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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
80/321

第80話 商会の武器職人

「よしじゃあ帰るか」


 受付で外套と武器を受け取りエスメラルダを出る。武器は部屋にいる間や移動中もずっと持っていたけど、食事中はじゃまなので受付に預けていたのだ。


「まあ、小降りだな。一応ギルドで訓練討伐の中止を確認をしておくか。次回の日程も聞いておかないと」

「そうだね」


 中通りを北へ歩く。


「おお、そうだ、スヴァルツ商会のウチへ来た人、名前なんだっけ」

「本店から来た女の人はステニウスよ、支店長はちょっと忘れたわ」

「確かオーグレーン支店長」

「そうだ、オーグレーンだ、よく覚えてたなリオン」

「へへ」

「店の前を通るから忘れてたら聞いておこうと思ってな。ユンカース商会はヘルムート支店長であってるか」

「うん」

「そうね、私もそう聞こえたわ」


 ミランダに、来た人も控えておくよう頼まれたからね。


「ルーベンスはハーンストラ支店長だったよな、リオン」

「そうだね、でも役職分かってるなら名前はどっちでもいいかも」

「あ、そうか、そうだな、ミランダもそのくらい知ってるか」

「でも無いよりはあった方がいいよね」


 人の名前も、覚えるつもりで聞かないと忘れちゃうもんね。


 中通りを横切り西側へ。そこを北へ歩き、冒険者ギルドに到着。


「いらっしゃいませ! 雨ですねー」


 ギルド受付では見慣れない若い女性が出迎えた。あ、昨日、アレフ支所長を呼びに行った女の子だ。年は10代後半に見える。村では見かけない年代だな。


「訓練討伐の日程について聞きたい」

「え、えっと、ちょっと待ってくださーい」


 彼女は奥へ引っ込んで、ほどなくアレフ支所長と出てきた。


「ああ、キミたち、今日は中止だ。次回は明日になる」

「そうか、分かった」

「行くかね」

「もちろんだ、なあリオン」

「うん」


 剣技の解放は大事だからね、なるべく休まず行きたい。でも森の中では護衛をどうするんだろう。前はクラウディアがいたからか、エリオットが同伴してたな。もしや次も来るのか。まあ彼がいるなら安心だ。ミランダもその辺は考えてくれるだろう。


「グロリアちゃーん、ちょっと聞きたいんだけど」

「あ、はーい!」


 む、ギルドの掲示スペースから出てきた男性に若い子が呼ばれた。グロリアっていうのか。向こうのカウンターで対応を始めている。


「あの子は誰なの? 初めて見るわ」

「新たにコルホル支所へ配属された職員だ。私の身内になる、仲良くしてやってくれ」

「ほう、身内か」

「私の姉の孫だ。ここも町からの冒険者を増やすために、受付嬢の若返りを図ったのだよ。どうだ、可愛いだろう」

「受付でギルドを選ばんて」

「いやいや、中にはそういう者もおる。村には年頃の娘も少ないからな、目立つところに置けば人も集まるってもんさ、ほれ、さっきの若い男も朝一で会いに来たんだぞ、雨が降っとるというのに」


 くっ、戦略的人事か。そして効果てきめん。確かに異世界ファンタジーのギルド受付嬢なんて綺麗どころを揃えている印象だ。あのおばちゃんでは若い男性は食いつかない。


「なんでもいいさ、仕事が出来れば。さ、帰ろう」


 まあ外側3区の住人は既婚者が多いからね。娘みたいな感覚だろう。

 中央区を抜け、西区へ続く道を進む。


「リオンは9時に商会だったな」

「うん」

「今8時過ぎか、帰って着替えたらすぐ行く感じだな」

「そうだね、父さんも来る?」

「ああ行く。商会へお前を預けたら、母さんとエスメラルダへ服を持っていくよ」


 そうだったね、あと武器の補修もあるからクラウスも用事はある。

 西区へ到着。


「食堂は完成したようだな」

「みたいだね」


 内装の一部が残っていたけど、それも終わった様子。いや、早かった。


「そーいや、城壁の進み具合はどうなの?」

「分からん。見たところ変わってない気がするな」

「今週中には外側に仮の城壁を作るそうだ」

「フリッツ、仮とは?」

「工事期間中だけ存在する城壁だ。その内側に部屋込みの城壁を建設する」

「なるほどね」


 そっか、城壁の工事個所は一時的に撤去されるから、それだと魔物が入って来て危ないよね。だからその周りを仮の城壁で囲むのか。確か完成は今月中って言ってたな。今日含めても15日くらいしかないぞ。そんな短期間で大丈夫か、鉄骨もあるのに。


