第71話 サラマンダー
「リオン、2本目をいけるか」
「はい、商会長」
もうだいぶ前からいけるんだけどね。
「では弓を頼む」
剣で共鳴を見せたからしなくていい気もするが。何か考えがあるのだろう。
席を降りて弓を構える。今度はミランダに囁かれなかったな。
あれ、事前の鑑定はいいのか。
「鑑定はいいのですか」
「済んだ後でいい」
じゃ、やるか!
弓は弦にも魔力を流す。
キイイィィーーン
キイイイィィィーーーン
キュイイイイィィィーーーン
「100%です、これより変化を試みます」
ギュイイイイィィィーーーン
「ふーっ、終わりました、成功です」
「グラーツ」
「はい……トランサイト合金です」
「おおーっ」
「もう2本目か」
詳細の鑑定はいいのか。
「今、成功と言ったが、失敗することもあるのか」
「今のところ全て成功しています」
「ほう、大したものだな」
失敗と言うのが何を指すのか分からん。変化するまでやるからな。あー、もしかして200%を超えを必要とする武器なら失敗になるかも。それより先は未知数だ。ただ、試験素材含めて、どうも110%~130%辺りで変わってるから、それも無さそうだけど。
椅子に座りミランダが机に押し込む。今度は待ってくれた。
「男爵、そちらの弓もお貸しします。性能はお伝えした通りです」
「速度増加だったな。弓は適性も75と高い。トランサイトは弓が最も需要がありそうだ」
「おっしゃる通りです」
あ、もう色々と伝えてあるから鑑定はいいのか。それに詳細鑑定を俺たちが聞く必要性は少ない。帰った後でもいいね。
「では先程の続きを話すとしよう。費用、価格、報酬についてだ」
来た!
「トランサイト合金を生産するためには、トランサス合金が必要となる。これは商会ごとに自前で用意させ、一旦城へ集める。それをコーネイン商会が村に持ち帰りトランサイトに変え、再び城に持ってくるのだ。そして各商会に引き渡す」
そっか、まずは普通にトランサス合金の武器を作ってもらうんだね。そこにかかる費用は、もちろん各商会持ちか。
「その引き渡す際に、加工費用を徴収する。当面は1本2000万程と考える。そこから仲介手数料として伯爵家へ500万、運搬手数料としてコーネイン商会へ500万、リオンへの報酬として1000万を計上し、これらは全て伯爵家で管理する」
ほほう、その様なマージンを取ることにするのか。何か煩雑な気もするが。あー、でも売る商会からしたらトランサス合金費用+2000万でトランサイト合金が作れるから、かなり安い調達費用となるか。
「販売金額は店が独自で決めることになる、それは相手方との交渉次第だな。そして販売が完了したら価格の60%を税金として徴収する。40%は店の利益だ。それで税金の60%のうち30%は伯爵家へ、あとの30%はリオンの報酬とする」
お、フリッツの予想に近いな。しかし、がっつり取っていくね。……いや、逆に60%で抑えたとも取れる。うーん、こういうの適切な割合が分からん。
「ここまでで質問や要望はあるか」
「加工費用2000万は安すぎると思いますが」
「それを最低と考えている。リオンの体調管理が最優先だからな。辛くなってきたら、加工費用を大きく引き上げて本数を抑える予定だ」
「なるほど、承知しました」
「毎日、城と村を行き来する担当を設ける。それに何でも言ってくれ」
ふむふむ。俺の体を気遣ってくれるのはありがたいね。
「トランサイト取扱商会や運用方法については、5月25日からの議会にて話し合い採決を取る。議題の事前告知は19日となるから、その時にはトランサイトの存在が貴族中に知れ渡ることとなる。無論その製法や職人については明かさない」
「承知しました」
今日が14日だから5日後か。村に噂で流れてくるかな。
ところで伯爵家で預かる俺の報酬はどうなるの、ミランダ攻めてくれよ。
「では、リオン・ノルデン、お前の処遇についてだ」
きた! そっか、叙爵の話が終わってから切り込むんだな。
「これは父上、お願いします」
「うむ」
