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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
86/321

第86話 本領発揮

「俺たちもギルドへ寄るぜ」

「そうか」


 クラウスとソフィーナは冒険者ギルドへついてきた。


「おはようございます! 要件は何でしょう」

「今から訓練討伐に行く。その前に顔を出しに来た」

「フリッツとリオンね、シーラは先にコーネイン商会に行ってるよ」


 グロリアがフリッツの対応をした。ほう、ちゃんと出来るじゃないか。アレフ支所長はお役御免だな。


「商会? 馬車乗り場じゃないのか」

「商会の馬車で送迎してくれてるんだよ、父さん」

「なんだそうか」


 実は俺もさっき思い出した。なんだ、結局4人の目的地は同じだった。

 騎士貴族商会通りへ差し掛かる。


「そうだ、通るついでにユンカース商会とエールリヒ商会へ断りを入れるよ」

「特別契約の件だね、あとはスヴァルツ商会とルーベンス商会もあるね」

「ルーベンス商会は、昨日ラウリーン商会のついでに伝えた。だから向こうの通りはスヴァルツ商会だけだ」

「そっか、じゃあ俺たちは馬車に行くね」

「ああ、気を付けてな」

「いってらっしゃい、リオン」


 ユンカース商会に入るクラウスとソフィーナを見送り馬車へ向かった。

 馬車は前回同様の幌付き。荷台の中央にある机を挟んで長椅子が両車輪側にある。机の下には木箱がいくつか置いてあり、奥には商会員の服を来た20代の男女が座っていた。


「おはよう、シーラ」

「リオン、おはよう!」

「おお、来たね。いいぞ揃った」


 ベルンハルトが同乗する商会員に告げた。収納式階段を上げ馬車は動き出す。


「リオン、大変だったね、サラマンダー」

「うん、まあ。死ぬかと思った」

「ギルドの記事を読んだぞ、父親のクラウスは大したものだな」

「うん、凄いよ! サラマンダーの首を落とすなんて!」

「自慢の父さんだよ」


 今日は会う人に言われるな。


「あんなのが森に潜んでいるとはな、おお、ドラゴンの件、ギルドで見たか」

「あ、まだだった」

「3体は別個体が確認されとるそうだ。うち1体が一昨日カルニンに襲来した」

「えっ、それで村はどうなったの」

「住人1人死亡、2人が重傷、城壁の一部損壊、家が2軒半壊、だそうだ」

「うわ……」


 死者が出たんだ。そりゃドラゴンだもんな。


「それで大きな痛手を負わせたが倒すことはできず、森へ去って行ったそうだ」

「あれ、魔物って逃げることもあるんだ」

「大型だとそういうこともある、特に有翼系はな。近いうちにまた来るぞ」

「ここのところ魔物の動きが活発らしいな」

「うむ、フリッツ。まあ開拓が進んでいるからな、仕方あるまい」


 コルホル村も北区は森に通路を整備してるんだよな。何か大きなのが来なければいいが。


「後はカーマインウルフ。西区に昨日出た新種だ」

「うん、ガルウルフよりうんと強いんだってね」

「Dランクになっておったぞ、報酬はクルーエルパンサーと同じ5万ディルだ」

「へー」


 それってどの辺だ。レッドベアが10万だからその1つ下か。


 ヒヒーーン


 えっ、あれ? 馬の鳴き声と共に馬車が止まった。


「失礼!」

「うわっ!」


 奥にいた商会員が2人、荷台から飛び出す。な、なんだ!?


「様子を見てくる」


 フリッツはそう告げて馬車を飛び降り、直ぐに戻って来た。


「魔物だ、皆、降りて戦え!」

「え!」


 何だって、街道でも出るのか。すぐさまシーラとベルンハルトは武器を持ち馬車を降り、俺も鞘から剣を抜き続く。街道を見ると、商会の馬車20m先にガルウルフ3体がいた。そして先に降りた商会員が、なんと戦っている。


 ズバッ! 1体倒した。あの商会員、強い。


「アサルトカイトが2体!」

「え!?」


 シーラの声に上を見ると黒い影が。1つがこっちに向かってくる。


「リオン様、下がって!」

「!」


 商会員の1人がこちらへ走って来る。俺は魔物の軌道から退避。


 ギャアアァァス!


 地上すれすれに高度を落としたアサルトカイトへ、商会員が跳び掛かり片翼を落とす。そして飛ぶ力を失い両足で立った魔物の首を直ぐはねた。


「ええーい!」


 ザシュッ!


