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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
99/323

第99話 村への帰路

 朝だ。そしてこのふかふかのベッド、昨日はメルキース男爵家に泊まったんだ。高級宿と同じこのベッドでまた寝れるとは嬉しいな。来月中旬には家でもこれで寝れるのか、楽しみだ。


「おはよう、父さん」

「ああ、おはよう」


 リビングで(くつろ)いでるクラウスに挨拶。この客室は2階にあり、窓からは手入れされた庭園が見渡せる。時間は6時前、外は十分明るい。


「庭師はこの時間から動いてるんだ」

「村でも同じだろ」

「まあそうだけど」


 朝食前に一仕事終わらせるのがこの時期では普通だ。もう少し季節が進むと日中は外での仕事は出来ない、前世で言う熱中症みたいになるからね。だから涼しい早朝は貴重な時間なのだ。まあ魔物対応はそんなこと言ってられないから炎天下でも出ていくけど。


 暑い季節に涼をとる手段として前世ならクーラーが思い付く。俺が地球で死んだのは正に真夏だった。それでこの世界はと言うと、なんと同じようにクーラーがある、電気が無いのにだ。


「父さん、夏場に使う冷たい風が出る箱って、どうなっているの?」

「風の精霊石が中に入っていて、送風士が冷風を出しに来てくれるんだよ」

「あ、離れてても出し続けられるんだ!」

「そりゃそうだろ、ずっと近くで手をかざしてたら仕事にならん」

「もしかして子爵家で見た噴水って」

「ああそうだぞ、水が止まったら散水士がまた出しに来るってさ」


 なんだ、地下に浄水士とかが常駐してるワケじゃないんだ。そんな仕事あっても嫌だけど。しかし出しっぱなしで離れられるって凄いね。それも必要なスキルがあるのだろう。


「おや、あれは母さんとミランダ、それに子供が2人だな」

「ほんとだ、馬車に乗ってるね」


 庭園専用の馬車だな。子供2人はクラウディアとテレサっぽいぞ。そういや昨日、朝から花を見て回るって言ってた、はは、ほんと好きだねぇ。


「母さんは昨日と同じ服だね、もう洗濯乾燥できたんだ」

「おお、俺たちの服も扉の前にあったから入れておいたぞ、着替えるか」

「うん」


 リビングで着替えを済ます。


「メシは7時と言っていたな、まだ1時間あるが、どうするリオン」

「広間で待機する? 多分同じ考えの人がいるから話し相手になるよ」

「そうだな、じゃあ行くか」


 客室を出て廊下へ。


「どちらにお向かいですか」

「えー、朝食を食べる広間だ」

「ではご案内いたします」

「それは助かる、広いので分からなかったんだ」


 部屋の前で待機していた使用人が客室の扉に鍵をかけ、俺たちの前を歩く。この人、そのためだけにここで待っていてくれたのか。どうも客室の前には必ず1人いるようだ。と言うことは前に人がいない部屋は空室か。


 長い廊下を歩き、曲がり、階段を下りて、玄関ホールに到着。ここは見覚えがある、もう広間の場所は分かるぞ。


「朝食に使用する広間は準備がありますので、それまでこちらでお過ごし下さい」

「分かった」


 昨日、夕食の後に懇親会をした広間だな。


「おお、クラウス! リオン!」

「セドリック副部隊長!」


 何人かテーブルに座っており、俺たちもそこへ加わった。挨拶を交わして顔ぶれを見る。防衛副部隊長メリオダス、防衛部隊ナタリオ、討伐部隊ガレス、そして北部討伐副部隊長セドリックだ。


