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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
90/321

第90話 ランメルトとイザベラ

「こんばんは!」

「おー来たか! まあ座れ」


 ランメルトとイザベラだ。はは、首をかしげてる、聞こえないもんね。クラウスとソフィーナが手招きをして2人はソファに座った。


「結界かよ、御大層なこった」

「でも重要な案件、だっけ? 大事な話なんだから当然でしょ」

「まあ、かなりの話だ。心して聞けよ」

「おう! 何でも話せ!」

「何だか楽しみだわ」

「その前にリオン」

「うん、分かった!」


 俺は立ち上がり剣を構える。


「おー、まさかアレか!」

「え、メルは知ってるの」

「おー、よーく見とけよベラ」


 いくぜ!


 キイイイイィィィーーーン


「あらー! 共鳴早いわね!」


 キュイイイイィィィーーーン


「え、ウソ!?」

「ベラおばちゃん、今100%だよ」

「はあ!?」

「そしてこれが!」


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


「……ええー」

「150%! まだ上がるよ!」

「何だって!」


 ギュイイイイイイィィィィィーーーーーン


「200%!」

「ちょ、ちょっとおおぉぉーー!」

「うっわ!」


 シュウウウゥゥゥーーーン


「ふー、はー……今のがサラマンダーの首に浴びせた共鳴率だよ」


 流石に息が上がるぜ、調子に乗って本気を出してみました。

 ソファに座る。


「リオン、やり過ぎだ」

「……へへ」

「ど、どど、どういうことなの、魔力操作が得意と聞いてたけど、もうそんな域じゃないわ。あんな光、見たことないんだけど」

「あ、ああ、俺が見たのと違う。あれが本気じゃ無かったのか」

「リオンの言う通り、今の共鳴率でサラマンダーの首に切り込んでくれた。そこの傷へ俺が斬撃波を放ったから倒せたんだよ。そうじゃなきゃ、あの硬い鱗は切り裂けない」

「リオンが切り込んだ? 前足をついても高さがあるだろう、いやいや熱風で近づけないんじゃなかったのか」


 お、そうか、伸剣の説明にもなるね。


「メル、確かにそうだ。俺もリオンもヤツから離れていた。でもリオンの剣は届いたんだよ。……トランサイトを知っているか」

「おー、聞いたことあるぞ、ずっと昔に存在した鉱物だって」

「確か剣が伸びるって話よね……え、まさか」

「そうだ、今そこにある武器、それが幻の素材、トランサイト合金なんだよ」

「なっ!?」

「はあっ!?」


 2人とも目をむき大きく口を開く。おいおい、今の話でその反応じゃあ、俺が生産出来てクラウスが貴族になるまで言ったら顎が外れるぞ。


「リオンはトランサイトの力、魔素伸剣を使って剣身10mで首に届いたのさ」

「……伸びすぎだろ」

「……剣なの、それ」

「そしてトランサイトだが、何故ここにあるか。それは、リオンが作ったからだ」

「はあああっ!?」

「つ、つつ、作った!?」


 さっきよりも更に上の驚きの表情。いや泣き顔にも見える。


「トランサスへ100%を超える共鳴を施し、ある程度の共鳴率になるとトランサイトへ変化するんだ。もちろん、そんな共鳴率を実現できる者はこの国に、いやこの世界に今の時代はいないだろう。だから歴史上にしか存在しなかったんだ」

「……あー、もう、びっくりだわ」

「……おいこれ、売ったら凄いんじゃないか」

「もちろんだ、何十億、いやそれ以上だろう」

「わーお!」

「そんくらいの価値はあるよな」


 まだ1本も売れてないけどね。


「まあ、売るにしても俺たちではどうすることも出来ん。だから貴族に任せている」

「おー、それがいい、貴族商会なんざいくらでもあるからな」

「あ、それで最近コーネイン商会によく行ってるのね!」

「そのこともあるが、今日行ったのはまた別の話だ」

「あれか、特別契約だな」

「それもあるが。……ランメルト、イザベラ、俺は貴族になる」

「あ?」

「へ?」


 真顔で完全に停止した。そして眉間にしわを寄せて2人は声を合わす。


「貴族?」

「そうだ、貴族だ。本来はトランサイト生産を実現したリオンが叙爵するが、8歳では貴族になれん。従って15歳の誕生日まで俺が預かることになった。領地はコルホル村、爵位は男爵、1年後くらいがその時期だ。それまでに屋敷を建築し、俺はダンスや教養を身につけねばならん、その打ち合わせに商会に行ってミランダと話をしていたのだ」

