第66話 鑑定不能
朝だ。居間に下り、クラウス、ソフィーナと挨拶を交わす。
「今日は特別な日になるな」
「そうだね、伯爵と会うんだもん」
「私、どうしたらいいのかしら」
「商会長がうまくやってくれるよ」
「そうね、任せるわ」
昨夜は色々盛り上がったけど、俺たちでは適切な判断が分からない。ここはもうミランダに頼るしかないな。そうやってどんどん依存して取り込まれていくのか。まあ仕方ない、力あるのもは遅かれ早かれこういう道だ。
「朝の訓練行くか」
「うん」
クラウスと城壁へ。いつものメニューをこなす。
「ふーっ」
「お疲れ、次からは1回の本数を増やすか」
「そうだね、ちょっと余裕出てきたから」
「ところでルーベンス商会の武器はどうする」
「あ、忘れてた! シンクルニウムだよね」
今日か出来上がるの。
「いつ頃取りに行けばいいの?」
「9時くらいに馬車で届くらしい。その時間はコーネイン商会にいるから、ちょっと抜けて行けばいいんじゃないか」
「そっか……あれも共鳴変化の可能性あるんだよね」
「フリッツはそう言ってたな」
シンクルニウムもトランサスみたいに共鳴で別の鉱物に変化するかもしれないんだ。フリッツの知り合いが文献からその情報を見つけたとか何とか。
「商会長に相談してからにするよ、もう俺は職人だからね、検証するにしても勝手にやったらまずいだろうし」
「それがいい、もうお前の力はむやみに使うものじゃない」
そう、能力の行使は責任とお金。
ゴーーーーーン
朝の鐘だ。食堂へ行く。
「おい、お前たち、今日は町に行くそうじゃないか」
「そうだよメルおっちゃん」
食事中の席にランメルトが寄ってきた。
「特別契約者の集いとか何とか」
「そうらしいね、俺もよく分からないけど」
西区の世話人には商会の催しと伝えてあるそうだ。1日外出扱いだからね。
「それでクラウス、いくら貰ったんだ?」
「あん?」
「契約金だよ、契約金! 商会から貰ったんだろ」
「まーな、額は言わん」
「ちぇー、まあ大体想像がつくけどよ。いいなー」
「お前も強くなれば貰えるぞ」
「はは、よく言う。西区で可能性あるのはアルベルトくらいじゃねぇか」
ほう、アルベルトが。
「アルベルトおじさん強いの?」
「ああ、強い。西区では1番だ」
「へー」
これは意外。と言ったら失礼か。だらけてる様に見えて実力はあったんだね。そこはフリッツの血を受け継いだ部分もあるんだろう。
「明日は申請討伐だからな、朝はいつ帰って来るんだ」
「分からん」
「そうか、まあ準備はしておくよ」
ほう明日か。メルキースに宿を取るから、朝をそこで済ませたとしても、9時までには帰って来られるだろう。契約金の収入があったとは言え一時的だ、日頃の稼ぎは続けないとね。ランメルトとイザベラは行かないといけないし。
「メル兄さん、契約金、私からいくらか回すわ」
「いやいや、ソフィ、それはいい」
「リオンもお世話になってるから、ね」
「え、うーん、そうだね。おっちゃんのお陰だよ」
「はぁ? 俺が何かしたか」
ランメルト……うーん、あ、そうだ!
