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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
49/321

第49話 適性とレア度

 ソフィーナが見張り台へ向かい、ほどなくクラウスが戻る。


「風呂の準備は出来ているな。すまんがディアナは留守番を頼む」

「いいよー」


 外は弱い雨が降っていた。外套を羽織り北区へ向かう。


「母さんたちと今後の話はしたか」

「ちょっとね」


 フリッツとソフィーナの意見を伝えた。


「ははノルデン商会か」

「父さんは興味ある?」

「俺は客商売なんて無理だ、母さんは向いてるかもな」


 ソフィーナは頭が良く物腰も柔らかだ。接客でも事務でも直ぐこなせるだろう。


「ともかく将来の心配は無くなった。やりたい事を何でも挑戦できるぞ」

「そうなるのかな」

「今は飯の種を手に入れただけだ。その気になればいつでも稼げる」

「そっか!」


 なるほど今直ぐトランサイト生産を仕事にする必要はないか。そう考えると気分が楽になった。


「あれの後は大きく息を切らしていたが大丈夫か」

「うん平気、ちょっと休んだら回復したよ」

「なら良かった」


 俺の体を気遣うなんてソフィーナみたいだな。


「まあ俺もそれなりに考えてな。確かにあれは大きく稼げるが同時に面倒事も増えるだろう。仕事は他にいくらでもある。それを見てからでも遅くはないぞ。何しろお前はまだ8歳だ」

「父さんの希望は?」

「無い、好きにすればいい……いや1つだけ、孫と一緒に暮らせたら楽しいだろうな」

「みんな孫が好きだね」

「それも無理に意識することはない、ディアナもいるしな」

「ねーちゃん……」


 ディアナは10歳とまだまだ若い。時期が来ればきっと目覚めるはず。でもあんまり遅くなると視野が狭くなって相手の素性を見抜けないかも。変に拗らせる前にある程度は恋愛経験を積んでほしいところ。


 この世界の大人たちは子供に結婚を意識させたりと少し不思議に感じていたが、何となくその理由が分かった。どうやら地球と比べて平均寿命が短いのだ、恐らくは70歳前後。カスペルやフリッツの60代はよく見るが、それ以上を全く見掛けないからね。


 その代わりか子供の成長は早いようだ。ディアナは10歳だが12歳くらいに見えた。マルガレータは12歳だけど15歳前後に見える。それが個人差ではなく皆に当てはまった。女子は体の発達で成長が分かり易い。


 俺は8歳だがそれまでの成長具合は地球平均と近く感じた。ただ8歳を過ぎると急に成長速度が上がるらしい。やはり洗礼の儀が関係しているのか。


 クラウスは35歳、この世界の寿命を半分過ぎたと考えれば孫を意識する世代に入ったかもしれない。結婚年齢も平均して低いようだし。


「さあ着いたぞ」


 北区に到着。ここにお世話になるのもあと3~4回か。風呂の作りは西区と同じで広さも変わらない。だから一度に入ると正直狭く感じる。家同士で前後に分けていた理由もそれが大きい。


 ただ性別で前後なら分かり易いのは確かだ。いや女湯は乳幼児も含めるから窮屈だと困るな。やはり家で分ける運用が正解か。


 風呂を済まして西区へ向かう。


「明日の昼と夜は中央区で食べるからな」

「母さんから聞いたよ、楽しみにしてるね」


 中央区に入り中通りを進む。


「あの店の2階で食べる」

「へー」


 こじゃれたレストランだ。中央区は何でもあるね。


「みんな食堂か外のお店だよね」

「家で3食作るのは厨房や料理人を抱えている金持ちだけ」


 確かに炊事にはそれなりの設備が必要だ。この世界はスキルと精霊石で火元や冷蔵庫を運用している。つまり人も設備の一部であるため一般家庭で賄うのは難しい。そう考えると便利なのか不便なのか。


 いや料理の日は住人で対応しているぞ。使えるには使えるのか。ソフィーナは火属性スキルが高いし、魔導士のエミーは高火力を出せそう。料理に向いているかは不明だが。


 家に帰り4人で食堂へ。通路に食事を運ぶ。


 ザアァ


「雨が強まったな」

「明日の昼までには上がってほしいわ」

「ねぇ今も雨上がりは冒険者が魔物を連れてくるの?」

「そうだぞディアナ、こないだはクリムゾンベアだったか」

「うわーCランクじゃん、そりゃ逃げるわ」


 ほうディアナは魔物の名前からランクが分かるのか。


「ねーちゃん、よく知ってるね」

「学校で習うのよ、午後は冒険者コースを選んでるし」

「そんなコースがあるんだ」

「午前中はみんな同じ座学だけど昼からは選択科目になるの。冒険者コースは週に3回だよ」

「あとの3回は?」

「……料理人コースを選んでる」


 へえ料理に興味があるのか。


「ほら料理ができたらどこでも仕事があるでしょ? この西区にだって料理人はいるんだから」

「いい選択だと思うよ」

「明後日は料理の日だからディアナも一緒に厨房に入れるわね」

「そう言えば! わー楽しみになってきた」


 冒険者と料理人なら火属性か水属性が高いのかな? ディアナの洗礼を同行して鑑定も居合わせたはずだけど全く覚えてない。ただあの時、ソフィーナがとても喜んでいたのは覚えている。人並みに生きていけるスキルを授かったのは確実だ、俺と違って。