「……ほんとか、それ」

「もちろんだ、冗談で言えるか」


 何だかクラウスの話し方が貴族っぽくなってきたのは気のせいか。


「ソフィーナは男爵夫人、ランメルトは夫人の兄、イザベラはその妻だ」

「ランメルト兄さま、ダンスの練習をお願いしますわよ」

「はあ? ソフィ、お、おま、何を言って」

「ベラもお披露目には来てもらうぞ、ドレスを着てな」

「……もうダメ、頭の中ぐちゃぐちゃよ」


 まー、いよいよ理解が追い付かないよね。

 でも、いずれは伝えなければならないこと、それが今日なだけだ。


「話の本筋は以上だ。質問はあるか」

「……な、何から聞けばいいか分からないわ」

「おう、クラウス、お前が貴族になって、俺たちはどうなるんだ」

「屋敷で働いてもらう、現時点で希望があれば言ってくれ。ちなみに今決まっているのはフリッツが家令だ」

「はぁ!? ……ぷぷ、はははっ!」


 ランメルトは驚きから大笑い。


「鬼教官って恐れられてたんだろ、それがクラウスの下で働くのか!」

「そうだ」

「……いや、案外向いてるかもな、西区住人の信頼度は高い」

「ねぇ、屋敷で働くって言うけど、何の仕事があるか分からないわよ」

「ベラ、仕事は使用人がやってくれるわ、あなたはそれを管理するの。例えばね、庭園の形を決めて、植える花を何にするかとか」

「え! えええっ! ちょっと何それ!」


 イザベラの目が輝く。


「いいでしょ、庭の中にティールームを作って、テラスでお花を眺めながら紅茶をいただくの」

「……ふふっ、ふふふふふ」


 イザベラが壊れた。


「あとは、厨房の料理人にメニューの指示ね」

「あ、それもいい! そっか、屋敷で料理人を雇うから何でも作れるのね!」

「食材の調達と、料理人の腕前が伴えば可能よ」

「じゃあ、毎日肉を食えるのか!」

「もちろん、飽きるほど食えるぞ、メル」


 ランメルトは何が適任かな。おー、そうだ!


「父さん、屋敷の敷地内に池を作ったらどうかな」

「池か、まあ出来るとは思うが何でだ」

「そこへ魚を放すんだよ、そしたら年中新鮮な魚を食べられるよ」

「ほう、なるほど、おー! 分かったぞ!」

「その魚を釣るのが俺なんだな!」

「うん」


 ランメルトの趣味は釣りだったと聞く。ゼイルディクにいたころはよく行ってたみたいだし。


「クラウス、俺は食材調達の仕事がいい、魚限定でな」

「ははは、分かった、分かった。池の実現は別として、西の川での釣りはできそうだな。だが森を相当切り開かないと難しい。時間はかかるぞ」

「構わない、そのためなら何でもやるぜ!」


 元々、西の川付近まで畑にする計画みたいだし。そこから川の向こうも少し開拓すれば、きっと安全に釣りを楽しめるね。


「なんだ、仕事と言っても好きなことしてればいいのか」

「ああ、そうなる。正直言うとな、身の安全のために屋敷でいてもらうんだよ」

「え、そうなのか」

「滅多なことは無いと思うが念のためだ。無論、外出時は護衛も付ける」

「貴族の身内を人質にして金を要求とか、昔はある話なんだって」

「はー、なるほどな」


 金持ちは狙われる。仕方ないね。


「いざという時、お前たちは戦えるがリーナたちはそうはいかん。だから子供たちと一緒に屋敷で暮らしてもらうんだよ。それで何もしないワケにはいかないから、そういう仕事をしてもらうのさ」