(ダークイーグルの一件でおっちゃんが倒したことにしたでしょ)
(確かそうだったな)
(あれはとても助かったんだ、だからお礼)
(そ、そうか)
小声で伝えた。フリッツがそうしたって言ってたもんね。
「いやでも、それで金を貰うってのもな」
「明日、申請討伐の出発が俺たちのせいで遅れるんだ、その埋め合わせもさせてくれ」
「うーん、まあそうかあ」
「いいのよ、受け取って」
「分かった! ありがたく頂戴するぜ」
ランメルトは申し訳ないような嬉しいような表情で去って行った。
あぶく銭みたいなもんだ。身内だし、分け合っていいよね。
「イーグルの件ならカスペルにも分けないとな」
「そうだね、最初はじーちゃんが倒したことにしたんだし」
カスペルも世話になってるからな。
「ならランドルフやフローラもだな」
「そうだった、特にフローラさんはとってもお世話になったからね」
「金でいいのか分からんが」
「確かに、ちょっとびっくりしちゃうよね」
うん、ストレート過ぎて逆に気を使わせてしまう。
「せっかく町に行くんだから、何かあげられるものを探したらいいんじゃないかしら」
「そうだね、喜びそうなもの、きっとあるよ」
家に帰って居間に座る。
「8時に商会だったな、そろそろ行くか」
「そうだ、口座確認しないと、紙とペン持っていくね」
3人で中央区へ向かう。
「順調に増えてるか、見せてみろ」
「うん」
前に確認した時、クラウスは見張り台だったからね。
「5月6日 新規開設。
5月7日 入 5,000 残 5,000
本人より素材売渡。
5月7日 出 500 残 4,500
コルホル支所へ運搬手数料の支払い。
5月8日 入 9,300 残 13,800
騎士団より討伐報酬として。
5月8日 入 9,975 残 23,775
メルキース支部、騎士団より素材売渡代金として。
5月9日 入 8,400 残 32,175
騎士団より討伐報酬として。
5月9日 入 10,400 残 42,575
メルキース支部、騎士団持ち込みの素材売渡。
5月9日 出 1,040 残 41,535
メルキース支部へ運搬手数料の支払い。」
「いいな、冒険者らしいじゃないか」
「へへ」
「おお、魔石な、あれは素材に含まれてるって聞いたぞ。ただ、訓練討伐だと運搬手数料が引かれてるそうだ。少しだけどな」
「普通は引かれないの?」
「ギルド窓口で討伐証明に出すだろ、その時は引かれないんだよ」
ふーん。魔石って討伐報酬の10%だよね、そんで手数料は更に10%、うん、まあ少しだね。どの道そういうシステムなら何も言えない。
冒険者ギルド横の口座管理所に入る。
「ご用件は?」
「10日からの口座確認です、自分で書きます」
冒険者証を渡す。
「では手をその板の上へ……はい、いいです、少々お待ちください」
職員は奥へ消えて1分ほどで戻る。
「そこのインクをご利用ください。では取引履歴を読み上げます」
「5月13日
入10,000,000 残10,041,535
コーネイン商会より特別契約金として。
5月13日
入 17,820 残 10,059,355
騎士団より討伐報酬として。
5月13日
入 30,380 残 10,089,735
メルキース支部、騎士団持ち込みの素材売渡。
5月13日
出 3,038 残 10,086,697
メルキース支部へ運搬手数料の支払い。
以上です。他にご用件は?」
「ないです。ありがとうございました」
羊皮紙、羽根ペン、冒険者証を持ち窓口を離れる。
これはひどい、暴力だ。ちまちま貯めてたのに何だよもう。
「出てきたな、見せてみろ」
クラウスとソフィーナが顔を寄せ合い確認する。
「はは、大金だな」
「うん、でもなんか実感が無い」
「そうだろう、訓練討伐の稼ぎは魔物と対峙した証、全く別物だ」
クラウスの言う通りだね。同じお金なんだけど。
「あ、素材が高い気がするんだけど、どうして?」
「ほんとね、2万くらいになるはずだけど」
「何が出た?」
「ヘルラビット、ラスティハウンド、キラーホーク、ウルヴァリン、エビルアント」
「ウルヴァリンだな、あれの爪が高いんだよ。あとエビルアントの甲殻も多く残れば金になる」
「へー」
確かにあいつの爪は危険だった。それだけに価値もあるのか。おー、確かカスペルもウルヴァリンの爪は高いと言っていたな。