 夕食を終えて居間に座る。


「私とディアナはお風呂ね」

「昨日完成なら今からが最初?」

「そうよ」

「うわー新しいお風呂楽しみー」

「作り直したのは脱衣所だけで浴槽や洗い場は前のままよ」

「あらーそうなの」


 ソフィーナとディアナは風呂へ向かった。


「こんばんは」


 おやカスペル。


「どうした義父さん」

「おいおい、どうしたもこうしたもリオンのことだよ」

「まあそうだよな……座ってくれ」


 カスペルはソファに腰かける。


「少しは話が進んだかの」

「いやー何も、なあリオン」

「ちょっとは提案を聞いたけどね」


 フリッツやソフィーナの意見を伝えた。


「貴族を巻き込むか、それもいいだろう」

「心配ないか」

「気持ちは分かるが他に方法は無さそうだの」

「……そうだよな」


 もう個人で扱う領域を超えている。何かしら組織に頼らないと。


「トランサスは弓適性が高い、トランサイトもきっと同じ。だから世の弓使いのために動いてほしい、それがワシの本音だ」

「鉱物によって適性があるの?」

「そうだぞ。確かトランサスは剣技と槍技は同じで、弓技は2倍近くあったな」

「適性値で言うとの、トランサスは剣技と槍技が30、弓技は50あるぞい」

「へー、適性値って数字があるの」


 30に対して50か、確かに弓だけ多い。トランサイトの性能はトランサスの1.5倍だが適性とやらにも反映されるのだろうか。


「トランサイトの斬撃がトランサスの5割増しだったろ、形状が弓なら射撃も同じくらい上がるに違いない」

「確か200手前が300ちょいだったな、斬撃300だとプレシューズ合金くらいか」

「射撃300なんてクシュラプラ合金を超えるぞ、加えて適性も1.5倍なら75、クシュラプラが85だから10しか差がない。それでもって共鳴強化すれば総攻撃力は上回ると思うがの」

「そう考えると弓に限ってはレア度4相当の性能か」


 プレシューズにクシュラプラ? それにレア度だと!


「父さん、レア度って何?」

「鉱物ランクだな。使う分にはあんまり気にならないが、鑑定や職人による加工時にスキルレベルと関係するそうだ」

「精霊石の鑑定時、ごく稀に鑑定不能と出る鉱物があるそうでの、それが高レア度になる」


 うへー、鑑定不能か!


