表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
45/322

第45話 口座確認

 昼食時に騎士より呼び出しを受けてゼイルディク騎士団コルホル出張所へ向かう。そこには北西部防衛副部隊長ミランダ・コーネインとフリッツの知人であるリチャードが待っていた。


 リチャードの鑑定により俺の武器がトランサイト合金だと伝わる。するとミランダは騎士団に譲渡を申し出てきたため俺はそれを受けた。歴史上にしか存在しない鉱物なんて持っていても不安でしかない。代替武器を用意してくれることだし後はミランダに任せよう。


「しかし妙だな」

「何が?」


 フリッツは釈然としない様子。


「騎士団の所有とするなら一筆書くはず。もちろんジェラールからリオンへも本来は必要だが、個人間取引であること、定着期間が10日、譲渡目的が明確などの理由で省略しても構わない」

「確かに武器は高額だからね、所有者をハッキリさせておくと」

「専門の鑑定士なら武器に記録された登録者を知ることが出来る」


 へー、武器そのものに情報が記録されていると。急にハイテクだな。


「一筆書くのは?」

「登録情報変更の同意書だよ。登録士という契約スキル持ちに依頼して情報更新するときに必要なのさ。もちろん金がかかるし手間だから冒険者同士ではあんまりやらないけどな」

「ふーん、でも盗難や紛失時には登録情報が大事だね」

「だから面倒でもその都度更新した方がいい」


 なるほど。その登録情報更新も専門の仕事があるのね。


「俺の一筆だけでいいの? 登録情報はジェラールのはず」

「もちろん彼の同意書も要るぞ」

「今回の取引相手は騎士団だ、面倒だからと省略してはいけない。彼らは登録情報の更新を指導して取り締まる立場だからな。ミランダも必ず知っている」

「じゃあどうして?」


 確かに妙だな。トランサイトと知って気が動転したか。


「……男爵家で使う腹積もりだ。従って騎士団に記録を残さない」

「それって職権乱用、いや横領だよ」

「お前はよくそんな言葉を知っているな。まあ貴族家の私物化なぞ珍しくもない」

「ええー」


 貴族は何でもありかよ。


「間違いなくコーネイン商会で使うな」

「父さん何それ」

「メルキース男爵家は武器商会を経営しているのさ。中央区に支店もあるぞ。きっとそこの職人に調べさせて製造にこぎつけるのだろ」

「へー、武器商会」

「ゼイルディクじゃルーベンス商会にやられっぱなしだ、もし製法を発見したなら国中で大儲けできるぞ」

「うはー」


 目的は金儲けか。流石貴族、汚い。


「そうは言っても7日の定着期間では何もできないさ」

「うん難しそうだね、謎の鉱物だし」

「もう俺たちは忘れよう、内密にと言われたしな」


 ミランダは面倒ごとを引き受けてくれたのだ、貴族の黒い部分には関わりたくない。


「さーて、ルーベンス商会に武器の進捗を聞きに行こう。あーフリッツはもう構わないぞ、同伴感謝する」

「うむ」


 フリッツは去った。


 クラウスとルーベンス商会コルホル支店へ入る。


「頼んでいる武器はどこまで進んだか、これが注文書だ」

「少々お待ちください」


 入り口横のソファに座る。


「ここで分かるの?」

「段階ごとの情報が来ているはず。俺が作った時もたまに確認していたぞ」

「お金って最後に払うの?」

「もう半分は入金した。残りを武器と交換だ」


 しかし大きな買い物となった。クラウスには感謝だな。


「思いがけず武器が手に入ったから、こっちの進み具合は気にしていなかったのさ」

「うん急ぐ必要が無くなったから」

「騎士団から貰える武器はきっと定着期間が長いぞ。そんなうまいこと残り数日のトランサス合金があるワケない」

「あー確かに」


 じゃあこっちのシンクルニウムはいつでもいいね。もう武器としてはトランサスで十分だし。あー、これを分かっていたら高価なシンクルニウムを選択しなかったのに。


「今からトランサスに変更できるかな」

「いや無理だ。いいじゃないかトランサスより強いぞ」


 流石に無茶だね。まあせっかくなので使わせてもらおう。


 いや待てよ、ジェラールから貰った時点でトランサイトだったら俺はまだトランサスで戦っていない。訓練討伐の魔物に通じるか分からないぞ。それならより性能の高いシンクルニウムで丁度いいか。


