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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
57/321

第57話 エスメラルダ

 家に帰って居間に座る。


 午前中のミランダとの会話、その後のフリッツの考え、共鳴の強化と変化、覚えているだけソフィーナに話した。


「そう、分かったわ、夜にまた一緒にいけばいいのね」

「多分、検証のための素材をメルキースで用意してるんだろう。だから夜なんだ」

「検証素材って何?」

「俺も見たことは無いんだがな、適性や基本値を鑑定するために作られる、それ専用の形状だ。なんでも対象素材100%で作るそうだ」

「へー」


 あーなるほど、その素材のみでどれだけの能力があるか知る必要があるもんな。合金ではだめなんだ。


「適性って、剣技とか?」

「そうだぞ、剣技、槍技、弓技を使った時に、その効力がどれだけ発揮されるかの基準だ。まあ他に斧や槌もあるが、打撃武器はほとんど使われてないからな、恐らく斬撃、衝撃、射撃に関連する3つの適性だろう」

「杖は?」

「ああ、そうだ、杖もあったな。あれはよく分からんが試すんじゃないか」

「ふーん」


 剣技とかを使えないから、いまいち想像できないな。まあ適性は高い方がいいみたいだし。


「こんにちは、おお、いるな」

「リシャルトか、どうした、まあ座ってくれ」

「いやいい、直ぐだ。さきほど中央区から通達があっての、クラウス、ソフィーナ、リオンは指定する中央区の宿で今夜は過ごしてくれとのことだ、夕食も付く」

「は? どういうことだ」

「何でも訓練討伐での実績を評価され、その褒美だそうだ。発令者はミランダ副部隊長となっているからな、何か気に入られたんだろう」


 うは! 長時間拘束ヤル気満々だ。しかし実績評価とは謎の理由だな。


「ここの夕食からは除外する、つまり外出扱いだ。宿名はエスメラルダ・コルホル、17時までに入ってくれとのことだ」

「……ああ、分かった」

「フリッツも同じだ。彼も訓練討伐で副部隊長と連携をしたそうでな、それの褒美だ」

「はい、目撃しました」

「そうか。まあ貴族の厚意だ、受けないと失礼に当たる。急ですまんがよろしくな」

「はい」

「そうそう、明日の朝食は西区で用意するから、それまでには帰ってくれ。じゃあ、エスメラルダ、17時までにだ、伝えたぞ」


 リシャルトは去った。確かロビンのおじいさんだったな、西区の世話人やってるんだね。


「間違いなくトランサイトの件だな」

「そうだね、先生も来るし」

「はは、流石貴族、こっちの都合も無視で強引なこった」

「でも母さんの風呂の後に行くと、終わるのがかなり遅くなるよね、だから移動の時間も含めて効率よくしたんじゃないかな」

「まあそうだな、俺は予定無いが母さんは大丈夫か」

「ええ、心配ないわ。でもエスメラルダって高級な宿よ、いいのかしら」

「よく分からないけど褒美なんだ、ありがたく受けようぜ」


 今15時過ぎか。あと2時間弱あるな。


「17時までにか、多分食事が17時30分なんだろう。んで19時までに風呂も済ませて、そこから商会でみっちり検証だな。後は寝るだけだから、かなりの量をやらせる気に違いない」

「リオン、辛くなったら直ぐ止めるのよ」

「うん、大丈夫。共鳴の使い分けができること分かったから、そこまで1回で疲れないし」

「いやあでも、あんまり数できるとこを見せると、明日からも大変だぞ。フリッツの言う通り、もったいぶって少なく押さえる方がいい」

「そうだね」


 主導権はこっちにあるんだ、向こうのペースにハマってはいけない。


 カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!


