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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
41/321

第41話 黒い鷲

 訓練討伐を終え村へ帰還。冒険者ギルドへ報告に向かう。


「初討伐はどうだったか」


 アレフ支所長に流れを話した。


「グリーンガビアルは水中に潜む習性がある。次に川へ接近する際は注意しろよ」

「はい、気をつけます」

「討伐報酬と素材売上は夕方に清算される、振り込みは明朝までに完了しているよ。明日も参加するなら出発前に寄ってくれ」

「はい!」


 西区で少し遅い昼食をとる。


「城壁が元通りだね」

「仮の石だとよ、色が違うだろ。来週から工事に入るってさ、その時に消えるんだと」

「へー」


 確かに少し濃く見える。超短期の仮設城壁か。消える時間を調節できるから可能な工法だね。


「避難部屋の詳しい内容は分かったの?」

「昼食後に建設商会から説明があった。食堂の壁に完成予定図を貼ってるから後で見ればいい。鉄の柱が何本も入って怖ろしく頑丈な作りになる」

「うは!」

「どんな魔物も壊せないわ。大型でも安心よ」


 鉄の柱か。城壁は単純に積み上げている様に見えるから比較すれば遥かに強い。


「それで初めての討伐はどうだった?」

「最初に倒したのはヘルラビットだよ」

「あれは動きが単純だから対応しやすい、俺も最初はヘルラビットだった」

「へー、父さんもなんだ」

「私もよ」


 どうも最初に当たる魔物はヘルラビットが多いらしい。確かに2日とも浅いところで遭遇した。


「稀に長い距離を跳ぶから気をつけろ。突進と決め込んでいるとビックリするぞ」

「分かった」


 やっぱり跳ぶのね。覚えておこう。


「他は?」

「次はね、ダークウィーゼル」

「あいつは初めてだと面倒だな、臭かっただろ」

「うん」


 鼻をつまむ。


「動きが速く感じるが落ち着いて観察すればそうでもない」

「肩から刃物が出てきてびっくりした」

「あれで足元をすれ違い様に切ってくる」

「うわ」


 先に機動力を奪うのか、怖いなぁ。


「次は?」

「グリーンガビアル。川で精霊石を探していたら急に水から出てきて驚いたよ。体が大きかった」

「まあ図体はな、でもそれだけだ」

「しつこく頭を向けて回り込めなかったよ」

「そういう時は正面から頭を跳び越えて体に切り込めばいい」

「えー、怖いよ」

「リオンなら跳び越えられるさ」


 んー、行けそうではあるが。


「でも基本的に跳ばない立ち回りだよね」

「あいつは上方向に頭が上がらない。魔物によっては跳んでもいいぞ」

「そっかー」

「その前に仲間へ頼ればいい。無理して1対1で倒そうと思うな」

「ガビアルも後衛が動きを止めたから倒せたよ」

「あれなら的が大きいわね」


 確かに狙い易い。


「次はキラースィケーダ」

「はは、色々いるな」

「最後はまたヘルラビットだったよ。昨日はエルグリンクスとマスタードリザード、それからエビルヘロンも出た」

「聞いていた通りFランクばかりか、訓練に丁度いい森だな」


 だから子供でも倒せる。


「でもガルウルフは強かった。2班のみんなが何回も攻撃してやっと倒してたもん。あれを1撃って、やっぱり村のみんなは凄いね」

「お前も1撃でやれるさ」


 正直その自信はあるけど絶対に目立つよね。


(5%でいけたか?)


 クラウスは小声になる。


(大体5%~8%、ガビアルは15%くらいかも)


 小声で返す。


(同伴の大人も初めは驚いたが、魔力操作だけに特化ならあり得る才能との見解だ)


 フリッツが小声で参加する。


(それなら心配ないな)

(討伐もFランク中心だから2班の子供と同等に見ている。ガビアルは除くが)

(あの時は焦って調節が出来なかった)

(抑えて危険を招くよりずっといい)


 うん、倒せるときに倒すべきだ。


 食事を終えてトレーを返却。壁に貼り出された城壁完成予定図に集まる。


「ほうこれは堅固だな」

「城壁の厚みがここだけ2倍になるのね」

「外側に突き出る形ね。歩廊が広くなって上で動きやすいわ」


 壁の厚みは50cmほどか。窓もこれだけ幅があれば外の様子は十分見える。高さも5mあるから大型でなければ届きはしない。その大型でもこれだけ鉄の柱と梁が張り巡らされていれば破壊は困難だ。


 とても良い施設に仕上がりそう。これは領主も思い切ったね。


「今から先生の家に行くね」

「そうか」

「いってらっしゃい」


 ミーナの編み物を見るのだ。


「こんにちは!」

「リオン!」


 外でエリーゼとミーナがお花の世話をしていた。


「入ってて、手を洗ってくるから」

「うん」


 居間に座る。


「ワシは用事がある」


 フリッツはそう告げて家を出ると入れ替わってミーナが入ってきた。


「お人形を持ってくるから待っててね」


 2階から下りてきた彼女は大きく膨らんだ手提げのカバンを持つ。ソファの隣りに座ると中身を机に広げた。


「へー」


 全長20cmほどの女の子の人形だ。肌や髪は糸の色を使い分けて立体的に編み込んでいる。中には綿が入っているらしく押し込むと柔らかい。手足の長さなど全体的なバランスも丁度良くちゃんと考えて作っているな。