あいや、まだその話と決まったわけではない。実際にいくらか売れてからかもしれんし。
「リオンよ、その偉大なる功績を称え、叙爵することを提案する。爵位は男爵だ」
うわ、来た! いきなりだな。
「はい、ありがとうございます」
「やはり想定していたか、では8歳のお前は貴族となれないことも知っているな」
「はい」
「では、クラウス・ノルデン」
「はい!」
「息子、リオンに代わり、15歳の誕生日まで、その爵位を預かることを承諾するか」
「はい、喜んでお受けいたします」
「既に覚悟は出来ておるようだな」
ミランダの言う通り話が早い。事前の作戦会議は大事だったね。
「しかし、そう直ぐ受けられるものでもない、ジーク、頼む」
「はい、父上。叙爵にはウィルム侯爵の承認が必要だ。その調査に長い時は1年かかる。ただ、今回は功績が明確であるため1~2カ月であると推測される」
ほー、侯爵に決定権があるのね。さすがサンデベールのトップだ。
「叙爵が決まっても様々な手続きや新たな住まいの建設に早くても半年はかかる」
「新たな住まい? とは、何でしょう」
「無論、屋敷だ。クラウスの場合はコルホル村が領地となる。そこへ建設が完了しなければ叙爵は行われない。費用は全く問題ないぞ、何しろトランサイトの報酬があるのだからな」
え、でも伯爵家で掴まれるんじゃ。
「男爵、伯爵家で管理するならクラウスは使えないのでは」
「預かるのは伯爵家だが、その間もノルデン家が自由に使えるものとした。リオンへの報酬なのだ、使えて当然ではないか。ただ本人の口座に入れるとあまりに高額で目立つため、伯爵家で預かるのだ」
「そこまでのご配慮を感謝します」
ほーん、婚約と引き換えにとかじゃないのね。よかった。
「ただ、使うのはいいが、派手な使い方は出所を勘ぐられる。よく考えることだな。無論、屋敷建設の頃には叙爵の周知はなされている、大手を振って使うとよい」
「承知しました」
随分と想定より緩いな。ミランダが戦うところを見たかったかも。
「伯爵、そして男爵、本当に色々と考えてくださり、ありがとうございます」
「クラウスよ、ここまでするのもな、実はコーネイン商会長の働きによるものだ」
「私ですか」
ほう、ミランダが。
「あなたはトランサイトの製法発見から今日ここに至るまで最短で繋いできた、あのシンクライトを含めてだ。これは伯爵家との信頼関係において極めて重要な意義がある」
「ありがとうございます。しかし、その流れは貴族なら当然ではないですか」
「……とぼけたことを申すな。隠したりごまかしたり遅らせたり、本来の報告義務を怠っている事例はよく知っているだろう」
「さあ、私は存じかねます」
「……まあいい。とにかくメルキース男爵家の評価は上がった。侯爵にもその旨伝えるからな」
「ありがとうございます」
おおー、ミランダやるじゃん! あの午前中に商会で話して、その夜にあれだけ集めたのは凄かったよ。段取り大変だったろうに。ちゃんと評価されてよかったね。うん、やっぱり上下関係は深い信頼の元に成り立つ。ウソやごまかしは悪い方にしか行かない。
あれ、嘘やごまかし。俺、ミランダに隠してることいっぱいある。
どうしよう。信頼関係にとって重要だよな。……でもなー。
大人の記憶と英雄の力はフリッツに相談してから決めるか。
「ところで、クラウス。貴族となるには様々な準備が必要だ。教養、礼節、嗜み」
「はい、習得出来るよう努力します」
「まあそう硬くなるな。私は35歳、聞けばお前も同じではないか。同じ男爵として教えられることは多くあるぞ、気軽に聞きに来い」
「……それは、心強いお言葉です」
「そう言えば商会長も年は同じだったな」
「はい」
「是非とも協力してやれ」
「もちろんです」
バイエンス男爵も35歳か。同じ剣士として話が合うんじゃないか、この3人。
「さて、リオン、槍を頼めるか」
「はい!」
ミランダが椅子を引くと、円卓の上の槍を持ち渡してくれた。
槍は身体強化しないと構えが安定しない。よっと!
