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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
序章
8/321

第8話 フリッツ

 朝だ。外は真っ暗、昨日からの雨もまだ降り続いている。1階に降り両親と挨拶を交わす。


「今日は雨だから仕事は無しだ。納屋で調整する野菜も無いからな」

「じいちゃんとこでお話聞こうかな」

「昨日言ってたわね、スキルのお話聞きたいって」


 1日張り付くのはさすがに向こうもしんどいから半日くらいにしようかな。


「そうだ、雨が上がったらになるが礼拝堂にお祈りにいくか」

「多分隣りも行くわね、伝えておかないと」

「朝飯の時に言っとくよ」


 この村での様子しか分からないが、この世界の人には宗教的な日常の行動はない。食事前に神に祈るだとか、決まった時間に同じ方角を向いてひれ伏すだとか、家の中に神棚や仏壇も見かけない。


 ただ1つ、大体1カ月おきに礼拝堂でお祈りをする。礼拝堂は中央区の中心付近に位置し、この世界の創造神を祀っているそうだ。


「まだ早いが朝飯行くか」

「ええ」


 3人で食堂に向かった。


「結構いるな。まあ雨だからな」

「よーう、クラウス!」


 食堂の半分ほどに人が入っている。俺たちを見つけるとランメルトが声を掛けてきた。


「おまえは酒残ってないのか」

「あんぐらい平気だぜ」


 そうだ、昨日男連中は北区から貰った酒を飲みまくってた。多分昨夜にうちに空になったはず、みんな酒強いのね。まあそれなりに人数いるから1人頭飲める量は知れてるか。


「雨が上がったら礼拝堂に行くつもりだが、そっちはどうする?」

「行くよ、クラウスたちが先に行けばいい。帰ったら教えてくれ」

「分かった」


 なるほど、浴場に入る時の要領か。ある程度は西区内に人数いないと魔物が来たら困るもんね。それで今日は雨で畑に出られないため他の住人も考えてることは同じになる。


 あ、カスペルだ。


「おや、おはようリオン」

「じいちゃん、おはよう! ねぇ今日またお話聞きに行っていい?」

「おおいいぞ、朝食終わったら来るかい?」

「うん行く」


 よし、カスペル確保。


「みんなー朝食の準備できたよー」


 受け取りカウンターの向こうから料理人が声を出す。それを聞いてみんな一斉に並んだ。


「俺たちも行くか」

「うん」


 まだ朝の鐘が鳴るまで10分くらいあるけど朝食用意できたんだ。雨の日はこうなるの知ってて早めに取り掛かっていたらしい。


「これ猪の肉ね」

「おー昨日の俺がやったやつか」


 ほんとだ、朝からボリューミーな肉料理なのね。いつもの席で口へ運ぶ。うまい! 猪って初めて食べたけど何もクセとか感じない。この世界の猪がそうなのか、いやそこは料理人の腕だろう。


 ゴーーーーーン


 朝の鐘が鳴った。


「さあ帰るか」

「俺、帰りにそのままじーちゃん家に行くね」

「そうだな、行ってこい」


 食堂を出ると雨は降ってるが小降りだった。空は雲で覆われていて薄暗い。


 おや、梯子に登ってる人が、あれが浄水士か! ほうほう何か開いて穴の中を見ている。頭上には(ひさし)があるから雨は当たらないのね。お、首に下げてる物を手に取って穴に入れたぞ、水の精霊石か。


 左手で梯子を持って右手は穴の中に入れたままだ。しばらくすると右手を穴から引き抜いて穴の蓋を閉めて梯子を降りてくる。もう終わりか、あ、降りてきた人と目が合ってしまった。


「あの、いつもお水ありがとうございます」

「へ? まあ、仕事だからね」


 20代前半かな。髪が長くて女性のような顔立ちだったけど声を聞くと男性だった。


「おーい、トイレの水が流れねーぞ! 早くしてくれ」

「はいはい、ただいま」


 隣の家から水の催促が来たので、浄水士の青年は隣の梯子を急いで登った。


 浄水士か、天気関係ない仕事で時間厳守だから結構大変だ。給料はいいのかな、安定はしてるし拘束時間も少なそう、加えて危険も無い。いや梯子から落ちるかもしれないな。あとこの村は魔物もよく来る。試験とかあるって昨日ソフィーナが言ってたな、どんな試験だろう。


