第82話 西区保安部隊
西区の食堂へ到着。
「お、来たな」
クラウスとソフィーナが待っていてくれた。
「保安部隊が挨拶するみたいだぜ」
「え?」
あ、西区の警備か、もう来たんだ。
俺たちがトレーを持って席に着くと、受け取りカウンター前に騎士服の男女が並んだ。あ、3人か。ミランダは2人って言ってたけど、増えたんだね。
「食事中のところ失礼する! 本日よりコルホル村西区に警備として配属された保安部隊の者だ!」
1人が声を上げると食堂は静かになり、3人へ注目が集まる。
「ワシは名をフェデリコと申す、メルキースより参った、年は53歳。今日から6月末まで昼間は西区を警備する。とは言ってもウロウロしてるだけだ。風呂と寝る場所は中央区だが、食事は西区の皆と一緒に食べる。どうぞ気軽に話しかけてくれ」
最初に名乗ったのは、白髪の目立つ短髪に髭を生やした男性。フェデリコか。ニコニコして親しみ易い雰囲気だ。
「俺はアルバーニ、47歳だ。メルキースから来た。フェデリコと同じく6月末までここで働くことになった。魔物が毎日のように来ると聞いているが、我々は対人警備のため一緒には戦えない。その代わり怪しいやつは西区には入れさせんから安心してくれ」
次は背が高く体格のいい男性、アルバーニか。ほー、魔物襲来時は何もしないのね。まあ、あれは住人の仕事だし。フェデリコよりキリッとした印象で、仕事はしっかりやってくれそう。
「私はクラリーサ、45歳、同じくメルキースから来たよ。フェデリコ、アルバーニと交代で休み、西区には必ず2人いる運用さ。まあ3人いる時もあるね。任務は警備だが、日々の生活で困ったことがあれば何でも言ってくれ。解決するよう考えるよ」
最後は優しい表情のおばさん、クラリーサ。警備と言うより見回りって感じかな、話しやすそう。それで3人なのは、誰かが休みの日も2人以上いるようにするためなんだね。
「以上だ、食事を続けてくれ」
フェデリコが告げると、3人はトレーを持って机に散る。ああ、もう今から配属なんだ、そして早速住人と一緒に食事な模様。お、クラリーサがこっちに来る。
「隣り、構わないかい?」
「ええ、どうぞ」
ソフィーナの隣りに座る。俺の斜め前だ。
「あんたがリオンかい」
「あ、はい、そうです」
え、俺を知ってるのか。んー、会ったことあるかなー。クラリーサ……名前にも心当たりはないぞ。
「私の家名はメシュヴィッツ、娘が世話になってるね」
「あ!」
なんと、ララ・メシュヴィッツの母親か!
「娘とはララさんですか?」
「そうだよ、コーネイン商会で働いているんだ。最近あんたの専属になったそうでね、何でも特別契約だとか。若いのに大したもんだよ」
「ああ、いえ、はは……」
「ミランダ副部隊長から話を聞いた時には即答したよ、村に行きたいと思ってたからね。私はフェデリコやアルバーニと違って7月以降も継続する、出来ればそのまま住むつもりさ」
娘の側にいれるもんね。
「ご主人はメルキースなの?」
「いや奥さん、ウチのは防衛部隊さ。コルホル街道の監視所にいる」
ほう、夫婦で騎士なのか、ああ、騎士同士で知り合ったんだね。
「私も昔はあそこにいたんだけどね、子供が出来てメルキースの実家に帰ってさ、それから保安部隊に異動したんだよ」
監視所にいたのか、む、そこで子供が出来た? あそこは寮とかありそうだな、施設が大きいし。では結婚して監視所の寮で授かったというワケか、ふむふむ。にしても身の上をすらすら話すのは、住人と距離を縮める狙いか。
「クラウス、ソフィーナ、我々は特に子供を守るのが任務だ。中でも私は、リオンの側を離れるなと副部隊長より指示された。意識して付きまとうが理解いただきたい」
「……俺はまだアンタを信用してない。従って2人にはさせない」
「ごもっとも。元より両親が近くにいれば私の出番はない。やむを得ず離れる時、任せてくれる日を待ってるよ」
そうか、ミランダの指示か。ララの母親なら一定の信頼感を与えると踏んだのだろう。まあ、よさそうな人だし、クラウスも俺にべったりというワケにもいかんからな。
「これでも対人はしっかり訓練した、魔物より自信はある」
「ほう、なら俺と戦って勝てるか」
「……それで信用してくれるなら」
おいおいクラウス、おばさんとバトルするのか。
「フッ、また今度頼むよ」
「そうかい、私はいつでもいいよ」
俺たちは席を離れた。何この戦闘モードな雰囲気。クラウスは俺のことになると、ちょっと熱くなる時あるんだよなー。まあ、分からんでもないが。親の過保護の域ではない理由が、俺にはあるからね。
家に帰って居間に座る。
「父さん、商会来た?」
「ああ、来たぞ、2つだ。見るか」
提案してきた商会をまとめた紙を机に広げる。
