいい商売になるだろう。
【いいぞ。触れないし弄れないけど、見るのは楽しむから。お前、中身はともかく外側はいいしな】
「中身も素晴らしいぞ」
それはないぞ。
どこから出てくるんだと不思議に思うほどの自信。
見た目はともかく、中身はヘドロだぞ。
死刑囚と比べても、なお劣るのがフラウである。
「まあ、タダで見せることはない。もったいない。こういう恥辱は、いざというときにとっておくんだ。具体的には、誰かに捕まって命乞いをするときにショーを見せて許してもらうんだ」
【お前の覚悟の決まり方、何度も思うけど本当にやばいな】
凄いじゃなくて、やばいというのが肝である。
自分の自慰を命乞いのために疲労する覚悟ができている奴が、平時でどれほどいるだろうか。
少なくとも、俺はできない。
俺の場合はプライドがあるからな。
誇り高いプライドが。
フラウの言うような状況になった場合、誰かにその役割を押し付けてうやむやにしつつ、何とか逃げ出すように計らうだろう。
「いやぁ、それほどでも……」
そして、バカはやばいと思われていることに気づかない。
普通に褒められたと思っている。
やばい。
【……まあ、どうでもいいや。寝よう】
「そうだな。寝よう寝よう。こうして惰眠を貪れる時間が幸せだなぁ」
ぐでーっと再び力を抜いて体重をかけてくるフラウ。
俺も鎧に身を包みながら、意識を遠くに飛ばそうとして……。
「私も寝る」
そして、メビウスも俺にもたれかかってきて……。
……メビウス?
「うぉぉぉぉぉっ!?」
フラウがズザザザ! と後ずさりする。
俺も動きはしなかったが、心臓が止まりそうになった。
というか、止まった。
こ、こいつ、いつの間に……!?
「な、なんだメビウスか。私の城に無断で入ってくるなよ」
フラウが頬を膨らませてぷんすかと怒る。
いつからお前の城になった。
俺の城だぞ。
「私もご主人と寝る。眠いし」
ぐでーっとフラウを真似てか、体重をかけてくる。
黒い艶やかな髪は短く切りそろえられたボブカット。
フラウと違ってめったに変わらないが、端整に整った顔。
衣服の上からでも分かる豊満な肢体は、男の目を強く引き付ける。
こんなむっちりボディと添い寝とか……堪りませんな!
生身を早く取り戻さないと……。
【昼寝のためにここに来たのか?】
メビウスはやけに俺に懐いてきているが、家にまでやってくることはなかった。
昼寝のためとなれば少々驚きだが、まあ平和ならそれで……。
メビウスはしばし考え、ポンと両手を合わせる。
「…………あ、違った。ルーナが呼んでいた」
もっと早く言えよ!!
◆
ルーナに怒られまいと全力で駆け付けた玉座の間。
そこには、ルーナと見知らぬ女がいた。
……あれは、人間だな。
そう思っていると、その人間の女は口を開いた。
「私は王国から参りました使者です。我が国の重要人物であるフラウ様を、お返しいただきたい」
「ふぁっ!?」
気の抜けた驚愕の声を漏らしたのは、フラウだった。
じゅ、重要人物……?
俺の目がきらりと光るのであった。
最終章始まります!
最後までお付き合いお願いします。




