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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
53/321

第53話 ベリサルダ合金

 搬入口裏でフローラから商会勢力を聞く。トランサイトを託す相手を選出する上でとても参考になった。俺の中ではコーネインかロンベルクに固まりつつあるが、ランドルフはまた違った意見を示す。いずれにしても一度相手を決めたら変えられない。よく考えよう。


 ランドルフはまだ搬入口裏を動かないため立ち回り訓練の見守りを依頼した。武器を取りに家に帰ると誰もいない。ソフィーナとディアナは中央区の買い物で盛り上がっているのか。


 ガルウルフを想定して動く。7体ほどの討伐だ。


「ガルウルフはもう敵ではないな」

「訓練だからね」


 対峙経験のある中で最も強い魔物がガルウルフだ。より上のランクではダークイーグルに止めを刺したが、特異な状況下だったため戦闘経験としては参考にならない。そもそも大型の飛行系は複数人での連携が前提だ。


 よし、連携もやってみよう。訓練討伐で何度も経験したから想像しやすい。


 ヘルラビットを発見。接近して注意を惹く。後衛まで引っ張り、突進を回避して進路を外れる。減速した魔物へ魔法が到達、動きが止まった。間合いを詰めて止めを刺す。


 ……うーむ。経過を観察する時間が増えて何だか微妙だな。まるで1人演劇をやっている気分だ。これで訓練になるのだろうか。


「連携か」

「うん」

「パーティメンバーの動きまで想像すると難しい。よほど熟練した仲間なら別だが」

「あー」


 俺はマルガレータとの連携が数回だけ。まだ彼女の正確な間合いやタイミングが分からない。よく考えたら俺の想像と実際の感覚が違っていたら戸惑う。連携訓練は止めにしよう。


「訓練は終わりにするよ。ランじいさん、さっきは意見をありがとう」

「フローラの記した紙は食事後にでも持っていく」

「分かった」


 家に帰る。


 風呂の準備まで時間があるから共鳴訓練でもするか。低い共鳴率なら倒れる心配もない。


 キイィーン


 5%で維持。ほとんど魔力を使わないね。


 共鳴と言えばクレマンも実現していたが、あれは2%だったか。いや待てよ。そもそも共鳴率って俺の認識で合っているのだろうか。正確な1%を知る必要があるな。フリッツに聞いてみよう。


 レーンデルス家へ向かう。


「こんにちは」

「いらっしゃい」

「先生はいますか」

「親父は出てるよ。中央区へ行ったかな」


 居間のソファで寛ぐアルベルトが応えた。


「風呂までには帰る。待つなら座れよ」

「じゃあ、おじゃまします」

「その武器はコーネインか」

「うん」

「抜いていいか」

「いいよ」


 アルベルトは立ち上がり剣を抜き構える。


「トランサス合金にみえるが」

「そうだよ」

「共鳴いいか」

「うん」


 キイイィーン


 集中が早い。3%くらいか。


「今は何%?」

「3%だ」


 俺の感覚は合っているみたいだね。


「上げるぞ……」


 キイイィィーン


「8%?」

「よく分かったな」


 キイイィィーーン


「13%」

「その通り! 見ただけで共鳴率が分かるなんて大したもんだ」

「おじさんも共鳴武器使ってるの?」

「そうだぜ。見せてやるよ」


 アルベルトはソファ横に立てかけてあった武器を持つ。


「抜いてみろよ」

「いいの?」

「俺もお前のを握っただろ」


 人の武器は緊張するな。


 スッ


 長い。剣身75cm、俺の1.5倍だ。重さは少し重い程度か。


「材質は何?」

「ベリサルダ合金だ」


 ほんの少し赤みが入った銀色かな。


「共鳴やってみろ」

「うん」


 初めての素材だけどうまくできるかな。魔力を通して感覚を探る。これは……なるほど大体わかったぞ。剣身が長い分、少し多めに魔力が必要だな。


 よし、やるぞ。共鳴!


 パアァーン


 おおっ! 白い光が薄っすら輝く。トランサイトとは雰囲気が違うな。


「5%で合ってる?」

「そのくらいだな」


 おや? 共鳴強化はできているがトランサイトに比べて感じが違う。共鳴率を上げてみるか。


 パアアァーーン


「これで15%」

「そうだ」


 うーむ、確実に強くなっているが何か変だ。


「ありがと。仕舞うね」

「リオンは凄いな。ベリサルダは少しクセがあるのに一発で共鳴させるとは」

「おじさん、トランサスとベリサルダって共鳴強化に違いがあるの?」

「もちろんさ。トランサスは共鳴効率80、ベリサルダは20だからな」

「へー、そんな数値があるんだ」


 共鳴効率ね。


「じゃあおじさんは共鳴効率が高いトランサスを使えばもっと強いんじゃないの?」

「効率だけ見ればな。でも剣の強さはそれだけじゃない。切断と斬撃が大事だ。トランサスは基本値150、ベリサルダは220だぞ。それに剣技適性がトランサスは30、ベリサルダが85なんだよ。数字は高い方が剣技の斬撃がよく通る」