「おお、そうだ、商会が来るかもしれないから、俺はなるべく家にいないといけない。フリッツ、すまないが昼からリオンが出掛ける時は、側にいてやってくれないか」

「構わんぞ」


 昼から出掛ける? まあそうかも。多分暇になってウロウロするもんな。

 

 家に帰って居間に座る。


「さ、着替えるか」


 庶民のかなりいい服から普段着へ着替える。ふいー、やっぱりこの格好が落ち着くぜ。いい服だと何するにも、汚れないようにと気を使うから疲れるんだよな。


 ソフィーナも奥から出てきた。脱ぐときも手伝いが必要らしく、クラウスが奥へ行っていた。多分、背中の結び目とかがそうなんだろう。あれは1人じゃできない。


「これでいいわ、父さんも出る時に袋を1つ持ってね」

「おう、任せろ」


 ようやく少し落ち着いたかな。


「しかし、昨日の夜といい、今朝といい、リオンには驚かされるな」

「ずっと黙っててゴメンね」

「いいのよ、あれだけのこと、話すのをためらって当然よ」

「だがミランダの言う通り、未来は明るいぞ」

「うん!」

「しかしこれからは、ここで話さない方がいいかもな。音漏れ防止の結界もないんだ。誰が聞いているか分からない」


 確かに。ミランダは結界の確認までしてたのに、俺たちは無防備過ぎた。西区には人の出入りは少ないとは言え、その西区の住人にも聞かれたらどう伝わるか分からない。用心に越したことは無いんだ。そう考えると、居間で共鳴しまくってたの見られてないんかな。まー、今更、済んだことだけど。


「そうだ、商会の担当者を記しておかないと。リオン頼む」

「来訪時間は大体でいいよね」


 特別契約を提案してきた商会リストに書き加えた。


「父さん、教養として字も書けないとね」

「うぐ、そうだな」

「私が教えるわ」


 字が書けなくても勤まるだろうが、そんな貴族カッコ悪いぜ。


「ところで、ねーちゃん大丈夫かな」

「ああ、そうか、やはり護衛が必要になるな」

「ミランダが手配してくれるんじゃないかしら」

「ねーちゃん、びっくりするね!」

「あれが令嬢か。いまいちピンとこないな」

「ふふ、いい機会よ、しっかり女の子らしくなってもらうわ」


 ソフィーナの目が輝く。これは何か企んでいるな。


「実はね、この間帰って来た時に女の子らしい服を何着か買って持たせたのよ」

「だから中央区でウロウロしてたんだな」

「でも多分、あの子着ないわ。でももう逃げられないわよ」


 くっ、嫌々着るディアナが想像できる。でもあれでちゃんとしたら可愛らしいと思うんだけどな。好きな男の子でも出来れば変わるんだろうけど、異性に興味無いのは仕方ない。


「さあ、じゃあ商会へ行くか」

「うん!」


 再び中央区へ向かう。雨は上がったようだけど、念のため外套を持つ。


 コーネイン商会へ到着。


「いらっしゃいませ、これはリオン様、お待ちしておりました」


 50代の女性店員が出迎えてくれた。メシュヴィッツはまだ来てないようだ。


「俺と妻は用事があるので離れる。後は頼んだぞ」

「承知しました。申し遅れましたが私、支店長のキューネルと申します。商会長が不在の時に伝えることがあれば何なりと申してください。今後ともよろしくお願いします」

「そうか、こちらこそよろしく頼む」


 クラウスとソフィーナは去った。キューネル支店長か。顔は見たことあるけど、役職は知らなかった。こんだけ商会に入りびたってて支店長と話すのが初めてなんて、ずっと商会長が対応してたからね。


「ではリオン様、工房へどうぞ」


 キューネルについて奥へ進む。扉を開けると、あの広間に出た。


「おはようございます、リオン様」

「あ、おはよう、ええと、ハールマンさん」


 シンクルニウムの共鳴変化を考察した30代男性だ。


「リオン様、初めまして。工房長のエリカ・リリエンタールです」

「リオンです、よろしくお願いします」


 40代女性が近寄ってきて挨拶をする。工房長ね。


「ではエリカ、後を頼みましたよ」

「はい、支店長」


 キューネルは去った。工房にはハールマン含めてあと3人いるようだ。奥で作業をしてる。


「では早速トランサイト生産をお願いします」

「はい」


 初めてここへ来た時に座ったソファの前の机に、いくつか武器が置かれている。


「私は初めて拝見します。他の職人も近くで構いませんか」

「ええ、どうぞ」


 リリエンタールが合図をすると、奥で作業してた職人たちがやってくる。ハールマンの他に、20代女性、50代男性だ。年で言うとこっちの人が工房長な気がするが、そこは違うんだな。