 ミランダは代替武器を明日用意すると言っていた。それがトランサスならシンクルニウム完成までの繋ぎにしよう。いやトランサスでも共鳴率によっては強くなるはず。その辺りを実戦で試してからメイン武器を決めてもいいな。


「お待たせしました、担当者の準備ができましたので奥へどうぞ」


 応接スペースには注文時に対応した人物が待っていた。アッケルマンだったな。


「リオン様のシンクルニウム合金の剣は順調に制作が進んでおります。お渡しは5月14日の予定です」

「仕上がり日が決まったのなら前日の13日に残金を振り込みで構わないか」

「はい、ありがとうございます。では明日中に最終的な金額をご用意させていただきます」

「頼む」


 ほう14日か。次の訓練討伐は13日だから間に合わないな。


「ところで1つ聞きたいのだがトランサイト合金の剣は作れるか」

「トランサイト合金ですか? ……申し訳ありませんノルデン様、存在しない鉱物ではお受けできません」

「ルーベンス商会でも無理か」

「当商会ならずとも国中の商会どこでも不可能かと存じます」

「もし作れたらいくらだ?」

「数千万……いや数億、実のところ適切な値段が分かりません」


 おいおいクラウス、何を聞くんだ……しかし数億だと。


「分かった。すまない変なことを聞いて」

「いえいえ私共も情報は集めたいので、お気づきのことがあれば何なりと申してください」

「では行く」

「ありがとうございました」


 中通りへ出る。


「父さん……」

「聞いたか、あの剣とんでもない価値だぞ」

「何だか損した気がする」

「いやあれでいい。そんなもの怖くて持てないだろ」

「うん」


 ジェラールは一体何者なんだ。


 ただもしコーネイン商会の職人が製造に成功したら勢力図が大きく変わるな。ああいや製造に至らなくてもルーベンス商会から職人を引き抜くか、もしくは情報を高く買うか、いやいやスパイを送り込んで盗み出すか。


「ルーベンス商会って貴族家が経営してるの?」

「よく分かったな、中北部のフローテン子爵が商会長だ。本店もそこにある」

「影響力は大きいの?」

「めちゃくちゃ大きい。ゼイルディクの武器流通は60%くらいがルーベンスじゃないか」

「うは!」


 こりゃ大手どころじゃないぞ。ここまでの印象で武器とは一般的に出回っている上に需要も高い。つまり扱う商会も多いはずだ。その市場を半分以上占めているなんて、かなりのやり手だな。


「ルーベンス商会本店の隣りは冒険者ギルド本部だ」

「へー、じゃあ普段から付き合いがありそうだね」

「あとフローテン男爵は武器職人ギルド長だったはず」


 フローテンは子爵と男爵がいるのか。そして関連する施設や役職を押さえていると。


 むう、これもしコーネイン商会がトランサイト製造を実現したら、間違いなくゼイルディクにおけるルーベンス商会の牙城が崩れるな。フローテン子爵としては極めて由々しき事態だ。ならば貴族家の力を総動員してコーネイン商会を陥れに掛かるか。


 展開によっては血を見る争いになるかも……関わらないでおこう。


「ところでリオンは口座確認の用事があったな」

「うん」


 冒険者ギルドに隣接する口座管理所へ入る。中には板で仕切られたスペースがいくつか並んでいた。少し離れた椅子には順番を待つ人も座っている。何だかATМみたいな雰囲気だな。奥には警備する騎士も見えるぞ、目が合った、怖い。


 そのスペースには扉もあるが大人なら肩下から腰辺りまで隠れる範囲だ。従って外から頭や足元が見えて利用中か判断できる。しばらく待つと空きが出来たようだ。俺の身長だと頭の高さに来る扉を押して中に入った。


