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あなたが拾ったのは普通の女騎士ですか? それともゴミクズ系女騎士ですか?  作者: 溝上 良
第四章 裏切りの暗黒騎士編

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第107話 別れ

 










「……何を言っているんだい?」


 俺の顔を、怪訝そうに見てくるユリア。

 マッドサイエンティストにそんな顔を向けられたら、普通なら俺もビビっていただろうが、今の俺の心は落ち着いていた。


 波紋一つ立たない穏やかな水面である。


【私に洗脳が効いていないこと、貴様ならもう理解していただろう。私がそれでも貴様に付き合っていたのは、貴様の気が少しでも済めばいいと思ったからだ。だが、もういいだろう】

「……それを決めるのは、君じゃない。私だよ」

【では、このまま続けるつもりか? 本当に終わらないぞ。このまま続けても、貴様に待っているのは……死だ】


 そして、俺にとってもな。

 1000年も閉じ込められるとか、発狂してしまう。


 というか、俺はその場合どうなるのだろうか?

 鎧さんがあるから……死なないの?


 死なないとしたら……あれ、そっちの方がしんどい気がしてきた。


「封印されるとなったとたん、この熱心な説得。掌返し。……ふっ、私を少しは見習ったようだな」


 いい笑顔で肩に手をのせようとしてくるフラウ。

 身長差からそれができていないが、むかつくからそれは止めろ。


 しかし、ユリアの復讐と俺の命。

 どちらが大切かと言われれば、言うまでもなく後者である。


 では、どうしてユリアを裏切って背中を斬らないのか?

 それは、鎧の解除のこともあるし、何より俺はできる限り人を殺したくない。


 変なものを背負いそうだから。

 そんなことを考えていると、誰かが近づいてくる。


「間に合ったようですわね。暗黒騎士様たち魔王軍幹部を封印する羽目にならないようで、何よりですわ」


 いやああああああああああああ!!

 ルーナだああああ!!


「何か用かな? 魔王が直接私の元に来るのは、下策だと思うよ」

「もちろん、あなたを……そして、暗黒騎士様を止めるためですわ」

「なら、安心するといいよ。彼は、もう私の支配下から自力で抜け出した」

「それはよかったですわ。わたくしも、さすがに1000年以上も封印することになるのは、気が引けますもの」


 ほんとぉ?

 顔色一つ変えずに俺を封印していたルーナの姿が簡単に想像できる。


「じゃあ、何かな? 魔王様直々に、私を殺しに来たのかい?」

「普通、これだけのことをすれば、そうしますわね。ですが、あなたはとても有能です。魔族のために、その力を抹消するのは惜しいですわ」


 ここまで魔族を騒がせた下手人を、ルーナが生かすとは……。

 多分、死ぬまで奴隷のように働かせるつもりだな。


「私が魔族のために力を使うとでも? 諦めて殺した方がいいと思うがね」

「わたくしの言葉では、あなたは説得できないでしょう。だから、あなたを説得できる人を連れてきますわ」


 そんな奴いるの?

 俺は疑いの目をルーナに向けていると、彼女は懐からあるものを取り出した。


 それは、小さな懐中時計だった。

 だが、血痕があるのが怖い。


 呪いの道具かな?


「それは、私があの子に渡した……」

「とある宮廷魔導士が、最期まで手放さなかったものですわ」

「な、なにを……」


 ……ユリアが言っていた、殺されたという宮廷魔導士の遺物だろうか?

 ユリアが見たことないほど狼狽している。


「久しぶりに、会話をお楽しみくださいまし」


 ルーナが魔法を発動する。

 ふ、封印するんですか!?


 許してください! 何でもしますから!

 慌てるが、どうやらそうではないらしい。


 懐中時計に光が集まり、そして……。


『やっ。久しぶり、ユリア!』

「り、リリー……」


 光は人型を形作った。

 その女は、とても親し気に話しかけている。


 ぎゃああああああああああ!!

 お化けええええええええ!!


「ほら、もっと前に出ろ、暗黒騎士」


 フラウが俺の背中をぐいぐいと押してくる。

 なにさりげなく俺を盾にしてんだ!


