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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
83/321

第83話 赤いガルウルフ

「リオン終わったぞ」

「父さん、あ!」


 クラウスの腕に布が巻かれている。そこには薄っすらと血が滲んでいた。


「怪我したの! 大丈夫?」

「ああ、ちょっとかすった程度だ、問題ない」

「出血しとるなら礼拝堂で治してもらえ」

「そうするさ」


 ブラード家を出てウチへ向かう。


「英雄でも怪我することあるんだね」

「……そりゃあな」


 クラリーサの言葉にちょっと不機嫌な様子。


 家に帰り居間に座る。


「あ、そうだ! 俺の力で何とかなるかも」

「おお、確かに、出来るか」

「多分出来るけど、全くの素人だよ。完治できない可能性もある」

「構わない、その時は本職に依頼する」

「そっか、じゃあやってみるね」


 とは言ったものの、変に傷口がくっついても困るな。やってみてちょっとでもダメそうなら中止しよう。


「じゃあ布を取るわ」


 ソフィーナが布をほどく。包帯ではない布だが、その辺の切れ端ではなく、それ用っぽい生地だね。衛生面は問題ないようだ。


 二の腕に長さ10cm、幅が広いところで1cmか、深さはそうでもないみたいだけど、前世なら縫うような傷口だ。見ているうちに血が出てくる、早く止めないと。


 俺は両手を近づけて魔力を送る。あの温かく活力に満ちた魔力を。


 ……。傷を治す。それはこの世界においてどういうことか。ミランダは治療士の魔力で皮膚や皮下組織を作ったと言った。魔力で作る? なんだそれは、いくらファンタジーでも原理がさっぱりわからん。


 それを俺が1日かけて自分の魔力で定着して完治となった。それまでは仮の状態。それを俺が作るんだ。んー、どうやって。……俺が治療を受けた時を思い出せ、温かく活力が溢れるあの感じを。ただ治療士の魔力は再現できても傷口はどうやっていたんだ。


 前世の知識で考えてみよう。シンクルニウムの共鳴変化も電波の周波数からヒントを得た。傷を治すとはどういうことだ。まずは止血だ、血小板の凝集と血管収縮を施すんだ。


「お、血が止まった! いいぞリオン」

「ほんとだわ!」


 うまくいったぞ。なるほどそうか、治療しているのは俺だけど、実際は対象の自然治癒力を高めているんだな。本来そこに負傷者の魔力を使うけど、それを代わりに俺がやってる感じか。そうと分かれば自然治癒の過程を続けるまでた。


 マクロファージによる死んだ組織の処理、コラーゲン等の肉芽(にくげ)組織で修復。


「あら、傷が少しずつ塞がっていくわ、うまくいってるわよ」

「父さん、痛くない?」

「いいや大丈夫、少し温かいくらいだ」


 瘢痕(はんこん)組織になってきたぞ、このまま放っておけば真皮(しんぴ)組織が生成され傷は治る。しかし傷跡として残るな。俺の火傷は全然傷跡が無い、そう、ミランダのあの顔の火傷もすっかり元通りだった。何か違う措置をする必要があるんだ。


 傷跡とは瘢痕組織、ならばそれを正常な真皮組織へと差し替えるんだ。コラーゲンを周りの組織と同じように正しく並べ、見た目を似せる。正常な皮膚を見ながらやれば出来そうだ。あれと同じ様に傷跡も……。