「Eランク上位が多いな、キラーホークをよく子供たちだけで倒した」
「あれは大人も参加したよ、じーちゃんも弓撃ってた」
「なんだそうか、じゃあエビルアントもか」
「アントは俺が止め刺したよ、2体」
「……まあその武器なら体を切り裂けるか」
そうだよ、共鳴したトランサイトは切れ味が凄いんだ。思い出すと音が違う。ジェラールはズバッ、だけど、俺はスパン。どんどん刃が入っていくからね。
そういやフォレストタートルは唯一、弾かれたな。あれって相当硬いんだね。100%なら甲羅ごとやれそうだけど、そんなことしたら目立つ。
商会に到着。
「おはようございます、お待ちしておりました。商会長を呼んでまいります」
メシュヴィッツが出迎えると奥へ消えた。ええと、名前はララだっけ、毎日いるな。休みはいつなんだろう。
奥からミランダが出てきた。
「先に服を見る、付いて来い」
商会を出て通りを歩く。
「商会長、契約金確認しました、ありがとうございます」
「お前の価値には全く見合ってないがな」
「俺も妻も確認しました、ありがとうございます」
「好きに使うといい」
ほどなく服屋っぽい店に入った。
「いらっしゃいませ、コーネイン商会長」
「昨夜伝えた件だ、この者たちが着る」
「準備出来ております、ソフィーナ様はこちらへ」
店員に案内されソフィーナは奥へ消える。もう名前も教えてるのね。
「クラウス様はそちら、リオン様は私と来てください」
「はい」
女性店員について個室に入る。4畳ほどか。
「失礼します」
あっという間に服を脱がされ、下着だけに。いやん。
「こちらになります、お着せしますね」
「いや、自分で着れます」
シャツとズボンだ。そんくらいできる。
「寸法はいいですね、直しは不要です。こちらもどうぞ」
「はい」
ジャケットを羽織り鏡を見る。ほう、いい映りじゃないか、そりゃ服屋だもんね。
「いいですね、靴下と靴も履いてください」
そういやほとんどブーツばっかり履いてた。違う靴履くの久々だ。
「靴は少し大きいようですね、こちらはどうですか」
「……いい感じです」
「そうですか、では以上です。元の服にお着替えください」
着てきた服に戻り、合わせた服を持って出る。
「終わったか、先に商会に戻るとしよう」
ミランダと店を出る。
「出発まで共鳴をしてもらう、いいな」
「分かりました」
商会に入り奥の部屋へ。一昨日入った広い作業部屋だな。
「ではまず弓を頼む」
メシュヴィッツが机の上から武器を持ってくる。
「では取り掛かります」
弓を構えて魔力を送る。
ギュイイイィィィーーーン
「ふーっ、終わりました」
ソファに腰かける。
「体調は変わりないか」
「はい」
「昨日は、クラウデイアが失礼をした」
「あー、いえ、その後、どうですか」
「もう熱は出ていない」
「それは良かったです」
ほんとに一時的なものだったんだね。極度な緊張か。
「次回また同じ班になる、よろしく頼む」
「分かりました」
あ、そうだ、シンクルニウムのとこ聞こう。
「商会長、ひとつ提案があるのですが」
「なんだ」
「俺がルーベンス商会で作っていた武器がもうすぐ届きます」
「そうだったな、トランサイトより良ければ使うがいい」
「え、特別契約じゃないんですか」
「本契約はするが、元々名目だ。お前がいいと思う武器を使うといい」
あらら、なんだそれ。まあ、俺が商会に入りびたる理由みたいなもんだからな。
「ミランデル保守のためにここへ来る必要があるので、引き続き使いますよ」
「それだと作った武器が不要だな、いいだろう買い取ってやる」
「ああいえ、そう言うことではなくて、シンクルニウムなんですよ」
「なるほどな、魔力操作が長けているお前に相応しい。だがビュルシンクたちの会話で聞いただろう、トランサイトは全てにおいてシンクルニウムを上回る」
「はいそうです」
そうなんだよな。だから使う必要が無くなった。
「2本目いいか」
「あ、はい」
メシュヴィッツが再び弓を持ってくる。やっぱ適性いいからか。
「いきます」
ギュイイイィィィーーーン
「ふーっ、終わりました」
ソファに座る。
「おお、いたな」
クラウスとソフィーナが部屋へ入って来た。
「寸法はどうだった」
「俺は裾を少し直すくらい」
「私は腰回りを少し」
「うむ、思った通りだな、ここを出るまでには仕上がる。それまでそこで座っていろ」
2人がソファに座る。
