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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
58/321

第58話 共鳴披露

 コン、コン。


「開いてるぞ、入れ」


 扉を閉めて鍵をかける。


「ミランダは気絶しなかったようだな」

「あ、そうか。はは、試したのかな」

「ところで3種と言っていたな、恐らく剣、槍、弓だ。できそうか」

「弓はソフィーナのを借りて試したから、大体感じは掴めた」

「クシュラプラを共鳴させたのか」

「うん」


 フリッツは、おいおいまたかよ、みたいな表情をする。


「そういやアルベルトだけど、ちょっと共鳴率のこと教えてもらうついでに、武器借りて共鳴させたよ、ベリサルダ合金だよね」

「!? 何も言ってなかったが。そうか、ベリサルダも、ははははっ! お前はとことん驚かされる、あのクセがある鉱物を直ぐ共鳴させるとはな。いやはや恐れ入った」

「さあ、あんまりゆっくり出来ないから風呂の準備しよう」

「うむ」


 浴槽にお湯を張る。


「これ、浄水士が用意してるんだよね」

「そうだ。恐らく客がいる時はいつでも湯が出る様に調整してある」

「うわー流石いい宿だね」


 湯が準備出来たところで服を脱ぎ体を洗う。


「背中流すよ」

「すまんな」


 風呂は西区のみんなでいつも一緒だけど、クラウスや子供たちと背中の流し合いっこがほとんどだ。フリッツの背中は初めてだな。62歳だっけ、前世でいうところの70辺りか、それにしては引き締まった体だ。


「よし、ではお前だ」

「うん」


 フリッツが背中を流してくれる。はは、孫子の年の差だけど、中身は親子くらいか。ほんとおかしな感覚だな。残りの体と髪を洗い浴槽に浸かる。


「2人入っても狭くないね」

「お前は子供だろ」

「まーね」


 風呂を上がって体を拭く。下着肌着だけを変えてさっきの服を着た。


「19時10分ってとこか、時間まで話でもしよう」

「そうだな」

「俺は具体的にどう振るまえばいいかな、偉い人も沢山来るんでしょ」

「進行はミランダだ。基本的に彼女の指示があればその通り動けばいい」

「誰かに話しかけられたら?」

「適当にはぐらかせ」

「あ、そうだ、コーネインの職人だってことは黙っておくべきかな」

「言わずとも皆分かる。この場を用意したのがコーネインなのだからな」


 確かに。あんまり余計なこと言わない方がいいな。


「何本くらいするの?」

「最低3本だ、試験素材のな。製品も何本か持ち込んでいるだろう」

「んーじゃあ、素材3本と製品2本で止めておくかな」

「その辺が時間的にも丁度いいだろう。そもそも素材1本で帰ってもいいんだがな」

「そこまで引っ張るのは悪いよ」

「はは、そうか」


 向こうは全面的に協力してくれるんだ。こちらもある程度応えないとね。


「あの共鳴も見せるんだよね、大丈夫かな」

「ミランダはお前を守ると言ったのだ。それを信じろ」

「うん、もう任せるしかないね。あ、共鳴何%までいこうか」

「……120%、いや140%でどうだ。変化の瞬間が分かればそこで止めてもいいが」

「それはやってみないと分からない。フリッツの目算通り、多分120%辺りだと思うけど、多めで140%にしておくよ」

「ワシの意見は歴史を踏まえた上だ、あまり高すぎると歴史上にも存在しないからな」


 確かに。そう考えればもっと低い気もするな。110%くらいだろう。


「もう時間だな、行くか」

「うん」


 鍵を締め、1階に下りる。


「鍵を預ける。お前は武器を持っていくといい」

「分かった」


 カウンターで告げ、武器を受け取った。


「クラウスとソフィーナも来たな」

「お、いるな、行こうか」


 4人で外へ出る。


「この時間でも人通り少しあるね」

「飲み歩いてる連中さ、大方冒険者だろう」


 中通りを南へ進む。エスメラルダからは徒歩5分ってとこか。もうすっかり日も暮れているが、街灯に照らされた足元は十分明るい。


「来たぞ」

「うん、昼間以来だね」

「ワシが先頭で入る」

「頼んだ」


 連なる他の商会は真っ暗だけど、コーネイン商会だけは煌々と明かりが点いていた。これ、不自然じゃないのかな、通りからもよく分かるし。まあたまに遅くまでやってるのかな。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」


