第63話 午後の最北進路
「じーちゃん、俺の動きどうだった?」
「うむ、訓練が生きておるの、相手はガルウルフでは無いが」
「ガルウルフが出たら危ないよ」
「ほっほ、出てもお前なら敵ではあるまいて」
「へー、リオンはガルウルフを想定して訓練してるの?」
「あー、うん」
カスペル、あんまりそう言うのやめてくれ。突っ込まれたら困る。
「でも最初に見学に来た時、対峙したでしょ。あれくらい動ければ次は倒せるわよ」
「そうかな、マリー」
「あんたはガビアルの首を1撃で落とせるんだから、その剣身の長さで」
「えー、あ、あれはー……たまたま、何故だか」
む、やっぱり、覚えてたか、そして不思議に思ってる。あの時は慌ててたから共鳴15%くらいだった。そうか、それで首が落ちたんだ、魔素伸剣が発動して剣身75cmだったんだね。ガビアルの首回りは確かにそのくらいだったかも。
「もういいのよ、本気出して。見なかったことにするから」
「……いやー、いつも本気だよ」
「特別契約の力、見せてちょうだいよ」
「……はは」
「マリー、リオンが困ってるじゃないか、何か事情があるのさ。剣技を全く使わない事情がさ」
「う」
やっぱり気づいてたんだね。一応、用意した理由を使うか。
「武器が強いから剣技を使うまでもないんだ」
「!? 言うねー、はは、こりゃまいった」
「あなた、FランクやEランク下位だからってナメてると死ぬわよ」
「……は、はい」
ぐぬ、やっぱり変な印象になるな。ここは正直に言うか。
「あの実は、剣技は使わないんじゃなくて、使えないんです」
「え?」
「何言ってるの」
「俺には剣技スキルが無いんだ」
「……そうだったの」
「それで身体強化と共鳴だけか、なるほど」
うん、これは仕方ない。今後もごまかし切れないからね。
「ごめんよ、言い辛い事を聞き出しちゃって」
「アタシも謝るわ」
「ああ、いや、不思議に思うのは当然だよ。でも共鳴はしっかりできるから、これは銘入りのミランデルだよ、とっても強いんだ」
「!? なんと、銘入りか! 流石は特別契約だな」
「それなら共鳴だけでも十分通じるわね」
銘入りにエドガールとレベッカが反応した。ほー、やっぱり珍しいんだ。
「だからって武器に頼り過ぎるなよ」
「そうよ、まずは後衛に任せなさい」
「うん、分かった」
いくら強いからって当たらなければ意味がない。魔物の動きを止めるのにはパーティの連携が必要だもんね。うん、帰って連携を想定して訓練できるようにしっかり見ておこう。
「そういや、連休には村へ子供は帰ったのかい」
「そうだよ。あ、クレマンって知ってる?」
「知ってるよ、彼はいいね、もうすぐ訓練討伐にも来れるんじゃないか」
「そっかー、一緒にできるかもね」
「どうだろう、5班じゃないか」
「あ、そうなの」
「力量で決まってるからね、5班は一番町に近い方、Fランクしか出ないよ」
「へー」
じゃあ2班て比較的強い子供たちなのかな。まー、ジェラールもマルガレータも中等学校の冒険者コースで上位みたいだし。
「ジェラールってモテるんでしょ」
「はは、誰に聞いたんだい」
「いやあ、ちょっとね」
「ジェリーはいつも女の子に囲まれていいわねー」
「マリーも人気あるよ」
「あら、そーかしら」
「女の子に」
「なにそれ」
はは、分からんでもない。男子と決闘してるんだもんね。強い女性は女性にも魅力的だ。マルガレータだってミランダ大好きだもんね。
「お前がリオンか」
む、何だ。10歳くらいか、俺たちが座ってる席に近寄ってきた。