 魔物の鐘だ! 鳥系だな。


「行くぞ、リオンはここに居ろ」

「うん!」


 クラウスとソフィーナは出て行った。


 鳥系ね。トランサイトが弓士にとっていい素材となるなら、こういう襲来もより安全に対応できるだろうな。でも待てよ。俺、弓なんて使ったことないぞ。検証素材は適性を見るために武器種を用意するらしいけど、槍も弓もその形なんだよな。


 むー、剣みたいにうまくできるかな。弓はソフィーナに借りてちょっと練習しよう。素材が共鳴強化できるやつか知らないけど、構える感じだけでも知っておいた方がいい。本番で初めて握って、できないとなったら恥ずかしいし。


 まあ、トランサス合金も、初めて使って100%くらいまでは共鳴できたから、多分大丈夫だと思うけどね。問題は杖だな、あれはさっぱり想像できない。あでも検証はトランサス100%なんだっけ。いずれにしろ違った感覚になるのかな。


 うん、何とかなるでしょ。英雄の力なんだ。きっとどんな武器でも適応できる。


 ……。


 ちょっと長いな。男性はまだ風呂に行ってないから西区のほとんどが対応してると思うけど。数が多いのか。


 グルワアアアァァオ!


 ズドン! ザシュ! シュバッ!


 ドーン……ドサッ。


 グオオォォ……。


 ……。


 なんか近くに落ちたぞ。鳴き声怖い、あんまり聞いたことないな。


 ドドン! ドドドン! ドンドドン!


 勝利の太鼓だ! なんだかリズミカル。


「ふー、やれやれ」

「お帰り!」

「大物だったわね」

「何が来たの?」

「エビルコンドル1体、ダークイーグル2体だ。コンドルが中々落ちなくてな」

「大きいの?」

「ああ、大型だ。イーグルの1.5倍あるかな、その上、耐久力が高いんだ」

「Cランクの魔物よ」


 ふへー。Cランクってクリムゾンベアやディナスティスと一緒か。あのクラスが飛ぶってほんとやっかいだな。まあワイバーンほどではないけど。


「このところ大型が多いな、北区の開発が進んでいるから森の奥から出てきてるんだろう」

「同時に数が来ないといいけど」


 開発か。森に道を通すんだよね。東区の時も多かったらしいし、森をつっつけばそうなるのは仕方なしか。


「そうだ、素材検証に備えて、剣じゃない武器種の感覚を掴みたいんだ。母さん、弓を持たせてもらっていいかな」

「あらそうね、もちろんいいわよ」


 ソフィーナから武器を受け取る。うは、ちょっと緊張するな。


 これは左手で持てばいいのか、そうだな右手で矢を引くんだから。


「構えてみる?」

「え、うん」


 ソフィーナが俺の後ろに回って手を添える。ふむふむ、イメージはあるんだが、いざ構えるとなると難しいな。


 でも意外とそんなに大きくない。弓の上下の弦接続部、引くとしなるところ、あれの下側が床につくと思ったがまだ余裕ある。ソフィーナが構えても確か膝上くらいだったからな。


「軽く矢も引いてみて」

「いいの?」

「撃たないでね」


 そう言って矢を渡してくれた。ほう、矢の後ろ側に溝が入っているな、これを弦に引っかけて一緒に引くんだな。


 ……こうか。


「そうよ、もっと胸を張って足を少し開いて、右手の肘をもっと上げるの……そうそう、いいわね」


 おお、なんか、弓士の気分だ。


「矢は返すよ、飛んだら危ないし」

「そうね」


 うん、構えの感じは大体掴めたから大丈夫。あとは共鳴だな。これ、左手1本でやることになるのか、そうだよな、右手は矢を引いてるんだし。


 剣で言う握りか、弓もそういう部位があるが斜めになってるんだな、小指にいくほどこちらに近くなる。前世でいうアーチェリーに近い形状か。


 精霊石は握りの直ぐ上、構えて左側か、それでその反対側に矢を通すんだな。なるほど、矢を引けばちょうど鏃が精霊石に近くなる。そこで属性付与をするんだな。へー、じゃあ左手だけで属性と共鳴両方やるのか、大変だな。


