表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
51/321

第51話 中央区のレストラン

 魔物討伐を終えてクラウスとソフィーナが戻る。魔物はヒュージスコーピオンとディナスティス、どちらも大型の昆虫系だ。


「倒した魔物を見張り台から見ていいかな」

「ああ、行って来いよ。カスペルがいるはずだ」

「ねーちゃんも行こ」

「うん行く」


 俺とディアナは城壁を上がった。


「あはっ、城壁の階段もひっさびさ」

「もう雨はすっかり乾いてるね」


 見張り台にはカスペルがいた。


「じーちゃん!」

「おお、リオン、それにディアナも」

「さっきの魔物を見に来たよ」

「そうか、あれだよ」

「うわーっ!」


 大きい。多分あっちがディナスティスの骨。え、骨? 昆虫なのに骨があるのか。見たところ獣や鳥とは大きく異なる骨格だ。もう何でもいい。


 角らしきものは3本見える。うち背中の1本は7mほどの長さだ。頭からは大きな鎌の様な顎が2本生えている。周りには冒険者ギルド職員らしき人だかりだ。あの大物をどうやって運搬するのか。


「あっちがスコーピオン?」

「そうだ。あれを先に倒した。大きくても魔法の射程に入れば何のことはない」

「大きい荷車が来た! 角とか載せるんだね」

「あれでは収まりきらんが、まあ何とかするだろ」


 10人ほどが抱えて荷車に載せる。両側に大きく突き出ているが構わず縄で固定した。まあ車輪さえあれば前に進むからね。重そうだけど。


「こんなの森の中で倒したらどうやって運ぶの?」

「諦める」

「え!? 勿体ない」

「町に帰ったらギルドに場所だけ報告してあとは任せる。うまく回収できたら1割くらいは報酬が貰えるの」

「へー」

「実際は、ほとんど森に放置だ。そしていずれ消える。だからギルドにとってこの村は、大型の素材が確実に手に入る貴重な場所なんだよ」


 精霊石探しをギルドは黙認している。村へ魔物を引っ張れば素材回収が容易だからだ。


「これって冒険者が連れてきたの?」

「さあの。それらしき人影は見えなかったぞ」

「ふーん。じーちゃんて今日ずっとここにいるの?」

「飯の他はな。風呂までいるぞ」

「分かった。ねーちゃん下りる?」

「そうねー、もういいかな」


 カスペルに手を振って城壁を下り、家に帰った。


「見てきたよー」

「ギルドは運んでたか」

「無理やり荷車に載せてた」

「はは、そうか」

「地面は走っても問題なさそうだよ」

「じゃあ訓練するか」

「うん」

「私も見ていいかな」

「もちろんだ」


 クラウス、ディアナと共に城壁近くへ。


「まずは身体能力の強化訓練だ。いつものやってみろ」

「うん!」


 城壁間を走って往復する。

 15回連続で繰り返して休憩。


「ふーっ、はーっ」

「リオンは身体強化まで凄く早いけど魔力操作はどうなっているの」

「もう大人と同じなんだぜ、なあ」

「うん」

「へー、驚いた!」


 続いて階段からの跳び下り。


「私もやるー」

「じゃあ交代で跳ぼう」

「まずは12段目から。リオン13段目いけるんでしょ?」

「うん」

「ふふーん、負けないわよ」


 先にディアナが12段目に上がり魔力を集中する。20秒ほどで準備が整ったらしい。


 トンッ ヒューン スタッ!


 おおっ、ほとんど膝を曲げずに着地している。やるな。しかしスカートが完全にめくれてパンツ丸見えだぞ。いいのか。


「次はリオンね」

「うん」


 トンッ ヒューン スタッ!


「まだ余裕あるわね」

「へへへ」


 そして13段目。ディアナは12段目と変わらない着地制御。次は俺だ。


 トンッ ヒューン スタッ!


 おっ、これは! 14段目もいける。


「やるじゃない」

「うん!」


 14段目でもディアナは余裕があった。俺は初挑戦だ。


 トンッ ヒューン スタン!


