オンライン大学生
これは、オンライン大学生による、オンライン大学生のための記録である。
2020年。僕は最後のセンター試験を受けて、2月に入ってから理科大を皮切りに私大を受けまくっていた。受けたのは全て数学科。塾・予備校に通わず自力で受かってやるという孤独な戦いだった。時に落胆し、時に舞い上がり、そして進路が決まった。
受験のコツは何か?一つ確実に言えることは健康第一である。1月に風邪やインフルエンザなんかの面倒になってしまったらセンターどころじゃなくなって、最後の追い込みが勢いに欠けてしまう。常日頃マスクを着用して、帰宅時にはよく手を洗い、うがいをして、よく眠る。これが受験生を受験生たらしめるルーティンワークである。がしかし、それが受験生を卒業してもこんなに続くとは思ってもいなかった。
気がつけば卒業式。中高一貫だった僕にとって感慨深かった。みんなの進学先をそれとなく聞き出し、俺たち頑張ったよなとか言い合い、生徒としての最後の登下校をしみじみと味わう、その後やれ謝恩会やれカラオケでみんなが主役になれる一日、そんな印象の大大大イベント。有名な歌の一節に、卒業式での涙はもっと哀しい瞬間のために取っておきたい、なんていうものがあるが、僕は家を出る時に卒業式では泣かないと決めていた。けど、卒業式の最中、途中から思い出が脳内にフラッシュバックしてきて、耐えきれなかった。涙が止まらなかった。ただそのとき冷静さはあって、昭和の青春ドラマを想起して、こういう時隣の席の奴から、お前何泣いてんだよ、とか言われるのかと思った。でも何故だろう、誰も僕が泣いていることに触れない。気のせいか、周りのみんなが僕をいくらかはばかっている感じもあって、僕に近寄ろうとしない。ともかく涙が止まらない。脳内では思い出がスライドショーのようになってよみがえってくる。これがセピア色の思い出か、と思った。オリエンテーション合宿。頑張って食品を売った文化祭。沖縄での青春。次第に、むせび泣くほどではないが、息が少し苦しくなってきた。思い出も止まらない。生徒会でのいざこざ。受験期の夏。一番辛かった十月。その直後に、今までのセピア色と全く違う色の映像が現れた。真っ白。白いマスク、ニュースに写る豪華客船、表面に足が何本も生えたような球体、これらは一体何だろうか。
コロナウイルスである。
あたりを見渡すと、卒業生は皆距離を取ってパイプ椅子に座り、白マスクを付けて、表情を隠しながら淡々と進行する卒業式を見ている。校歌を心で歌い、式が終わり教室に帰ってから皆「卒業式が出来てよかったよね」と言い合い、話が盛り上がると声量が大きいだの距離を避けろだの注意される始末。謝恩会もその後のカラオケも何もかもナシ。これが現実である。確かに卒業式が出来たのは有り難いと思うが、それは全てが白々しく思える、盛り上がりに欠けた、今まで思い描いてきた理想を裏切るものだった。
終わりよければ全てよし、とはよく言われるものだが、高校生の終わりが良くなかったことが後々、しかもかなりの時間響くことになる。大学入学式中止、新歓禁止、緊急事態宣言発令、対面なしフルオンライン。家で、SNS上で知り合った同級生と、白いパソコンの画面を見つめる日々の幕開けである。
四月一日から僕はオンライン大学生になった。