 ほほう、子供でも届く高さのカウンターだな。シーラも利用しているなら当然か。窓口には50代の女性が座っていた。客は立つのに職員は座るのか。


「ご用件は?」

「口座の入出金確認です」

「期間は?」

「最近作ったので最初から全てをお願いします」

「記録は?」

「自分でしますから読み上げをゆっくりお願いします」

「では冒険者証を提示してそこの板へ手を広げて置いてください」

「はい」


 指示に従い手のひらを置く。すると職員が何やら奥で作業を開始、30秒ほど過ぎたか。


「本人確認できました、冒険者証をお返しします。取引履歴を参照しますのでお待ちください」

「はい」


 職員は窓口から完全に姿を消す。恐らく手作業で探すのだろう。

 時間が掛かると見込んだが1分程で職員は戻って来る、意外と早い。


「カウンターのインクはご自由にお使いください。では開始します」

「は、はい」


「5月6日

 コルホル支所にて新規開設。


 5月7日

 入 5000

 残 5000

 コルホル支所にて本人より素材売渡。


 5月7日

 出  500

 残 4500

 コルホル支所へ運搬手数料の支払い。


 5月8日

 入 9300

 残13800

 コルホル支所へ騎士団より討伐報酬。


 5月8日

 入 9975

 残23775

 メルキース支部へ騎士団より素材売渡。


 以上です」


「……ありがとうございます」

「他にご用件は?」

「ありません、失礼します」

「お客様! 冒険者証をお忘れです」

「わわ、すみません、ありがとうございます」


 口座管理所を出た。


「ふーっ」

「ちゃんと書いたな、見せてみろ」

「うん」

「……凄いな完璧に記録している、お前ここで働けるぞ」

「なにそれ」


 落ち着いて丁寧に速度より正確さを意識した。それにしても読み上げを追っての記録はかなり緊張する。こんな体験は前世でも無い、謎の達成感だ。


「この5000って何だ?」

「ガルウルフの角だよ、あの日は見学だったけど魔物の注意を惹いたから貰えた」

「おー、初日だな」


 こう見ると角1本で5000は高く感じる。まあ他のは6等分だしね。


 へへ、嬉しいな。少しずつでも増えていくこの感じはたまらん。シーラがニコニコしながら確認する気持ちがよく分かる。やっぱ金だぜ! 笑顔になる最大の要素だ。


「訓練討伐の成果は向こうで計算しているな、手数料を引いてから人数で割っているらしい」


 確かに7日の角は入金後に運搬手数料を引いているが8日の素材売渡は引かれてない。騎士団が間に入って処理したのか。ふーん、手数料にも関与してくるのね。まあ騎士が取り仕切っていたし監視所が活動拠点だ。訓練討伐自体が騎士団の管轄なのだろう。


「騎士団が手数料を取るんだね」

「まあな」

「騎士団と冒険者ギルドってどういう関係?」

「冒険者ギルドは騎士団組織の一部だ」

「えっ」

「俺たち冒険者は外部委託先みたいな扱いなんだよ。そんでギルドがその窓口」

「ほー」


 じゃあ騎士は社員、いや公務員か、騎士団という官公庁の冒険者ギルド事業部みたいな感じかな。そして冒険者は個人事業主、ギルドと雇用関係にないからね。


「魔石は素材売渡に入っているのか?」

「ううん聞いてない。でも多分そうだよ」

「だろうな」


 魔石買取値は討伐報酬の10%だよな。少ないけど一応確認しておかないと。


 このメルキースってミランダの男爵家が管理している北西部地域だよな。そこから入金したのか。


「メルキースにギルド支部があるの?」

「あるぞ。そこから騎士団がコルホル支所へ振り込みした。素材換金はメルキースの騎士団支部で処理したはず、手数料が引かれているのがその証拠だ」

「お金を送るためにギルドを使ったと」

「リオンの口座が冒険者ギルドにあるからな」


 ギルドは金融機関を兼務しているのか。じゃあ農業ギルドは全く別だから冒険者ギルドとやりとりしたら余分に手数料が掛かかりそう。そもそも完全に独立してできない可能性もある。


「ところでフリッツの運賃いつから払うんだ?」

「忘れてた! 昨日から報酬貰ってるから2日分になるや」

「いくらだ?」

「うーん……1人2000ディルだった気がする」

「まあ金額を聞いてからでもいい」

「うん」


 西区へ帰って居間に座る。


「立ち回り訓練はどうする?」

「そっか武器が無いからね、じゃあ訓練用でやろうかな」

「結局ほとんど使わなかったな」

「そうだね」


 カンカン! カンカン! カンカン!


