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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
85/321

第85話 魔力集束

「さあ、風呂へ行くか。音漏れ防止の結界は3時間効果があると言っていた。寝るまでは十分だからな」


 着替えを持って外に出る。隣りのブラード家が俺たちの後だ。


 風呂に入ると洗い場で住人が話しかけてきた。


「お、クラウス、腕の傷はすっかり治ったな」

「まあな」


 む、どこで治したか聞いてこないな。そりゃ聞くまでもなく礼拝堂だもんな。案外、聞く方が珍しいのかも。俺たちの考えすぎだった。


「昼間の赤いウルフ、ギルドの掲示板見てきたらカーマインウルフだってよ」

「ほう、聞いたことないな、やはり新種か」

「あれは強かった、ガルウルフの5割り増しだったぞ」


 へー、カーマインウルフ、そしてみんな知らないのか。この国だけでも5000年以上の歴史があるのに、それで新種ってかなり凄いことでは。まー、村より西や北は人の手が入っていないから、奥から出てきて初めて人間と対面したのかもしれない。


 と言うことは、森のずっと奥にはまだ誰も見たことない凶悪な魔物が潜んでいるかもしれないな。開拓するのはそういうのを引っ張り出すリスクもあるんだね。ただそのカーマインウルフ程度なら、そこまで脅威じゃなさそうだ。


 風呂を上がって家に帰る。


「リオン、念のためもう1回玄関で試してくれ」

「う、うん」


 クラウス用心深いな、どうも今朝の話から特にそうみたい。そりゃ人買い組織なんて聞いたら、ビビるよね。でもそれを言ったら俺は既に神から狙われているんだぜ。ハハッ、笑っちまうよな。神に比べたら犯罪組織なんてちっちぇぜ、サラマンダーを仕向ける組織なんてあるワケない。


 おっと、クラウスが手招きをしてる、もう終わりか。


「父さん、全然聞こえなかったよ」

「よし、母さんが帰ったら色々話をしよう」


 ほどなくソフィーナが帰って来た。


「結界の再確認はした、安心して話せるぞ」

「これ便利だね、俺も神の封印を解いたら使えるのかな」

「そりゃそうだろ、レベルを上げればサラマンダーの炎だって防げる障壁を作れるはずだ」

「おおっ!」


 正面から受けて、効かぬわ! と叫びたい。……んー、なんだか少しずつこじらせ具合が進行してる気がする。ファンタジー世界に身を置いているせいか、それとも元々こういう性格だったのか。


「いやしかし、昨夜の話は驚いたな。リオンにそんな力が秘められているなんて。レベル41以上のスキルなぞ想像がつかん。ところで解放したら直ぐ41なのか?」

「分からない。少しずつ上がるのか、いきなり高いレベルなのか。でも魔力操作の上達具合を見ると、コツを掴めばどんどん上手くなるとは思うよ」

「魔力操作はスキルとは同列に考えづらいが可能性はあるな」


 そっか、レベルが無いし、鑑定しても魔力量と最大魔力しか分からないんだよね。


「せっかく治癒スキルを覚えたんだ、それで試してみたらいいだろ」

「うーん、でも商会長はあんまり使うなって」

「あー、まあ、そうだな。なら悟られづらいスキル、おお、ちょうど鑑定スキルを覚える話になってただろ、さっきは講師の進捗を聞きそびれたが」

「うん、それがいいね。でもいつ覚えるか分からないよ。不思議な声の話では生涯覚えない可能性もあるって」

「え、そうなのか」


 まあ単に可能性があるだけと念のため言ったのだろう。適切な訓練を続ければ、解放はそう難しくない気はする。俺が頑張って続けられたらの話だが。


「でも治癒は覚えたんだ、きっと大丈夫さ」

「うん、俺もそう思う」


 治癒を覚えたきっかけは、治療過程を一通り体験したからだろう。あんな大怪我を負ったことによって色々と一気に情報が体に入って来たんだ。ただそれを知ってたとしてもワザと大怪我をする気はないが。結果的にはいい方向にいったね、文字通り怪我の功名か。


「鑑定を覚えてレベルを上げれば、リオン自身を鑑定してどんなスキルがあるか確認できるぞ」

「あっ! そっか、そりゃそうだね。でも人物鑑定ができる人はギルド登録しないといけないよ、それできっと登録の時に人物鑑定されるんじゃ。そしたら俺が洗礼後に治癒や鑑定を覚えたのが分かっちゃう。だからって隠してると手痛い罰則があるんでしょ、規則を作ったウィルム侯爵に背くことになると」

