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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
50/321

第50話 地図作成(地図画像あり)

 5月11日の朝を迎える。目覚めると部屋の明かりが点いていた。


「起こしちゃったかなリオン」

「ううん、いつも今ぐらいに起きてるから」

「じゃあ下に行こ」


 武器を持って1階に下り、クラウスとソフィーナに朝の挨拶をする。外は薄暗いが雨は止んだようだ。


「足元悪いから朝の訓練は止めておくか」

「そうだね」

「なに、朝から訓練してるの?」

「身体強化の訓練だよ、走ったり階段から飛び降りたり」

「熱心ね、冒険者なら当たり前なのかな」

「そうだな、特にリオンはやればやるほど上達する」

「へー、凄いね」


 確かに毎日確実に伸びている。本来は相応の期間を要するが英雄の力が影響して早いのだろう。


 魔力操作に至っては大人並みだ。魔力量も増え息切れまで動ける時間が延びた。共鳴関連は訓練討伐がいい経験になっている。ただ昨日の限界共鳴の後は流石に動けなかった。少し底が見えた気がする。


 さて朝食までどう過ごすか。おっ、そうだ。


「ねーちゃん、学校の場所とか教えて」

「いいけど、どうやって」

「地図があるんだ」

「へー、そうなの」


 2階から地図を持ってくる。


「これだよ」

「うわーほんとだ。地図は学校で見たことあるよ。先生が大きい紙を教室の前で広げるの。メルキースの地図なんだけど、ここが何地区、学校はこことか教えてくれるのよ」

「へー」

「これはもっと広いね。多分左上のこの辺りがメルキースでしょ」

「うん。これはゼイルディク全体の地図なんだ」


 よく考えたら施設を記すスペースが小さい。この地図はA3ほどだがメルキースの面積は約20分の1、文字を書けば窮屈だ。


「文字が小さくなるからメルキースだけ別に地図を描くよ。紙を持ってくるね」


 再び2階に上がり白紙の羊皮紙を持って下りる。大きさはA4ほど。


 後で気づいたが、他に羊皮紙を見る機会に比べたらこっちの方が良い品だった。紙1枚が2000ディルは高いと思ったが、高品質なら相応かも。


「こっちにメルキースだけを大きくして描くからちょっと待ってね」

「うん」


 ゆっくりと丁寧に。紙に収まるようバランスに注意する。


 ……。


 道も描こう。川は斜線でいいか。


 ……できた。


「うわー凄い! リオン上手ね」

「いいじゃないか」

「地図描くお仕事できるわ」


 道も境界線も割と真っすぐだからね。ただフリーハンドにしては直線を驚くほど真っすぐ描けた。縦横比も狂っていない。俺はこんな才能があったのか。


 では地区名を書き込もう。


「確か4つに分かれてるよね」

「そうよ。デノールト、ラウリーン、マクレーム、メイルバル。うんとね、境の線はこんな感じ」


 ディアナは指でなぞる。


「へー、川の北東側がマクレーム、南西側は中央の通りを境に北西がラウリーン、南東がデノールトかー、そんでメルキースの南西地域がこの通りを境にメイルバルなんだね」

「そうそう」

「じゃあ今度は何が何処にあるか教えて」

「いいわよ。まず私の通ってる学校ね、この辺かな」

「学校の名前は?」

「ラウリーン中等学校って、あなた字が書けるの?」

「うん」

「うわ、ほんとだ。これは読めるわ、ラウリーンね。リオン凄いじゃない!」

「へへー」


 ラウリーン中等学校はメルキース中心よりやや北西か。ここから街道の騎士団監視所まで結構距離がある。訓練討伐の子供たちは朝早くから出ているんだね。


「ラウリーンは他に何があるの?」

「メルキース士官学校。とっても広いの、このくらいかな」

「……こうだね」

「そうよ。あとは騎士団支部がここ」

「……うん」

「場所は合ってるよ、なんて書いてるか分からないけど」

「言われた通り書いたよ」


 士官学校の敷地は広いな。


「次はデノールト地区ね」

「何があるの?」

「フローネン初等学校、ウェスター中等学校、あとえっと……リグステル専門学校ね」

「……できた。場所はこんな感じだね」

「うん」


 デノールト地区の中心に初等学校と中等学校が隣接。少し離れた通りの向かいにリグステル専門学校か。


「専門学校って何の専門?」

「えっと、武器職人とかかな」

「ふーん」

「あとは男爵のお屋敷がこの辺り……通りには面してないで少し入ったところよ」

「この辺?」

「そうそう、広さは士官学校の半分くらいかな」

「……よし、書けた」


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。


「飯だな、行くか」

「続きは帰ってから教えてあげるよ」

「うん、お願い」


 食堂へ。通路に避けた机には何組か座って食べている。雨、もしくは雨上がりで足元が悪い時は外の仕事が出来ないため早めに食堂に行くのだ。それを見越して料理人も少し早く準備している。


「おはよう、リオン」

「メルおっちゃん、おはよう!」


 カスペルがいない。


「父さんは見張り台だ」

「そっか」


 カスペルの姿を探した俺を見てランメルトが応えた。今日はブラード家か。ウチの隣りだからそうなるよね。暇なら見張り台で話をするのもいいな。例の話の意見をもっと聞きたいし。