 なるほど、共鳴効率の他はベリサルダが上なのね。


 でもこれはトランサイト。切断と斬撃はトランサスに比べて1.5倍だから225だ。ベリサルダを僅かに上回る。カスペルの話の様に剣技適性も上がっているとしたら45だ。これはベリサルダと倍近く差があるな。


「まあ訓練討伐ならトランサスで十分だ。お前は共鳴強化も早いからな」

「うん。じゃあ俺、帰るね」

「親父を待たないのか」

「おじさんが教えてくれて解決したよ。ありがとう」

「なんだ、そうか」


 家へ向かう。


 トランサイトの共鳴効率はいくつだろう。トランサスに比べて1.5倍なら120だ。ジェラールから貰った日の夜にトランサイトに変わったなら、トランサスの共鳴は搬入口裏で試した時だけ。あの感じをハッキリと覚えていないから比較ができない。


 さきほどアルベルトは何も言っていなかった。共鳴効率はベリサルダ20、トランサスは80で4倍だ。トランサイトが120なら6倍になる。4倍と6倍なら気づきそうだが。まあ久々に握って分からなかったか、或いは効率が80のままだったか。


 家に帰り、クラウスと共に北区へ向かう。


「フローラさんに商会のお話を聞いたよ。とても詳しかった。父さんは任せるならどの商会がいいと思う?」

「ルーベンスでいいんじゃねぇか。大手だし」

「経営もフローテン子爵だからね」


 過去にやらかしたらしいが今は頑張っている模様。冒険者向けを考えれば候補ではある。クラウスは直ぐ名前を出したな。長年利用してきたから親近感があるのだろう。


「お前の考えは?」

「……コーネインかロンベルク」

「経営者はメルキース男爵とアーレンツ子爵か。まあ近いし領主だし、どちらもいいと思うぞ」

「ミランダ商会長に相談すればいいのかな」

「商会責任者だからな。段取りはフリッツに任せるか」


 あまり商会選別に時間を掛けても仕方がない。これも何かの縁だ。少しでも世話になったミランダに話そう。


 それにもしコーネイン商会がルーベンス商会へ探りを入れているなら無駄な労力だ。話を持ち掛けるなら早い方がいい。食後、ソフィーナとディアナが風呂の間にフリッツたちを集めて最終決定するか。


「食後に先生とじーちゃん、ランじいさんに家へ来てもらってもいいかな」

「ランじいさん? ああ、ランドルフか」


 北区へ続く道でカスペルとランドルフに伝える。風呂後に脱衣所でフリッツにも伝えた。


 家に帰り手早く支度を済ませて中央区へ向かう。夕食も家族4人で外食だ。


 ゴーーーーーン


 レストランへ入ると同時に鐘が鳴る。席は1階の少し奥。大きな板で区切られた半個室だ。席へつくと飲み物を注ぐ。大人2人はワイン、子供2人はフルーツジュースだ。


「ディアナのより充実した学校生活と、リオンの訓練討伐が無事進むことを祈って」


 無言でグラスを少し上げ一口飲む。昼はこれまでの感謝、夜はこれからの願いなのね。


 テーブルの中央に山盛りの野菜が置かれるとソフィーナが取り分ける。これがこの店のスタイルか。続いてスープが運ばれる。コーンスープだね。


「この野菜は村で育てたの?」

「もちろんさ。中央区のほとんどが村の野菜を使っている」


 まあ当然だね。地産地消だ。


「父さんは農業と縁が無かったけど最初からできた?」

「1~2年は耕起も専門に任せてたが、それ以降は自分で全部できたぞ。操具の派生スキルは全く経験が無くても集中的な訓練で覚えられるのさ。まあモノにもよるけどな」


 ほほう。じゃあ俺も可能性はあるのか。鍬を振り下ろした周辺も同時に耕されると気持ちいいだろうな。整った畝を見渡して満足感に浸りそう。


「お待たせしました」

「来たぞ!」


 立派なステーキがテーブルに加わる。


「……うまい」

「柔らかくて食べやすいわ」

「ソースもいいわね」

「これはカルニン産だって」

「ほー、そうか」

「カルニン村は畜産でサガルト村が小麦だよね」

「ここも東区は小麦があるぞ」


 小麦畑に魔物が入ると戦い辛そう。


「食った食った」

「お腹いっぱい」


 うん。大満足だ。


 店員がデザートを運ぶ。バニラアイスっぽい。へー、こんなの作れるって異世界は凄いな。昼間のティラミス含めてデザートの調理技術は高い水準にある。もちろんそれなりのお値段だろうけど。