「商会長、シンクルニウムなんですが共鳴をしてみようと思うんです」
「共鳴? 何故だ……まさか」
「はい、トランサスの様に、共鳴で別の鉱物へ変化する可能性がありそうなので試してみたいのです」
「そんなことは初めて聞いたな。メシュヴィッツ知っているか」
「いいえ」
「あれ、そうなんですか、文献にあると聞いたのですが」
同じ文献を見てるはずだから気づいているとフリッツも言っていたが。
「思い当たる話はあります」
近くで作業をしていた30代男性が声を上げた。
「ハールマン、申してみよ」
「はい、その昔、ジルニトラという強大な魔物が町を襲い、それを1人で倒したという英雄ブラスの話です。彼が使っていた武器がシンクルニウムだったと記録には残っています」
「それなら知っている、その記録は間違いと結論が出たこともな」
「確かに、Aランクのジルニトラを相手にシンクルニウムの剣で戦うのは不釣り合いです、適性も低いですし」
英雄ブラスか、そして魔物ジルニトラ。もしかして彼自身がめちゃくちゃ強かったのでは。
「その英雄ブラスが武器性能以上の強さだったのでは?」
「ならば尚更相応しい武器を選ぶだろう。だから記録の間違いだと」
「確かにそうですね」
ふむ、不思議だな。
「私はその話に興味がありまして、関連する文献をいくつか調べたのです。それで結論付けたのは、本当に英雄ブラスはシンクルニウムの剣で戦っていたのではないかと」
「ほう、何故そう思う」
「彼に近かった職人の記録を追っていると、シンクルニウムの剣をブラスに与えたと何度か出てくるのです。そう毎回名前を間違えるとは思えません。尚且つその職人の出身地はトランサイトを作ったとされる職人と同じだったのです。私は同一人物と考えます、年代も近いですし」
おお、調べるの頑張ったんだね。熱を感じるよ。
「しかし戦力として無理があるのは事実だ」
「それが興味深い記述を見つけまして、ジルニトラの首を飛ばした裂空の刃は剣から放たれたと」
「それも聞いたことがあるな、しかしそれは剣技や風魔法と言われているぞ」
「はいそうです、何故なら剣からそのようなものは出ませんから。ですが、トランサイトは記録の通り伸びます。ならばシンクルニウムは……」
なるほど、記録を信じるんだな。今の常識で違うものに置き換えずに。
「分かった、何のことは無い、試せばいいだけだ。いいぞリオン、お前の作ったシンクルニウムで共鳴試験することを許可する」
「はい、では9時に到着するはずなので取ってきます」
「ああいい、俺が行く」
クラウスは出て行った。
「では3本目頼む、次は剣だ」
「はい」
キイキュイギュイイイィィィーーーン
「ハァハァ、終わりました」
3連続はやっぱり疲れたな。
「はは、お前は本当に凄いな。剣の共鳴は見るたび進化している」
「ハァ……慣れましたから」
「返事はいい、休め」
……。
魔物ジルニトラか。歴史に残るくらいだから怖ろしい魔物だったんだな。
「商会長、ジルニトラとはどんな魔物ですか」
「Aランクの魔物だ、ドラゴンに似た外見をしている。そうだな、ワイバーンの2倍の大きさと思っていい。その巨大な翼で暴風を巻き起こし、口からは火を吐くという」
「ひええ」
「実はな近年目撃例がある。ウィルムの西、遥か山奥だがな」
「え、近くにいるんですか」
「魔物も動いている、ここの森の開拓を続ければ、いずれ出会うかもな」
ワイバーンよりヤバいやつか。ドラゴンもうそうだけど、森って奥には怖ろしい魔物がいるんだなぁ。
「武器、出来てたぞ!」
「父さんお帰り」
机に武器を置く。
「抜いていいですか」
「構わん」
注文した通りの鞘から武器を抜く。ほう、剣身は銀色、他の色見は全く無いな。ジェラールが武器をくれなかったら、これが俺の最初の武器だったんだ。
「鑑定していいか」
「はい、もちろん」
メシュヴィッツが剣身を見つめる。
「シンクルニウム合金
切断:221
斬撃:222
特殊:魔力共鳴
定着:3年3日23時間
製作:ルーベンス商会 剣部門」
「成分は見えませんが恐らくシンクルニウム70%ほどでしょう」
「それなら、控えを貰って来た。70%で合ってるぞ」
ほう、斬撃等の値から多少は読めるんだな。
「ではリオン、頼む」
「はい」
シンクルニウム合金、初めて握るな。共鳴の感じはどうなんだ。
……魔力を流して探る。ふむ、トランサスと似ている気がする。
キイイィィン
できたっ!