「分かったわ! 花でも料理でも何でもするわね」

「おう、庭に野菜を植えてもいいな、それの世話をしてやるよ、そんくらいの広さあるだろ」

「まだ屋敷の場所も決まってないが恐らく可能だ。その辺りを明日、アーレンツ子爵の屋敷とメルキース男爵の屋敷へ行って話してくる」

「うはっ! 領主の屋敷へ招かれているのか」


 ほう、明日はそういう事も話すのか。具体的に進んでいくのね。


「名目はサラマンダー討伐の褒美受け取りと、コーネイン商会特別契約者の集いへの参加だ」

「なるほどな。ところで屋敷だの使用人だの、そんな大金大丈夫なのか? 貴族の収入はよく分からんが、コルホル村が領地なら税収は知れてると思うぞ」

「それは全く問題ない。リオンのトランサイト生産があるからな」

「そんなに何本も作れるのか」

「うむ」


 まあそうなるよね。俺の働き次第ってこと。


「具体的な金の流れは省略するが、伯爵が売り上げの一部を管理する。それを俺が自由に使えるようになるんだ」

「伯爵!? ってあの伯爵か」

「そうだゼイルディク伯爵だ。実はサラマンダーとの戦闘の日、俺たちがアーレンツにいたのは城へ行った帰りだったのさ」

「城!」

「そこで色々と話し合った、俺の叙爵の話もな。最近、住人編成の話があっただろ」

「あ、ああ、西区に何軒か空きを作って町から移住するんだってな」

「その住人は伯爵が手配した護衛となる。ノルデン家とブラード家を守る役目だ。もちろん表向きは他の住人と同じだけどな」

「伯爵が手配!?」


 もうそこまで言うんだ。それで編成の話は住人に伝わっていたのね。


「どうなってるの……伯爵が後ろ盾なんて、びっくりだわ」

「伯爵だけではない、ウィルム侯爵も恐らく全面的に協力してくれる」

「侯爵!? サンデベールの領主みたいな方よ! 一体どうなっているの」

「それだけトランサイト生産とは大きな事なんだ。故にリオンが職人であることは最重要機密だ。もし漏れたらリオンや俺たちの身の安全に係わるかもしれん」

「……そうだな、世の中色んなヤツがいるから」


 ウィルム侯爵がサンデベールの領主か、確かにね。じゃあ何でサンデベール侯爵じゃないんだろう。プルメルエントやクレスリンは同じような人口規模でトップがいるのにね。


「あー、保安部隊の騎士が配属されたのはそれでか」

「元々予定にはあったが、村の治安がいいため先延ばしにしてたのさ。それでリオンのことがあるから急遽前倒しになったと」

「なるほどな」

「まあ情報さえ漏れなければ心配することは無い。ただ俺の叙爵が発表されると一気に騒がしくなり、よく分からんヤツも寄って来るだろう」

「おー、来そうだな」

「それだけならまだいいが、先に言った身代金目当ての誘拐を目論むヤツも現れるかもしれん。ただ発表は、西区へ護衛住人が移住完了してからだ」


 うん、警備が整ってから発表、そこはコントロール出来る。


「いいかよく考えて見ろ、この西区は城壁によって隔離された少人数の地区だ、人の出入りはとても目立つ。その上、保安騎士に護衛住人も加わる。要人警護としては非常にやりやすい環境なんだよ」