「属性付与は目でするのよ」

「え!?」

「両手で弓本体の共鳴強化、鏃の属性は目で、方向は体全体で調節するの」

「……ええと」

「弦を引いた右手からも弓に魔力は伝わるから、両手で共鳴強化させるのは同じよ」

「あ、そうか、弦も弓の一部だもんね」


 よーし、じゃあ軽く弦を引いて共鳴やってみよう。


「あ、母さんの武器共鳴するの?」

「ええ、共鳴効率は20だけど。クシュラプラ合金だから」

「あ、それって名前聞いたことある、じーちゃんがトランサイトならクシュラプラの射撃超えるかもって言ってたよ」

「そう、トランサスの1.5倍ならそうなるわね。とんでもないことよ」


 最前線のソフィーナが使ってるクシュラプラ。それを超えるって、確かに色々ひっくり返るな。


「じゃ、共鳴いくよ」


 さー、この鉱物はどんな感じだ。

 ……。んー、ふむふむ。ベリサルダにちょっと似てるが、あれよりクセがありそうだ。


 ならば……こんな感じか。


 パアァァーン


「まあ!」


 お、できた! 雰囲気もベリサルダに似てるな。いや少し光に赤みがかかってるか。


「これ5%であってる?」

「そうね」


 よし、ちょっと上げて。


 パアアァァーーン


「15%」

「ええ、そのくらいよ」


 シュウゥーーン


「ありがと、構えた感じとか、よく分かったよ」

「ふふ……また涙が出るじゃない」


 ソフィーナは受け取ると少しうつむいてしまった。そうだよね、自分の武器を息子が使えたんだから。恐らくあの共鳴は直ぐ出来はしない。


「あなたは本当に高い才能があるのね」

「へへ、そうみたい」


「さて、そろそろ風呂の時間だ、俺とリオンは行かなくていいが、ランメルトを手伝ってやるか」

「あ、そうだった。もう荷車引いて行ったかな」

「恐らくな、まあ載せてから間に合えばいい」

「北区は今日で終わりだから、お礼のお酒ね」

「そうだ。よし、リオン行くか」

「うん、父さん」


 クラウスと中央区へ向かう。


「おお、いたいた」


 中通りに酒樽を載せた荷車を発見。前にいるのはランメルトだ。他に3人住民がいるな、お、ケイスもか。


「おー、すまねぇ。おや、着替え忘れてるぞ」

「ああ、いいんだ。俺とリオンは夜に別のところで入るからな」


 事情を話す。


「エスメラルダって、あれか、礼拝堂の近くの」

「そうだ」

「うはー、1泊いくらするんだあそこ、俺もいっぺん泊まってみたいぜ」

「中の様子、教えてくれよな」


 どうもこの村で一番いい宿らしい。


「あれ、お酒って、確か最初に借りる時も持っていったよね」

「そうだぞ」

「ならもういいんじゃ」

「いいんだよ、使わせてもらったんだから。それにこのところ要請もそう続かないし。積み立てにかなり余裕があるんだよ」

「ふーん」

「今度要請に行ったら、いつもより多くの酒で返してくれるさ」

「なるほどね」


 それで西区に応援要請に来てもらったら同じだけ返すし。そうやってお礼の酒の量が増えていくのね。ふっ、酒屋は要請がある度、儲かるか。


「おー、すまんな」

「なあに、世話になったからな。ここへ置いておくぜ」

「ああ、あとはこっちでやるよ」


 北区の住人に酒を預けて西区に帰った。


「ただいまー」

「お帰り」


 居間に座る。16時20分頃か。


「少し早いがそろそろ行くか」

「そうね」

「そういや持ち物指定は無かったが、一応お前も武器を持っていけ」

「うん」

「念のため冒険者証もな、ああ、着替えも必要だな」

「準備してるわよ」

「すまない母さん。じゃあ行くか」


 武器を背負い再び中央区へ向かう。よく考えたらソフィーナも一緒に行って、そのまま宿に行けばよかった。まあいいや。


 礼拝堂の近くと言っていたな、あそこか!


「うわー……」

「玄関からして入るのを躊躇うな」

「ほんとにいいのかしら」

「いいんだろ」


 玄関に近づくと扉横にいた男性が話しかけてきた。


「エスメラルダにご用件ですか」

「ええと、ミランダ副部隊長に指示を受けた。クラウス・ノルデンだ」

「これは失礼しました。何か証明できる物をお持ちですか」


 3人の冒険者証を見せる。


「確認しました。ご案内します」


 男性が大きな扉を開けると、中にいた女性が速足で近づいてきた。


「あちらで受付をお願いします」


 示されたカウンターへ向かい再び冒険者証を見せる。


「はい、確かに3名様、承っております。お部屋は2階の201号室です。そちらの者が案内いたします」


 先程の女性について行くと螺旋階段が。幅が広く段差が緩やかなそれをゆっくり上がった。


「こちらです」


 女性職員が鍵を開け扉を開く。12畳ほどか、短い通路を抜けるとリビングらしきスペースが。職員は次々と手をかざし照明を灯していく。


「寝室はあちら、トイレと風呂はそちらです。夕食は1階の食堂にて17時30分よりご利用できます。部屋に誰も残らない場合は鍵をお持ちください。何かありましたら階段付近の職員までお伝えください。それでは失礼します」