「そんなの無視でいい」

「えっ」

「今でさえ色々隠しているのに、そんなもん正直に報告せんでいい」


 言われてみればそうか。


「きっとミランダもその考えだ。もうリオン絡みのことは既存の規則にとらわれず、それを定めた貴族なりに直接相談するのがいい。その貴族も相手を選んでな」

「父さん、考え方が随分と変わったね」

「お、そうか、まあ仕方ないさ、変えざるを得ない状況だ」


 クラウスは決まりを真面目に守る印象だった。ファビアンとの一件でも、しっかり意見してたし。でもゆくゆくはその規則を作る側になるのかもしれない。そしたら今までの価値観から切り替えて、視野を広げないといけないね。大変だなぁ。


「ねぇ、リオン。クラウディアの件、あんまりミランダに言わない方がいいんじゃないかしら」

「おー、そうだ、びっくりしたぞ、あんなこと言うなんて」

「……うん、ごめん」


 む、ソフィーナはミランダの意見に賛成なのか。


「あの人はちゃんと手順を踏んでいると思うわ。貴族なのよ、その気になればいくらでも方法はあると思うの。それに選ぶのはリオンと言っていたでしょ、だからクラウディアが頑張る姿を見守ってあげて」

「……うん」


 よく考えるとパーティメンバーなだけだからな。ミランダなりに正攻法な近づけ方をしてるんだ、それに意見するのはマズかったか。あれじゃ一緒に戦えないと言ったようなモンだ。


「きっとミランダも男爵や男爵夫人から、クラウディアとリオンの関係について言われてるのよ。明後日行く子爵家でも同じようなことがあると思うわ、その後も色々なところからね。でも何も言わず接してあげて。……リオンに近づいて来る女の子たちはね、きっと家の将来を背負っていると思ってるの。そのために一杯頑張ってるのよ、それを否定しないであげて」


