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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
48/321

第48話 共鳴大作戦

 騎士団へ渡したトランサイトの代わりとしてコーネイン商会より武器を受け取った。そのトランサス合金は同商会のブランドであるミランデル仕様で明らかに高額品だ。その所有に少し怖さを感じたがフリッツは宣伝目的で使ってやれと言う。


 そして例の共鳴の話から実際に試す流れとなる。まずフリッツがランドルフへ事情を話し鑑定スキル保持者を確保する。そして夕食後に俺の家へ集まり共鳴実験を行う予定だ。ルーベンス商会で聞いたトランサイトの価値が本当なら展開次第で大変なことになる。


 宇宙の声の話では神に封印された英雄の力も魔力操作においては解放が進んでいるとのこと。そんな大きな力が作用すれば鉱物をも変化させるのか。いずれにしろ試せば分かる。


 昼食の載ったトレーを通路に並んだ机に運ぶ。


「そっか、屋根が無いからこうなるんだー」

「来週には直るんじゃないかしら」

「それまでもう雨降らないといいね」


 ディアナが隣りに座って食べる。この感じは久々だな。


「ねーちゃんとこのご飯はどんなの?」

「3食とも寮で食べるよ、食堂があるの」

「へー」

「でも週に1日は食堂が閉まるから、みんなで町に出て食べるの。色々なお店があって楽しいよ」

「いいなー」


 やはりこの世界の人たちは自炊をせず食堂や外食が食生活の中心らしい。


「明日のお昼と夜は中央区で食べるわよ。ディアナが帰って来たしリオンの冒険者登録のお祝いも兼ねてね」

「楽しみだねリオン」

「うん」


 中央区での食事は何回か記憶に残っている。最も近いところではディアナの入学祝いだ。あの時は外が寒かった。


「父さんと見張りを交代するわね」

「私も行く」

「雨が降ってるからここでいて」

「じゃあ父さんの食事を用意しておく」


 ディアナはまだクラウスと顔合わせていない。俺も一緒に待つか。


「見張り台かー」

「ねーちゃんもよく上ってたね」

「あそこは遠くまで見渡せて気持ちいいから」

「城壁の階段だけど13段目から着地できるよ!」

「うそ! もうそんなに身体強化ができるの、だから冒険者なのね」

「うん!」

「でも気を付けてよ、魔物は怖いんだから」

「大人も一緒にいるから大丈夫だよ、2班のみんなも強いし」

「ならいいんだけど、あっ父さん!」


 クラウスが来た。


「おおディアナ、元気だったか」

「うん」

「これが俺の食事だな、ふー腹減った」

「友達いっぱいできたよ、学校楽しい!」

「それは何よりだ。ところで字は書けるか」

「えーっと、少しはね」

「まあちょっとずつでいい」

「夏に帰るまでは絶対に手紙を出すから!」

「それは楽しみだ」


 勉強はヤル気次第で直ぐ身につくよ。


「ディアナー」

「レイラ!」


 ピートの姉だ。ディアナと同じ10歳で今日一緒に帰って来た。


「ミーナが学校の話を聞きたいんだって、セシリアも来るから一緒に行かない?」

「そうねぇ」

「行ってこいよ」

「じゃあ行く! どこ?」

「ミーナのお家だよ」

「分かった、父さんリオン行ってくるね」

「おう」

「いってらっしゃい」


 ミーナも町や学校に興味があるよね。セシリアは2人の兄から聞いているはずだが、やっぱり女子目線での情報が欲しいのだろう。


「リオン、母さんから聞いたぞ、商会が武器を持って来たらしいな」

「でもちょっと高価過ぎる気がして」

「トランサスなんだろ?」

「ブランドの品で手が込んだ作りだよ、定着期間も1年くらいあるし」

「気にせず貰っておけ」

「うん。でも不安だったから先生に見てもらった、そしたら使えって」

「フリッツか、ならいいじゃないか」


 現物見たら意見が変わるかな。まあいいや。


「さーて見張りに行くか」

「風呂までいるの?」

「まあな。ただ雨が降っているから魔物は来ないよ」

「そうだね」


 クラウスは去った。さてどうしよう、ひとまず家に帰るか。


 居間で座っているとソフィーナが帰って来た。