 そんなことを考えながらブラード家に向かう。


「おじゃましまーす」

「あら、早いのねリオン。じーちゃんかな?」

「うん」

「もう帰ってくると思うけど」


 ブラード家を訪ねるとイザベラがいた。カスペルまだ食堂か。


「にぃに?」

「おはよう、リーナ。ベラおばちゃん、じーちゃんと約束したからここで待つね」

「うん、いいわよ、さ、リーナ」


 寝起きっぽいカトリーナが洗面台へ連れていかれる。ランメルトが帰ってきた。


「ふー食った、ベラ交代だ。おやリオン来てるのか」

「おっちゃん、じいちゃんは?」

「あーフリッツとなんか話してたな」

「フリッツ?」

「あーエドヴァルドくんのおじいさんだ」

「そっかー」


 エドヴァルドから聞いたことある、厳しいおじいちゃんだって。


「じゃリーナ連れて食堂行くね」

「おう」

「そっか、3人一緒に起きるとは限らないもんね」

「ん? ああ、そうだ。アルマとギルは隣の部屋でまだ寝てるだろ、ばあさんが一緒にいるよ。まあ今日は雨だからな、朝もゆっくりだ」


 3人小さいと大変だなー。祖父母同居はそういうところで頼りになっていいね。


「おおリオン待たせたな」

「じいちゃんお帰り、今来たとこだよ」


 俺とカスペルは2階へ上がった。


「今日は何を話そうか」

「えっとね、スキルの話」

「スキルか! お前はもうそんなことに興味があるのか、ああ、洗礼じゃったな」

「来週だって」

「そうか8歳か。それでスキルかー、そうだのうー、ワシもそれなりに話はできるがもっと詳しい人がいるからそっちに聞いてみるのはどうじゃ?」

「もっと詳しい人?」

「フリッツだ、エドヴァルドとミーナのおじいさん」

「あー」

「さっき食後に話しておったのだ、リオンがとても勉強熱心とな。だからフリッツからも何か教えてやってくれないかと」


 う、ちょっとカスペルを拘束し過ぎたかな。孫だからって調子に乗ってたかも。


「もしかして、じいちゃんにくっつき過ぎてたかな、ごめんなさい」

「いやいやワシはいいんじゃ。ただもっと詳しい人の方がお前もためになるだろうて。それにフリッツは指導者でもあったから教えるは上手だぞ」

「へー凄いね! 学校の先生?」

「そんなところだ。でどうだ? 午前中は家にいるそうだぞ、ワシも一緒に行ってやるから」

「うん、じゃあフリッツさんのとこ行ってみる!」

「よし決まりだな」


 より詳しい人がいるならその方がいいかな。教えるのうまいみたいだし。


 そして俺はカスペルと一緒にフリッツの家へ行った。ブラード家から4軒隣りだ。


「おじゃまするよ」

「お、カスペルじいさんか、フリッツかい?」

「そうだ、リオンに話をしてもらおうと思ってな」

「ちょっと待ってな」


 エドヴァルドの父親だ。奥の部屋にフリッツを呼びに行ったみたい。すぐに白髪多めで短髪の男性が出てきた。背が高いし年の割に体も引き締まってる。


「早速来たな、2人共そこへ座ってくれ」

「おはようございます、リオンです」

「エドヴァルドがいつも世話になっている、おおい、エド!」

「はーい!」


 俺がソファに座るとフリッツに呼ばれたエドヴァルドが奥から出てきた。


「お前も一緒に聞きなさい」

「はい」

「じゃワシは帰るよ。リオン、クラウスには言っておくからな」

「うん、お願い」


 カスペルは去った。


 居間には俺とその横にエドヴァルド、向かいにフリッツが座っている。エドヴァルドも一緒なのは変な感じ、先生と生徒みたいだな。しかし話はしてあったとはいえ、いきなり来て構わないのか。