 店内には他に客もいる、なんだ通常営業状態か。まあ変にコソコソしてる方が怪しいわな。堂々と迎え入れるワケか。


「特別用途の武器についてお話があります。奥の部屋へどうぞ」


 メシュヴィッツに案内され店の奥へと進む。遅くまで働かせてごめんよ。


 ……随分行くな。


「こちらです」


 扉を開けると中へ案内された。


「よくぞ参られた」


 ミランダだ。さっきのドレスから普段着っぽい装いへと変わっていた。あれじゃ来れないわな。その普段着も明らかにいい質で、品のある装飾が施されている。高そう。


「こちらへお掛けください」


 メシュヴィッツに部屋の一角の応接スペースへ案内された。低くて広いテーブルは一直線に3つ繋がっており両側にソファがある。そこには奥から両側に4人の計8人座っていた。


 一番奥には遠めでも分かる立派なソファがあるが今は空席だ。その横にミランダが立つ。


 部屋の半分には作業台と思わしき机がいくつか並んでる。棚も沢山あり物が多く載せられていた。もしかして保守用の作業室かな。部屋には柱が何本かあり、広い大部屋として全てが繋がっている。


「まだ予定には幾分時間があるが、揃ったため始めることとする。既に音漏れ防止の結界を机の中心から4m、高さ2mで施してある。効果は2時間だ」


 ミランダはそう告げると奥の仕切られたスペースへ。誰かと話しているようだ。しばらくして2人出てくる。それを見た他の全員が立ち上がる。俺も慌てて立った。


 出てきた2人のうち1人が一番奥の真ん中に立ち声を上げた。


「アルフレッド・コーネイン・バン・メルキースだ。今日は急な申し出にもかかわらず、即座に応じてくれたこと、まずは感謝する。この場で今から起きることが、ゼイルディク、いやカイゼル王国の歴史に刻まれることを、皆に約束するぞ」


 あの人がメルキース男爵だな。


「ここは特別な場だ、そして長い。皆腰を下せ」


 そう告げて男爵は座る。続いて彼に近い方からソファに座っていく。俺たちは一番遠いところにいるため最後に座った。男爵と一緒に出てきた男は立ったままだ。恐らく護衛だな。


「まずは各人の見知り置きを」


 ミランダが左奥の男性に目線を送ると、彼は立ち上がってこちらを向いた。


「エリオット・コーネインだ。我が妻ミランダの計らいにより、この様な場を設け、それに集まってくれた皆に心より感謝する。歴史的瞬間に立ち会えることは本当に光栄だ、皆とその喜びを分かち合えると期待している」


 彼がエリオットか。ミランダの夫であり、男爵の長男、そして北西部防衛部隊長。


 エリオットが座ると向かいの男性が立ち上がる。年は50代か。


「ゼイルディク伯爵家、家令ディマスだ。武器に関する重大な案件と聞いてここに来た。感想は終わった後に述べる。まずは何が起きるか見届けようではないか」


 彼がディマス、ゼイルディクの決め事に大きな影響力を持つと。伯爵の側近中の側近ってとこか。実務者って感じだな。


 ディマスが座ると横の男性が立ち上がる。彼も50代といったところか。ディマスよりやや肉付きがいいな。


「アーレンツ子爵家、家令エステバンだ。私もディマス殿と同じように重大な案件と聞いた、武器の歴史が変わると。それほどのことを目の当たりにできるのはとても幸運に思う。どの様な興奮が待っているのか今から楽しみだ」


 ほうほう、彼がエステバンね。ディマスよりやや感情的な印象。アーレンツ子爵の側近なんだろうな。


 ディマスが座ると向かいの男性が立つ。彼も50代くらいかな。


「私はロンベルク商会コルホル支店長ビュルシンクです。コーネイン商会にはいつもお世話になっております。今回、武器の革命に居合わせられること、本当に嬉しく思います。是非とも商会の仕事として協力させていただきたい」


 支店長ビュルシンクか。ロンベルクでも売る気満々だな。


 続いて隣りで一緒に立った40代くらいの男性が声を上げる。


「同じくロンベルク商会コルホル支店、注文制作担当アーレンバリです。本日は鑑定でお役に立てたらと思います。よろしくお願いします」


 アーレンバリは鑑定要員か。なるほど、他の店の人も入れた方がいいよね。嘘は言わないと分かっていても。


 ビュルシンクとアーレンバリが座り、向かいの2人が立つ。まずは40代男性が声を上げる。


「コーネイン商会、本店工房職人ブリリオートです。試験素材の鑑定をします。よろしく」


 淡白だな。職人らしいっちゃらしいが。


「コーネイン商会コルホル支店、注文制作担当メシュヴィッツです。鑑定でお世話させていただきます。よろしくお願いします」


 メシュヴィッツが挨拶をするとブリリオートと一緒に座った。


 次は……フリッツ? いや、座ったまま目線を前に移したぞ。


「私はミランダ・コーネイン、コーネイン商会長だ。午前中のうちに極めて重大な事象を目の当たりにし、事は急ぐと判断、そして今に至った次第である。それに即座に応じてくれたこと、皆に大変感謝する。それで実は今日、2つ、重大なことがある」


