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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
64/321

第64話 伯爵からの招待

「アタシもリオンと同じ班だったって将来言うよ」

「私は村まで同じだったんだから」

「はは、好きに言っていいよ」

「そうだ、だから今は心に留めておいてくれ」

「うん」

「分かった」


 エリオットの計らいだろうが……そうか、Eランク上位が出やすい午後の最北進路を選んで、自らも同伴したのは俺の力を見定めるためか。昨日の商会にも彼はいて、俺の共鳴を見て知ってる。おまけに武器はトランサイト。実戦での様子を確認したかったんだ。


 剣技無しについても近いうちに伝えるか。絶対不思議に思ってる。


 ほどなく監視所に到着。台車を降りると商会の馬車が来ているのが目に入った。

 エリオットが側に来て告げる。


「午前はヘルラビット5体、ラスティハウンド2体、報酬はクラウディア含めて5等分だ。午後はキラーホーク1体、ウルヴァリン2体、エビルアント2体とする」

「ホークには大人が矢を撃ちましたが」

「止めはリオンだ、他の3人も戦った」

「はい、分かりました」

「次は3日後の予定だ、またギルドで確認してくれ、では解散」


 エリオットは城壁へと去った。


「じゃあ3日後ね、お疲れ様ー」

「うん、お疲れ」

「ばいばーい」

「またね」


 ジェラールとマルガレータに手を振り、シーラと商会の馬車に乗り込む。カスペルとベルンハルトも続いた。


「お願いしますー」

「階段を上げてくれ」


 奥には商会関係者と思わしき男性が2人座っていた。


「上げました」

「よし、では行ってくれ」


 彼が御者に告げると馬車は街道を村へと走り出した。時間は16時20分か。帰ったらギルドに報告して商会へ行かないと。


「どうだ1日いた感想は」

「やはり長いですね」

「だがそれだけ稼げるぞ、なあシーラ」


 ベルンハルトの問い掛けに彼女はこくこくと頷く。

 そうだね、午前だけの2倍だもん。


「今日は色々あって少な目だけどねー」

「そういう日もあるさ」


 まあね、毎回同じだけ稼げる補償はない。

 とは言え、1日中が続くとそれなりにキツいのでは。


「連休前は3日連続だったから疲れたでしょ」

「ううん、楽しかったよ」

「へー、訓練討伐好きなんだね。シーラは冒険者になるの」

「そのつもりだよ」

「ふーん」


 シーラならきっとうまくやっていけるよ。


「じーちゃん、久々の森はどうだった?」

「ほっほ、十分楽しめたぞい、ホークに矢も当たったしの」

「うん、ズバッっと決まってたね」

「あの距離で外したら、もう弓は持てんよ」

「確かに」

「ははは……」


 カスペルも満足したようでよかった。


「村でいると長い距離を歩くことも少ないからな、いい運動になるだろ」

「おまけに帰りは荷物持ちだからの、やれやれ年寄りをこき使うわい」

「あの程度の荷物、冒険者時代は毎日運んだろう」

「そうだがの、はは、思い出すわい」


 あの森はまだ進路がはっきりしてて歩きやすいけど、実際の森は歩くのも大変だしね。それを素材を抱えてなんて、ほんと冒険者はたくましい。


「おおそうだ、今日行った進路の更に北に、もう1本進路を作っとるそうだ」

「ほう、では訓練討伐に使うのか、更に魔物が強くなるの」

「村と進路の間の魔物は誰が倒してるの?」

「騎士や冒険者だ、最近は冒険者ではないか」

「へー、街道沿いは?」

「それは騎士ではないかの、ほれ、今もおっただろ」


 幌と台車の隙間から外が見える。ほんとだ3人くらい騎士がいたかな。


「そうやって間引いてくれんと村にどんどん来るからの」

「訓練討伐の無い日も、ワシたちの使う進路に入っとるぞ」

「あ、そうだったんだ」

「冒険者養成所のFランクの奴らだ」

「へー、じゃあ毎日誰かは入ってるんだね」

「雨が降らなかったらな」


 そうやって常に倒し続けないと溢れるのか。


 ほどなく馬車は村に入る。商会の馬車は快適でいいね。


「あれ、乗り場を過ぎたよ」

「本当だの、中通りを進んどるわい」


 商会に行くのかと思ったらそこも過ぎる。そしてしばらく走り止まった。


「ありがとうございましたー」


 礼を言って降り、階段を上げる。


「やっぱり、ここギルド前だね」