「商会名 契約金 武器費用
スヴァルツ商会 2000万 全額負担
15日 16時30分 オーグレーン支店長、本店店員ステニウス
ユンカース商会 1200万 上限1000万
15日 16時50分 ヘルムート支店長
ルーベンス商会 1000万 上限600万
1200万 上限800万
16日 10時00分 ハーンストラ支店長
エールリヒ商会 1500万 上限1500万
16日 10時30分 ブラウセル支店長(マクレーム支店) 店員バウマン」
おお、続きに書いているね。ソフィーナかな。
「ルーベンス商会は子爵から聞けたんだね」
「そう言ってた。割に上がっていないがな」
ああもう、ヤル気が感じられないね。
「エールリヒ商会って、確か騎士貴族のメールディンク子爵が経営者だね。騎士の使用率では一番多いとこ。ロンベルク商会よりちょっと上だった」
「フローラの話ではそんな感じだったな」
「ちょっと、あの紙持ってくる」
フローラに貰った商会一覧を2階へ取りに行く。
「お待たせ」
騎士貴族商会のシェアはこんな感じだ。
商会 騎士 冒険者
エールリヒ商会 25% 5%
ロンベルク商会 20% 5%
ガイスラー商会 15% 5%
ユンカース商会 15% 5%
コーネイン商会 15% 5%
その他はこう
商会 騎士 冒険者
ルーベンス商会 5% 35%
スヴァルツ商会 2% 10%
カロッサ商会 1% 10%
ブラームス商会 1% 10%
ラウリーン商会 1% 10%
「あと騎士貴族で来てないのはガイスラーだけか」
「ロンベルクは?」
「あそこは来ないだろう、俺に誘いがどれだけ来ようとも、最後にコーネインで決めると踏んでる」
「あー、そっか、仲良くしてるの知ってるもんね」
「まあ、形だけでも来るかもしれんがな」
じゃあ後はカロッサとブラームスとラウリーンか。
「ブラームスとラウリーンは別の町に本店があるから、ちょっと考え方が分からないね」
「そうだな」
もう一度提案内容を見る。エールリヒ商会の武器費用負担は1500万。かなり大きな金額に見えるけど、これもう全額負担と変わらないんじゃ。
「父さん、エールリヒの負担1500万って、そんな高い武器ってあるの?」
「あるぞ。ただそんだけあれば大抵の武器は買える、こっちが追加で出すことも無いだろう」
「やっぱりそうなんだね……あ! も、もし、例の鉱物を希望したらどうなるの」
「おお! ほんとだな、どうなるんだろう」
「スヴァルツ商会が大変なことになるよ」
トランサイト合金となると数十億だぞ。なるほど、そういう想定もして他の商会は上限を決めてるんだ。ただそれも青天井ってのは、スヴァルツの覚悟を感じる。
「あれじゃなくても、こないだのサラマンダー素材でも数千万だ」
「あ、そっか! 魔物はいつ貴重な素材が手に入るか分からないもんね。父さん、サラマンダーの剣を言ってみたら?」
「……あれの素材は取り合いになっているだろう。故に金額も上がってるな。コーネイン商会が確保出来ているなら言ってみてもいいかもしれん」
ほう、クラウスも興味あったんだな。マッドマンティスの鎌をずっと使ってたんだ、強力な魔物素材を試してみたいのが本音だろう。
「お前は昼からどうするんだ? 商会へ行くのか」
「うーん、分からない。商会長が戻ってきたら聞いてみるよ」
「その辺、今後は1日の予定もハッキリさせておくといいな」
「うん」
確かに。一応職人だからね。俺の予定を優先してくれてるみたいだけど、向こうは作ってほしいのが本音だろうし。例えば、そう、1日のノルマみたいのを示してくれればやりやすいかも。
「あ、鉱物一覧を貰って来たよ、剣素材だけど」
紙を見せる。
「ふむ、鉱物はこんな感じだな、はは、ここにあれが加わるのか」
「父さん、俺の武器にシンクルニウムを選んだ理由が分かったよ、先生に聞いたんだ」
「フリッツに様子を見にいってもらったからな、工房で話してたのか。ああ、その通り、お前は剣技が無いからな、それであの魔力操作。多少推奨レベルに足らない影響はあっても、使いこなせると踏んだんだ」
確かに、共鳴40%までならトランサスよりも扱いやすい感じだったからね。
「こんにちは! おじゃまします」
む、誰か来た。机の上に広げていた資料を仕舞う。
「ラウリーン商会の者です、少しお時間構わないですか」
「いいぞ、入ってくれ」
30代の男性が居間に入る。ラウリーン商会か、来ないと思ってたが来たね。クラウスがソファに座るように促すと、彼は立ったまま商会員証を見せ名乗った。
「ラウリーン商会マクレーム支店のカンプラードと申します」
「俺はクラウス・ノルデン、こっちは妻のソフィーナ、そして息子のリオンだ。まあ座ってくれ」