「おお、傷跡がどんどん小さくなる、いいぞ」

「ほんとだわ」


 ぬお、これに魔力を使うな。なるほど、エナンデルの治療士たちが魔力を使い果たしたのは、ほとんどこの工程だったのか。魔力操作が異常な俺でさえ結構つらい。


 あと少し……。


「ふーっ、終わったー」

「凄い! 元通りだ! 完璧だぞ、リオン!」

「素晴らしいわ……」


 クラウスは歓喜し、ソフィーナは涙ぐむ。


「はぁはぁ……。でもこれは仮の状態のはず。完治するまで魔力を大きく使っちゃダメだよ」

「ああ、分かった。多分1~2時間で定着するぞ。それより大丈夫か」

「うん、共鳴をしたあとくらいの疲労度だよ、休めば元通り」

「そうか、ならしっかり休め」


 クラウスは血の付いた布を再び腕に巻く。


「せっかく治してもらったが、まだ怪我をしていることにする。中央区に行くまではな」


 はは、そうだよね。では礼拝堂に行ったことにするのか。その辺、治療履歴とか合わなくなるけど心配ないのかな。まあ、いちいち確認しないのだろう。


「それにしても、村の戦闘で父さんが怪我って珍しいね」

「……見かけないのがいたんだよ、あれは強かった」

「形はガルウルフそっくりなんだけど、毛の色が赤いの」

「最初はラスティハウンドかと思ったが、体もずっと大きいし、動きも速く、耐久力もあった。ガルウルフよりも数段強いぞあれは」


 えー、亜種みたいなもんか。


「俺の他にも2人怪我をした、大した傷ではないがな。またあれが来たら間合いを考えないといけない」

「そんなに速いの」

「ガルウルフの5割り増しじゃないか。ただそれが分かれば対応は出来る」

「父さんや母さんが知らない魔物がまだいるんだね」


 冒険者は相当多くの魔物と対峙してきたはずだ。それなのに知らないって、魔物って結構種類多いんだな。しかしガルウルフの1.5倍のスピードとは、かなりやっかいじゃないか。


「あれは他のみんなも見たことが無いそうだ。新種かもな」

「え、新種!?」

「魔石を鑑定してギルドに貼り出すから、この後、寄って確認しよう」


 おー、魔石ってそういうのも分かるんだね。


「息は整ったようだな、中央区へ行くか」

「うん!」


 3人で外へ出る。


「お出かけかい」

「そうだ、中央区へ行ってくる」

「さっきのは新種なんだってね、そりゃ対応も難しかったろう」

「村には仲間がいるんだ、何とかなるさ」


 クラリーサと言葉を交わし、西区を出て行った。


「あれ、日向ぼっこのメンバーが増えてるね」

「フェデリコだったか、はは、まあ搬入口の監視ならあそこがいいからな」


 カスペルとランドルフに挟まれて、楽しく談笑しているようだ。あ、フリッツもいる。職人の仕事があった時に同伴をお願いしてたんだ。クラウスとソフィーナが一緒に行くから多分その必要はないと伝えておこう。