「そうだの」

「これは助かるな」


 乗り場からもそこそこ距離があるから嬉しいね。


「おお、今日は2人揃ってお帰りだな、どうだった」


 アレフ支所長に流れを話す。しかし必ず支所長が出迎えてくれるな、ヒマなのか。まあ時間も大体分かるし、調整して待っててくれてるんだよね。

 にしても元騎士だったんだ。機会があったら話を聞いてみたいな。


「そうか、クラウディア様が。まあそういうこともある」

「次は3日後と聞きました」

「2人とも行くつもりだろうが、前日に再確認してくれ」

「はい」

「さー、仕事仕事」


 そう言いながらアレフ支所長は窓口奥へ引っ込んだ。やっぱり時間調節して待っててくれたんだね。


「私、中に入るけど一緒に行く?」

「ドラゴンの情報も見ておいた方がいい」

「あ、そうだったね」


 でも商会に行かなきゃ。


「ちょっと直ぐ用事があるから後にするよ」

「そう、じゃあ3日後ね、ばいばーい」

「またねー、シーラ」


 シーラとベルンハルトはギルド奥へと消えた。ふふ、根っからの冒険者なんだね。


「用事とは何かの」

「コーネイン商会に行くんだ、武器の保守だって」

「そうか、じゃあついて行ってやるか」

「カスペルは帰っていいぞ」

「あ、先生!」

「おお、フリッツか」


 フリッツがギルドから出てきた。待っててくれたんだ。


「そうか、じゃあワシは帰るかの、本音を言うとちょっと疲れたわい」

「じーちゃん、ありがとー」


 カスペルは西区へ続く道へと消えた。


「さて、行くか」

「うん」


 フリッツと通りを南へ。


「ほう、クラウディアとエリオット部隊長が。動きが早いな」

「やっぱり俺を意識してかな」

「そうに決まっとる」

「そっちはどう?」

「伯爵に動きがあった、詳しくは商会で伝えられる」


 伯爵! 昨日、家令のディマスが来てたからな。朝一で帰って報告、そんで指示を受けてまた来たのかな。んー、何だろう。


「あ、思い出した! 馬車料金払わないと、確か2日分だよね」

「そんなもんどうでもいい、もうお前は馬車ごと買える財産を手にするのだからな。報酬の件も進んだ、それも商会で話すことになる」


 馬車ごとか、そうだろうとは思うけどね。ところで馬車っていくらくらいするんだろう。


「あ、でも、やっぱり払うよ、何だか気になる」

「……ワシも報酬を得た、調整役としてな。それで十分だ」

「そうだったの」

「いらんと言ったが、そうもいかんそうだ。その代わりしっかり働いてくれとな」

「はは、向こうも拘りがあるんだね」


 フリッツも巻き込んでしまったし、動く分の対価は貰って当然だね。


「クラウスとソフィーナの口座にもいくらか入った」

「え、ええー……」

「名目は忘れたがな、お前のギルド口座にも入っている」

「あはー」


 おいおい、ばら撒きまくってるぞ。一気に囲い込む作戦か。

 そうやって、直ぐ金を使う! 流石貴族汚い。

 でも嬉しいかも。ぐぬぅ、ぐぬぬぬ、金が悪いんだ!


 コーネイン商会に到着。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」


 メシュヴィッツが出迎える。この人、俺担当になったのでは。

 2階へ案内される。


「昨日は遅くまで付き合わせてしまいましたね」

「いえいえ、仕事ですから。それにとても貴重な経験になりました」


 商会長室前へ到着。


「お連れしました」


 メシュヴィッツが扉越しに声を出すと、しばらくしてミランダが扉を開ける。


「座れ。音漏れ防止結界は施してある」

「失礼します」


 中に入ると、奥の机にミランダは向かう、隣りには商会員の男性だ。そして手前のソファに伯爵家令ディマス、その向かいに騎士服男性と女性がいた。


「早速で悪いが、1本頼む。弓を持て」

「分かりました」


 机の上には武器が3本、剣、槍、弓だ。杖の試験素材はまだなんだね。と言っても、できるか分からないけど。


 弓を持ち構える。昨日は試験素材だったけど問題なくできた。これは合金。剣においてはそれほど差は無かったから弓もいけるはず。


 共鳴。


 キイイィィーーン


 よし、問題ない。


 40%、50%、60%……


 キュイイイィィィーーン


 80%、90%、100%……


 維持して変化共鳴。


 ギュイイイィィィーーーン


 110%、120%……来た!