「む、行ってくる」

「気を付けて!」


 本当に毎日来るね。


 今は14時20分くらいか。女性陣もまだ西区にいるから昨日みたいな苦戦はしないな。やっぱり戦力の半分が不在は大きいからね。それでも倒し切る住人は凄いけど。


 しかし冒険者ギルドが騎士団の一部だったとは。異世界ファンタジーだと国をまたいだ独立した組織みたいな印象だけど、まあよく考えれば不自然ではある。そんな力がある組織は国としてはやっかいだろうし。いや、だからこそ均衡が保たれているのか。


 この世界は騎士団の権力が大きいようだ。この辺はゼイルディク騎士団だよな。まあ何をするにも魔物がついてまわるから対抗できる組織に頼らざるを得ないし。魔物だって魔石や素材が経済回すし森に入れば精霊石もある。


 魔物に対抗できる力、それ即ち生きるために必要な力、色んな意味でね。逆に分かりやすいな、魔物さえ抑えれば何とでもなる。


 ……。


 長いな。大体10分前後で終わる印象だけど今回は多いのか。


 ドドン! ドドン! ドドン!


 勝利の太鼓! この叩き方はアルベルトか。


「ふーやれやれ」

「お帰り!」

「母さんは報告してから戻るよ」

「止めを刺したんだ」

「まーな」

「何が来たの? ちょっと長かったね」

「テリブルグリズリー1体、クルーエルパンサー2体、エビルリザード5体だ」

「多いね」

「まあまあだ」


 出た万能の言葉、まあまあ。


「数はそうでもないがグリズリーとパンサーは暴れるからな。畑は魔物も動きやすいだろ、あっちこっち動き回って面倒だった」

「うわ、じゃあ野菜が傷んだ?」

「広範囲にな。ウチも収穫が近かったのにやられたぞ、全くやれやれだぜ」

「うーん、残念」


 それにしてもこの畑で戦うって無理があるだろ。たまにならまだしも毎日の様に荒らされるし。もう農業ギルドも最初から収穫なんて期待していないと思える。


「ただいま」

「お帰り母さん!」

「動きまくって大変だったわ」

「ねぇ畑って収穫計画を見直されるんでしょ」

「今ギルドが見に来てるよ。終わったら風呂の前に片付けないとな」


 まただよ、この廃棄作業が本当に心折れる。


「あらリオン、口座確認してきたのね。見ていい?」

「うん」

「……ふふ、1回で2万くらい稼げているわ」

「へへ」

「これは半日でしょ? お風呂直ったら1日だからもっと稼げるわね」

「じゃあ4万かな」


 よく考えたら今の倍になるのか。もちろん丸1日拘束されるけど日当4万はかなりの収入だ。冒険者って稼げるな。まあ武器なんかのイニシャルコストが高額だけど。


「それはお小遣いだから好きに使っていいぞ」

「えっ、いやいや装備代をちゃんと返すよ。だから貯めるんだ」

「そんなもん気にするな」

「そうよ、リオンが動いてその対価なんだから。あなたのお金よ」

「うーん、そっかー」


 とは言え大金になるぞ。子供の使い道なんて金額が知れている。


「じゃあ何か買う時にそれでいいか教えてね」

「おう」

「ふふ、いい子ね」


 まだ知らないことが多いから無駄遣いはしたくない。


「俺は畑の片付けに行く」

「私はお風呂行くわね」

「行ってらっしゃい」


 さて何をしよう。風呂まで1時間か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