カンプラードはソファに座る。マクレーム支店? 確かメルキースの地名だったね、北部の冒険者養成所がある地域だ。エールリヒ商会もそこの支店長と店員が来てたな。コルホル支店はあったはずだけど、ちょっと遠くから来たんだね。
「先日はサラマンダー討伐お見事でした。ここの冒険者ギルドに戦闘記録を貼り出してあったので読ませていただきましたが、素晴らしい活躍でしたね」
「一緒に戦った騎士たちのお陰さ、俺はたまたま止めを刺しただけだ」
「それでもあの強敵に立ち向かっていく勇気は大変感服いたしました。首を落とすのにもクラウス様の実力が伴ってないと成し遂げることはできません」
ほう、アレフ支所長の記事を見たのか。確かにあれはよく書けている。俺の活躍が全く記されてないがな!
「つきましては、当商会のと特別契約を提案させていただきたく、伺った次第です。恐らく他の商会も来ていると思いますので、早速ですが当商会の条件をお話しさせていただきます」
話が早いな。まあ結局は条件次第だもんね。
「まず当商会で武器をお作りいただき、2年間使って下さい。その製作費用は全額負担させていただきます。使用期間の補修費用も全て商会持ちです。武器製作時には契約金として1500万を用意させていただきます」
「ほう、いい条件だな。しかし全額負担とは大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
おお、来たね、全額負担。これでスヴァルツ商会とラウリーン商会の2つか。ここの上限の有無は本気度を見るのにいい指標だ。つまりラウリーンはクラウスを何としても特別契約としたいんだね。
「魔物素材でもいいのか、例えばサラマンダー」
「!? え、ええ、構いません。ただ、かなりの競争率でして、もう既に高騰しております。ですが、いいですよ。クラウス様がご希望でしたら何としても手に入れて見せます」
凄いな、覚悟が見える。このくらい言ってくれると気持ちいい。
「いつまでに返事をすればいい」
「今月中でしたら構いませんが、サラマンダー素材をお考えなら明日中にお願いします。討伐から素材を加工できる猶予は4~5日が限度ですから」
「だな、なら今日中に決める。どこへ言えばいい」
「ああ、でしたら中央区のルーベンス商会に私はおりますので、そこへ来てください。今夜は村で宿泊します」
「分かった。夕方の鐘、17時30分までに決める」
「承知しました。ではお待ちしています」
カンプラードは去った。ほう、魔物素材の加工できる時間て限られてるのか。確か消えるまでは30日あるはずだが。
「父さん、魔物素材って30日持つんじゃないの?」
「そうだ、しかしそんなに過ぎたら硬度が増してとても加工は出来ない」
「へー、硬くなるの、訓練討伐でガルウルフの角を持ったことあるけど十分硬かったよ、あれより硬くなるってこと?」
「俺も詳しくは知らんが、加工出来る丁度いい硬さがあるそうだ。それは討伐直後が最もいい状態で、時間の経過とともにそれが失われていく。素材にもよるが、4~5日から10日くらいが限度らしい」
知らなかった、そんなのあるんだね。サラマンダーを倒したのが14日の15時くらいかな。今が16日の昼過ぎだから丸2日経っているのか。確かに最短で考えるとあまり猶予はないな。職人の元へ運搬する時間も逆算すると早い方がいい。
あー、そういうことか! 持てなくて森の中に置き去りにした素材って、後から取りに行けばいいとも思ったが、何日も過ぎるとダメになっちゃうのね。なるほど、森の中で他の人が放置した素材をたまたま見つけても、大抵は加工期限を過ぎてるんだ。
角や爪の素材にも鮮度があるってことか。村の環境がいいのは、そういうことも含めてなんだね。直ぐ運べるから。
「どうするの父さん、サラマンダーの剣作るの? それよりコーネイン商会で作るんじゃなかったの」
「コーネインで作るのはもう決めている。これはミランダに見せるため情報を集めているだけだ。サラマンダーの剣は……ミランダ次第だな」
「おお、じゃあ作れるとなるとお願いするんだね」
「まあな」
はは、やっぱり欲しかったんだ。そりゃそうだよね。
「よし、じゃあ、ミランダに会いに行くか! 商会の誘いはこれだけあればいいだろう。すまんがさっきの分も書き加えてくれるか」
「あ、うん!」
俺はラウリーン商会の提案内容を書いた。
「中央区へ行くぞ、武器が直っていればそれの受け取りもあるからな」
「そうだね、俺のブーツは出来てるみたい。武器も昼過ぎには終わるって言ってた」
「そうか、あの素材でも出来たんだな。なら俺のは終わってるはずだ」
カンカン! カンカン! カンカン! カンカン!