 トレーを机に運ぶ。


「雨は夜のうちに上がったみたいだな」

「そうね、だいぶ浸み込んでるわ」

「でもリオン、このくらいでも走ったら滑るぞ。そのブーツでもな」

「そうなんだ」


 戦闘中に滑ると危険だ。それなりの速度で立ち回るため滑った時の衝撃も大きい。その上、魔物に対して大きな隙を与えてしまう。足元は大事だ。


 雨上がりに川へ精霊石を拾いに行く冒険者は、普段と比べてそういった危険性も高まる。気持ちは分かるがそこまでして行くものか。


 いや鑑定不能が出たらアツいぞ。数を稼ぐならやっぱり雨上がりか。


「ねぇ、昨日言ってた鑑定不能の精霊石。鑑定できる人は近くにいないの?」

「またその話か。よほどレア度が高い石に興味があるんだな」

「だって鑑定できないなんて凄いに決まってる」


 手元にあるけど何だか分からず高い希少価値が確定してる。こんなの熱くなるだろ。


「鑑定士なー、ギルドなら分かるが教えてくれないだろう」

「ずるい」

「……俺の想像ではな、鑑定できるやつは、実はその辺にいるんじゃないかと思ってる。でもレア度4は高額過ぎて支払えない。だったら鑑定不能で買い取ると」

「ますます、ずるい。いやそれ規則違反じゃん。真実を伝えないといけないってじーちゃんが言ってたよ」

「ギルドが片棒を担いでたらどうだ。そんなの鑑定できない俺らでは確かめることが出来ん」

「ぐぬぬ」


 汚い。鑑定士ギルド汚い。冒険者ギルドもぼったくりだが、それ以上だ。


「あくまで想像だぞ。でもな、そんな都合よくレア度3までしか鑑定できないやつらが店にいるのが不自然でな」

「父さんの言う通りだよ。怪しい」

「まあ30万では買い取ってくれるんだ。いいじゃないか。変なことに首突っ込むとロクなことにならん」


 ギルドって黒いな。多分他のギルドも何かしら闇を抱えているはずだ。全く組織ってモンは。


 食事を終えて居間に座る。


「リオン、地図の続きやるよ」

「お願い、ねーちゃん」

「じゃあ次はマクレーム地区」

「確か養成所かな」

「そうよ、冒険者養成所。場所はこの辺かな」

「合ってる」

「父さん知ってるの? もしかして行ってたのここ?」

「いや、近くを何度か通っただけ。俺の行ってたのは西部だ」

「先生も言ってたね」


 フリッツも西部だからクラウスも同じ養成所だ。確かソフィーナとランメルトも同じだったな。


「大きいんだね」

「まあな。そんでこの辺にギルド支部があったな、なあ母さん」

「ええ、この辺りね。リオンの冒険者証を作ったのはここよ」

「アレフ支所長は本部だって」

「時間的に無理だろう。午前中に登録して風呂前には出来てたからな。あの人は時々言ってることが怪しい」


 しっかりしろよー、もう。


「ギルド支部があるってことは冒険者も多い。多分マクレームの人口のほとんどが冒険者だ」

「ええ!? そんなに」

「父さんの言う通りよ。私、何度か見たけど、道いっぱいに馬車が走っていくのよ。あの中に4~5人乗ってるでしょ、だからかなりの人数よ」

「へー」