「はー、確かにな。言われてみればそうかもしれん」


 城壁の入り口と搬入口を閉めてしまえば入れないからね。まあ外から城壁をよじ登ることもできるけど。その辺はまた対策を考えるか。


「他にも情報収集を徹底して、危険を未然に防ぐ手だてもある。その辺は現役貴族に色々と教わってるぞ」

「クラウス、ちょっと心配し過ぎじゃないのか、いや気持ちは分かるけどな」

「……そうかもしれん、ただ何かあってからでは遅い。お前たちにも窮屈を強いることあるだろうが許してくれ」

「それはまあ、構わんが、なあ」

「あんたの気が済むならいいわよ」


 防犯はどこまでやれば大丈夫か分からないからね。考え出すとキリがない。


「さて時間も遅い。この辺にしておくか」

「おお、そうだな」

「そうね」

「分かってると思うが、今話したことは心に留めておいてくれ。明日からも変わらず西区の住人として暮らしてほしい。何か動きがあれば、また夜に呼んで伝えるよ。今日は突然の話、驚かせてすまなかった」

「いいさ、かなり驚いたがな」

「アンタたちも大変ね」

「はは、まあ数週間で激変したからな。でも仕方ない、受け入れ前に進むさ。だが、お前たちも巻き込んでしまった」

「気にするな、俺は釣りを毎日楽しむ未来しか見えないぜ」

「メルは気楽ね。私たちに出来ることは協力するわよ、何でも言って」

「分かった」


 この2人の性格は真面目なクラウスの助けになるね。


「じゃあ、おやすみ!」

「考え込まずしっかり休めよ!」


 ランメルトとイザベラは去った。


「ふーっ、じゃあ俺たちも寝るか」

「ええ」

「うん」


 居間の奥の部屋へ移動する。

 俺はソフィーナのベッドに入りクラウスが照明を消した。

 おやすみの挨拶を交わし目を閉じる。


 遂に隣りも知ることとなったか。にしてもあの2人、最初こそ驚いていたけど、帰るころにはクラウスを気遣うほど落ち着いていた。これも魔物と日々対峙している影響だろうか、切り替えが早いという面では。


 まあ、どうしようだの考えても仕方ないからね。クラウスも言ってたが現実を受け入れ前に進むしかない。屋敷に住むことだって大きく生活環境が変わるのに案外理解が早かった。そりゃ生活が良くなるし不満は無いか。


 さーて、寝よう。



 ◇  ◇  ◇



 朝だ。隣りにソフィーナはいない。クラウスもベッドから出ている様子。

 起き上がり居間に行くと2人がいた、挨拶を交わす。


「朝の訓練やるか」

「うん!」


 顔を洗って歯を磨き着替える。もうこの時間でも随分明るくなってきた。今日は5月18日。前世の日本では夏至が6月20日頃だが、この国の夏至は8月頃の様だ。


 1日24時間、1週間6日、1カ月30日(5週間)、1年365日(12月だけ35日ある)、区切りに違いはあれど地球と同じ。と言うことは、太陽の大きさや距離、公転周期も同じなのか。


 惑星の大きさはどうなんだろう、赤道4万kmなのかな。あと地軸の傾き、それから陸地と海の割合とか。宇宙の声を聞いた時に眺めた感じだと、見える範囲では海と陸は半々くらいだった。カイゼル王国が内陸に位置しているためそう見えたのだろう。


 あと、西風が多いのは偏西風のようにコリオリの力で風向きが変わっているためだろう。海は西の山脈を越えてずっと向こうにあるから、季節風の影響は受けにくいのかな。


 魔素やらこの世界独自の要素があるため、地球の仕組みがそのまま当てはまるかは分からない。四季があるので気候に関しては似たようなところが多いんじゃないかな、少なくともリオンの記憶にある3~4年前くらいまではね。