 もう1つのテーブルには女子と男子が混在していた。


「リオンは子供たちの方へ行くか」

「ここでいいよ」


 多分、朝食の席がまた子供用だろう。その時に話は出来る。


「リオンよ、せっかくの機会だ。現役の騎士たちに何か聞いてみろ」

「はい、セドリック副部隊長」


 確かに、普段ゆっくり話せないからね。でも急に振られても困る。

 うーん、そうだなぁ。昨日は手こずった魔物について聞いた、じゃあ。


「討伐部隊が行っている森の奥地とは、村からどのくらいの距離ですか」

「そうだな、コルホル村より北は15km、西は20kmというところか」

「結構あるんですね」

「最深部の拠点がそのくらいの距離だ」

「そんな奥地にまで拠点があるのですね」


 へー、よくまあ作ったもんだ、周りは魔物ばかりなのに。


「拠点と言ってもな、小さいぞ。馬車は5台置けるかどうか」

「馬車が置けるということは、そこまで道が整備されているのですね」

「うむ、まずは道を通さないと拠点も作れないからな」

「あ、確かにそうです」


 しかしそんな奥地で戦うのは心細いだろう。人数も限られてるし。それに危なくなったらどうするんだ、拠点だって大型が来たらどこまで持つか。


「そこまでして奥地へ行くのは何故ですか」

「いくつか理由がある。まずは魔物の数を減らすことだ。あいつらは何かをきっかけに偏った密度が発生する、それを解消するため密度の低い方へと流れるんだが、それが時には(つら)なって大きな波となってしまう」

「ああ、それが町まで来るんですね」

「うむ、大規模なものは40年前だが、あれ以降も小規模なものは毎年のように発生している」


 へー、そうだったんだ。


「それを防ぐために、偏りが起きても流れる隙間を作ってやるのさ。そうすれば町へ到達する前に波は消滅する」

「なるほどー」

「次に大型の討伐だ。その魔物の偏りが発生する原因の一つに大型の移動がある。あいつらは魔素を吸収して生きているからな、大型は多くの魔素を必要とし小型を蹴散らす。それが複数同時に起きると密度が偏るんだよ」


 縄張りみたいのがあるって、フリッツが言ってたな。


「そうならないために大型を倒しておくのさ」

「ですが強敵では」

「もちろんCランクばかりだ。時にはBランクもいる、最近ではコルホルとカルニンの間にウロついているドラゴンがそうだ」

「ああ、3体も確認されてるんですよね」

「従って早く倒さないと波が発生してしまうな」


 うわー、それはマズい。


「あとの理由としては、冒険者たちの狩場の確保か。知っての通りゼイルディクには冒険者が多い。そいつらが稼ぐための環境を用意してやるんだよ」

「先に冒険者ありきなんですね。ただあんまり多くの冒険者が森に入ると、魔物がそれに寄って来て、結果的に大発生を生み出すと聞きましたが」


 だから村の住人は野菜栽培をしてるんだよね、頻繁に森に入らなくても収入が得られるように。


「よく知ってるな、その通りだ。だから町の近場で環境を確保するのは難しい、従って奥地へと手を広げているのさ。その道も数多く枝分かれして、拠点同士の距離も近すぎないよう計算している。だから森の中で冒険者が偏ることは無いぞ」

「へー、凄い! 冒険者がうまく散る様に考えてるんですね」


 なるほどな、言わば森を面でカバーしてる感じか。


「彼らが経験を積むことも大事だからな、その環境を維持管理することも我々の務めだ。それに町としても素材や精霊石が潤沢に提供され豊かになる。精霊石なぞはな、かなりの量がウィルムへと売られているのだぞ」

「それは知りませんでした」


 ゼイルディクの重要な産業なんだね。


「それから将来の町の拡張に向けた調査も兼ねている。地形や地質のな。そういうのは長い期間を要するんだ」

「奥へ向かうのには様々な目的があったのですね、とても勉強になりました」

「リオンは不思議なところに興味を持つな、士官学校で学ぶことだぞ」

「はは……」


 おや、エリオットが広間に入って来た。


「お前たち、朝食の準備ができたぞ、席についてくれ」

「分かった兄上。皆行こう」


 続々と朝食会場へ移動する。


 思った通り、昨日と同じテーブルだった。俺の右にクラウディア、左にエステル、向かいにテレサとルアンナが座る。


「皆の者、おはよう、今日もよき日にならんことを」


 男爵の短い挨拶を合図に紅茶が注がれる。朝食の席では乾杯もどきは無いようだ。


「クラウディアはさっき母さんたちと花を見に回ってたね」

「ええ、テレサ姉様と母様も一緒よ。リオンのお母様は花が好きなのね、とても熱心に聞かれてたわ」

「うん、ロンベルク邸でも大興奮だったよ」

「あちらは花壇の小さい花が多いけど、ウチはつる薔薇やブーゲンビリアで立体的な景観も楽しめるわ、ティールームを屋根まで丸ごと覆っているのよ」

「通った時ちょっと見えた、凄いよね」


 遠目にだったけど、あそこだけ別世界だった。イザベラもああいうのが好みなんだろう、想像しただけで変な笑いが出てたもんな。こりゃノルデン邸も花まみれは避けられない。ここより庭が広く取れるみたいだし。