「そうだけど、何か」
「……フン、あまり調子に乗るなよ」
「え」
彼はそう言い放ち去った。なんだあいつ。
「感じ悪いわね」
「気をつけろってことじゃない?」
「あれはライニール様だね」
「それって、エリオット部隊長の次男」
「あー、彼がそうなのか」
レベッカは顔を知ってるみたいだ。エリオットとミランダには子供が3人いて、みんな士官学校の学生で訓練討伐も来てるんだよね。そう、長女のクラウディアが午前中一緒だった。
「彼がそうなのね、覚えたわ」
「ここに来てるのに話はしないの?」
「士官学校の子は班が違うとほとんど会わないから」
「ふーん、あれ、ライニール様って言うのにクラウディアはいいの?」
「クラウディアは同じ班だからよ、一緒に戦う仲間のうちはそういうのナシだって」
「そっか」
「さーそろそろ行くか」
「はーい!」
2班は食堂を出る。城壁の前に13時だったね。
「おお、来たな」
「エリオット部隊長、よろしくお願いします」
「準備はいいか」
ジェラールと武器を抜きあう。
「今回も2人ずつ連携でいいわね、アタシとリオン、ジェリーとシーラよ」
「いいよー」
「分かった」
「うん」
「準備出来ました」
「よしでは行くぞ」
「2班、しゅっぱーつ!」
エリオットを先頭に再び街道沿いの草原を北へ進む。
「午後は初めてだね」
「うん」
「午前に比べてEランク上位が出やすいから気を付けて」
「そうなの、ジェリー」
「ちゃんと数えてないけど体感でね。多分午前に森に入っていくらか倒すから、それが影響して魔物が動くんだと思う」
「へー」
「特にここの進路は村に近いからね、前もレッドベア出たでしょ。だから今日は騎士、それも部隊長同伴なんだよ」
「なるほどね」
本来は監視所の騎士が付くんだろうけど、エリオットはクラウディアのために1日空けてたんだな。それで午後からも一緒か。
しばらく歩いて進路の入り口まできた。もう周りの景色覚えたぞ。
「では2班、午後の訓練開始だ」
「はい!」
ジェラールと俺を先頭に進路を進む。
「上! キラーホーク!」
シーラが後ろから叫ぶ。え、進路でも鳥系来るのか。
「木の近くに退避!」
マルガレータの指示に散る。
「俺が進路に出て引き付ける、後衛が撃ったらリオンが止めを刺して」
「分かった!」
身体強化を終えたジェラールが進路に出て空を見る。
「キラーホークは2体だ! 真っすぐ下りてくる!」
木の近くで構えてる後衛の2人はそれを聞いて頷いた。ジェラールとの距離は10mか、2体って、同時ではないよな。
「来るぞ! もう1体は直ぐ後だ!」
シュタッ! ジェラールが進路から跳び退く。
バサバサバサッ! 大きな羽音を立てて彼がいた位置に魔物が降り立つ。
あれがキラーホークか、デカい! 全長2m近くあるぞ。
それにあの大きな足、記憶の戻った日に窓から見えたあの足だ。
ズドン! ザンッ! ギャアアァース!
着地に合わせて風魔法と氷の矢が到達。しかし魔物は一瞬体制を崩すが直ぐ立ち直った、効いてないぞ!
ギロッ
魔物は後衛の2人を睨むと、翼を畳んで走り出した、マズい!
ドスッ! ズボッ! バシュ!
同伴の大人たちが矢を放った!
ギャアアァース!
「リオン行け!」
エリオットが叫ぶ、よおおおぉーーし!
キイイィィーーン! タンッ! スパン!
ドサッ、やった、首を落としたぞっ!
バサバサバサッ!
もう1体が下りてきた。
ズバッ! ドスッ! ザシュ!
再び大人たちの矢が放たれ、キラーホークの体に刺さる。
「はぁっ!」
ズバシュッ!