 くっ、ちょっとよろめいた。ここまでか。


「んー、次は危ないわね」

「はは……」

「じゃ、行くね!」


 トンッ ヒューン スタッ!


 おおっ、15段目の踊り場からでもまだ余裕があるぞ。やるなディアナ。


「ねーちゃん、凄い!」

「へへーん! 16段目もいけるけど階段が奥になって地面まで遠いから無理ね。代わりに違う跳び方を見せてあげる」

「えっ」


 再び15段目の踊り場に上がったディアナは魔力を集中する。


「行くよ!」


 タッタッ トンッ ヒューン スタッ!


「おおーっ!」


 凄い。踊り場で助走をつけて長い距離を跳んだが着地制御は同じだった。やるなぁ! ただ連続で跳んだため息を切らしている。休憩だ。


「ふーっ……冒険者コースでも身体強化を訓練するのよ」

「そうなんだ。ところで服装は違うの?」

「え? 同じだけど」

「……下着が丸見えだよ」

「いいのよ。一瞬だし」


 まあ直ぐ地面ではある。それに女性は太ももを出すことで魔力効率がいいからね。


「あらー、リオンたら女の子の下着に興味があるの?」

「えっ……えーっと」

「いいのよー、男の子だし!」

「ねーちゃんは女の子らしくしないと!」

「あら、言うわね」


 恥じらいも無く堂々とするのは、ちょっと。


「普段はちゃんとしてるわよ。でも訓練は仕方ないの。いちいち恥ずかしがってたら怪我するでしょ」

「まあそうだね」

「次の訓練をやるか」

「うん父さん。跳躍だね」

「私は見学にするわぁ~。パンツ見えるしぃ~」

「う、うん」


 急に変な口調になった。ふふ。





 跳躍を5回連続と休憩を3セット行う。ところでこれって垂直跳びだよな。俺は120cm以上跳んでるから地球の世界記録じゃないか。走力も100m走なら9秒台だ。改めて身体能力強化の凄さを実感する。