「ではいきます」
穂身へ直接魔力を送るイメージだ。
キイイィィン
よし、じゃあやるぞ。
キイイイィィィーーーン
キュイイイイィィィーーーン
ギュイイイイィィィィーーーーン
「ふーっ、終わりました」
槍をミランダに渡し椅子に上がる。彼女が椅子を押して円卓に近づけると、グラーツの鑑定する声がした。
「トランサイト合金です」
「うむ、リオン、見事であった」
「もう3本目なんて、その生産速度も素晴らしいわ」
「これは、兄上たち、来なかったを悔やみますね」
「あの者たちは構わん。武器にはさして興味が無いのだ」
あ、他にも兄弟がいるのか、そりゃそうだよね。
おー、確か、次男か、浄水士の子爵がいたような。
「男爵、その槍もお持ちください」
「やはりこの3本はそのつもりで用意したのだな、ありがたく試させてもらう。この槍の魔素伸槍だったか、あれも興味がある。槍使いが増えるやもしれんぞ」
「シンクライトもお持ちください」
「なんと、レア度4だぞ、いいのか」
「持ち帰っても鑑定不能なのです、ここで調査いただいた方が効率は良いと考えます」
「確かにそうだが」
おおう、それも置いて行くのか。
「シンクライトの試験素材を用意できましたらお持ちします。それも調査していただければありがたい」
「なんだ、そういうことか、いいだろう」
あー、なるほど、情報はくれと。
「さて、予定より時間が少し過ぎてしまったな、ここまでとするか」
「はい、父上」
1時間半くらい経ったか。17時に宿は、ぎりぎりってとこだな。
「さあ、皆の者! ますはゼイルディクの宝、リオンを称えようではないか!」
パチパチパチ……。
「貴族となる覚悟を決めたクラウスにも!」
パチパチパチ……。
「リオンを生み育てたソフィーナにも!」
パチパチパチ……。
「ここまで中心となり事を進めたコーネイン商会長にも!」
パチパチパチ……。
大きな広間に拍手の音が響く。皆、満足げな表情だ。
「うむ、ゼイルディクは安泰だな……」
伯爵が特に緩んだ面持ち。ただ、その瞳はどこか力が無いように感じだ。
「では、城を出ます。本日はお招きありがとうございました」
ミランダが代表して礼を告げ、広間を後にする。
「あ、俺の護衛とかどうなるか言ってなかったね」
「家令なりがまた伝えるだろう。毎日誰かしらは城の者が村へ来る」
「そうみたいだね。あとどうも俺たちは村で居ていいみたい」
「その様だな、ソフィーナの花壇もできそうだぞ」
「ええ、報酬は自由に使っていいのよね」
「まあ、資金の出所はそうでも、名目は子爵の指示とするだろう」
そうだね、じゃあ子爵にも事情を伝えないと。でも住民からしたら子爵が急に花に目覚めてどうしたのかと思われちゃう。
「宿には間に合いそう?」
「少々は遅れても構わん。17時30分の食事に間に合えばそれでいい」
「あ、服装はこのまま?」
「どっちでもいいぞ、お前たちが決めろ」
「……うーん、時間も無さそうだしこのままで」
「クラウスとソフィーナもいいか」
「ああ、構わない」
「分かったわ」
俺たちの荷物は別館で保管してるので、それを回収し馬車へと乗り込んだ。
「お前たちはもうしばらく城には来ることは無い」
「いやー、そうでなければ身が持たん、ははは……」
クラウスはすっかり疲れた表情だ。頑張ったね。
堀の橋を渡り切り、大きな城門を抜け、町の通りへ馬車は入った。
「レア度4を鑑定できる人がいたのはびっくりだよ」
「私も初めて見た。ゼイルディクにはもう1人いるそうだがな」
「へー」
それでも2人かー。かなり限られた人にしかできないんだね。
「私の独断でシンクライトを伯爵に預けてしまったな、すまない」
「ううん、商会長の言う通り、試してもらう代わりに情報を貰うのでいいと思うよ。俺たちじゃ鑑定できないんだから」
「そのため試験素材も近く作ることになる。ただ、ゆっくりでいいぞ」
「多分、共鳴に慣れたら大丈夫。まずはその訓練になるけどね」
試験素材さえ作れば量産は後でいい。そのくらいは何とか作る、せっかくの新素材なんだ、気になるもんね。
いやーしかし、疲れた。共鳴3回はそうでもないけど、あの場は独特の緊張感があったからね。解放されるとどっとくるぜ。
行きに見た景色をどんどん過ぎていく。この辺りからアーレンツに入るな。ふふ、流石にみんな疲れたんだね。話すこともなく外を見ている。でも心地よい疲れ。やりきった達成感だ。
カカン! カカン! カカン! カカン! カカン!