 説明を終えて職員は去った。


「寝室、どうかしら」


 ソフィーナはウキウキと奥へ消えていった。俺とクラウスも続く。


「うわー、大きいベッド」

「2つだが、1つで2人寝れるな」

「じゃあ俺、母さんと寝るね」

「そうだな」


 続いて風呂を確認。


「ほー、浴槽もあるのか、お湯は……あちっ!」

「はは、父さん、きっとこれ水と合わせて温度調節するんだよ」

「……ほう」


 多分このレバーみたいので湯量と水量を調節できるんだ。


「おおー、なるほどな。よく分かったなリオン」

「なんとなくね、あ、壁に使い方書いてあるよ」

「あらそうね」

「洗面台もここにあるのか」

「見て、鏡が凄いきれい!」

「ほんとだ、俺ってこんな顔してたのか」


 続いてトイレを確認。


「ふーん、ここはまあ普通だな」

「でも床とか便器とか、よく分からない材質だね」

「まあな、何でもいい、用が足せれば」


 リビングのソファに座る。


「……服装間違えたな」

「持って来たわよ、着替えましょうか」


 そう言ってソフィーナは荷物から服を出す。おお、これはディアナと食事に行った時のこじゃれたやつじゃないか。ソフィーナはできる女。


 着替えを済ましソファに座る。これで大丈夫だ。

 大きな窓のカーテンを少し開け中通りを見る。行き交う人は多いが馬車は少なくなっていた。もう直ぐ夕暮れだからね。


「ところで武器は置いて行くのか」

「そうなるわね、心配なら聞いてきたら?」

「階段の職員か」


 クラウスは出ていき、ほどなく帰って来た。


「1階のカウンターで預かってくれるんだってさ」

「なら安心ね」

「よし、時間もそろそろだ、行くか」


 3人武器を持ち廊下へ。扉の鍵を閉める。


「あれ、先生」

「おお、お前たちか」

「なんだ、フリッツ隣りの部屋か」

「そうだ、1人では広すぎるぞ」

「あ、なら俺はそっちに行こうか」

「そうだな、では食後に来い。ここの者にはワシが伝えておく」


 4人揃って1階へ、受付カウンターで武器と鍵を預ける。


「先生の服、いいやつだね」

「滅多に着ないがな」


 なんか屋敷の執事みたいだ。ふふ、顔もそんな感じ。『フリッツ! 例の件はどうなっている』『既に手配しております』『そうか、さすが早いな』なんて主人とのやり取り想像してみたり。


「なんだ、おかしいか」

「いや、威厳があってとてもいいよ。できる執事って感じ」

「……そうか」


 む、微妙な表情。できる執事は誉め言葉にならないか。


「席へ案内します」


 食堂入り口の男性職員が俺たちの前を歩く。


「ではごゆっくり」


 ああ、フリッツも一緒なのね。4人1つのテーブルに座る。


「何だか落ち着かないな」

「そうね、昨日のお昼よりずっと上だわ」

「何のことは無い、食事するだけだ」


 クラウスとソフィーナがそわそわしてるのを横目に余裕のフリッツ。多少は慣れているんだね。付き合い広いみたいだし。


「食前酒です」


 職員が3人のグラスにワインっぽい酒を注ぐ。俺はもちろんフルーツジュース。


「では、リオンのその類稀なる才能に」


 フリッツが言うと、みなグラスを少し上げ、一口飲む。


「皆様、お越し下さりありがとうございます」


 !? ミ、ミランダ?