 天気予報は無いみたい。気象衛星なんてあるはずないから当然だけど。その辺、スキルでどうにかなれば便利だけど、観測範囲が広過ぎるから難しいかな。


 そんなことを考えながらいつものメニューをこなす。


「ふーっ、終わり」

「商会には何時ごろ行くか」

「出発の10時まで共鳴作業してくれって言われてるから早い方がいいね」

「じゃあ、朝食終わったら準備してすぐ行くか」

「そうだね」


 食堂へ行く。


「おお、そういや仮城壁だっけ? 工事の期間だけ囲むやつ出来てたぞ」

「へー、じゃああの辺だけ城壁が森の方に飛び出てるんだね」

「昨日、昼間に魔物が来た時は、その先端まで後衛が行けたみたいだぞ、な、母さん」

「そうね、でも壁だけよ。上は塞いでないからそんな自由に動けないわ。城壁の歩廊があそこで切れてるから仮城壁の上を回らないといけないの、ちょっと不便ね」


 ふーん、まあ予定では2週間で出来るみたいだし、それまでの辛抱だね。


 家に帰って居間に座る。


「服装は城に行った時のやつ?」

「そうね、エスメラルダ近くの服屋さんで預かってもらってるから、出発前に着替えればいいわ」

「あ、そんなことしてくれるんだ」

「いい服は保管もちゃんとしなきゃいけないんだって」


 ほー、虫食い防止とかかな。


「持っていくものは武器だけでいいぞ」

「うん、分かった」


 家を出る。


「行ってらっしゃい」

「リーサ、今日は町に行く。帰りは明日朝になるから」

「そうかい、じゃあ中央区まで送るよ」


 クラリーサも一緒に西区を離れる。持ち場を離れていいのかな、まあ彼女は俺専任みたいなもんだけど。にしてもクラウスは最初こそ距離を置いていたが、もうそんな接し方ではないようだ。音漏れ防止結界でお世話になってるからね。


「クラウスたちを中央区へ送って来るよ」

「おう、分かった、リーサ」


 搬入口前で日向ぼっこをしてるフェデリコへ伝える。一緒にいたカスペルとランドルフとは、すっかり仲良くなったようだね。町の保安部隊だったなら、色んな話が聞けて楽しそう。俺も機会があったら混ざってみたい。


 保安部隊はあと1人アルバーニだっけ、彼は見かけないけどどこにいるんだろう。


「アルバーニさんは担当どこですか」

「西区の南側だよ、私が北側で、フェデリコが中央」

「なるほどー、あ、でも誰か休みの時は変わるんですね」

「休みは無いよ」

「え」


 そうなのか、そりゃブラック、いや労働基準法違反だぞ。そんな法律があるかは知らんが。


「いやまあ、あるにはあるけど、村にいても何するわけでもないだろ、結局は制服着て西区に来るのさ。それに見ての通り、ウロウロするのが仕事だからね、元々遊んでいるようなもんだよ、フェデリコなんか完全にくつろいでるだろ」

「はは、確かに」

「でもリーサ、昨日は夕方までいなかったな」

「ちょっと町に用事があってね」


 そうか、急に決まったっぽいし、まだ荷物とか残ってたのかな。


「……実は娘の彼氏を見たくてね、こっそり後をつけていたのさ」

「え!?」

「おいおい」

「あらまあ」


 そうか、ララは昨日今日と連休。その間、町でデートらしく、もしかしたらお泊りかもしれない。母親として相手が気になったのか。


「つけてるのバレたら面倒だろ」

「私は保安部隊だよ、そうそう悟られはしない」


 そんなところで能力発揮。町で尾行捜査とかやったことあるんだろうか。


「それで彼氏はどんな人だったのかしら?」

「……西区の浄水士だね、若い男が1人いるだろ、髪の長いひょろっとした」

「おー、見たことあるぞ、あいつか」

「どうなんだい? ちょっと軽そうな雰囲気だったが」

「さあな、話すことはないから分からない。ただ真面目に仕事はしているぞ」

「ふーん、ならいいんだけどさ」


 多分、彼だ。1回話しかけたことある。ワイバーン襲来時にも一緒に風呂へ避難してたな。へー、あれがララの彼氏なんだー。なんだか、扱い辛い情報を知ってしまった。


「もし、変な噂を耳にしたら教えてくれ」

「分かった」

「いいわよ」


 違った目線で素行を見られる浄水士の彼。ふふ、閉鎖された地域だから仕方ないね。

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