 コーネイン商会コルホル支店の工房はこの4人か、休みの人がいるかもしれないけど。確か、他の騎士貴族商会で作った武器も補修を引き受けているんだよね。村ではルーベンスとここだけか。補修だけならこの人員で賄えるようだ。


 これから俺が職人として働く場所、つまり職場だ。そして先輩の職人。おお、ここは、しっかりと挨拶をしておくべきだな。まあ、1本作った後でいいか。


 机から1本剣を取る。大人用だな。鞘を抜き剣身を見る。うむ、トランサスだ。


「ではいきます!」


 キイイィィーーン


「おおっ」

「あらー」


 ちょっと説明を交えてみるか。職人なら気づくこともあるかもしれない。


「今は共鳴30%です。これから徐々に上げます」


 キイイイィィィーーン


 40%、50%、60%……


 なんか久々の感じだな。最後に共鳴したのはサラマンダーに200%だもんな。


 キュイイイィィィーーーン


 70%、80%、90%……


「うわああっ!」

「なんてこと!」

「うはー!」


 キュイイイィィィーーーン


「現在100%です。これより100%を超え、恐らく120%~130%辺りでトランサイトへと変化します。剣身をよくご覧ください」


 ギュイイイイィィィーーーン


「うは、まだ上がるのか!」

「何という鋭い光!」

「……びっくりだわ」


 110%、115%、120%……


 ギュイイイイィィィーーーン


 きた!


「おおおおっ!」

「変わった!」

「今のがそうか!」


 シュウウウゥゥゥーーーン


「ふーっ、終わりました。鑑定をお願いします」


 職人は順番に剣身を見つめて驚きの表情をする。ほー、みんな鑑定が出来るんだ。なんだ、武器職人は鑑定できるのが当然なのか。やはり俺が出来ないのはいかんな、職人として。


「本当にトランサイト合金だわ、あああ、夢を見ているよう」

「ええ、工房長、感動しました」

「ときにリオン様、今日は共鳴速度が遅めに見えましたが、お疲れなのでしょうか」

「あ、いや、皆さんに説明しようと、ゆっくりにしたんです」


 ハールマンはあの日見てたからね、特に剣なんかすぐ終わってたから。


「ええと、皆さん、ここで仕事をさせていただく、コーネイン商会武器職人、リオン・ノルデンです。何かお気づきのことがありましたら、是非ともご教授をお願いします」

「そんな、かしこまらなくて構いませんよ」

「そうそう、ここは裏方だからね、客と接するワケでないし」

「さっきは支店長の手前ああでしたが、工房の仲間同士はそうじゃありませんから。まずは呼び方から決めましょう、私はエリカと呼んでください」


 工房長はエリカ・リリエンタールだったよな。んじゃエリカか。


「はいエリカ工房長」

「ワシはロレンソだ、副工房長な」

「はい、ロレンソ副工房長」


 50代男性、髭を生やしていかにも職人だな。けっこう腹が出ている。


「私はデニス・ハールマン、デニスとお呼びください」

「はい、デニスさん」


 30代前半かな。真面目そうな印象。ちょっと体格は細目か。


「私はプリシラよ、よろしくね」

「はい、プリシラさん、よろしくお願いします」


 20代半ばか、髪は長いが後ろでひとつに束ねている。活発な印象だな。


「たまにメルキースから応援の職人が来たりするけど、基本的にこの4人で回してる。まあここは補修だけだからね。それでリオンへの仕事の段取りは、商会長や支店長から私に伝わるようになっているよ。いつでも気軽に聞きにおいで」

「分かりました、エリカ工房長」


 エリカは40代半ばか。ちょっと体格がいいな。力ありそう。


「今日は昼までそこの机の上のをやれるだけ頼むよ。メシュヴィッツが出勤してきたら飲み物を持ってくるはずだ。休みながらゆっくりでいいよ」

「はい」

「さ、みんな作業に戻っておくれ」

「おう」

「はーい」


 ふふ、いい雰囲気の工房のようだ。よかった。んじゃ、2本目いきますか!