む、魔物の鐘! 地上からか。
「母さん行くぞ」
「ええ」
「リオンはカスペルのところへ行け」
「分かった!」
俺たちは家を出る。あ、クラリーサだ。
「私がリオンについていようか」
「クラリーサ、それはいい。この子は隣りに預かってもらう」
「そうかい、じゃあ家の前で待機してるよ」
「好きにしてくれ」
隣りからイザベラが出てきた。
「ベラ、リオンをそっちで預かって欲しい」
「エミーたちがいるから入りな!」
「だそうだ、リオン」
「うん!」
クラウスとイザベラは入口へ向かって、そしてソフィーナは城壁の階段へと走った。
「ここの住人は切り替えが早いね」
「いつもそうだよ、じゃあ俺は隣りに行くね」
「ああ、何かあったら私は外でいるから」
クラリーサに告げてブラード家に入る。
「にーに!」
「リーナ、こんにちは」
カトリーナの突進を緩やかに受け、居間のソファへ一緒に座る。
「カスペルも直に戻って来るはずだよ」
「多分、日向ぼっこしてるからね」
居間にはエミーと子供3人、そこへ俺が加わった。
「リオンは最近中央区へ行くことが多いね」
「え、うん、まあ色々あってね」
「商会と特別契約ならそんなもんだろ、クラウスもその日は近いようだ、最近知らん町の者がよく出入りしとるようだし」
エミーは気づいてたんだね。そりゃそうか、俺の家は西区の最北端、そこへ来る人は必ず隣りを通る。むしろ住人なら多くの人が気づいているよね。でも俺が商会へ頻繁に行ってるのは、特別契約だけではちょっと苦しいな、何かそれらしい理由を考えておかないと。
「おお、リオンもおったか」
「あ、じーちゃん、お帰り」
カスペルが居間に加わった。
「クラリーサだったか、玄関前で立っておったよ」
「あの人らは戦わないんだってねぇ、まあ魔物は人間とは違うから、怪我されても困るわ」
「あのおばさん、元は防衛部隊だったんだって」
「そうなのかい、じゃあ多少はやれるんだろうさ」
エミーは微妙に騎士への不信感があるようだ。ずっと魔物と対峙してきた冒険者にとってはそういう印象なのかもしれない。
「商会の者が食堂でおったぞ、警備の2人と一緒にな。あれはクラウスに会いに行ってたな、そうだろうリオン」
「え、うん、まあ」
「特別契約の案内だろうて、皆そう言っとるぞ。昨日から見ない町の者が何人か来とるからの」
「ああ、はは」
まあバレバレだよね。
「親子共々特別契約とは大したものだ。西区の誇りだわい」
ドンドン! ドドン! ドドン!
勝利の太鼓だ!
「終わったようだの、クラウスが来るまでここで待つか」
「うん」
「たいこー! わーい!」
はは、カトリーナが喜んでいる。これが鳴らされる意味を知っているんだね。
「ところでリオン、体調は戻ったのか。あれほどの相手と戦ったのだ」
「うん、もう全然平気! エナンデルの治療士たちが頑張ってくれたからね」
「城に近いからな、あそこは優秀な人材を構えている。だが何故あんなところにいたのだ? 特別契約者の集いとやらはメルキースではなかったか」
「ああー、コーネイン商会を見て回ってたんだよ、アーレンツ辺りにもあるからね」
「ほう、まあ特別契約者だからの、そんなこともするか」
ほっ、理由を用意しておいてよかった。城に行ってたなんて言えない。
でも正直色々苦しいな。もういっそ、クラウスが叙爵することを公表すれば、どこに行っても何とでも言える。どのタイミングを考えてるんだろう。トランサイト製法を発見したとの名目だよな。となると商会で扱うことが決まった後になるか。
では貴族議会とやらが終わらないと進まないな。25日だから10日後か。それも荒れるとミランダは言っていた。ふう、まあ仕方ないね、段取りというものがある。とにかくまずは護衛の充実が先だね。ひとまず警備が来たけど、恐らく繋ぎだろう。
住人編成と新たな入居者。それが終わってからだから6月いっぱいはかかりそう。