 シュウウゥゥーーン


「ふーっ、終わりました」

「座って休め。メシュヴィッツ」

「はい!」


 ソファに腰を下ろす。変わったのは120%を少し過ぎた辺りか。


「トランサイト合金

 射撃:324

 特殊:魔力共鳴、速度増加

 定着:2年3カ月12日9時間

 製作:コーネイン商会 弓部門」


「おおおっ! 本当に変わったぞ!」

「素晴らしいわ!」


 騎士服の男性と隣りの女性が声を上げる。


「お二人とも」

「おお、そうだった」


 ミランダに諭され騎士服の男性が立ち上がる。


「私はトリスタン・ロンベルク。ゼイルディク騎士団、アーレンツ保安部隊長だ」


 へー、保安部隊ってあるのか、警察みたいな感じかな。それでロンベルクってアーレンツ子爵の息子? 年は30歳前後か、体つきはしっかりしてるし、背も高い。

 トリスタンが座ると隣りの女性が立った。


「私はオフェリア・ロンベルク、ロンベルク商会長です」


 商会長、ミランダと同じだな。年は20代半ばか、こんな若くて商会長なの。そしてまた家名がロンベルク、これはトリスタン含めて子爵一家っぽいな。どうも貴族は要職に就くのが当たり前らしい。


 俺も自己紹介しておかなくちゃ。


「リオン・ノルデン、コーネイン商会職人です。よろしくお願いします」

「ああ、はは、休んだ後でいいのだが。そうか、キミがリオンだな、誠に立派は魔力共鳴であった、あれほどの鋭い光は見たことがない」

「それにしても共鳴で変化するなんて、武器、私も見せてもらうわ」


 オフェリアは弓を見つめる。ほー、鑑定できるんだ。


「トランサイト合金で間違いないわ、これはとんでもないことね」


「ディマス殿」

「うむ」


 ミランダが名を呼ぶと彼は言葉を発した。


「リオン、明日、エーデルブルク城へ両親とともに来てほしい」

「エーデル……それはどこですか」

「ゼイルディク伯爵のおられる城だ」


 伯爵! 城! うへぇ!


「コーネイン商会長も同伴される。キミの報酬のことや今後について伯爵から話があるのだ」

「は、はい」

「無論、その共鳴も披露してもらう、よいな」

「分かりました」


 最初から行かない選択肢は無いという雰囲気。いずれこうなるとは思ったけどね。まあミランダも行くみたいだし、それなら安心だ。


「報酬は少々手間なことになる、かなりの金額になるからだ。具体的には一度税金として徴収し、その一部を伯爵家で管理、頃合いを見てキミの名義とする」

「……はい」


 ど、どど、どういうこと?


「詳しくは伯爵から話す」

「分かりました」


 なんだか色々複雑らしい。


「さて、2本目はどうだ、いけるか」

「はい」

「では槍を頼む」


 槍か、穂身が遠いから感覚が違うんだよな。まあ一度共鳴すれば、後はいけるだろう。


 扉近くのスペースに移動するとフリッツが槍を持って渡してくれた。

 これは穂身40cm、柄は150cmか。子供用だな。それでも大人の剣より重い。


 構えて穂身を見つめる。

 ……よし、トランサス合金の感じを掴んだぞ、そこへ魔力を流し共鳴。


 キイイィィーーン


 いける。


 キュイイイィィィーーーン


 80%、90%、100%……


 維持して変化。


 ギュイイイィィィーーーン


 110%、120%、130%……変わった!