 シーラの放った氷の矢が、高度を落としてきたもう1体のアサルトカイトの体に命中し、体制を崩した。


 ギャアアァァ……


 魔物はゆっくり高度を落とす。これは、いける!


 キュイイイィィィーーーン


「おりゃ!」


 スパン!


 魔物は空中で真っ二つになった。やったぜ!


「大丈夫かキミたち!」


 街道から騎士が数人走って来る。あ、ガルウルフは? ……もう終わってた。

 よく見ると奥に冒険者らしき数人が集まっていた。馬車で通りかかって魔物が見えたから来てくれたんだね、でももう終わってたみたい。彼らは自分たちの馬車へ戻っていった。


「素材の回収と骨の撤去をするので少し待て。戦いに参加した者は、戦果と怪我の状況、所属と名前を言え」

「コーネイン商会、アヴァン・デマンティウス、ガルウルフ2、怪我は無い」

「コーネイン商会、レナーテ・ハーネフラーフ、アサルトカイト1、怪我無し」

「コルホル村西区、フリッツ・レーンデルス、ガルウルフ1、怪我無し」

「コルホル村東区、ベルンハルト・キーヴィッツ、戦果、怪我、共に無し」

「コルホル村東区、シーラ・キーヴィッツ、戦果と怪我無し」

「コルホル村西区、リオン・ノルデン、ええと、アサルトカイト1、無事です」


 なんだか分からないけど、ひとまず同じように言ってみた。お、騎士が書き残してる。ほほー、携帯用のインクと羽根ペンがあるのか。


「よし、いいぞ。馬車へ戻って街道を進め」


 言われた通り馬車に戻ると直ぐに動き出した。


「ふー、びっくりした」

「街道でもたまに出るのよ。こんな目の前で出たのは初めてだけど」

「そうなんだ、でも森も近いし、そういうこともあるよね」

「ところであんたら、商会員にしては動きが違った。何者だ」


 ベルンハルトが奥の2人に問い掛ける。


「……メルキースへ向かうただの商会員です」

「そういうことにしておくか」


 いや戦い慣れている動きだった。それくらい俺でも分かる。馬車が止まってからの反応も早かったからね。これは間違いなく護衛だな。


 20代半ばの男性アヴァンと20代前半の女性レナーテ、名前だけは覚えたぞ。もうこれミランダの指示だな。最初に商会の馬車を使いだした時からいたのだろう。


「何にせよ、戦いに参加ありがとう」


 ベルンハルトの言葉に商会員2人は少し頷いた。


「ねぇ、リオン、アサルトカイトの2体目、あなたがやったの?」

「え! あーうん」

「……そう、見なかったことにする」


 伯爵から支給された剣身を使ってることになってるはず。もうシーラとベルンハルトにも伝わっているだろう。ガルウルフの向こうに馬車が何台か止まってたけど結構距離があった。伸剣は見えないから、俺が飛んでる魔物に素振りしてた様に見えただろう。届かないのに必死に威嚇してる8歳の子供として。


 さっきのは共鳴80%くらいか、剣身4mだな。高度を落として動きが鈍った状態なら、空中の魔物でも十分狙えたね。ほんと、伸剣は便利。


 おや、馬車が停まった。


「む、もう着いたのか」

「ちょっと見てくる」


 フリッツが降りる。


「ここまだ街道の途中だよ、え、また魔物?」


 シーラの言葉に商会員は動かない。魔物じゃないみたいだね。よく見ると幌の前側には御者とやり取りできる隙間がある。あそこから前の様子を確認したのか。


「ここは進路入り口近くだ、ジェラールたちもいるぞ」

「あ、そうなんだ」


 帰って来たフリッツが教えてくれた。なんだ、今日は監視所まで行かないのか。そういうことは最初に言ってくれ。


 馬車を降りて階段を収納、御者と馬に礼を言って森へ向かう。


「おお、遅かったな、何かあったか」

「エリオット部隊長、街道で魔物の襲撃だ」

「なに! 皆、怪我は無いか」

「問題ない」


 フリッツが答えた。


「昨日は雨上がりで足元が悪く、ここの森へは入っておらん。その影響で少々魔物が溢れたようだ。全く、それがあるから念入りに街道沿いを警備しろと言ったのに、ウチの部隊が手を抜いたようだ、すまんかった」