 クラウディアも花が好きみたいだな。それに言葉遣いや雰囲気も相まって士官学校より貴族学園が似合って見える。弓の才能があったから騎士を目指してるんだろうけど、本人はどう思っているのか。


 朝食が終わり、皆、会場を出る。帰る客人を玄関で見送るようだ。

 特別契約の6人とその子供2人が2台の馬車に乗り込む。


「昨日今日と、とても楽しい時間を過ごせました、ありがとうございます」

「こちらも親睦が深まり満足だ。今後とも活躍を期待してるぞ」


 代表してメリオダスが男爵と言葉を交わし馬車は出発、それをコーネイン家とノルデン家が並んで見送った。俺たちも見送る側なのか。


「次は子供たちだ」


 男爵家の子供たち7人が3台の馬車に乗り込む。貴族学園行きと士官学校行きだ。今日から平日だもんね、学校行かないと。ただ士官学校はすぐそこだけど、貴族学園はかなり遠い、2時間以上かかるんじゃないか。まあ今日は大遅刻と事前に伝えてるだろう。


「行ってまいります」

「うむ、しっかり励め」


 代表してルアンナが男爵に挨拶し馬車は出発。手を振った。


「次は北部討伐部隊の2人だ」


 セドリックとカミラが馬車に乗り出発。手を振る。


「最後は村へ行く4人だな」


 俺とソフィーナが先に乗り込む。男爵に挨拶を終えたクラウス、そしてエリオットが続き、馬車は出発した。あれ、ミランダじゃないのか。


「商会長ではないのですね」

「妻は商会の用事がある。今日は議会議題の告知日なのでな、忙しくなると言っていた。それでも夕方までに村へ戻るだろう」


 あー、そうか、遂に今日、トランサイトの情報が解禁されるんだよね。最初に取り扱いできない商会はどう動くだろう。伯爵に直訴するか。


 馬車は敷地を出て大通りへ。西へ向かう馬車が多い。


「これが朝の冒険者混雑ですか」

「そうだ。これを解消するためにメルキース西の城壁近くに居住区を建設中だ。冒険者ギルドや商会店舗、馬車管理施設も含めてな」


 エリオットが応えた。ほほう、新たな冒険者の拠点を作ってるのか。西側の森を主体に取り組むなら、そこへ住んでしまった方が移動時間の大幅な短縮になる。もちろん大通りの混雑も緩和できるね。そうやって少しずつ町が広がっていくんだな。