 お前、ついさっきまで敵対していた奴の背中に、よくもまあ隠れられるな。


「い、いや、ありえない。こんなことは、決して……。魔王の悪辣な魔法に決まって……!」

『確かに、あたしは魔法で出てきたけど、偽物じゃないわよ。失礼ね、ユリアってば』


 激しく狼狽するユリアに、呆れたように女――――リリーが言う。

 そりゃあ、死んだ奴がいきなり現れて話始めたら、混乱するだろう。


 俺も、今まで殺した奴が目の前に出てきて話しかけられたら、失神&失禁する自信がある。


「ほ、本当にリリーなのか?」

『そう言っているじゃない。疑い深いんだから』

「……そうはいってもね、ちゃんと裏が取れていないと、簡単に信じるわけにはいかないんだよ。研究者なら、なおさらね」

『あたしはそんなことなかったけど』

「君が不真面目なんだよ」

『むー』


 ユリアは目を潤ませながら、頬を膨らませるリリーを見る。

 ……なに、このほんわかした話。


 よくお化けと会話できるな。

 怖いわぁ。


『さて、あたしが呼び出されたのって、この状況が理由よね』


 やっと本題か。

 長かったな、おい。


「……別に、これは君のためにしていることじゃない。私のためだよ。だから、何を言われようとも……」


 別に好きに復讐を続けてくれていいが、もう俺は関わらないからな。

 封印されたくないし。


『でも、もうあたしたちの仇は死んじゃったし、もういいんじゃない?』

「いや、まだだよ。私を拉致した男は殺したけど、まだ君を殺した奴を見つけられていないんだ」

『そりゃ、見つかるわけないわよ』


 呆れたように言うリリー。

 ……なんでこいつが見つかるはずがないと知っているのだろうか?


 なに? お前が殺しちゃったの?

 呪いとか?


 怖くなってきたから帰ってもいい?

 そう思っていた俺を、リリーはじっと見る。


 お、お化けに見据えられたああああ! いやああああ!


『だって、そいつ、もうあの黒い騎士が殺しちゃっているもの』

「え……?」


 えっ!?

 愕然とするユリア。


 そして、俺。

 お、俺が殺した?


 そんなバカな……。

 善良一般人たる俺が、どうしてそんなことを……。


「ひ、人殺しぃ!」


 今更何言ってんだこいつ!

 ギャアギャアと騒ぐフラウを睨みつける。


『すっごく爽快だったわよ! こう、ズバーッ! ってやってくれて。恨みからずっとあいつを呪っていたけど、まさかあんな終わり方をするなんて、最高だったわ!』


 呪いは怖いよぉ!

 キラキラと目を輝かせるリリーに、俺は震えることしかできない。


 ずっと見ていたって……俺が殺した奴もずっと俺の傍にいるの?

 クソ! だから、人を殺すのは嫌なんだ!


「そうか、暗黒騎士がもう……。まったく、私の斜め上を何度も行く男だな、君は」


 俺を見て、呆れたような……しかし、感謝の色がにじんだ目を向けてくるユリア。

 しかし、全く覚えていない。


 いったいどういう感じで……。


「お前が四天王になってから、やっかみで襲い掛かってきた奴じゃないか。直接的に襲い掛かってきたのって、あいつだけだっただろう?」


 フラウがぼそぼそと教えてくれる。

 俺が直接手を下した奴は、そう数は多くない。


 だからこそ、フラウの言葉で思い出すことができた。

 あー……フラウを差し出すと言っていたのに、聞く耳持たずで襲い掛かってきたあいつか。


 自業自得じゃん。

 やっぱり、俺って悪くないわ。


『あ、もう時間みたい』


 俺が自分を納得させていると、リリーの姿が消えうせていく。

 彼女の遺品を使った魔法。


 やはり、死者を顕現させるということは、生半可なことではないだろう。

 魔法技術に特化したルーナだからこそ成し遂げられたことであり、当然時間に猶予があるわけでもない。


「あ、リリー」

『ん?』

「一つ、聞きたかったことがあるんだ」


 ユリアがリリーを呼び止める。

 もじもじと話しづらそうにしてから、しかし決意をして尋ねる。


「私と友達になって、後悔はしていないか?」


 ユリアの言葉に、目を丸くして驚いていたリリーであったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


『もちろん!』


 その言葉を聞いて、ユリアはほっと一息ついた。

 そして、俺もほっと一息つく。


 なんかうまい感じで終わりそう。


『またね、ユリア』

「ああ、また」


 こうして、二人の親友は最期の別れをするのであった。




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