「いえ、訓練前のいい運動になりました」

「フッ、余裕だなリオン。今日は気兼ねなく存分に暴れるがいい」


 騎士たちも直ぐ来てくれたからね。距離のある街道を完璧に警備するのは難しいよ。


「おーい、リオン、シーラ」

「あ、ジェリー、マリー!」


 2班が集合する。


「今日は新規開通した北端の進路を行く。木は切っているが切り株が残ったままだ。前衛は足元に注意して魔物を誘導しろ」

「はい!」

「じゃあ作戦会議よ!」


 マルガレータの声にみんな輪になる。


「今日はアタシとジェラール、シーラ、リオンの4人よ。2組に別れて連携をと言いたいところだけど、今日は前回より更に北の道。きっとEランクも多く出るわ。だからリオンは単独行動、後の3人は臨機応変に、これでいくわね」

「え、俺、1人?」

「もうみんな聞いてるわ、アンタの武器が特別だってこと。だから抑えず好きにやってちょうだい。アタシたちが手こずっているようなら判断して支援をよろしく」

「あー、うん、分かった」


 なんだ、そういうことか。なら好きにやらせて貰うぜ。


「作戦会議終わりました!」

「うむ、では行くぞ」

「2班、しゅっぱーつ!」

「おーっ!」


 ジェラールと背中の剣を抜きあう。


「リオン、危なくなったら無理するなよ」

「うん」


 進路に入る。さあ来い! 最初はヘルラビットか?


 森を進む。確かに、進路の所々に切り株がある。これは足を引っかけないように気をつけないとな。とは言え、比較的木が生えてない辺りを進路としたようだ。中央付近は問題ない。


 む! 何かいるぞ、30m先だ。


「ウルヴァリン2体! 俺は左のを」

「分かった!」


 んじゃ俺は右だな。タッタッタッ!

 少し森に入ったところに魔物はいる。お、気づいたぞ。


 グオォォーーン!


 この間のヤツより一回り大きい。体長2.5m、魔物も個体差があるのか。

 こっちに来る、速いな、くっ! タタタッ、間合いを維持して回り込む。

 コイツは時間をかけると危険だ、最初のスキで決める。


 キイイイィィィーーン


 60%、3mの伸剣が届く間合いで立ち回るぞ。


 グオォ!


 跳び掛かって来た! そして爪が伸びているのが見えるぞ!


 ズザッ! 跳び掛かりを回避、向こうは着地から体制を変えている、今だ!


 スパン!


 体を真っ二つだ。ふふふ、こっちも伸びるんだぜ。

 さあ、ジェラールたちだ!


 タッタッタッ! やや背の高い草が多いところもある。あれの後ろに魔物がいたら気づかないぞ。近くを通る時は注意しないと。


 お、見つけた。進路でジェラールが引っ張ってるな。多分もう何発か後衛含めて攻撃しているだろう。ウルヴァリンの動きが若干鈍い。


 向きを変えた、後衛に走って行く。次で仕留めるつもりだな。

 20m手前か、そこでジェラールが進路を変更、魔物が一瞬止まると同時に氷の矢と風の斬撃が襲い掛かった。


 ズバッ! ザシュッ!


 もう先にジェラール目掛けて魔法と矢を放ち、それを彼は寸前で避けて後ろの魔物に当てるという、これはかなり成熟した連携だな。

 完全に動きが止まった魔物に、すかさずジェラールが切り込む。


 ザンッ!


 首を落とした。やったね!


「お見事!」

「ふーぅ、リオン、そっちは」

「森の中だよ、体が2つになってる」

「ははは!」


 このジェラールの笑顔にトキめく女子は多いだろう。


「きゅーけい!」


 2班は集まって腰を下ろす。


「いきなりウルヴァリンとは、流石、北端進路だね」

「3人で1体なら十分やれるわ!」

「うん、私、ちょっと自信ついてきた」

「シーラは来る度上達してるわよ」

「へへ、マリーだって」

「ジェリーの斬撃もいい感じ、もう剣技11になったんじゃない?」

「いやー、そう簡単にはね、でも伸びる手応えはある」


 みんな楽しそう。何この疎外感。


「あの、俺も頑張ったよ」

「アンタは本気を出してからいいなさい」

「え」

「まあ、サラマンダーでも出てきたら全力が見れるでしょうね」

「ぐぬぬ」


 やれやれ、マルガレータは。まあでもいいさ、この戦術が2班では合ってる。


「休憩終わり、行けます!」

「よし、出発!」


 進路を進む。


「あっ、あれがリオンの倒したウルヴァリンね、背骨が真ん中から分かれてるじゃない、一体どう戦ったら、ああなるのよ。おかしいわ、絶対おかしい」


 後ろでマルガレータのぶつぶつ言う声が聞こえる。


「前方30m、サーベルタイガー! 右前20m同1体、左前30m同1体、計3体! 部隊長!」

「前方と左前をリオン!」

「え、俺2体?」

「最短で1体をやれば対応できる、行け」

「は、はい」


 くっ、仕方ない、やるか!