「ちょっと先生と話してくる」


 フリッツに両親と中央区へ行くと告げる。彼はそれだけで意味が分かったようだ。直ぐに2人の元へ戻る。


「父さん、いつもの武器と違って戦いにくかったね」

「プレシューズ合金も使ったことはある、問題ないさ」

「へー、流石だね」


 色々な武器を使いこなせるのも強さの1つだよね。


「そういや、母さんは武器の補修をするの?」

「ううん、滅多にしないわ。どこかにぶつけたりしない限りはね」

「へー、弓って経済的なんだ」

「その代わり矢が消耗品なのよ。あと1年に1回くらいは弦を変えるわね」

「あ、そっか」


 確かに。そう考えると近接武器よりお金かかるね。それだけ遠距離と言うアドバンテージがあるんだけど。


 さて、ミランダを探すにはまずは商会か。


「いらっしゃいませ! リオン様、武器は仕上がっています。クラウス様もお渡しできますので、そちらにかけてお待ちください」


 入り口近くのソファに座る。ほどなくララとブレターニッツが武器を持って来た。


「あ、ララさん、トランサスのままです」

「問題ありません、トランサス合金が代替武器だったのですから」

「ええ、はい」


 妙な会話だ。


「こちらがお預かりしていたミランデルとブーツです」

「おおー、ピカピカだ!」


 ブーツが新品みたいだ。剣も抜いてみると刃こぼれが綺麗に直ってる。へー、凄いな。


「俺のも問題ない、とてもいい仕上がりだ」


 クラウスも剣を抜いて確かめ、満足な様子だ。


「クラウス様も料金は不要と商会長から伺っております」

「あ、そうなのか、すまないな。ところでミランダ商会長は今どこに」

「工房です。皆様のご来店を待っていました」

「ああ、そうだったか、では行っていいか」

「はい。リオン様のブーツはお帰りの際にお渡ししますね」

「うん」


 ララは受付カウンターへブーツを持っていく。


「私がお連れします」


 代替武器を持ったブレターニッツに続いて工房へ入る。


「失礼します」


 ブレターニッツの声に休憩スペースにいた人たちが注目する。ミランダ、その向かいにはエリオット、そして隣りには見たことのない女性が座っていた。


 ミランダが俺たちに手招きをしてソファへ座るよう促す。ああ、音漏れ防止の結界がしてあるんだな。エリオットが立ち上がりミランダの隣りへ行ったので、その空いたところへ3人並んで座った。


 机の上には飲み干した紅茶のカップがある、結構前からここで話し込んでいたようだ。俺たちが座るとそれを隅へ避けた。


「こちらが今話していたリオン、そして両親だ」

「初めまして、リオン・ノルデンです」

「父親のクラウスだ」

「母親のソフィーナです」


 ミランダに紹介され、40代くらいの女性に座ったまま挨拶をした。


「アーレンツ子爵家、家令ナタリアです、コルホル村を担当しています。先日はアーレンツでのサラマンダー討伐、誠に見事でありました。あれだけの魔物でありながら最小の被害に抑えられたのは、皆様の活躍があってのことです。本当にありがとうございました」


 ほう、家令か。確か子爵家にはエステバンがいたはずだが、まあ家令も1人ではない。このナタリアは村が担当と言った。ならエステバンはアーレンツが担当なのだろう。彼女は物腰柔らかく上品な雰囲気。その分、何を考えてるのか分からないが。


「結界を延長しろ」


 ミランダの言葉にブレターニッツは机の上で手を広げた。


「……効果は2時間、範囲は半径3mです」

「うむ、すまない」


 そう告げて彼は工房を去った。


「クラウス、怪我をしているようだな、先に礼拝堂へ行ってこい」

「かすり傷だ、もう血は止まっている。話を聞いてからでも構わない」

「そうか、では何から話すか」

「コーネイン夫人、子爵屋敷への招待を伝えてください」

「そうだな、以前より言っていたアーレンツ子爵からの招待だ。明後日の18日、午前10時にここを出る。昼食を子爵の屋敷で一緒にとるぞ」


 ほほう、子爵たちと一緒に昼食か、これはまた初めての経験だな。テーブルマナーとか分からんが大丈夫かな。


「その席には子爵、子爵夫人、長男夫婦、次男夫婦、長女夫婦、そして子供たちも同席します」


 なんと! 一族集合なのか。怖いんだけど。


「長男はアーレンツ保安部隊長トリスタン、長女はロンベルク商会長オフェリアだ。見知った人物もいる、心配するな。もちろん私も行く」


 俺の動揺を察してかミランダが言葉を発する。あ、そうなのね、トリスタンは話しやすいからちょっと安心した。オフェリアは結婚してるのにそういう場に来るのは、この世界、かなり実家の繋がりが深いみたいだね。彼女自身が商会長という理由もあるだろうが。


「子爵家は皆様を大歓迎します、アーレンツを救った英雄ですから。お会いできることを心待ちにしていますよ」


 まあ、現場だったからね。しかし子供たちも同席となると、やはり俺と親交を深める意図があるんだろうな。トリスタンやオフェリアの年齢を考えると子供に同年代が沢山いそう。


「次にコルホル村での新事業として、外側3区に花壇を設置する運びとなりました」

「まあ!」


 おお、ソフィーナの希望が叶うんだね。


「場所は中央区側の城壁前辺り。規模は西区なら、幅2m、長さ50mを通路を挟んで2個所です。住人1軒につき1m×5mの配分となります。辞退する住人の配分は、他の住人へ追加で対応します。種や肥料の購入には助成金を新設、しかし花壇の運用が適切でない場合は停止します」


 ほほう、1m×5mか。1人で世話する分には丁度いい広さかな。それで花に興味がない住人の分は好きな人に任せるワケね。にしても助成金まであるとは、まあ、その代わりしっかりやれと言うことか。