直後、エリオットの1撃が動きを止めたキーラーホークの首を落とした。
「終わりだな、木の陰で休め」
2班は集合し休憩となった。
「よく見つけたなシーラ」
「はい、でも2体目は見えませんでした」
「進路の上空しか見えんのだ、1体でも発見すればそれでいい」
そうか、後衛は上を見ててくれたんだな。前は俺たちが見てるしね。
「ジェラールもいい判断と動きだった」
「はい、ありがとうございます」
「そしてリオン、見事な太刀筋だった」
「はい、うまく当たりました」
刺さった矢の影響か、前傾だったからね、頭が低い位置にあったので狙えた。
しかし、キラーホークって耐久力あるな。後衛2人の攻撃がほとんど効いてなかった。流石に大人の矢を3本受けたら動きが止まったけど。
「ダメだわ。距離10mで当たったのに全然効いてないなんて」
「私も、全力の矢が刺さって凍ったはずなんだけど、動いてたし」
「いや、やつは怯んだ。そのスキを作ったことに意味がある。そっちへ近づく時間を遅らせたのだ」
確かに。降り立って直ぐ近づかれたら大人の矢が間に合ってなかったかもしれない。ほんの少しの差ではあるが。
「魔物に攻撃が当たれば何かしら影響を及ぼす。決して無駄な1撃と言うものはないんだぞ」
「はい!」
2人が返事をした。エリオット、ヤル気を起こさせるのうまいな。
「では、出発!」
進路を進む。しかし、森に入ってそんなに経ってないのにキラーホークか。確か、ガルウルフと同じ報酬だったよな。どうも飛行系は高めの報酬っぽいから、一概に同列とは言えないけど。ガルウルフ級の魔物が早くも出てくるとは、この先、気をつけないと。
「あれは……ウィーゼル、じゃない、ウルヴァリン! 2体いる」
「どこ? あれか」
「リオン、右の1体を頼む。絶対に油断するなよ」
「分かった!」
40m先か、木の隙間に姿が見えた。森に入り近づく。
体長2mか、全体は黒い毛に覆われているが、体の側面には白っぽいラインも見える。四肢は短めだが、しっかりしているな。
グオォォーン!
こっちに気づいた、速い! 一直線に向かってくる。
タッタッタッ、距離を維持しながら走る。くっ、回り込まれた。
一気に向かってくる! 退避!
グオォ!
うわ、あぶねぇ! 爪が伸びた様に見えたぞ、大きい爪だな。
これは迂闊に近づけない、進路へ引っ張るか。
タッタッタ……、ぴったりついてくるな、よーし。
後衛を見る、向こうが頷いた、距離20m、今だっ!
ザッ、シュタッ、タッタッタ、少し減速し方向を変え距離を取る。
ザンッ! ズバッ!
後衛の攻撃が当たる、動きが止まった、いけるか。
グオォォン!
いや動き出した、耐久力あるな。仕切り直してもう一度引っ張るか。
む、進路を走るジェラールが見えた。向こうも連れてきたのか、じゃあ今は無理だな。
「来い!」
一気に近づき注意を引く、よしこっちを見た、森の中へ引っ張りこむぞ。
魔物は一直線にこっちに来るが、さっきよりやや遅い、後衛の攻撃が効いてるな。でも放っておくと回復してまたやり直しだ。動きが鈍ってる今、やってしまうか。
チラリと進路を見るとジェラールはまだ引っ張っている。後衛の2発目準備を待っているんだな。これは、こっちで片付けた方がいい。
よし!
キイイィィーーン!
30%だ、伸剣発動で150cmになるはず。ウルヴァリンは強い、しかも2体、これは抑えてたら危ない。1発で仕留めるぞ。
グオオォン!
もういくらか動きが戻ったな、爪が伸びるようだから、見えるよりヤツの間合いは広い。その外側から剣を振るんだ。
後ろから来ている、止まって振り向く、それを見てヤツは跳んだ。
見えた、間違いなく爪が伸びている、50cmあるか、前足含めてのヤツの間合いを読む。
ブンッ、ザシュ! 腕を振り下ろしながら着地、それをギリギリで避ける。
今だ! ブンッ! スパンッ!
首に入ったが、浅いな。
グオオォ……。
動きが止まった、行くか、いや、接近は危険だ、腕だけでも動く。ならばっ!
キイイイイィィィーーン!
40%、剣身2mだ、おりゃっ! スパッ! ドサッ!
よし、首を落としたぞ!