魔物の鐘! 応援要請だ!
「なに!? 馬車を止めろ!」
ミランダがドアを開け御者に叫ぶ。
「武器を持って降りろ!」
「はい!」
座席の後ろに置いてあった各自の武器を持ち馬車を降りる。
「あれか!」
見上げる空には黒い影がいくつも見えた。
「魔物……! こんな町中に」
ソフィーナが押し殺したように呟く。
周りの馬車はみな止まり、御者と搭乗者は俺たちと同じように空を見上げる。通り沿いの建物からも多くの人が出てきていた。
「おい! ありゃ何だ!」
「ドラゴンだ! でかいぞ!」
「おおい、こっちへ来るんじゃないか」
「みんな逃げろーっ!」
通りに出ていた人が、今度は一斉に姿を消す。
魔物の群れの向こうから、大きな翼を有した巨体が一気に近づいてきた。
バリバリバリ! ドオオオン!
100mほど先、その魔物は通り沿いの建物に突っ込んだ。
「あれは、サラマンダー!」
「何!?」
「ドラゴンよりも上、Aランクの魔物だ」
ガアアアアアッ!
咆哮を上げたその魔物はとてつもなく大きい。破壊した2階建ての建物から上半身が見える。頭までは20mはあろうか。その巨体は真っ赤な鱗で覆われていた。
ブオオオオオッ!
魔物は頭を地上へ向け、口を大きく開くと、そこからは炎が噴き出した。
あっという間に辺りは火の海となる。
「リオン! フリンツァーの馬車に乗って城へ向かえ!」
「え……」
いやいやいや、逃げようよ。あんなの、もはや魔物じゃない、怪獣だ。人間が戦ってどうこうなる相手じゃないよ。
「キミたちは冒険者か! あなたは確か」
「北西部防衛副部隊長、ミランダ・コーネインだ」
「そうだったな、これは失礼! 私は南アーレンツ保安部隊、副部隊長アントニオ・ホルデイクだ。あれの討伐に協力してくれるな」
「もちろんだ」
次々と通りに騎士が集まって来る。普段着で武器を持った人は冒険者か。
「さあ行け! リオン!」
「行くんだ、ここは任せろ」
「逃げるのよ」
「え、えと……」
ブオオォォーーーッ! ドズンッ!
「うわああっ!」
熱風が吹いたかと思うと、次の瞬間、大きな地響きが。
「おい!」
「ぐ、くそ……」
「こっちに来たか!」
地響きの主は俺たちを飛び越え背中を向けていた。長い尻尾が目の前まで迫っている。
ブンッ! ドガアアアン!
「ぐはっ!」
「があっ!」
長い尻尾を通りに滑らせ周りの建物を破壊する。その軌道にいた何人かの騎士が吹っ飛んだ。
魔物の正面はこちらを向き、後ろ足だけで立ったその巨体は見上げる高さだ。
ゴガアアアアッ!
耳をつんざく咆哮を上げると前足をつき頭を地面に近づける。
「いかん! サラマンダーの脇へ走れ!」
ミランダの声に皆、一斉に駆け出す。
ブオオオオッ!
サラマンダーは口を開き炎を吐いた。
「ぐあああっ!」
「熱いぃぃぃー!」
何人かの騎士が巻き込まれて火だるまとなった。
「このまま切り込む! 魔法と矢は頭を!」
ホルデイク副部隊長だったか、彼の声に騎士が応える。
ガインッ! ズバッ! ドシュッ!
サラマンダーの体に剣や槍、矢と魔法が一斉に浴びせられた。
ガアアアアッ! ブオオオオッ!
「!?」
「退避―!」
「うわあああっ!」
俺は何かに吹っ飛ばされた。そして地面に打ち付けられ少し転がったようだ。傷む体を堪えて立ち上がり周りを見渡す。多くの人は地面に横たわり動かない。立っているのは数人だ。
何が起きたんだ。
「父さん!」
「……リオン、無事か」
片膝をついているクラウスを見つけ歩み寄る。服が焼け焦げ、肌は赤くなっていた。
「ヤツの体から炎と熱風が発生したようだ」
「え!?」
サラマンダーを見る。多くの傷を負い、その再生を待っているのか動かない。
目が合った。
『オマエを、殺す』
ゾクッ! 物凄い殺気を全身で受けて震えが来る。ダメだ、勝てない。
「リオン、クラウス、無事か」
「商会長……あ!」
ミランダの顔半分は大きな火傷を負っていた。
「片目でも問題ない、ソフィーナは向こうで倒れていたが息はあったぞ」
「母さん」
ミランダが見た方向に、ドレス姿で矢筒を背負った女性が見えた。ゆっくりと起き上がっているようだ。よかった、生きてる。
グルルル……。 ドンッ!