 シュウウゥゥーーン


「終わりました」


 槍を机の上に置いてソファに座る。連続はちょっと疲れたね。


「槍も難なくこなすとは……」


 トリスタンが言葉を漏らし、メシュヴィッツが鑑定する。


「トランサイト合金

 刺突:301

 衝撃:311

 特殊:魔力共鳴、魔素伸槍

 定着:1年1カ月4日2時間

 製作:コーネイン商会 槍部門」


「私も見るわ」


 オフェリアも鑑定を行使。


「間違いないわ……ああ、何てこと、彼が部屋に入って20分で2本のトランサイトよ。これは現実なのかしら」


 真顔のまま頭を小さく左右に振る。そりゃ実在しない鉱物だもんね。


「あと1本いけるか、食事の時間に間に合わないならいいぞ」

「いけます」

「なら頼む」

「夕食くらい準備したらどうだ」

「ロンベルク部隊長、こちらもそうしたいところだが、あまり特別扱いすると目立つ。リオンとウチの関係は武器使用の特別契約だけだからな」


 そうだ、あんまりべったりだと、他に何かあるのかと勘ぐられてしまうな。


「ああ、リオン、名目と言っていたが、よく考えればその必要はなかった。正式に特別契約となってくれ」

「はい、もちろん」

「書面や契約士による登録作業は後日となる」

「分かりました……あ、そうだ、訓練討伐の送迎に馬車を用意してくださり、ありがとうございます。それでアレフ支所長より今回からと聞いたのですが、合ってますか」

「合っている。今後、毎回だ」

「ありがとうございます」


 あと、そうだ! プライベートの共鳴行使も聞いておこう。


「コーネイン商会長、お伺いしたいのですが」

「なんだ」

「母ソフィーナが弓士でして、クシュラプラ合金を使っています。それで、トランサイトの弓技適性を聞いて、その……」

「すまんが、それは待ってくれ。ある程度出回ってからならよいがな」

「ああ、やはりそうですよね」

「トランサイトと周りに知れた時、何よりソフィーナが困る。見た目はほとんど同じでも矢の速度が全く違うからな、そこから気付く者も出るだろう」


 まあ、これは仕方ない。広まったら俺自身も困る。


「トランサス武器を持った者が、お前の家に行列を作るぞ」

「うわ! それは困ります」

「こちらとしても普及までの計画がある。早く最前線へという気持ちは分かるが、今しばらく待ってほしい」

「分かりました」


 うん、任せよう。俺は作るだけに専念だ。


「ところでリオン、キミは8歳とは思えぬ物言いをするな。どこで教育を受けた」

「ロンベルク部隊長、自分が教えました」

「フリッツか、なるほどな」


 お、そういうことにするんだな、分かったぜ。確かにおかしいもんな。


「さあ、リオン、夕方の鐘も近い、頼めるか」

「いけます」


 机から剣を取り構える。大人用だな。


 キイイィィーーーン


 うん、剣の合金が一番やり易い。多分、一気にいけるぞ。


 キイィキュイギュイイイィィィーーン


「!?」

「……は?」


 シュウウゥゥーーン


「ハァハァ、出来ました」

「そ、そうか」


 普段剣で共鳴をしてるからね、もう随分慣れた。


「今、10秒もかかってないわ」

「この子は一体……コーネイン商会長、どういうことなんだ」

「職人への詮索はご遠慮願いたい」

「あ、ああ、そうだな、すまぬ」


 メシュヴィッツが鑑定を読み上げる。


「トランサイト合金

 切断:296

 斬撃:301

 特殊:魔力共鳴、魔素伸剣

 定着:1年9カ月24日5時間

 製作:コーネイン商会 剣部門」


「はは、もう3本目だよ、幻の素材トランサイトじゃなかったのか」

「全くだ、製法を発見しただけでも革新なのに、これだけ量産できるとなると影響が計り知れん。コーネイン商会長、なるべく高い価値の内にロンベルク商会へも回していただきたい」

「それはゼイルディク伯爵、そしてウィルム侯爵の発令次第だ。明日、伯爵にはロンベルク商会も共にとお願いするつもりではある」

「それはありがたい、いけそうかディマス殿」

「職人の特定をより困難にさせるためにも、販売元を広げるのは望ましい。私からも提案する」

「それは助かる」


 ああー、コーネイン商会で独占するんじゃないのね。ロンベルク商会から剣身の外注を受けるんだな。


「リオン、では明日頼んだぞ。予定はフリッツに伝えてあるから聞くといい」

「分かりました、では失礼します」


 フリッツ、メシュヴィッツと共に商会長室を出る。


「リオン様、報告が遅れましたが、私、ララ・メシュヴィッツがフリッツ様との連絡役となりました。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、メシュヴィッツさん」

「ララで結構です」

「分かりました、ララさん」


 商会を出る。


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。3本はやっぱり多かったか。

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[気になる点] 「あと1本いけるか、食事の時間に間に合わないならいいぞ」「いけます」 この前、披露したときは最低5分、時には10分の間隔を空けていたのに、どうして連続でしているの?こき使われるのを防…
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