「メルキースの人口は4万人くらいだけど、その中で冒険者は9000人って聞いたわ」

「ええ! 4分の1が冒険者なの!」


 これは驚いた。そりゃ馬車で道が埋め尽くされるワケだ。


「でも9000人って登録の数よ。現役を引退したり、登録だけあって他のことをしてる人もいるわ」

「実際動いてるのは7000人ってとこだ。それも全員が毎日じゃないしな。そうだな、多くて1日5000人ってとこじゃないか」

「それでも十分多いよ。馬車1台に4~5人でも1000台以上だよ」

「まあな。ただメルキースは大きく3方向へ討伐に行っている。この村の東側からカルニン村の西側まで続く森、それからコルホル街道の更に西側の森、後は街道の南西方面かな」

「みんな同じ行き先じゃないんだね」


 1000台が一斉に動いたら大混雑だもんな。恐らく200~300台か、それでも多いが。


「その先にも騎士団の施設があるんだぞ。この西区みたいなのがいくつか」

「森の中に?」

「もちろん。そこを中継して奥にまた沢山の施設、そして更にまた奥にと、だんだん枝分かれしてるんだよ」

「へー、知らなかった」

「森に入って最初の施設は100台くらい馬車を置けるぞ。風呂や食堂もあって1泊くらいできたんじゃないか」

「そうね、施設にもよるけど」

「へー」


 凄いな。森の中にそんな施設がいくつもあるのか。確かに野営が出来ないならね。しかし森の奥地で働く料理人とかは大変だな。


「ねーちゃん、ごめん。続きお願い」

「いーんだよ、私も興味ある話だったし。なんであんなに馬車が多いのか分かったわ。それで最後はメイルバル地区ね。農業、畜産が盛んらしいわ」

「……メイルバル、農業、畜産っと」

「ここは馬の牧場も大きいのがあるな。乳牛も多い」

「父さん知ってるの」

「ああ、冒険者時代に何度か通ったよ」

「そーなんだ」


 冒険者ってあっちこっちに行くから地理に詳しくなるね。


「地図、出来たな」

「こんなの描けちゃうなんて凄いわリオン」

「えー、はは」

「お仕事にできるわね」

「この地図なら1万ディルで売れるぞ!」


 それは言い過ぎな気がする。でもこうやってまとめると覚えやすいし、人に説明する時にも役に立つ。作ってよかった。


挿絵(By みてみん)


「そっか馬の牧場! 冒険者の馬車だけでも凄い数だよね、引っ張る馬も沢山必要になる」

「だから馬絡みだけでも仕事は沢山あるぞ」

「メルキースの他もそうなの?」

「北部、北東部、西部、あと南西部も同じくらいの規模だろう。その他の地域もそれなりに冒険者はいるぞ」

「凄いねゼイルディク、冒険者の町だ」


 これだけの冒険者が毎日活動しているにも関わらず、一向に減らない魔物ってどれほどの数いるのか。まあ倒しても倒しても湧き続けるのだが。しかし手を緩めると溢れて町へ押し寄せる。見返りがあるとは言え、命がけで終わりのない戦いを続ける冒険者は本当に大変だ。


 是非ともトランサイトを大きな手助けにしたいところ。


 カンカンカンカン! カンカンカンカン!