 ざわざわ……。2つという言葉にややざわめく。


「1つは武器の革新について、1つは強大な戦力についてだ。ただ戦力の方は目にしても、今は心に止留めてくれ。是非とも武器を、魔物に立ち向かうその新たな力を、皆の協力で形あるものにしたいのだ。よろしく頼む」


 ミランダ……。俺の能力を詮索されないように釘を刺したんだな。すまない。


 ここに来てようやくフリッツの番だ。


「ワシはコルホル村西区、魔物討伐指揮フリッツ・レーンデルスだ。聞いての通り、武器の革新である。是非とも多くの最前線でその力を発揮してほしい。以上だ」


 フリッツが座り俺を見る。次か。


 俺は立ち上がり、男爵の方を向く。


「俺はコルホル村西区、リオン・ノルデンです。本日はお集まりいただきありがたく存じます。先程来の武器の革新、重大な案件とは、この俺が深く関係します」


 ざわざわ……。


「とても驚くことかと思いますが、ひとつひとつ、確実に検証をできたらと思います。どうぞよろしくお願いします」


 俺は座り、クラウスを見る。彼は立ち上がった。


「リオンの父、クラウスです。よろしくお願いします」


 え、それだけ、まあ、もう長くなったからね、はは。


「リオンの母、ソフィーナです。よろしくお願いします」


 ソフィーナも短い。と言っても話すことないか。


「では、リオン、お前の武器を借りるぞ」

「はい」


 ミランダは俺に近づき武器を受け取る。そしてアーレンバリの後ろで止まった。ロンベルク商会の鑑定要員だ。なるほど、まずはトランサイトの存在を伝えるのだな。


「すまんが抜いて鑑定を願いたい。こちらを先に頼む」


 彼女は先に持っていたもう1本の剣をアーレンバリに渡した。あー、あれはジェラールのやつだな。なるほど、そっちを先にやってもらうのね。


「皆の者、よーく鑑定結果を聞いてくれ!」


 ミランダの声に静まった空間、息をのむ音が聞こえる。

 アーレンバリは剣を抜き机に置く。

 剣身をじっと見つめ……目を見開き、そして大きくのけぞった。


「こ、これは……」

「どうした、早く結果を申せ!」

「は、はい!」


 男爵の言葉に意を決する。 


「トランサイト合金」


「なんだと!?」

「トランサイト!?」

「それは誠か!」

「トランサイトが存在するのか!」

「おい、見間違いじゃないか!」

「もう一度しっかり見ろ!」


 アーレンバリは汗をぽたりと落とし、再び鑑定をする。


「トランサイト合金です! 間違いありません!」


 ざわざわ……。大きなざわめきが辺りを包む。


「成分を読み上げます!」


 ざわめきがピタリと止む。


「成分

 トランサイト67%

 チタン   13%

 アルムサイト11%

 ミネルシウム 9%

 切断:287

 斬撃:298

 特殊:魔力共鳴、魔素伸剣

 定着:3日20時間

 製作:ルーベンス商会、剣部門


 以上です!」


「なに、ルーベンス商会だと!」

「魔素伸剣とは、文献にあった剣が伸びるやつか!」

「300近い数値だぞ、これで共鳴効率が高いとなると……」

「いや、そもそもこれをどこで!」

「そうだ、トランサイトは歴史上にしか存在しない、その製法はどこにも伝わってないと聞いたぞ」

「ルーベンスは見つけたんだな! 何と言うことだ」


 様々な驚きと憶測の声が。


「皆、静かに! もう1本武器がある! 頼む」


 ミランダはアーレンバリに俺の武器を渡す。

 彼は1本目に並べて2本目も置く。

 剣身をしばらく見つめ、机に置いた手が震えだす。


「か、鑑定結果を読み上げます!」


 少し間を置き、胸に手を置き一呼吸。


「トランサイト合金

 成分

 トランサイト81%

 チタン    9%

 アルムサイト 7%

 ミネルシウム 3%

 切断:327

 斬撃:315

 特殊:魔力共鳴、魔素伸剣

 定着:1年15日9時間

 製作:コーネイン商会、剣部門アルフォンス・エーベルヴァイン


 以上です」


「なに!? コーネイン商会でも製法を突き止めたのか!」

「エーベルヴァイン! あそこの工房か!」

「切断も斬撃も300を超えている、いい仕事じゃないか」

「これは素晴らしい!」


 先程とは一転、歓喜の声が多く聞こえる。


「皆、聞いてほしい! コーネイン商会もルーベンス商会もトランサイト合金は作ってはいない! 作ったのはトランサス合金だ!」