「フリッツさん、突然来てしまってすみません」

「いやカスペルから話は聞いてる。家にいると伝えていたしな、歓迎するぞ」

「ふふ、リオンと横に座ってるの変な感じ」

「俺もだよ」

「そうだなついでに、おーい! アルベルト! お前も来い」

「え、俺もか、俺はいいよ」


 奥から顔を出したエドヴァルドの父親が答える。アルベルトって言うのか。


「どうせ雨で休みなんだろ、座れ」

「いや俺は用事があって、ちょっと出てくる」

「今思いついた感じだな」

「じゃ、リオンごゆっくりー」


 アルベルトはそそくさと出て行った。なんか居づらい雰囲気になってしまったかな。そこへアルベルトと入れ替わるように1人の女性が入ってきた。


「おじゃましまーす! あ、ほんとにリオンがいるわ」

「母さん」

「エリーゼは2階だ、上がるといい」

「は、はい、失礼します」


 びっくり、ソフィーナが来るとは。そう言えばエドヴァルドの母親とお花友達だっけ。俺がいることを知ってたのは帰りのカスペルと会ったのかな。


「リオンよ、今朝の猪はどうだった? 父の仕留めた獲物だろう」

「はい、とてもおいしかったです」

「クラウスはいい剣士だな」

「はい、とても強い、頼りになる父です」

「キミはとても落ち着いているね」

「そうでしょうか、まだまだ物を知らない子供です」

「フッ、なるほど頭のいい子のようだ」


 なんだなんだこの男は、やりにくいなぁ。これは迂闊なことは喋れない。


「それで何を聞きたい?」

「スキルについて教えてください」

「スキルか、いいだろう」


 それから10分くらい話を聞いていると2階から誰か下りてきた。ソフィーナとエドヴァルドの母親エリーゼだっけかな、あとミーナだ。


「リオンがどうしてウチにいるの!」

「ええと、フリッツさんにお話を聞かせてもらってるんだよ」

「えー! おじいちゃん早く言ってよ!」

「ああすまん」

「わ、私も聞く! ちょっと待ってね!」


 ミーナは廊下の奥に消えていった。一緒に降りてきたソフィーナとエリーゼはやや驚きの表情で彼女を見送り外へ出て行く。ソフィーナは扉を閉めながら俺を見て笑顔で頷いていた。


 ミーナが出てきた、髪がちょっと濡れてる?


「お兄ちゃん、ちょっと避けて」

「うん……」


 そう言いながら俺とエドヴァルドの間に入る。


「ミーナがワシの話を自分から聞きたいとは珍しいな」

「リオンが一緒だからじゃないかな」

「へへ……」


 あ、昨日風呂でケイスが言ってたこと思い出した、ミーナが俺のこと好きなんじゃないかって。そうか、さっき消えたのは鏡を見に洗面所に行ってたのか。かわいいねぇ。


 さてフリッツの話を再開したのはいいが、ちょいちょい俺にミーナが聞いてくる。


「リオン今の分かった?」

「うん、基礎スキルが土台となるスキルで、そこから派生するスキルは種類が多くて人によって色々あるんだ。例えば走るのが得意な人が3人いて、1人は短い距離を速く走れるけどすぐへばっちゃう、もう1人は速くはないけど長い距離をずっと走れる、もう1人は水の入ったコップを持ってこぼさずに走れる。みんな同じ走ることが得意だけどちょっと違うよね」

「あーそうかー分かった!」

「その例えいいな」

「ほうリオンは人に教えるのも上手なようだ」


 こんな感じでフリッツの話したことを俺を通じて反復する具合だ。だからその都度ストップする。俺としては一気に色々聞きたいところだがフリッツへの確認も含めてこれでいいか。


「さて今回はこの辺にしておくか」

「はい、ありがとうございました」

「これはスキルでも基本中の基本だからな。そこから先はまたの機会に」

「あのフリッツさん、先生と呼んでいいですか」

「好きにするがいい」


 立ち上がるとミーナが聞いてくる。


「ねぇリオン、今度いつ来る?」

「ええと、ちょっと分からないな」

「私がいる時に来てよ」

「えー、エド、ちょっと」

「はは、でも今日のおじいちゃんの話はよく分かった、リオンのお陰だよ。僕もまた一緒に聞きたいな」

「まあ時間が合えば、じゃあね」


 そそくさと家を出る。別にまた一緒に聞いてもいいが逆に揃わないと聞けないのは困る。フリッツはとても詳しいのでできれば回数をこなしたいからな。


 そうフリッツの話はとても整理されていて手際がいい。最初の印象ではちょっと苦手な感じだったけど話を聞く分にはカスペル以上の効率の良さだ。


 カスペルは人柄もあって話しやすいんだけど、昔話が長かったり曖昧な表現だったり若干ループする時もあったりで、時間の割に内容が薄い気がする。いや全然それでいいんだけど。話してくれるだけでありがたいし。