「工事開始時期ですが、北区は城壁拡張工事の兼ね合いで期間を調整中、東区は住人が多いため中央区担当圃場を一部削り面積を確保、その調整に少し時間が掛かります。西区は問題ないため直ぐに取り掛かります。天候によりますが工事期間は5日とみています」


 あー、北区は城壁を作るからその外側の位置になるな。西区は直ぐできるのか、設置場所ってカスペルたちが日向ぼっこしてる辺りになるな。


「植える花は自由ですが、事前に申請が必要です。この管轄は農業ギルドとなり新たに担当を設けますので、詳細はそちらから案内があるでしょう」

「よかったな、母さん」

「ええ、嬉しいわ!」

「子爵屋敷の庭園には沢山の花が植わっています。18日の昼食後に庭師が案内しますので、是非、西区で植える花の参考にしてください」

「それは楽しみです!」


 これはもうソフィーナの心をがっちり掴む流れだな。


「私からは以上です。どうぞ今後ともよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」


 ナタリアは工房を出て行った。


「まあ、花はウチの屋敷にもある。その日の夕食をメルキース男爵の屋敷でとるから、その前に案内してやろう。ああ、夕食とは以前流れた特別契約者の集いだ」

「ほう、屋敷で催すのか」

「その程度行える広間はある。何せ貴族が持ち回りで、晩餐会だの舞踏会だのをやってるからな」

「大変だな貴族も」

「大したことは無い。準備や片付けは家の者が行うからな」


 まあそうだね、ミランダたちは話したりすることがメインだろうし。ただそれが面倒なんだけど、それを言っちゃあ何もできないか。


「クラウスもそのつもりで屋敷を構えるんだぞ」

「ああー、そうなるのか」

「後のことも考えて大きいのにしろ、何せトランサイト男爵だ、国中から来客があるぞ」

「……想像しただけで気が重いぜ」


 ずっと黙っていたエリオットが口を開く。でも確かにそうだね。


「伯爵くらいの城はどう? 父さん」

「はあ!? そんなもん村のどこに建てるってんだよ」

「いや、リオンの言うことは正しい。先のことを考えればそれくらいの規模が相応しいからな。場所なぞいくらでも森を切り開けばいい」

「しかし、かなりの費用になるぞ」

「そんなもんトランサイトの売り上げで2つでも3つでも建てられるぞ、なあミランダ」

「そうだな。まあ最初はそこそこの屋敷でいい、とにかく叙爵するために必要だからな。そこに住みながら城の完成をゆっくり待てばいいぞ」


 そっか、大きな城だと何年も建設にかかっちゃうもんね。しかし、ほんとに作ることになるんだなぁ。


「さて、18日の夕食後だが、そのまま屋敷で風呂に入り客室で宿泊もする」

「はあ!?」


 なんと! 男爵家に泊まるのか! これはちょっと大変なことになった。


「翌朝は屋敷で朝食をとってから村へ帰る。よいな」

「あ、ああ、母さん、リオン、いいか」

「私はいいわよ」

「お、俺も」

「うむ、ではこちらも訪れることを楽しみにしているからな」


 これはもう囲い込みに本気を出してきたな。しかし宿泊となると、間違いが起きる……ことは無いか、流石に。多分こういうことを重ねて、家族ぐるみでの付き合いに発展させるんだな。


「さて、私から伝えることがある、リオンの参加する訓練討伐についてだ」

「あ、はい、エリオット部隊長」

「明日予定している討伐には私が同伴する、2班のパーティメンバーは前回と同じ、クラウディア、ジェラール、マルガレータ、シーラ、そしてリオンの5人だ。進路は新たに作った北端を使う」

「村に更に近い進路ですね」

「うむ、故にEランク上位が多く出る、リオンは遠慮せず共鳴と伸剣を使え」

「え、でも、トランサイトがバレたらマズいのでは」


 共鳴はまだしも、伸剣は明らかに分かる。


「メンバーと同伴の大人にはこう伝える、伯爵から支給された特別な武器をリオンは使っていると、リオンの魔力操作が抜きん出ているため、その使用者に選ばれたのだと」

「……伯爵から支給か、しかしミランデルはコーネイン商会のブランドではないか」

「剣身だけ支給されたとするから問題ない」

「なるほど」


 ほう、そう言う風にするのか。


「無論、他言するなとの指示を出す。もし漏らすようなことがあれば、それは伯爵に対する裏切り行為であり罪は重いともな。ただ意図もせずそれほどのことを知るのだ、協力金も渡す」