 魔物の鐘だ! 大型だぞ。


「リオンとディアナはここにいろ、母さん行くぞ」

「ええ」


 クラウスとソフィーナは家を出る。鐘を聞いたら体が勝手に動き出しているみたいだ。


「大型って心配ないかな」

「大丈夫、みんな強いし」


 さっきの鐘はウチの直ぐ側で鳴っていた。つまり西区北側の見張り台だ。カスペルが叩いたのなら梯子を上がる時にお腹がつっかえて大変だったろう。


「リオンは行かないのね」

「俺は訓練討伐だけだよ。弱い魔物しか出ないからね」

「弱いっても魔物でしょ」

「まあね。種類も多いし、魔物によって戦い方も少し違うから」

「へー」

「この間はマリーと組んで討伐したよ、俺が魔物を連れてきてマリーに魔法を撃ってもらうの」

「あの人そんな連携できるんだ」

「ま、まあね」


 マルガレータは学校で有名らしい。ちょっと興味がある。


「マリーって学校でどうなの?」

「……3年生の男子と女子が揉めてた時に、先頭になって言い合ってたのよ。それで女子を代表して決闘したの」

「決闘!? 男子と?」

「そうよ」


 おてんばにも程があるな。先生も止めないのか。


「殴り合いとかじゃないわよ。学校の敷地に訓練場があって、ほら、冒険者コースあるでしょ、その実技するとこ。そこで魔法の射程と精度を競ったのよ」

「なるほど。健全な競技だね」

「結果、マリーは大勝利。以来、男子は彼女を認めているわ」

「やるね」


 はは、目に浮かぶな。勝気なマルガレータがやりそうなことだ。


「マリーの魔法は凄いよ。20m先からグリーンラクーンの首を風の斬撃で切り飛ばすんだ」

「うわ、それは逆らえないわね」

「人に向けては撃たないって。マリーはいい子だよ、みんなをまとめてくれるし、疲れてても最後まで声を出してる」

「ああ、分かるわ、想像できる」

「ねーちゃんは1年なのに3年と会う機会があるの?」

「冒険者コースだからよ。コースは学年関係なく一緒にするの」

「そっかー」


 そのコースの授業中に男子と揉めてたのか。


「私が言ったって言わないでよ、コースで会うんだから」

「安心して。ところで俺が弟だって知ってるの?」

「どうかしら。最初の自己紹介で家名も言ったから気づきそうだけど」

「それは2カ月くらい前でしょ、俺がパーティ組みだしたの今週からだもん、多分忘れてるよ」

「まあバレたらまずい事でもないけど、ちょっとやりにくくなるかな」

「俺と比べて何だの言いそう」

「そのくらい気にしないわ」


 ひとまず積極的に伝える必要は無い。


「そういや今週は毎日訓練討伐だったからマリーたちは一度も学校行ってないね」

「確かに見かけなかったわ」

「そんなんで学校の授業はいいの?」

「いいんじゃない? あれに行ってる人は冒険者になるから。卒業しても養成所でしょうしね」

「ふーん、そんなもんか」

「午前の座学も割とゆっくりだから。それに繰り返すし追い付くのも簡単よ」

「なるほどねー」


 ペースが遅くて復習もする。だったら何とかなるね。


 ドドン! ドドン! ドドン!


 勝利の太鼓だ! 終わった。


「あはは、太鼓だー、久々に聞いたー」

「流石に学校で太鼓は無いよね」

「そーね」


 クラウスとソフィーナが戻る。


「お帰りー」

「ただいまー」

「どんな魔物だったの?」

「ディナスティスとヒュージスコーピオンだったな」

「ふーん、大型だよね」

「そうだ。スコーピオンもだがディナスティスがかなりデカい、グランビートルの2回りくらいあるからな」


 スコーピオンってサソリか。


「ディナスティスってどんなの?」

「グランビートルに似てるな。あれに加えて大きい鎌みたいなアゴがあるんだ。そんでデカい」

「うはー」


 カブトムシとクワガタムシが合体したような感じか。ムチャクチャだな。


「角まで含めると15mはあるな」

「うわ!」

「そんであれ系は硬いんだよ。だから継ぎ目を狙うんだがそれなりに動くしな」

「どうやって倒すの?」

「火に極端に弱い。だから魔法が大活躍さ」

「へー」

「矢も通り辛いから広範囲を焼くのが一番効果的ね」

「それで動きが鈍ったところへ継ぎ目に切り込む」


 昆虫系はあまり見ないけど戦い方が違うのか。

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