「お客さんよ」

「え?」


 ソフィーナに続いてフリッツとランドルフ、そして50代の女性が入って来る。西区の住人にこんな人いたかな。


「リオン来てくれたぞ、フローラだ」

「誰ですか」

「ランドルフの身内で元職人の」

「あ!」

「初めましてフローラよ」

「リオンです!」


 職人だからか男性と思い込んでいた。ただ夜の予定では無かったのか。


「フローラは雨天で畑へ出られないため直ぐ来てくれた。後の人間が揃えば今からでも試せる」

「でもディアナが、あっ!」

「ディアナはウチでミーナたちとワイワイ盛り上がっているぞ、あれは直ぐに終わりそうもない」

「父さんはどうしよう、さっき見張り台に行ったよ」

「アルベルトと交代させる、どうせアイツは暇だ」

「うは!」

「ワシはカスペルとランメルトを呼んでくる」


 そう告げてフリッツとランドルフは出て行った。


「何が起きるの?」

「母さん、事情を伝えるから座って」

「え、ええ」

「フローラさんも掛けてください」

「じゃあ失礼するよ」


 ソフィーナに経緯を説明をする。


「リオンがトランサイトを? ほんと?」

「試せば分かるよ、あ、父さん!」

「おいおいリオン、お前トランサイトを作れるのか」

「分からないから試すんだよ」

「そっちの人が職人か」

「フローラです、中央区西側の畑を管理しています」

「あー見たことあるぞ」

「西区に近いからね、ランドルフたちが日向ぼっこしてるのよく見るよ」


 クラウスはフローラの顔を知っているのか。


「これは賑やかだの」

「じーちゃん!」

「ランメルトは出ている、あやつは今知らない方がいい」

「では揃ったな」


 居間に俺とフリッツ、クラウス、ソフィーナ、カスペル、ランドルフ、そしてフローラがいる。


「クラウス、すまんがこの場を仕切るぞ」

「頼んだフリッツ」

「では皆ソファに座ってくれ。事の経緯は断片的にでも聞いてるだろう、従って早速取り掛かる。いつ来訪者が現れるとも限らないからな、とにかく検証を終えるのが先だ、ではフローラ」

「あいよ、この武器でいいんだね」

「リオンいいな」

「うん」

「じゃあ失礼するよ」


 フローラは剣を抜き机の上に置く。


「トランサス合金

 成分

 トランサス 81%

 チタン    9%

 アルムサイト 7%

 ミネルシウム 3%

 切断:214

 斬撃:197

 特殊:魔力共鳴

 定着:1年17日13時間

 製作:コーネイン商会、剣部門アルフォンス・エーベルヴァイン」


 うわ細かい! 鑑定士って差があるのか。


「おやまあ銘入りだよ」

「珍しいな」

「普通は部門止まりだろ」

「仕上がりに自信があるのさ。この構成で切断200超えはいい腕だね。これを何処で?」

「ミランダ副部隊長の厚意により譲り受けた。元は本店の展示品だ」

「士官学生向けか、なるほどね」


 へぇ職人の名前まで記録されていると。切断は切れ味みたいなものかな。


「トランサス80%超えもいい仕事だ。大体60~70%だからね」

「低いと強さに関係するの?」

「共鳴強化すると差が出るのさ」

「あーなるほど」


 成分は普通の人には見えない。トランサスは高価らしいからなるべく使用を押さえたいはずだ。それで言うとこの品は中身も妥協なき仕上がりなのね。そりゃ銘も入れる。


「さて話には聞いたが共鳴強化でトランサスをトランサイトに変えると」

「まだわからんがの、試してみる価値はあるぞい」

「……正直それは不可能だ。私もどれだけ費やしたか」


 フローラは疲れた表情で呟く。頑張ったのね。


「ではリオン頼む」

「分かった!」


 剣を握り構える。


 いくぞ、共鳴強化!


 キイイィン


 5%、10%、15%……


 キイイィィィーン


 20%、30%、40%……


 キイイイィィィーーン


 60%、70%、80%……


「こ、これは……あんた」


 キュイイイィィィーーーン


 90%、100%……


 いくぞトランサス、秘められた真の力を引き出せ!


 ギュイイイィィィーーーン


 120%、130%、140%……


 もう少し、いっけええぇーーっ!