進路へ駆け出ると、ジェラールはまだ魔物を引っ張っている。ただ随分と動きは遅くなっていた。何発か入れたんだな。
彼は後衛に走り、方向転換、そこへ風魔法と氷の矢が。
動きが止まったところへジェラールが切り込む。やったか。
いや、まだだ。しぶといな。
意を決してジェラールが再び切り込む。そして首を落とした。
「ジェラール!」
「来るな! 動けない!」
「もう終わったよ」
「え?」
集まり休憩。
……。
みんなかなり息が上がっているな。特にジェラール。
「ふーっ、流石リオン、1人で仕留めるなんて」
「後衛が動きを鈍らせてくれたからね、それでやれた」
「……そうだね」
爪が伸びるのが怖くて、剣を伸ばして近づかなかったんだ。いつ腕を振り回すか分からなかったからね。多分、切り込んでも問題なかったけど。
ジェラールはあの爪を恐れず2回も切り込んだ。離れて倒した俺がちょっと恥ずかしくなった。それも森に入って見えないところでコソコソと。
でもいいんだ、アイツは危険だった。そう判断した上で、持てる力を使ったんだ。何も問題はない。
「リオン」
「は、はい」
「……あれでいい」
エリオットは見ていたのか。
「全力3発をあの間隔は疲れたわ……」
「うん、次は撃てなかったかも」
「お陰で倒せたよ、ありがとう、マリー、シーラ」
「ジェリーもよくやったわ」
ほんと、もちろんいけると判断して切り込んだんだろうけど、勇気がある。俺は一度恐怖に駆られてしまった、ああなってはもう近づけない。いや、伸剣があるから、無意識にそれを使うつもりだったんだ。無かったら切り込んでいただろうか。
「お前たち、もう少し休め」
「はい!」
ウルヴァリン2体は、結構ギリギリの相手だったね。でもこれを繰り返せば強くなる実感はある。
「同伴は周りを警戒しろ、あれは私が行く」
そう告げてエリオットは1人進路を走る。あ、ガルウルフか、50m先に2体いる。
……。
撫でるように剣を振るい、あっという間に倒した。はは、格が違うぜ。
彼が帰って来たところで出発となった。
「もう少し行ったら引き返す、午後はEランクが多いからな」
「はい!」
確かに。キラーホークにウルヴァリン、そしてガルウルフ。全部Eランク上位じゃないか。午前中と同じ森とは思えん。
森を進む。
「よーし、ここまでだ、引き返すぞ」
多分あと300mくらいで河原に出るが、恐らく強敵が出る。帰りに出会う魔物を考えると遅くなってしまうからね。
ガルウルフ、ウルヴァリンの素材を回収。あとはキラーホークだ。
「エビルアント2体! リオンは左へ」
「分かった!」
40m先に黒いうごめくものが。走って近づく。
うわ! デカいアリだ。
キエェェー!
なんだ、鳴き声か、怖いよ。カサカサカサッ、速いな。
よし、進路に引っ張るぞ!
後衛が頷くのが見えた、今だ、タンッ!
ガガガッ! バキイィン!
え!? 魔法と氷の矢が弾かれた? こいつ、甲殻硬いんだな。
直ぐに近づき注意を引く、よし、来い!
森へ引っ張ったが、動きも変わっていない、後衛のはほとんど効いてないな。
これは、短時間でやるしかない。
キイイイィィィーーン
40%、伸剣2m、そして切れ味が増す。これなら切り裂けるはずだ。
キエー!
うひー、気味悪い鳴き声だ。真っすぐ向かってくる、跳び掛からないのか、なら、引き付けて避けて、方向転換するところへ剣を振り下ろす。
来た、シュタッ、ストッ、止まってこっちを向いたぞ、この瞬間しかない!
ブンッ! スパン! くっ、頭を動かして避けたな、しかし足を1本切り落とした。
カサカサカサッ、間合いを取る、止まって、方向転換、よし、さっきより動きが少し鈍い。
タッ、スパンッ! やった、体を真っ二つだ!