「おおっ!」
「まあっ!」
「流石だな」
光の感じは同じだけど、色見が無い真っ白な光だ。
共鳴の感じは、むしろトランサスよりやりやすいかも。
キイイィィーーン
20%、30%、35%、37%……
あれ? あんまり上がらないぞ、なんでだ。
キイイイィィィーーン
39%、40%、41%……
ぐぬぬ、何故だ、同じような共鳴ではダメなのか。
シュウウゥゥーーン
「40%あたりか、それが限界だな」
「あ、はい」
ミランダは分かっているみたいだな。
「貸してみろ」
「あ、どうぞ」
ミランダが構える。共鳴させるのか。
キイイイィィィーーン
おお、やるな。
「これで30%辺りだ。いいか、シンクルニウムは40%辺りから魔力制御が極端に難しくなる。通す魔力の感じをよく見るんだ」
「はい!」
キイイイィィィーーン
40%、41%、42%……
「おお……」
43%、44%、45%……
凄い! 俺が上がらなかった所をすんなり超えた。
キイイイイィィィーーーン
49%、50%、51%……
なるほど、魔力の大きさは同じだけど感じが違う。
シュウウウゥゥーーン
「ハァハァ、どうだ、分かったか」
「何となく掴めました」
ミランダから武器を受け取る。
「ハァハァ、言葉では、伝え辛いが……狭くなる感じだ」
「やってみます」
キイイィィィーーン
30%、35%、40%……
ここからだ、狭くなる感じか。どういうことだ。
狭いの反対は広い、広い魔力、魔力の広さとは、幅?
幅……幅が広い、狭い、うーむ。
最初は広いが狭くなる、何だ?
網目はどうか、穴が大きい、小さい。いや違うな。
魔力で考えるんだ、魔力の違い。大きい小さいではない違い。
そうだ、魔力波長測定器! あれは何を測っているんだ。
魔力波長、波長、波、波の長さ、波の大きさ……
そうか! 分かったぞ!
電波みたいな周波数だ。あれを調整する感じで、そう、ラジオのチャンネルを合わせる感じだ。周波数を変えて聞こえるところに合わせるんだ。
キイイイイィィィーーーン
……。
……。
きた! これだ!
キイイイイィィィーーーン
50%、60%、70%……
「おおおおっ!」
「掴んだか!」
「凄いわ!」
キュイイイイィィィーーーン
80%、90%、100%……
「いけました、100%です。では変化を挑戦します」
ゴクリと唾をのむ音が聞こえる。
この魔力の感じで、変化共鳴の魔力に変えるんだ、できるか。
ギュイイイイィィィーーーン
できた!
102%、105%、107%……
くっ、魔力が吸われる。
110%、113%、117%……
まだか、ええええぇぇぇーーい!
ギュイイイイィィィーーーン
120%、125%、130%……
!? 来た、来たぞ!
「おおおおっ!」
「今、変わった!」
「こっ、これは……」
シュウウゥゥーーン
バタッ
「ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ……」
「お、おい、リオン!」
「大丈夫か!」
……。き、きつい。
「なんとか……意識はあります」
クラウスが抱き上げてソファに寝かす。
「何もしゃべるな」
「……」
「急速な魔力の枯渇だ、しばらく休めば問題ない。よくやったな」
ミランダの言葉に小さく頷く。
「メシュヴィッツ」
「はい!」
あの感じ、トランサイトに変わるのと同じ、一気に剣身が強くなった。きっと、シンクルニウムじゃない何かに変わったはずだ。
「……あ、あの」
「どうした」
メシュヴィッツは怯えたように言葉を絞りだす。
「鑑定不能です」
「なんだと!?」
「え!」
「まあ!」
鑑定不能! と言うことは、レア度4以上確定か! うひょーっ!
「ハールマン!」
「はい!」
先程シンクルニウムの話をしていた職人が呼ばれる。彼も鑑定できるのね。
「……鑑定不能です、間違いありません」
「何と言うことだ」
メシュヴィッツが再び読み上げる。
「鑑定不能
切断:鑑定不能
斬撃:鑑定不能
特殊:鑑定不能
定着:3年3日23時間
製作:ルーベンス商会 剣部門
以上です」
ほほう、鑑定できないのは全部じゃないのね。定着と製作は見えるのか。
「……これは、参ったな」