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


 ふーっ、やっぱ剣は早い。先に剣をサクッと終わらせるか、あと2本あるな。


「……リ、リオン、あんた、それが本気かい」

「はい」


 エリカ工房長が目を丸める。


「分かった、続きを頼むよ」


 あんまり飛ばして急激に魔力を落とすと危ないな、10分は空けるか。


 とは言っても、座って待つだけもつまらんな。おー、そうだ、何か資料があれば勉強になる。工房にあるのかな。でもみんな集中して作業してるから聞きづらいな。メシュヴィッツが来てからでいいか。


 ……。


 そろそろ3本目いくか。


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


 ふーっ、できた。もう変わる瞬間がハッキリと分かるぞ。


「飲み物をお持ちしました」

「メシュヴィッツ、すまないね。みんな、休憩だ」


 エリカ工房長が声を上げて皆がソファに座る。ああ、ここは職人の休憩スペースだったのね。しかし、職人は自分たちでお茶を入れないのか、多分廊下のどこかに給湯室的な場所があるはずだ。今日は俺がいるから違うのかな。


 さっきの2本の剣をエリカ工房長が鑑定をする。


「あらまあ、ほんとにトランサイト合金だわ、大したもんだよ」

「あの伝説の素材がもう3本か、はははっ!」

「ほんと凄いわ、これ1本いくらするのかしら。メシュヴィッツ、どう思う?」

「そうですね、今なら100億じゃないかしら」

「いや150億、いやいや200億だわい!」


 ロレンソが声を上げる。まあ言い値だからね。


「あの、皆さん、ちょっと聞きたいのですが、共鳴変化の休憩時間に、何か読む資料などはありますか。ただボーっとしてるのも何なので」

「おいおい、リオン、休憩なのに勉強か、まあそれはいいとして文字は読めるのかい」

「はい」

「お前さん何者だ」

「8歳の子供です」


 ロレンソが絡む。このおっさん、話すの好きみたい。カスペルっぽいな。


「でしたら鉱物一覧はどうでしょう。お客様にお見せする用に店内にあるのですが、ほとんど使われていないので」

「いいね、メシュヴィッツ、すまないが持ってきてくれるかい」

「はい」


 席を立った彼女は工房を出る。


「あ、そうだ、俺の武器はどうなっていますか」

「ミランデルだね、あと少しで終わるよ。ブーツは仕上がってるから午後には渡せると思うよ」

「そうですか、工房長。トランサイトでも補修は変わりなくできたのですね」

「いや、最初は手こずったぞ。まずはトランサスと同じ様にやってみたが、やはりそうはいかんかった。でも直ぐやり方が分かったぞ」

「流石ですね、ロレンソさん」

「しかしな、魔石の消費が2倍だぞ。流石は伝説の鉱物だわい、はっはっは!」


 ほほー、そういう違いがあるのか。


「お待たせしました、リオン様こちらです」

「ありがとう、ララさん」


 メシュヴィッツが1枚の羊皮紙を机に置いた。うひょー! これはいい! 武器に使う鉱物の詳細が書かれてるぞ! こういう一覧表、大好きだぜ!


「これはいいものですね」

「よろしければ差し上げます」

「いいんですか?」

「はい、商会長には、何でも応えるようにと仰せつかっておりますので」


 じゃあ、ありがたく貰うぜ! これは興奮する。


「では皆さん、食器を下げますね」

「ああ、頼むよ」

「すまないね、今日、後は自分たちでやるから」


 あ、何だ、やっぱり今回だけか。俺がいるからだったのね。


「あんたは明日、デートかい」

「え、あ、はい」

「いいねぇ、若い子は」


 む、メシュヴィッツはデートをお断りしてるんじゃないのか。あ、先約があったのか。しかし、村で一体どこへ行くんだ。中央区で食事や買い物くらいか。ああいや、2連休だったな。メルキースまで行くのかな。と言うことはお泊りか!


 食器を載せたトレーを持って彼女は工房を去った。


「さー、じゃあ、みんなやるよ」

「はーい!」

「おおう!」


 職人は作業台に散る。よーし、俺もやるぜ!


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


 ふーっ、これで剣は終わったな。あ! 俺の代替武器、トランサイトにしてしまっても構わんのだろうとか言いつつトランサスのままだ。これはいかん、次でやってしまおう。

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