「じゃあ買取り価格は高いの?」

「一律20万かの」

「今は30万だ。2カ月くらい前に西区の住人が申請討伐で拾ったらしい」

「うわー、高いね」

「実際は遥か上の金額だが鑑定できないのなら値のつけようもない」


 鑑定士の能力を超える希少性ってことか。


「その精霊石は何処へ行くの?」

「……さあな」

「ウィルムなら腕のいい鑑定士がおるだろ、多分そこへ行く」

「ゼイルディクにはいないの?」

「分からん」


 何かズルいな。とんでもない金額だったら大儲けじゃないか。


「もし鑑定できても加工する職人がおらん」

「ふーん。あっトランサイトって鑑定できたよね、じゃあレア度は高くないのかな」

「恐らくレア度3だ、ただ限りなく4に近い3だの。鑑定不能はそのレア度4以上に当たる」

「じゃあ西区の人はそれを引き当てた」

「そうなるの」


 鑑定できればなー、高値で売れるかもしれないのに。


「レア度4ってどんなの?」

「弓に適した鉱物ではイシュタルやミストルティンだの。ミストルティンは剣にも向いてる」

「剣ならオートクレール、パラゾニウム、ティルフィングは知っている。いずれも武器としては歴史上でしか存在しないけどな」

「え!」

「イシュタルもミストルティンも言い伝えで名前があるだけ。本当のところは分からん」

「うへー」


 またも歴史上か。でもトランサイトは実在した。ならそれらのレア度4鉱物もあるに違いない。あーきっと鑑定不能に紛れてるんだ。


「西区の人が見つけた鑑定不能はそれのどれかかも!」

「可能性はある」

「誰も知らない鉱物かもしれんぞ」

「ひょっとしてレア度5とか?」

「……レア度5は御伽噺だ。神の武器だのなんだの、創作物だろうて」

「俺が聞いた話ではエクスカリバー素材の剣に切れないものは無いってさ」

「うわ!」


 出た、何でも切れる剣。


「他には?」

「アルテミスの弓だったかの、どこまでも矢を飛ばすらしい」

「おおアルテミスか、思い出した。何でも空の彼方まで飛び、星を落とすだの」

「星を? それはちょっと」

「はは、だろ? 御伽噺だよ」


 でも夢が広がるね。明日拾う精霊石にそれらが含まれている可能性もあるんだ。鑑定さえできればなー。


「ただいまー、あら父さん」

「おおーソフィ、ディアナお帰り。じゃましとるよ。ちょっと武器の話をな」

「武器? そう」

「リオン、この武器装備してみるか」

「うん」


 そう言えばベルトは腰と背負いがあるのね、どっちがいいか。


「背負いでいいだろ」

「うん、最初から背負いだったし」

「手伝ってあげるよ!」

「お願い、ねーちゃん」


 腰より少し上にベルトを回し固定する。もう1本の端を腰ベルト右前に取り付けて左肩から背中に回して腰ベルトの右後ろ部分に繋ぐ。


「長さ調節してあげる」

「うん」

「……このくらい?」

「ちょっと長いかな」

「……じゃあこのくらい?」

「うん、丁度いい」


 これディアナが後ろ側から調節していたが、よく考えたら先に後ろで固定して前に回してから自分で調節すれば良かった。まあ終わったからいいか。


「次は鞘ね」

「ねーちゃん、文字が見える面が表だよ」

「文字? ま、任せて……こっちよね父さん」

「あーそうだな、多分」


 不安な親子だ。


「合ってるわ」

「ありがと母さん……はい! 鞘の取り付け出来たわよ」

「うんいい感じ。ありがと、ねーちゃん」

「うわー、カッコいいよ、リオン!」

「えへへ……」

「もう一人前の冒険者だからの」

「この文字は何て書いてるの?」

「コーネイン商会ミランデルだよ」

「聞いたことある! 高いやつでしょ」

「う、うん」


 宣伝しないとね。俺でどれほどの効果があるか知らんけど。


「さー、ワシは帰るわい、じゃましたの」

「おじいちゃん、またねー」


 カスペルは去った。


「さー寝るか」

「そうね」

「私は2階でリオンの隣りよね、行こ」

「うん」


 武器は念のため2階に保管するか。何しろトランサイトだからな。


 おやすみの挨拶を交わし2階へ上がる。上りは装備状態でも階段に接触しなかったが下りは間違いなく鞘の先が当たる。外すのを忘れないようにしないと。


「母さんが布団を干してくれたのよ、ふかふかでしょ」

「ほんとだ」


 お互いのベッドに入って照明を消す。


「ねーちゃん眠い?」

「ちょっとね、お話しする?」

「うん」


 ディアナが学校に行く前は、こうやって寝る前におしゃべりしたものだ。いつも先に俺が寝てしまったけど。あー、ほんの2、3カ月前なのに遠い昔に感じる。前世の記憶やら色々あったからね。


「……リオンは冒険者になるの?」

「分からないよ」

「でも才能はあるのよね」

「そうみたい。ねーちゃんは? 冒険者コースだよね」

「あれは2つ目を選べない人がとりあえず選ぶから。私もそんな理由だよ」

「ふーん」


 まあ魔物の知識はこの世界では必要だし、冒険者の仕事も知っておくべきだろう。カスペルも最後の選択肢と言っていたからね。何より両親や周りが冒険者の中で育ったから興味はあるよね。


「リオンさ、あんた前と雰囲気が変わったよね」

「え!」


 そ、それは……。


「なんかこう、落ち着いたというか、それでいて周りに気を使ってる感じ」

「……」

「前はもっと元気いっぱいで、ねーちゃん、ねーちゃんって、あっ、今も元気はあるけど、そうね、少し成長したのかな」

「洗礼も終わったし冒険者にもなったからね」


 よく見てるなディアナ。そりゃ実の姉だ。


「あんた頭が良さそうだから、色々と考えるようになったのかな」

「ねーちゃんは何も考えてないよね」

「失礼ね! これでもちょっとは考えてるわよ」

「へへへ」

「……私はいつでもリオンの味方だよ、何でも話してね」

「うん、ありがと、ねーちゃん」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみー」


 ディアナなりに俺を気遣ってのことだろう。嬉しいね。


 でもトランサイト含めてディアナには俺の抱えている様々な事柄の外側でいてほしい。10歳の子供として町で楽しく学校生活を過ごしてくれればそれでいい。

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