「ふーっ、休憩」

「ほんとに強化まで一瞬ね。大人と同じだわ」

「おまけに魔力量も多く回復も早いぞ」

「ちょっとリオン、あんた士官学校に行けるんじゃない?」

「うーん、騎士はいいかな。色々面倒そうだし」

「確かに規律とか厳しそうだね」


 大抵は士官学校を勧められる。騎士とは人気の職業なのか。


「次は壁登り」


 早く登っては飛び下りを5回繰り返した。


「ふひー、疲れた! これで一通り終わったよ」

「いやー、大したものよあんたは。そりゃ現役冒険者だわ」

「次は立ち回りだな」

「うん」

「武器を持つのね。見たい見たい」


 武器を背負い搬入口裏へ向かう。


「おーリオン、その武器はお前のか?」

「そうだよ、クレマン」

「ケイスの言ってた通りだ。ほんとに冒険者なんだな」


 クレマンとカールだ。セシリアの兄2人だね。ケイス、ピート、ロビン、それからセシリア、レイラもいる。加えてランドルフとフリッツも。賑やかだな。


「冒険者ごっこやってたの?」

「そうだぜ。クレマンもカールも冒険者コースだから色々教えてもらってたんだ。ディアナもだろ!」

「うん」


 コースは全学年が参加するため3年のクレマンと2年のカールも1年のディアナと一緒に訓練をしている。レイラは違うコースの様だ。


「2人いるならリオンを見てくれ。俺は畑に行く」

「おお、構わんぞ」


 クラウスはフリッツとランドルフに声を掛けて去った。付き合わせてごめんよ。もしや先ほどの魔物で畑に被害が出たのかな。


「やっぱりここだ!」


 エドヴァルドとミーナも加わる。エルマも一緒だ。まあ気持ちは分かる。魔物対応が終わると外出したくなるのよね。大抵は搬入口付近に誰かいるし。


「リオン、武器を持ってるってことは立ち回りか」

「うん」

「みんなリオンの動きをよく見てろよ。凄いんだぜ!」


 要らんこと言うなよケイス。過度に注目されるとやり辛い。


「剣、抜いてやるよ」

「ありがと」


 クレマンが背中の剣を抜く。


「……いい武器だな」

「まあね」


 よーし、やるか。念のため集まった子供たちからは距離を取る。では身体強化と共鳴だ。


 キイイィィーーン


 ガルウルフを想定し立ち回る。6体討伐だ。


「ふーっ、休憩」


 パチパチパチ……。拍手が起きた。


 ベルトを外して剣を鞘に納める。その場に座り込むと周りに子供たちが集まった。


「凄いじゃないかリオン!」

「流石、冒険者だな!」

「ほんとに魔物がいるみたい!」

「その武器はどうしたの?」

「ミランダ副部隊長に貰った。色々あってね」

「副部隊長って防衛部隊の? メルキース男爵家だよな」

「お前どういう繋がりなんだよ」

「貴族に知り合いってすごーい!」

「武器を見せてもらっていいか」

「いいよ」


 クレマンは武器を注意深く見つめる。


「コーネイン商会ミランデル。かなりの品だな」

「兄さん知ってるの?」

「ああ、セシリア。女性向けのブランドだ。薔薇を象った意匠が特徴的だろ」

「何だか貴族っぽい」

「見せて見せて。いいかなリオン」

「いいよレイラ」


 セシリア、レイラ、それにミーナとエルマも近寄ってじっくり見つめる。


「騎士に使用者が多いと聞くね。これは子供用だから士官学生向けだ」

「クレマンは詳しいね」

「友達と商会巡りをしているからね」

「兄さんは騎士を目指してるのよ」

「凄い!」

「なんとか来年は士官学校に入れそうだよ。でもそれからが大変だ」


 ふーん、頑張っているね。


「抜いていいかい」

「うん」


 クレマンは剣を構える。


「これは……トランサス合金?」

「トランサス合金で合ってるよ」

「共鳴いいかな」

「いいよ」


 よく分かったな。流石は商会巡りをしてるだけはある。クレマンは武器が好きなんだね。


 キイィーン


「ふぅ……さっきのリオンほどではないけどね。出来てただろ?」

「ちゃんと共鳴強化してた」

「ありがとう」


 剣を鞘に納めた。


「これによく似た意匠の品が本店に展示販売されていた。銘入りでかなり高品質だったよ。もちろんそれなりの価格だけどね」

「ふーん」


 恐らくこれが展示品そのものだ。


「訓練討伐はどうだ? ウチの学生も参加しているから会っているかもしれないね」

「俺含めて6人パーティだよ。ジェラールとマルガレータはラウリーン中等学校らしいね。あとはリュークとサンドラ、それから村の東区からシーラって子が来てるよ」

「ジェリーとマリーが一緒なのか!」

「すげぇな! 冒険者コースでも上位の2人じゃないか!」


 どうやら2人をよく知っているらしい。


「確かに村からも1人来てるって聞いたな。東区か」

「あとの2人はどこから来てるか知らないけど」