サラマンダーは後ろ足で立ち歩みを進める、こっちに来るぞ。
「ヤツを仕留めるにはリオンも戦い、首を落とすしかない」
「でもどうすれば、伸剣でもあの高さは無理だよ」
「距離を取れば頭を低くし炎を吐く、その時だ。ただ直下まで接近するため、仕留め損ねたら先程の熱風でやられる。1撃で終わらせるんだ、いいな」
「そんな、俺……体中痛くて、動けないよ」
「身体強化すれば体は動く! このまま焼かれたいか!」
ミランダは目を剥き声を張り上げた。
「今、ヤツを倒せるのはお前だけだ、トランサイトを信じろ」
「……分かった、やるよ」
ミランダは小さく頷く。
「クラウスはリオンと共に行け」
「分かった」
そう告げるとミランダは立ち上がった。
「皆よく聞け! 合図をしたら動ける者は切りかかり、一太刀浴びせたら南へ走るんだ!」
「……近づくと焼かれるぞ」
「……切って走るの?」
「……そんなんで勝てるのか」
騎士が集まって来る。皆、どこかしらに火傷、そして打撲を負っていた。
「まだ我々は戦える! ゼイルディクの騎士は魔物に屈しない!」
「おうそうだ、やってやるぜ」
「このまま死んでたまるか」
「騎士の誇りを見せてやる」
皆の目に光が満ちる。こんな状況で諦めてないんだ。
グルルル……。 ドンッ!
サラマンダーがどんどん近づいて来る。
「今だ! 切ったら南へ!」
「うおおおおーっ!」
「えええーーーい!」
「はあああっ!」
10人程の騎士が突っ込む。次々と足や腹に剣と槍を突き立てた。
グゴオオオッ!
「走れ!」
騎士たちは通りを南に走る。それを見てサラマンダーは体の向きを変えた。
「うまくいったな、あとはリオンだ、頼んだぞ」
バタッ
「商会長!」
ミランダは倒れて目を閉じた。
「大丈夫、リオンなら出来る」
「分かった……父さん」
やるしかない、身体強化! そして共鳴だっ!
「はああああっ!」
キュイイイイイィィィーーーーン!
いけるところまで上げるぞ!
ギュイイイイイイィィィィーーーーン!
サラマンダーが前足をついて頭を地面に近づける。火を吐く体制だ。
「行くぞ!」
「うん!」
俺とクラウスは首を目掛けて走る。
ギロッ! 目だけがこっちを見た、気づかれたぞ!
ええい、行くしかない!
ブオオオオッ!
「なっ!」
サラマンダーの体から熱風が! 熱い、これでは近づけない!
「ここからでも届く! リオン、やれ!」
「うわああああっ!」
ギュイイイイイイィィィィーーーーン!
200%! 伸剣は10mだ、いける!
スパン!
手応えあり、やったぞ!
いや、浅いか。骨までは少し到達したが、首を落とすほどの深さではなかった。
「ハァハァ……ダメだった」
「まだだ!」
クラウスは剣を構えて集中している。剣身が揺らめいた。
サラマンダーは頭をこっちに向け、口を開ける。くそう、焼かれる。
ズバン!
頭に矢が突き刺さる。ソフィーナ!
ゴガアアアッ!
サラマンダーは矢が飛んできた方向に、口を開けたまま頭を向けた。
「おりゃあああっ!」
ズバンッ! ドスン
次の瞬間、サラマンダーの首は胴体から離れ地面に落ちた。
「ハァハァ……やった」
クラウスの剣から放たれた斬撃波は、俺が負わせた傷口に切り込み、そのまま首を裂いて突き抜けていた。
バタッ
「父さん!」
クラウスは崩れるように倒れた。
「おおおおっ!」
「サラマンダーを倒したぞ!」
「やったあああああっ!」
南へ走った騎士たちが帰って来る。俺はそれを見たのを最後に意識を失った。