「これはコーネイン夫人、お招きありがとうございます」


 フリッツが立った。それを見て3人も立つ。


「どうぞお掛けください」


 言われて4人座る。


「急な発令、すまなかった。だがこうするのが最も良いと考えてな」

「いや、的確な措置だ。ただいささか宿を間違えてはいないか」

「何を言う、リオンほどの者、相応しいではないか」

「それで具体的な予定は?」

「20時にコーネイン商会に集合だ」


 クラウスの読みより1時間後だったな。まあ19時ならゆっくり風呂にも入れない。


「誰が来る」

「……ゼイルディク伯爵家、家令ディマス、アーレンツ子爵家、家令エステバン、メルキース男爵アルフレッド、我が夫エリオット、ロンベルク商会コルホル支店長、同職員、コーネイン商会、同職員だ」

「なんと男爵、自らか。それにエリオット卿も。伯爵と子爵からも家令を呼びつけるとは、この短時間でよくぞ」

「フン、屋敷や商会には無駄に人がいるからな、いくらでも走らせればよい。ただディマス殿が来るとは思わなかったぞ。それで試験素材は3種用意した。よろしく頼むぞ」


 3種類か。剣、槍、弓かな。


「では、ごゆっくり」


 ミランダは去った。


「ドレス着てたの、あれミランダで合ってるのか」

「そうだ」

「凄くきれいだったわ」

「俺も、誰かと思ったよ」


 多分、この会場で家令やロンベルク商会の相手をしてるんだろうな。


「伯爵の家令ディマスはかなりの人物だ。ゼイルディクの決め事ほとんどに影響力を持つ。よくまあ村まで呼びつけたな」

「もうあれだ、かなり大きいことを言ったんじゃないか」

「だろうな」


 ひええ、プレッシャーかけないで。


「前菜です」


 職員が運んできた。

 これはサラダだな。それとハムとチーズ。


「まあ、ひとまずメシだ」

「そうね」


 難しいことは食ってから考えればいい。


「う、うまい。このハムどうなってんだ」

「チーズも食べたことない味だわ」


 ほんとだ。美味しいけど、なんだか謎の深みがあるな。


「熟成の差だ」

「……ほう、さすがだな」


 フリッツは味の根源が分かるようだ。


 続いて運ばれてきたのはパスタとスープ。


「このスープは何だ」

「香ばしい香り、味は少し辛味があるわね」

「でもうまいな」


 どれどれ……これは! コンソメスープだ。


 クラウスはスープも飲み干し、パスタもペロリとたいらげた。


「いい食べっぷりだな」

「村でいるとな、いつ魔物が来るか分からないから早食いになったんだ」

「フッ、違いない」


 フリッツも早いな。何だろう、一口が大きいのか。俺とソフィーナはお上品に少しずつ食べるぜ。


「メインディッシュです」


 来た! 肉だ。


「ああ、キミ。これの産地は」

「カルカリア北部です。井戸水で育てました」

「そうか、ありがとう」


 おもむろにフリッツが産地を聞き出した。カルカリア井戸水牛だと!


「これはうまいと評判のやつだね」

「そうだな、楽しみだ」


 4人、ゆっくりと味わう。


「んー、うまい」

「美味しい」

「絶品だな」


 うん、美味しい。牛肉とはこう料理するんだと言わんばかりの全力投球が伺える。


「井戸水の違いは分かる?」

「分からないわ」

「こうなったら肉は肉だろ」

「はは、まあそうだな」


 だよねー、俺も分からん。


「ふー満腹だ」

「そうね、かなりの量だったわ」


 肉だけで腹いっぱいって、何て幸せなんだ。


「デザートです」


 お、これはバニラアイスっぽい何かだ。それと紅茶か。


「美味しい!」

「ほんとだ、昨日の夜のとは全然違うな」


 確かに。濃厚さというか密度というか、これは丁寧な仕事してるぞ。


「ふー、満足。こんな食事初めてだ」

「ほんと、世の中、美味しいもの沢山あるのね」

「それ相応の値段だがな」

「う、まあな、普段は無理だぜ。ミランダには感謝だな」

「では部屋へ行くか、武器は預けたままでいいだろう、19時30分に階段下に集まろうか」

「分かった」


 2階の部屋へ戻る。


「俺は着替えを持って先生の所へいくね。風呂は2人一緒に入った方が背中洗えていいよ」

「はあ!?」

「まあ」


 ふふ、いい機会だ。夫婦で楽しんでね。

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