 ふーむ、そうか。じゃあクラウディアが辛そうなんて、余計なお世話になるのか。そこは干渉しないことが彼女のためになると。


「母さん、分かったよ」

「まああれだ、お前も意識しないで魔物だけに集中しろ」

「うん、そうする」


 母親と娘の関係、それも貴族となると独特なものなんだな。しかしソフィーナもよくその辺を想像できるな。これはディアナも大変だ。


 にしても本人の感情や好みなんかは二の次なんだね。そりゃそうか、家のためだもん。そして俺は選ぶ側と、はは、責任重大だな。


「こんばんは!」

「お、義父さんか、どうした」


 カスペルだ。何だろう。


「!? 音漏れ防止結界か」


 あ、そっか、そりゃ気づくよね、クラウスの声が聞こえないから。


 手招きを見てカスペルはソファへ座る。


「それでどうした」

「どうしたもなにも、伯爵のところへ行ったのだろ?」

「あー、そうだな、報告するか」

「昨日聞こうと思ったら中央区で泊まっとるし、フリッツは本人へ直接聞けと言うし」

「すまん、色々あってな、そこまで考えが及ばなかった」


 カスペルは身内だしね、放置は可哀そう。


「言えんなら構わんが、それならそう伝えてくれ、気になって仕方ないわい」

「はは、そうだったか。まあ言えないこともあるが俺の処遇については話すよ、ブラード家にも関係するからな」

「クラウスの? リオンではないのか」

「リオンは義父さんの言ってた通り、トランサイト生産の功績により叙爵される、しかし7年後だ。それまでは俺が爵位を預かることになった」

「なんと!」


 そうか、ブラード家全体が関係するからな。早いうちから心構えをしてもらったほうがいい。カスペルの他は、どのタイミングで話せばいいだろう。


「年齢制限があるんだよ、15歳の誕生日までは貴族になれない。だから子供が叙爵対象ならその親が受けることになるのさ」

「ならソフィーナは貴族婦人か!」

「ええそうよ、コルホル男爵夫人ね」

「ならワシは男爵夫人の父か!」

「その通り」


 はは、カスペル、驚きと喜びが混じった顔だ。


「お爺様、夫人の実家として相応の振る舞いをお願い申し上げます」

「!? な、何を言っとる、リオン」

「はは、お爺様か」

「そうね、お父様、お願いしますわよ」

「……ソフィーナまで、わ、分かったぞよ、頑張りまする」


 なんだその言葉遣いは。


「ぷっ、みんなやめろ、不自然過ぎる」

「そうだわい、急にできるか」

「まあ、最低でも1年はかかる、それまでに少しずつでいいさ。俺だって文字やダンスを覚えなきゃいけないんだ」

「ダンス! ほっほ、それはまた大変だの。しかしそうか、クラウスが、それでお前さんの実家には伝えたのか」

「いやまだだ。もう何年も手紙のやりとりすらない、どうなっているのか分からんからな。まずはウィルム侯爵が調べてくれるそうだ」

「なんと! 侯爵か!」

「叙爵には侯爵の承認が必要。その前に一族を調べるんだろうよ」


 一族か、どこまでなんだろう。ミランダは初めて名を聞く偽の身内が増えたと言っていた。そういう輩を防ぐためかな。あとはまあ、変な奴がいないか、それこそ凶悪犯とか。でももし、そういうのいたらどうするんだろう。


「となるとイザベラの実家と、ワシの実家は該当するな」

「ベラの実家、ディンケラと言ったか、あと義父さんの弟はウィルムにいるんだよな」

「どうかの、クヌートと最後に会ったのは40年以上前だからの、ウィルムにおるかは分からん、生きとるかどうかもな。イザベラの実家はカルカリアで農家だったな」

「そうよ、ベラの上の兄ミゲルが将来継ぐみたいだけど。下の兄、確かラウルはどこにいるか分からないって」


 イザベラの実家はカルカリアのディンケラ家で農家、そんで兄が2人。ミゲルは実家付近にいるみたいで、ラウルは居所不明。カスペルの実家はウィルムだが弟クヌートとは音信不通か。こりゃ調べるのにも時間かかるなー。


「エミーの親兄弟はこの世にはいない。恐らく親戚もな」

「40年前のゼイルディク壊滅で孤児になったんだよな」

「そうだ。誰も会いに来なかったと聞くぞ」


 ふーん、では天涯孤独となったんだね。


「ばーちゃんの年っていくつだっけ」

「49だ。つまり9歳の時1人になったのさ」

「なら親の顔もしっかり覚えてるね」

「そうか、実は生きていたと、知らない人間が名乗って来るかもしれん」

「まあそれは心配ない、人物鑑定すれば分かるからな。鑑定証明書を偽造されたら分からんが」

「じゃあ鑑定士の前に連れていけばいい」


 それが間違いないね。しかし鑑定で子供がいるか分かるのか。


「ところで、このことをエミーやメルたちに告げるのはいつになる」

「俺はもう言っていいと思うが、ミランダ商会長に確認するよ。向こうも段取りがあるみたいだし」

「そうか、なら黙っておくぞ。おお、そう言えばコーネイン商会から協力金という名目で300万入金されとった、トランサイト製法発見に協力した謝礼だと、商会の者から説明されたわい。ランドルフやフローラも確認したぞ」