 ギュイイイイィィィィーーーン


「!?」

「なんだこれは!」

「どういうこと!」


 180%! もう限界だ。


 シュウウゥゥゥーーン


「……ハァハァハァ、お、終わったよ」

「……」

「……ああ」

「……そうなのか」


 剣を机に置く。


 ふひー疲れた。


「じいちゃん、ちょっといいかな」

「おおすまん、座れ」


 カスペルが立ち上がって場所を空ける。ここまで魔力操作に集中したのは初めてだ。ごっそり魔力を持っていかれた。


「おまえさん、この前より遥かに上だったぞ、これはワシも見たことないわい」

「ワシもこんな共鳴の光は初めて見た」

「恐らくあれ以上は剣が砕ける」

「そうかもしれん」

「さてフローラ、頼めるか」


 フローラは剣を見つめて驚きの表情だ。


「どうした?」

「……変わってるよ、分かるさ、この質感はトランサスじゃない」

「そ、そうか」

「さあ武器鑑定を行うよ」


 どうだ。


「トランサイト合金、せ、成分、トラン……サイト……はちじゅう……」

「おおおおおっ!」

「うはああっ!」

「やったぜー!」

「リオン、おい、やったぞ!」

「なんてこと!」


 うひょー成功だ!


「フローラ……」

「すまないけど涙で鑑定結果が見えないのさ」

「いいさ、もう十分だ」


 しばらく居間は歓喜の声で埋め尽くされた。


 やはりジェラールから貰ったトランサスを俺がトランサイトに変えたのだ。歴史上にしか存在しない幻の鉱物を作ってしまった。それを実現した異常なまでの魔力操作、そして英雄の力か。


「喜んでいるところ悪いけど鑑定を続けるよ」

「ああ、頼む」

「すまんすまん」


「成分

 トランサイト81%

 チタン    9%

 アルムサイト 7%

 ミネルシウム 3%

 切断:327

 斬撃:315

 特殊:魔力共鳴、魔素伸剣


 後は同じさ」


 切断と斬撃が1.5倍だ。そして特殊の魔素伸剣はまさか!