 一方フリッツは指導者だった経験だからか内容の濃い時間に感じた。思わず先生と呼ばせてもらうほどに。ただエドヴァルドとミーナはついて行くのは大変そう。エドヴァルドはまだ慣れてるっぽいけどミーナは分からないまま聞いてる可能性がある。


 あ、そうか、分かった! これ学校の授業と考えると足りないものがある、黒板とノートだ。ずっと話を聞いてるだけだから想像し辛いし見直すこともできない。そういやこの村で紙をほとんど見ないな。ファンタジー世界なら羊皮紙か、恐らく貴重品なんだろう。


 そう気づくと書き留めるものが欲しくなってきた。せっかくフリッツの授業を聞いても忘れてしまっては勿体ない。今日は中央区へ行くはずだから、その時に紙を売ってるか見てみよう。あっても高い気がするけど。


 家に帰るとクラウスとソフィーナ、あとアルベルトだっけ、エドヴァルドの父親がいた。


「よう、リオン、じゃましてるよ」

「おじさんいらっしゃい」

「お前は親父の話をよく聞けるな、俺なんか1分も持たないぞ」

「ははは、もうちょっと頑張れよ」


 クラウスが笑う。アルベルトはクラウスと仲いいのか。そういや、たまーに家に来てるの見たことがある。


「レーンデルス教官は厳しかったからな、俺が町の冒険者養成所にいる時にかなりしごかれたんだよ」

「教官?」

「養成所のみんなに戦い方や魔物の知識を教える先生さ、かなり厳しくて恐れられていたんだぞ。ゼイルディクでも有名な鬼教官だった」

「へー」


 クラウスはフリッツの教え子なのか。


 ゼイルディクとはここから一番近い大きな町だ。そこの冒険者ギルドは規模が大きく、養成所もいくつかあって育成段階から力を入れている。町自体も冒険者が暮らしやすい環境が整っているらしい。姉のディアナが学校に通うため寮暮らしをしているのがそのゼイルディク。


 この村の住人の多くがゼイルディクの養成所出身の冒険者だそうだ。クラウスはもっと遠い町の出身だが、養成所に入るためにゼイルディクに来たらしい。ソフィーナもランメルトも同じ養成所出身なんだって。


「教官の教え子はここにも何人かいるぞ。西区に来た時にまさかの教官がいて青ざめたそうだ。もちろん俺も」

「俺が養成所に行く年には親父は教官辞めてたから、実際にちゃんと教えてもらったことないけど大体想像つくよ」

「もしかしてじーちゃんと一緒に村へ来たのかな」

「ああ、フリッツはカスペルと同じ最初の西区の住人だ」


 ならコルホル村の歴史をフリッツから聞き直してもいいな。両方言ってることが同じなら多分合ってるし、違うならどちらかが記憶違いをしている可能性がある。


「親父にその頃の話を聞くと、野菜を育てる環境では無かった、だそうだ。つまり魔物の相手ばっかりで畑仕事もできない、育った野菜は収穫前に魔物に踏みつぶされる、だとよ」

「今よりも多かったって聞くな。そういやリオン、雨あがってるよな、お祈り行かないと」

「うん」

「そうだったわ準備するわね」

「ウチは昼から行く予定だな、それじゃお暇するよ。リオン、ミーナをよろしくな!」


 アルベルトはいい笑顔で去っていった。


「リオン、アルんとこの娘と仲いいそうじゃないか、同い年だろ、大事にしろよ」

「ええと、まあうん」


 クラウスがそんな話題とは意外だな。


「ミーナちゃんいい娘よねリオンとお似合いよ。さあ行きましょ」


 ソフィーナもそんなこと言う。この世界では早いうちから恋愛経験を積ませるものなのか。


 そして俺たちは中央区へと向かう。雨はすっかり上がって晴れ間も見えていた。

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