 ミランダの言葉に再びどよめきが。


「何を言っている、そこにあるのはトランサイトじゃないのか!」

「トランサスと読み間違えたと?」

「いやしかし、あの数値や魔素伸剣はトランサスではない!」

「ミランダ! 一体どういうことだ!」


 ああ、もう、段取りがあるんだろうけど、回りくどいね。いや、いきなり言っても結局この経緯を説明することになるか。


「トランサス合金をトランサイト合金に変化させる方法がある! そしてそれが出来るのは、そこに座っている子供、リオンだけなのだ!」


 一斉に皆、俺を見る。ひいいいっ!


「どうやって、そんなことが出来るんだ」

「なんでこんな子供が」

「そもそも鉱物が変化する? 信じられんな」

「ここにいるなら、それを出来るのか、見せて見ろ」

「ああ、どうなんだ、ミランダ」


 うひー、もう、収拾つかん。早くやった方がいいよ、それで黙る。


「静かに! ではリオン! まずはあれを見せろ!」

「はい!」


 ミランダは俺の武器を机から持ち、近づいて渡してくれた。


「その場に立ってで構わん」

「分かりました」

「皆、よく見てくれ! これがトランサスをトランサイトに変える共鳴だ!」


 俺は武器を構え、男爵の方をチラッと見る。皆、身を乗り出し、机には顔ばかりが並んでいた。怖い。


 よし、やるぞ!


「共鳴強化!」


 キイイィィーーン!


 30%、40%、50%……


 キイイィィィーーン!


 70%、80%、90%……


 キュイイイィィーーーン!


 100%!


「これが100%です!」

「なんだと!」

「そんな共鳴見たことないぞ!」

「なんという鋭い光だ!」

「こんな子供が!」


 よし、140%までにするか。


「これより100%を超えます!」

「は!?」

「そんなことできるのか!」

「何を言っているんだ!」


 ギュイイイィィィ--ーーーン!


「……!?」

「……はあ!?」

「……おいいいっ!」

「……うわあああっ!」


 120%、130%、140%……


 ギュイイイイィィィーーーーーン!


 よし、ここまでだな。


「140%に到達しました!」


 シュウウウゥゥゥーーン


 ふーっ、そこまで息が上がってないな。やっぱり変化共鳴と同時だったからね。強化共鳴だけならそうでもないや。


 ふと、男爵の方を見ると、皆、目を大きく見開き、口を開けて固まっていた。


 パチパチパチ……。拍手が起きる。


「いやー素晴らしい!」

「何と言う魔力操作だ!」

「これほどの共鳴は見たことが無い!」

「それに、意識を失ってないどころか息も乱していない、理解が追い付かんぞ」

「士官学校の特待生になれる、子爵に伝えれば明日からでも」

「いや王都でも十分通用する」

「そうだが、ゼイルディクにいた方がいいのでは」


 賞賛の声と、俺の進路の話が。


 エリオットが立ち上がりこちらへやって来る。


「キミ。リオンか、どうしてそんなことが出来るんだ」

「……ええと」


 ミランダなんとかして。


「皆、お静かに! 彼の力は特別だが、今はその話ではない! トランサイトだ! エリオットは席へ戻れ」


 ひときわ大きい声に静まり、彼女に目線が集まる。エリオットも戻った。


「ブリリオート! 試験素材を持て!」

「はい!」


 彼は立ち上がり作業台の方へ。メシュヴィッツも続く。そして2人合わせて3つ武器を持ち、俺たちのテーブルに置いた。剣、槍、弓だ。


「ブリリオート、鑑定しろ、まずは剣だ」


 彼はテーブル上の剣身を見つめる。


「トランサス

 成分:トランサス 100%

 剣技:30

 切断:150

 斬撃:150

 特殊:魔力共鳴(80%)

 定着:30日12時間

 製作:コーネイン商会 剣部門


 以上です」


 おお、剣技と共鳴効率か、試験素材だとそれも鑑定できるのね。


 しかし長い、80cmか、大人用だね。これを共鳴変化でトランサイトにする。サイズも成分割合も違う、一発勝負だ。


「これに先程の共鳴を施せばトランサイトに変化する。リオン、どうか」

「もう5分下さい!」


 ほんとはいけるけど、ちょっと長めに休憩にする。

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