「このラウリーン地区にも初等学校を建設する予定だ」

「あ、では村の子供たちも入れるのですね」

「いや、7~9歳では、まだ寮暮らしは難しい。町の通える子供限定だ」

「そうですかー、村から通うのはかなり時間がかかりますからね」


 村にも学校が出来たらいいけど。生徒が少なすぎるからなー。あと、中央区にそんな建物を新築するスペース的な余裕も無いだろう。


「サガルトはあるんだってな、カルニンも建設中だとよ」

「あ、そうなの、父さん」

「カルニンは来年から開校するとセドリックが言っていた。中央区をかなり拡張したらしい」

「あー、やっぱり広げないと場所的に無理なんだね」

「コルホルに作るなら、さあ、どこを広げるか」


 外側3区と中央区の間の畑を潰すか、中央区を南へ拡張するしかないね。


「南側がいいだろう」

「やはりそうか、エリオット」

「お前たちの屋敷の場所にもよるがな」

「ふむ、では村の正門前の街道東側を候補地とするか」

「うむ、あの一帯が妥当だろう」


 あの辺も森が広がっているよね。東区へ直通の道を整備しているらしいが。


「まあ実際に見て歩くといい。子爵家令でも連れて」

「そうだな、ミランダに話しておくよ」

「ところでクラウス、お前たちの護衛として特別契約者はどうだった」

「皆、とても頼もしいな」

「ソフィーナは候補の人物はいたか」

「ええ、皆さん信頼できそうだわ」


 確かに。強さは問題ないだろうし、皆、真面目そうだった。女好きのナタリオが怪しいけど、いざとなったら目つきが変わると信じる。


「だが、あまり部隊から引っ張ると仕事に差し支えるのでは? セドリックが北部へ行った影響もあるらしいし」

「それは心配するな、討伐部隊に防衛部隊から回せば済むことだ。それにいくらでも士官学校から上がって来る」

「分かった、では考えておくよ」

「メルキースの保安部隊も機会があれば見るといい。対人なら向こうが上だ」

「おお、そうだな。では日程を頼めるか」

「任せろ」


 そういや、商会の馬車に同乗してる護衛はどこの所属なんだろう。商会員なんて絶対嘘だろ。


「部隊長、訓練討伐に向かう時に一緒にいる商会員は何者ですか」

「……あれは男爵家の護衛だ」

「やっぱり」

「表向きは商会員としている、すまんがそう接してくれ」

「はい」


 あ、騎士のこと聞こうかな。


「部隊長、子供たちから士官学校を勧められたのですが」

「ああ、気にするな、ルアンナがリオンを中等部へ編入と言ってきたが、無理だと返したぞ」

「聞きました、何でも才能が有り過ぎるのが理由と」

「うむ、お前は騎士だの武器職人だの、果ては貴族だの、そんな枠組みで考えてはいけない。全くの別次元なのだ」


 神の封印を知ったらそう思うよね。


「皆が騎士を勧めるのは経済的に安定するからだ、しかしお前は圧倒的な財力がある、将来の不安など一切無かろう」

「は、はあ」


 なるほど、騎士は色々と待遇がいいんだな。だから才能があったら目指せと。


「10歳になる年も学校にこだわることは無いぞ。学びたいことがあれば講師を雇えばいい」

「学校は社交性を高められるし、色々な出会があると思うわ」

「確かにその通りだ。しかしソフィーナ、出会いはもう十分であろう。それにリオンは既に社交性が備わっている、学校へ行く理由が見当たらないぞ」


 微妙な空気になった。エリオットはクラウディアがいるから出会いは不要と言いたいんだよね。ソフィーナもクラウディアと仲良くなったように見えたが。


「リオンは将来、男爵になるのよ、それも15歳と若い年齢で。人脈を広げておくのは大切だと思うの」

「……貴族なら町の催しや舞踏会で一緒になる、議会もあるからな。まあ、平民有力者の子供に面識を広めるなら、学校という場も選択肢ではあるが」

「あ、あの、学校へ行くかどうかは俺の意志で決めていいかな」

「……そうだったな、行くのはリオンだ」


 全く。人の進路を勝手に決める風潮はどうにかならんか。俺のことを思ってくれてるのは分かるけど。


「ただ行くなら入学審査までに鑑定偽装を身につけておく必要があるぞ」

「ああ、そうでした」

「職人の仕事や、訓練討伐もある。その時の状況で変わっているかもしれないが、学校に行っていれば対応が難しくなることは覚えておけ」


 ソフィーナはうつむいてしまった。んー、エリオットは行かせたくない、ソフィーナは行かせたい、どうも意見に隔たりがあるようだ。エリオットの言い分が説得力ある気はするな。


 学校ねぇ。前世では小中高大学と長期間通ったからな、またやり直すのも変ではある。そりゃー異世界だから別物だし、そもそもリオンは行ったことが無い。んー、どうしたらいいのか。


「おー、おい、あれが建設中の冒険者拠点か」

「そうだ、クラウス。年内には入居者募集ができるぞ、そうだな、初回は80人ほどか。以降も居住施設が完成次第、募集する計画だ」

「最終的にどのくらいの規模になるんだ」

「数百人を予定している」


 大通りから少し奥にそれっぽい区画が広がっていた。手前の広いところは馬車施設の予定地だな、あそこからなら大通りまで直だし。


 少し走ると城壁の出口へ差し掛かる。馬車はいったん止まり門番と御者がやりとりし、直ぐに出発する。コルホル街道だ。ふー、この景色を見ると落ち着くね。


「部隊長、村に帰ったら俺は商会ですか」

「すまんが頼む、一度家に帰ってからでいい」


 お仕事か。今日トランサイトの情報が出回るんだし、頑張らないと。

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