「口どけがたまらないわ」

「町のお店にはスィーツ専門店もあって、種類も多いしとっても美味しいのよ」

「ねーちゃん甘いもの好きなんだ」

「私じゃなくてもみんな好きよ」

「あー、そうかも」


 専門店まであるのか。食べ歩きが楽しそうだ。


「実は私、スィーツ職人になりたいの」

「ねーちゃんなら絶対できる」

「うん、頑張るね」


 人気ありそうだけど需要も多いからチャンスはある。


 食事を終えて西区へ向かう。この時間の中央区はちょっと新鮮だな。19時前だが多くの人が行き交う。酒場らしき建物からは賑やかな声が漏れていた。


「気になるか」

「うん。楽しそうだね。父さんも行く?」

「たまにランメルトやアルベルトに誘われてな」

「町にいた時はよく行ってたの」

「そこそこな。雨が降ったら冒険者でいっぱいだぞ」

「はは、想像できる」


 むさ苦しい男たちの酒場か。


「母さんも行ってたの?」

「たまにね」

「ふーん」


 女性の冒険者も多いからね。


 家に帰って居間に座る。


「この後、フリッツ、カスペル、ランドルフが来る」

「あら沢山ね。どうしたの」

「魔物討伐で少し話すことがあるんだ」

「私は聞かなくていいの?」

「母さんは後で俺から話すよ」

「そう、分かったわ」


 ソフィーナとディアナは風呂へ向かう。


「話が長引いたらびっくりするだろ」

「そうだね」


 ほどなくランドルフとカスペルが訪れる。


「いらっしゃい」

「おじゃまするよ」

「リオン、フローラから預かったものだ」

「ありがとう」


 ランドルフから羊皮紙を受け取り、机の上に置いて眺める。


 エールリヒ商会

 本店:中央北メールディンク

 施設:騎士団本部、士官学校

 経営:メールディンク子爵

 騎士25%、冒険者5%


 ロンベルク商会

 本店:中西部アーレンツ

 施設:士官学校、冒険者養成所

 経営:アーレンツ子爵

 騎士20%、冒険者5%


 ガイスラー商会

 本店:北東部クランツ

 施設:騎士団防衛部隊・討伐部隊、士官学校、冒険者養成所、サガルト街道

 経営:クランツ男爵

 騎士15%、冒険者5%


 ユンカース商会

 本店:北部デルクセン

 施設:騎士団防衛部隊・討伐部隊、冒険者養成所、カルニン街道

 経営:デルクセン男爵

 騎士15%、冒険者5%


 コーネイン商会

 本店:北西部メルキース

 施設:騎士団防衛部隊・討伐部隊、士官学校、冒険者養成所、コルホル街道

 経営:メルキース男爵

 騎士15%、冒険者5%


 ルーベンス商会

 本店:中北部フローテン

 施設:冒険者ギルド本部

 経営:フローテン子爵

 騎士5%、冒険者35%


 スヴァルツ商会

 本店:西部ボスフェルト

 施設:騎士団防衛部隊・討伐部隊、冒険者養成所

 経営:ラインハルト・スヴァルツ商会長

 騎士2%、冒険者10%


 カロッサ商会

 本店:南西部ハウトスミット

 施設:騎士団防衛部隊、冒険者養成所

 経営:ナタリー・カロッサ商会長

 騎士1%、冒険者10%


 ブラームス商会

 ゼイルディク本店:南部ミュルデウス

 経営:バウムガルト子爵

 本部:ウィルム北西部

 騎士1%、冒険者10%


 ラウリーン商会

 ゼイルディク本店:東部ベルニンク

 経営:アレリード子爵

 本部:カルカリア北西部

 騎士1%、冒険者10%


「こんばんは」

「先生いらっしゃい。これフローラさんがまとめてくれた資料だよ」

「ほう……商会候補の参考か。騎士と冒険者の使用率は貴重な情報だ」

「スヴァルツとカロッサは貴族じゃないんだね」

「スヴァルツの創業者は職人だ。そのラインハルトは2代目だな。その親はガエル、武器職人ギルドの幹部だった。ワシのいた養成所の近くに本店があったからよく知ってる」


 ふーん、職人の家が経営か。


「カロッサの商会長は鑑定士だの。確か鑑定士ギルドの幹部と聞いた」

「じゃあ素材確保はお手の物だね」


 素材を押さえられるアドバンテージは大きい。

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