「士官学校だよ。監視所管轄の訓練討伐はラウリーン中等学校、メルキース士官学校、コルホル村だけ」

「へー」


 よく知っているな。


「ところでリオンは剣技を使わないのか」

「え! いやー、さっきは動きだけね。危ないでしょ」

「……ふーん」


 むむ、剣技とやらを使っていないと直ぐに分かったのか。まあそうだよね。


「レイラ、ピート、そろそろだぞ」

「うん、じいちゃん」


 おや、用事か。


「さあ俺たちも行くか」

「何処へ?」

「中央区で食事だよ。リオンもだろ」

「あー、うん」


 なるほどそうか。町から戻った子供のいる家庭は中央区での食事が定番らしい。ほどなく搬入口裏の集まりは解散となった。


 ゴーーーーーン


 昼の鐘だ。


 ディアナと共に帰宅するとクラウスとソフィーナが待っていた。


「中央区へ行く準備をしましょう」


 両親は普段見ない装いだ。


「リオンはこれに着替えてね。ディアナはこっち来て」


 用意された服に身を包む。ちょっとこじゃれた感じだね。


「まだ寸法は合うな」


 思い出したぞ。以前、同様に中央区で食事した際に着たな。ディアナが奥の部屋から姿を現す。ほほう、可愛らしい印象だね。


「どう?」

「似合ってるよ、ねーちゃん」

「じゃあ行くか」


 中央区へ出発する。こんな出で立ちでも両親はしっかり武器を装備している。もし魔物が来たらその服装で戦うのか。


 中央区へ入り冒険者ギルドへ向かう。武器を預けるとアレフ支所長が出てきた。


「食事か?」

「娘が帰っているからな」

「そうかそうか。ああ訓練討伐だが13日だ。行けるか?」

「うん」

「分かった。伝えておく」


 予定通り連休明けだな。


 中通りを南へ進み、昨日クラウスが示した店へ入る。


「いらっしゃいませ」

「クラウス・ノルデン、12時4名だ」

「……確認しました。2階のお席です。係りの者がご案内します」

「お客様こちらです」


 雰囲気は少し高級なレストランかな。俺たちは2階の席へ案内される。子供2人が窓際へ、俺の隣りにクラウス、ディアナの隣りにソフィーナが座った。


「食前酒です」


 店員がボトルからグラスへ注ぐ。コース料理か。俺とディアナはフルーツジュースらしい。


「ではディアナの実り多き学校生活とリオンの冒険者としての門出を祝って」


 かんぱ……い、はしないようだ。無言でグラスを少し上げて一口飲む。そう言えば応援要請のお礼の酒も乾杯はせず、ただ雄叫びを上げていた。こういう文化なのね。


「前菜です」


 店員が料理を机に並べる。野菜サラダ、ハム? 後は何だろう。


「うまいな」

「おいしいわ」


 ……ほんとだ。西区食堂と比べると繊細な味付けだな。これは生魚か、カルパッチョだな。


「これ魚?」

「そうよ、よく分かったわね」

「西の川で獲れるんだよ」


 ふーん。まあ川があれば魚もいるよな。


「カルカリアにも大きな川があるの。上流には湖があってね、そこも魚が多いそうよ」

「町でも魚料理を食べたよ。肉と違って味付けが多彩なの」

「ディアナは料理が好きなのよね」


 海は無くても割と身近な食材らしい。ただ少し高級な感じがする。


「おー、来たな」


 次の料理が運ばれる。パスタだ。結構ボリュームがある。クラウスは前菜をペロリと平らげ、待っていたようだ。ちなみにナイフとフォークを使ってるが恐らくマナーも何もない。西区食堂と同じ感じだ。まあ腹に入ればそれでいい。


「お客さん、結構いるね」

「東区も北区も子供を連れてきているのさ」


 確かに親子連ればかりだ。なるほどね。


「今、鐘が鳴ったら、せっかくの料理なのに残念だね」

「行く必要はない。西区の世話人に昼食と夕食は準備しなくていいと伝えてあるからな。つまり外出扱いで討伐に参加しても報酬は無いのさ」

「あー、そうなんだ」

「申請討伐みたいなものよ」

「ふーん」


 事前に言っておけば西区にいなくても構わないのね。


「だから風呂まで中央区で過ごせるが、すること無いから帰るがな」

「午前中の魔物は外出扱い?」

「いや外出は昼からだ。あれは報酬の対象だぞ。でも応援要請は別だ。料理を諦めて参加するしかない」

「村の総力で戦うからね」


 まあ要請は滅多に無い。


「さっきリオンが搬入口裏で立ち回り訓練してたけど動き凄かったよ。もう村でも戦えるんじゃない」

「うーん、どうだろう。大型も来るし、連携もあるからな。ただ戦力としては問題ないぞ」

「そっか、大きいのはみんなで戦うから」

「まずは訓練討伐を頑張ればいい」


 なるほど連携ね。きっと西区全体で1つの戦力として機能している。だからどんな相手でも戦えるのだ。長年培った経験の賜物だね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