どうも頭だけ寸前で動かすようだから、体を狙えば間違いなしだ。
進路に出るとジェラールがエビルアントを引っ張っている。後衛の攻撃は1回当てたはずだけど、ちっとも動きが鈍ってないな。これはジリ貧だ。
「ジェラール!」
「リオン!」
「1体はやった、こいつも任せろ」
「頼む!」
並走しながら伝えると、俺は止まり振り向く。
キエー!
跳んだ! ならばチャンス!
ヤツの着地を寸前で避けて、その間合いのまま剣を振り下ろす。
スパン! よし、体を真っ二つ、終わったな。
「きゅーけい!」
集まり腰を下ろし、息が落ち着くのを待った。
「リオン、一応言っておくけど、エビルアントは継ぎ目を狙うんだ」
「あ、そっか」
「まあ、どこでも切れるキミなら知らなくていいけどね」
「はは……」
なるほど、弱点はそこか。おー、ディナスティスだっけか、大型のカブトムシとクワガタムシが合体したやつ、クラウスも言ってたな継ぎ目を狙うと。それであれだ、虫系は火属性に弱い、だから魔導士が中心になって倒すんだって。
今日のこの編成では火は誰も使えないからね。マルガレータが風、ジェラールとシーラが水だったから。だからって継ぎ目を狙うのも、動きが速いから難しい。もう、あれでいいんだ。
「休憩終わり、行きます」
エビルアントの素材を回収し進路を進む。ほどなくキラーホークの討伐地点へ、素材を回収する。
「もうすぐだね」
「うん、でも油断はできないよ」
そこから300mか、魔物には出会うことなく街道沿いに出た。
「素材は後ろの馬車へ、子供たちは前に乗れ」
「はい!」
前の馬車には子供4人とエドガール、レベッカが。後ろにはエリオット、カスペル、ベルンハルトか。全員乗り込んだところで馬車は動き出した。
「ふーっ、昼からはEランク上位ばっかりだったわね」
「そー、エビルアントも全然効かなかった、ショック」
「あれはそういう種類だから、仕方ないよ」
「でもリオンの剣は通ってたわよ」
「彼はおかしいんだよ」
「え」
「流石は特別契約、そして銘入り武器、その本気を見せてもらった」
「あー、はは」
エドガールが褒めてくれる。まあ本気を出したのは間違いない。
「しかし、皆、倒したのはエリオット部隊長ということにしてくれ」
「え?」
「どうして?」
「訓練討伐レベルの相手ではない。なら倒したのは子供ではない、いいな」
「……はい」
「……分かりました」
エリオットから言われたんだな。そう伝えろと。
「ウルヴァリン1体はお前たちが仕留めた、ジェリーよくやったぞ」
「うん、ほんとは怖かった、でも頑張ったよ」
「あの2発目を連続で切り込んだのは見事だった」
「はは、お陰でヘトヘトだったよ。直後にリオンが来た時は、もう1体引き連れて来ると思ってどうしようかと」
「それはしないよ、動けないのは分かってたから」
「よく考えればそうだね」
そんなことしたらジェラールがやられちゃう。
「リオン、俺の剣技レベルは10だ、多分もうすぐ11になると思う」
「あ、そうなの、ジェリー」
「このウィルスンクは剣技適性55、本来扱うなら剣技レベル11は欲しいところなんだ」
「へ、へー」
どうしたんだ急に。
「ウィルスンクの基本値は170、トランサスは150だ。でも銘入りなら合金仕上げで同じ強さだろう。つまり、俺はリオンと同等武器で剣技まである、おまけに手袋で剣技威力10%増加までしてる……それで、はは、あの力の差だ」
「ジェリー……」
「エリオット部隊長が倒したと思わなければ納得いかないよ」
「そうだ、ジェリー、それでいい」
ジェラールも冒険者コースで上位だから、それなりに自信があったんだろうな。それを俺は打ち砕いてしまった。なんだか、すまない。
「リオン、そんな顔するなよ。お前が将来、名だたる使い手になった時、最初に握った武器が俺のだったと言わせてくれ、だからもっと強くなって高みを目指せ」
「うん、任せて。俺の武器はジェラールから始まったと言うよ」
「はは、頼むぜ」
実際、キミのお陰でトランサイトに辿り着いた。感謝してるよ。