「分かっていると思うが、それは口止め料だ」

「もちろんすぐ気づいた、貴族は気前がいいことだの」


 300万とは、多いね。それだけ大事な情報ということか。


「さて、ワシは帰るとするか、お前さんたちサラマンダーの件もあるから忙しくなるの」

「まあな、おかげで畑仕事が捗らん」

「どうせ魔物に踏まれるんだ……ではの」


 カスペルは去った。


「もういい時間だな、寝るか」

「うん」

「リオンは私の隣りよ」

「え」

「そうだぞ、今日から俺たちの部屋で寝るんだ」

「う、うん」


 まあ仕方ないね。2階で1人にはさせられないか。


 居間の奥へ。こっちの部屋はあんまり入らないからちょっと新鮮。2階の部屋より少し広いか、ベッドや机椅子の他に洋服ダンスっぽい家具がいくつかある。


 ソフィーナのベッドに入った。


「消すぞ」


 クラウスが照明に魔力を送り消灯した。皆おやすみの挨拶を交わす。


 明日は久々の訓練討伐。頑張るぞー。



 ◇  ◇  ◇



 ……。何か動く気配が。


「母さん」

「あら、起こしちゃったわね」

「いいよ、おはよう」


 ベッドから出て顔を洗って歯を磨いた。居間に戻るとクラウスを見つけ挨拶を交わす。


「今日は天気がよさそうだな」

「そうだね、訓練討伐行けそうだよ」

「朝の訓練やるか」

「うん」


 前の訓練は3日前、伯爵に会いに行く日の朝だ。あれから色々あったな。


 城壁の北端でいつものメニューをこなす。今回から1回の本数を増やした。


「ふーっ、休憩」

「回数増えても時間はほとんど一緒だな、またこれに慣れたら増やそう」

「うん、分かった」


 多分、消費魔力効率がよくなって、合間の休憩時間が短くて済むようになった。結果的に多めにこなしても終わる時間は変わらない。


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。食堂へ行く。食事を済ませるとフリッツが近くに来た。


「8時に家に行く、そこから中央区へ出発だ」

「分かりました」


 家に帰って居間に座る。


「まだ1時間近くあるな、立ち回り訓練するか」

「あ、そうだね」


 前の訓練討伐は4日前か、クラウディアが来た日だよね。感覚を思い出すためにやっておかないと。まあ実践で言うとサラマンダーが最後だけど、あれはちゃんと戦ったとは言えない。


「おお、来たな」

「来たよ!」


 カスペルとランドルフ、そしてフェデリコが搬入口前に座っている。


「おー、リオーン!」

「あ、みんないるのか」


 ケイス、ピート、ロビンだ。エドヴァルドは家か。


「じゃあやるね、父さん」


 俺はガルウルフを想定して立ち回りをする。今日は新しくできた北端の進路。ガルウルフも出てくる可能性が高い。本気を出しても構わないから、倒すつもりで動きを確認した。


「ふーっ、休憩」

「ほっほ、リオン、今日の動きはより実践的な気がしたぞ」

「へへ、まあね」

「これは驚いた、8歳の子供の動きには見えないぞ」

「だから言っただろう、この子は特別なんだよ」


 警備のフェデリコが驚きの顔をした。


「さあ帰るか」


 家に向かうと、納屋の前でクラウスが提案してきた。


「そうだ、リオン。俺の武器を試してみろ」

「あ、うん」

「構えるだけだぞ、それで共鳴させるように魔力を流すんだ」

「分かった」


 クラウスから武器を受け取る、剣身80cm大人用だ。

 マッドマンティスの鎌が素材として使われているんだったな。


 構えて魔力を送る。


 ……。


 なんだこれ、鉱物と全然違う。む、剣身から空気が流れたように感じた。


 ブウウゥン


「お、いいぞ、その感じ。それが集束状態だ」

「集束」


 共鳴と似ているけど違う。共鳴は剣身自体が強くなっている感じだけど、この集束は、剣身の魔力密度が増して高まってる感じ。


 ……。


 ブウウゥゥゥーーン


 かなりの魔力が圧縮され剣身に宿ったぞ。お、剣身の輪郭が揺らめいてる。


「それで集束率40%ってとこだ、辛くないか」

「うん」

「なら、もうちょっと上げてみろ」

「やってみる」


 ブオオオオォォォーー!


「うわ、ちょっと雰囲気が変わったよ」

「集束率60%を超えたな、それで斬撃波を放てる。その辺にしとくか」

「うん」


 シュウゥゥーーー……


「ふーっ」

「はは、流石リオンだな。俺がそこまで至るのに1カ月はかかったぞ」

「え、そうなんだ」

「魔物素材は1つ1つ感じが違う。マンティスは手こずる人が多いと聞くぞ」

「へー、じゃあサラマンダーは大変そうだね」

「……ああ、あれは相当の化け物素材だ、制御するのに時間が掛かるだろう。でも必ずモノにしてみせる」

「父さんなら出来るよ!」


 頷くクラウスに剣を返す。家に入り居間に座った。


「父さんと母さんは9時に商会だったよね」

「ええそうよ、だから一緒に行くわ」

「何の用事かは知らないがな」

「きっと、今後の予定を話すんじゃないかしら」

「まあ、いよいよ本格的に準備するんだろうな」


 じゃあダンスのレッスンや座学もあるんだろうね、ふふ、クラウス頑張れ。


「準備出来ているようだな」

「フリッツか、ああいつでも行けるぜ」

「では行こう」

「はい!」


 4人で西区を出る。

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