 タッタッタッ! まずは前方だな、一気に間合いを詰めて最初のスキに伸剣だ。


 ガオオオオッ!


 気づいた、うひっ、デカい、全長3m、そしてあの牙、50cmはあるな、あんなモンあったら食べる時にじゃまだろ、ああいや、魔物は何も食べないんだっけか。


 こっちに向かってくる、速さはガルウルフ程度だな。

 左のヤツも気づいた、こっちに来る。

 じゃあ、前方のを直前で右側へ回避して、直ぐに伸剣で倒す。

 その後、左のが突進してくるから、直ぐ回避して伸剣だ。テンポよくやるぞ。


 タッタッタッ!


 キュイイイィィィーーーン


 80%だ、相手はガルウルフ以上、手加減なしだぜ!


 ガアオオオッ!


 今だ! タンッ、スタッ!


 止まった、体の向きを変えているぞ。


 ブンッ! スパン!


 よし、顔が真っ二つ! 次!


 ガオオオオッ!


 うひっ! タンッ、あぶねぇ、跳び掛かって来やがった。


 着地から体制を立て直してる、今だ!


 ブンッ! スパパパン!


 やったぜ! 足とか体とか、色々切り離したぞ!

 ジェラールのはどうなった。


 タッタッタッタッタッ


 あれ、倒してる。やるじゃん!


「おー、凄いね!」

「……ああ、リオン、これは部隊長だよ」

「あら、そうなの」

「後衛に向かって走り出したから、対応してくれたんだ」

「そっか」

「リオンは、って、終わってるか」

「うん」

「きゅーけい!」


 集合して座る。


「ダメ、全然ダメだったわ、アタシの斬撃受けてもケロッとしてるの」

「私もよ、氷の矢が少ししか刺さらなかった……」

「まあ仕方ないよDランクだぜ? あんなの養成所の冒険者でも手こずる」


 へー、サーベルタイガーって強いのか。確かクラウスたちが申請討伐の日に朝方倒してきたやつだよな。もう、ここら辺は村と同等の魔物が出るのね。


「リオンはどうやって倒したの? 2体いたでしょ」

「えっと、頭とか体とかを切ったんだけど……」

「シーラ、聞いても意味ないわ、何の参考にもならないから」

「えー……」


 辛辣(しんらつ)だなマルガレータは。まあ、歯が立たなかった相手を2体も短時間で倒したんだもんね。だって仕方ないさ、あれは時間をかける場面では無かった。


「リオン、まだ余裕はあるか」

「あ、部隊長、ええと、正直、余裕はあります」

「そうか」


 エリオットは離れて行った。


「ちょ、ちょっとアンタ……やっぱりサラマンダーが出ないとダメね」

「いやあれは無理。近づけないから」

「そうなの?」

「うん、シーラ。灼熱の壁があるから」

「えー……」


 熱風だったけど、表現としてはそんな感じだね。


「休憩終わり!」

「では出発」


 進路を進む。この辺りは切り株少なくて走り易かったな。


「ちょっと、何あれ! どういうこと!」

「1体は頭蓋骨が真っ二つ、1体は背中から前足の付け根辺りが真っ二つだね、一体どういう戦い方したらこうなるんだよ、しかも2体とも進路の上で並んでる」

「もういいわ、聞くだけ無駄よ、ほら、ちゃんと前を見るのよ!」

「へいへい」


 はは、まあ分からないよな、俺の剣50cmだもん。でも今回の訓練討伐はとてもやり易い。他のメンバーには悪いけど、伸剣ありきの間合いで動けるのはとても楽だ。いやー、トランサイトはかなりの武器だよ、改めて思う。


 でもこれに慣れると手放せなくなるな。むー、定着3年か。トランサイトを売るのはいいけど、その人たちが更新し続けたら、俺、どうなっちゃうの? ミランダや伯爵がなんとかしてくれるか。そう、加工費用を高くすればいいんだよ。

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