「トランサイトで間違いないね。それが剣として存在するなんて夢を見てるようだよ」

「あの魔素伸剣って何ですか」

「切っ先から魔素集合体の剣身が伸びるのさ、共鳴に合わせてその伸び幅も変わる。約2倍と伝わっているが実際はもっとだろうね」


 トランサイトの特殊性能で剣が伸びると。


「しかし大変な事態だ、皆くれぐれもこの件は」

「ああ、分かってる」

「もちろんさ」

「誰にも言わない」

「この場は一旦解散とするぞ。集まりが不自然であり、先程の騒ぎも漏れ聞いた住人がいれば不思議に感じるはず、とにかく早く日常に戻るのだ」

「アルベルトも代わってやらないとな」


 うん、さっさと散ろう。


「今後の方針はリオンの両親と協議し、協力を求める場合は個別に相談する、特にフローラ、あなたのスキルと知識は必要だ」

「何でも言っておくれ、トランサイトを生きているうちに拝めたのだから」

「よしでは解散」


 居間にはフリッツとソフィーナが残った。


「さあ、どうするか」

「私はよく分からないから父さんやフリッツが決めて。リオンにとっていい方向に進むなら何でもいいわ」

「それは任せてくれ、決して悪いようにはしない」

「あの母さん、ルーベンスの商会員にトランサイト合金武器の価値を聞いたら数千万から数億だって」

「え! でも値段の想像がつかないわね、存在しないから」


 机上の武器を見てしばし沈黙する。ここにあるけどね。


「100億でも200億でも言い値で売れる、希少価値は歴史的だ」

「うわ! でも本当に売れるの?」

「貴族や大手商会ならそのくらい出せる者はいくらでもいる」

「でもそんなことしたら」

「出所を徹底的に探られる、今ミランダがやってるようにな。お前に辿り着けば間違いなく連れていかれるぞ」

「ひいい」


 そりゃ打ち出の小槌だからな。何としても確保する。


「じゃあこれ、どうしよう」

「その辺に埋めるか」

「ええ! うーん、やっぱり使ったらバレるよね」

「いや案外分からない、実際ぱっと見はトランサスだ」

「そっか、最初に気づいたのは父さん、そしてミランダ副部隊長だった。他の人はトランサスと思い込んでいたね」

「私も言われるまで気づかなかったわ。トランサスと言えば何の疑いもなくそう思うでしょう。そもそもトランサイトは存在しないから」


 うん、言い張れば問題ないか。


「いずれにしろお前の武器が完成するまで使う他ない。ミランダのためにも」

「でももし気づかれたら」

「知らないの一点張りでいい。あの製作者が問い詰められるだけだ」

「はは、銘が入ってるから逃れられないよ」

「ワシに考えがある……いっそ貴族を巻き込むか」

「え!」


 うーん貴族かー、ちょっと恐いな。


「分かったわ、貴族のお店が前に立って面倒ごとを引き受けてもらえばいいのね」

「その通り」

「貴族は儲かるしリオンの安全も守ってくれるわ」

「連れていかれないの?」

「近場の貴族なら現在の環境でも対応可能だ、むしろそれを条件とすればいい」

「じゃあ候補は」

「メルキース男爵、或いはアーレンツ子爵だな」


 メルキースはミランダが嫁いだ貴族家で領地はコルホル村から近い。アーレンツはメルキースの南東に隣接し当主である子爵はコルホル村の領主だ。


「ワシが思うにトランサイト製造は稼ぐ手段として非常に有効だが、その武器が騎士や冒険者に渡れば戦力向上に繋がり魔物被害を抑えられる。それにトランサスは農具や大工道具にも使われているためトランサイトに変われば性能向上も見込まれる」


 俺が動けば多くの人の環境が良くなると。


「あくまでワシの考えだ、クラウスやカスペルの意見も聞くといい。その上でリオンがどうするか決めろ。まあひとまずこの結果をいち早く確認できて良かった」

「そうだね」

「ワシは帰る。何かあれば遠慮せずいつでも来い」


 フリッツは去った。


「ねぇリオン、ノルデン商会を立ち上げるってのはどうかしら」

「え!」

「ふふ、ちょっと言ってみただけ」


 ソフィーナは商売に乗り気なのか。確かに実現すれば完全なる独占だ。ただ俺が作っていることを隠し切れるか。うーむ、貴族の目とやらがそこらにあるんだろ。目立てば間違いなく本気で探りが入る。ちょっと厳しそうだな。


「ただいまー」

「あらディアナお帰り」

「ミーナたちと沢山お話できた?」

「うん、すっごい楽しかった!」


 お陰で検証も無事終えた。ミーナはできる子。


「ねーちゃんの学校ってどこにあるの?」

「メルキースの中心より少し村寄りかな、ラウリーン地区だよ」

「へー」

「メルキースは4つの地域があってね、南東部はゼイルディクの中心に近いデノールト。初等学校と中等学校、それから専門学校があるの」

「学生が多そう」

「だから飲食店もいっぱいあって休みにはみんなで馬車に乗って行くのよ」


 楽しそうにディアナは話す。


「メルキース北西部が私の通ってる学校があるラウリーン地区。学校の名前もラウリーン中等学校よ。近くにメルキース士官学校があって、とーっても広いのよ」

「士官学校かー」

「だからその机の武器を作ったコーネイン商会の本店もあるの、騎士団の大きな施設もあるのよ」

「騎士が中心なんだ」

「北部のマクレーム地区は冒険者養成所があって武器商会のお店も多いの。冒険者ギルドの支部もそこだっけ」

「そっちは冒険者が多いんだ」

「最後は南西部のメイルバル地区、行ったことは無いけど農業や畜産が多いんだって」

「ふーん、ねーちゃんはよく知ってるね」

「授業で習うのよ。まずはメルキースから覚えなさいって」


 地理は大事だ。町に住んでいるなら実際に行くことも出来る。そこで見聞きしたことは大きな財産だ。俺も訓練討伐で世界が広がった。


 しかしメルキースも色々な施設があるのだな。まあ地図を見る限り東西10km、南北20kmの広さだ。どうも平坦な地形が多くを占めているようだし。


「冒険者って凄いのよ、道が馬車で埋め尽くされるの」

「ええー」

「きっと何百台もあるわね。それが毎日のように遠くまで魔物討伐に行ってるのよ」

「そんなに!」

「母さんもそうだったでしょ」

「私たちのパーティで馬車を1台所有してたわ」

「毎日使うならそれがいいね」

「きっと他の冒険者も同じよ」


 なるほど冒険者が多ければそれだけ馬車も必要となる。武器も宿舎も飲食施設もだ。つまり冒険者の集まる地域は自然と栄えるのね。


「そろそろ男の人はお風呂の準備ね」

「母さん、夕食後じゃないの?」

「女湯は復旧したけど男湯はまだよ。だから男の人は北区でお世話になってるの」

「それもワイバーンに壊されたの、ひえー」

「じゃあ見張り台に行くわね」

「いってらっしゃい」


 男湯復旧まで2~3日とは聞いた。今日も内装工事を続けているはずだ。

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