「そうか、それなら安心だろう」


 出た、口止め料。貴族はそうやって直ぐに……でも、効果はあるだろう。


「だから気兼ねなく本気を出して戦え、いいな」

「分かった、けど、俺1人で倒してしまっても構わないの?」

「はっはっは! 構わん。魔物も一度に2~3体出るのだ、お前が担当するヤツに時間をかける必要はないぞ」

「そっか、分かった」


 とは言え、伸剣でサクッとやると訓練にならない。いざという時まで使わないでおこう。相手によるけど。


「ところで、前回はクラウディアが無様な姿を見せた。明日は万全の準備をさせるから是非とも期待してくれ」

「……あ、あの、そのことなんですけど」

「なんだ」


 カスペルが言ってた、恐らく極度な緊張で発熱をしたって、つまり俺が原因なんだよな。だからあんまり気負わせないようにしてほしいんだけど、この様子だとまた強く言ってるっぽい。むー、ここはもう、ズバッと言うか。


「エリオット部隊長、そして商会長、はっきり言わせていただきます」

「!?」

「む!」

「おい」


 みんな驚きの表情、だがしかし、ここは言うぞ。


「クラウディアと俺をくっつけようと目論んでいるのでしょうが、それを意識させ一緒にいさせるのは、彼女にとって大きな負担となります。どうか、そういうのは抜きにして、ただのパーティメンバーの一員として、彼女には振るまってもらえないでしょうか」


 うは、自意識過剰なセリフ。これで違ってたら大恥だぜ。


「自惚れるなよ」

「ひぃ」


 ミランダ、怖い。


「……と言いたいところだが、当たりだ。察しの通り、クラウディアにはリオンと距離を縮めるよう伝えてある」

「やっぱり」

「ふむ、そうか、確かにあの子には負担になっていたかもしれん。ただな、リオン、クラウディアは貴族家令嬢、その程度のことで潰れるようではやっていけんのだぞ」

「……そうかもしれませんが、潰れてしまった後では取り返しがつきません。そちらの教育方針に口を出すつもりはありませんが、一緒にいる俺が逆に気を使うので、非常にやりにくいことはお伝えしておきます」


 ……。皆、沈黙。うひー、ちょっと言い過ぎたか。


「分かった、ではひとまず明日、クラウディアの参加は見合わせよう。すまんが4人で行ってくれ。エリオットは予定通り同行する」

「おい、ミランダ、それではクラウディアの面目が立たん」

「エリオットは黙っていろ」


 うひー、この2人、ミランダの力が強いようだ、まあそりゃそうか。


「リオンよ、私には私の考えがある。クラウディアをどう育てるかもだ。ただ、そのことでお前に迷惑をかけたなら謝る。気になって戦闘に集中できんからな」

「あ、いやー、はい」


 むー、どうもちゃんと伝わっていない気もする。俺は普通に一緒に戦えたらそれでいいのだが、育て方まで意見は出来ないしな。


「リオンよ、お前は将来、大きな権力や財力が約束された身だ。その妻にと多くの貴族、いや王族からも、同年代の娘を近づけてくるだろう。私はな、競争相手が王族だろうが引くつもりはないぞ。現に今、一番近くにいるのだ、ならば娘を早いうちから近づけさせるのは当然だろう」

「はい、それはもう」

「……選ぶのはお前だ、私に世話になっているからと気を使うことは無い。だからこそ、クラウディアをお前に相応しい令嬢へと育てて見せる。期待してくれ」

「あ、はあ」


 なんだか違う方向にいってる気がするが仕方あるまい。この話題を引っ張るのはよくないな。


「ではリオン、明日だな。私は行く」

「はい部隊長、よろしくお願いします」


 エリオットは逃げる様に去った。

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