「時間かかったでしょ」

「冬に始めたからね」

「初めて作ったの?」

「お人形はね、その前にお花を沢山作ったよ」

「これだね」


 直径5cmほどの色とりどりのお花だ。


「かわいいね」

「リオンに1つあげるよ」

「いいの?」

「うん」

「じゃあこれ」


 青い花びらの作品を手に取る。


「ありがとう」

「うん!」

「次は何を作るの?」

「お人形の服だよ」

「着せるんだね」

「うん」


 大したものだ。そのうち実物の服も編めるだろう。


「リオンは町の子たちと森へ行ってるの?」

「そうだよ」

「魔物、倒してるんだ」

「まあね」

「凄い! リオンは何でもできるね、ねぇ今日はどうだったの?」

「今日はねー」


 森での出来事をお話しする。


「うーん、精霊石見つからなかったの」

「そうなんだよー、俺だけ」

「次は沢山見つかるよ! でも魔物は危なかったね、気を付けて」

「先生がいるから安心だよ。じゃあ俺、訓練するから行くね」

「うん! 来てくれてありがと!」


 手を振って家を出る。ふふ、ミーナはかわいいね。


 家に帰り2階の机に貰ったお花を置く。


 武器を持ち搬入口裏へ。多分あの人たちがいる。


「じーちゃん!」

「おおリオン」


 カスペルとランドルフだ。


「立ち回りするから見てて」

「いいぞ」


 今回はヘルラビットやダークウィーゼル想定して動く。


「また違った動きだの、今日の相手か」

「ふー、はぁー、そうだよ」

「初討伐はどうだったかの」


 今日の流れを話す。


「ダークウィーゼルか、慣れないうちは後衛に任せればよい。あれは標的が多いと止まってキョロキョロと頭を振るから狙い易くなるぞ」

「へー」

「耐久力も無いから矢でも1発だ」


 魔物種に応じた戦術は大事だね。素直に仲間に頼ろう。


「グリーンラクーンもダークウィーゼルに姿形は似ているが、クセはないから前衛だけでも問題ない。ウィーゼルの様に接近を繰り返す魔物ならウルヴァリンだ、爪が長く跳び掛かりも速い上、ガルウルフ並みの耐久力だから後衛を頼った方が安全だぞ」

「うは、強そう」

「ウルヴァリンはEランク上位だからの。あそこでは滅多に出ないだろうが爪は高く売れるぞ」

「へー」


 魔物も種類が多いな。まあ動物や昆虫を模しているなら同等の種類があっても不思議ではない。そう言えば冒険者ギルドの壁面に魔物情報を貼り出していた、報酬金額の確認がてら行ってみようか。


「じいちゃん、ギルドに魔物情報を一緒に見に行ってくれるかな」

「今からか」

「おお、行ってこい」


 ランドルフに促されカスペルは歩き出した。


「急にごめんね」

「構わんよ、大事なことだからの」


 冒険者ギルドに入りカウンター奥の掲示スペースへ。


「ギルドも久々だの、ほうワイバーンも貼ってあるのか」


 俺は獣系のFランクを中心に眺める。そう獣系。どうやら4つのグループに分かれており、奥から獣系、鳥系、虫系、トカゲ系だ。


 獣系Fランク

 ヘルラビット  :5000ディル

 グリーンラクーン:4000ディル

 エルグリンクス :3000ディル


 ヘルラビットはよく遭遇する魔物だ。討伐報酬は5000でFランクでは最も高い。動きは単純ながら耐久力が少し高い印象を受ける。2班メンバーも1撃では倒していなかった。


 グリーンラクーンは狸に近い外見か。緑の狸だな。報酬は4000だからヘルラビットより耐久力は無いだろう。カスペルの話ではウィーゼルほどクセはないから前衛だけでも対応はできそう。


 エルグリンクスは昨日遭遇した山猫に似た魔物だ。報酬は3000と最も安い。連続で引っ掻きを繰り出していたが動きは分かり易かった。耐久力は低いらしくリュークもジェラールも1撃で倒してた。

 

 獣系Eランク

 ガルウルフ   :10000ディル

 ウルヴァリン  :9000ディル

 ラヴァフォックス:8000ディル

 ラスティハウンド:7000ディル

 ダークウィーゼル:6000ディル


 まずガルウルフ。村への襲撃で頻繁に現れる魔物だ。それを住人は1撃で倒すがCランク冒険者以上の実力が伴ってのこと。昨日は2班メンバーの総攻撃でなんとか倒していた。8~9発は入れていたな。流石Eランク最上位、耐久力が全然違う。


 ウルヴァリンはクロアナグマの様な外見だ。カスペルの話ではガルウルフ並みの耐久力があり、常に接近戦を仕掛けてくる。なかなか倒れない上にうっとおしいのか、報酬が9000と高めなのも頷ける。もし遭遇したら素直に後衛へ頼ろう。 


 ラヴァフォックスは狐に似た姿形で体毛はオレンジっぽい赤だ。溶岩色かな、まあ赤い狐でいい。狐は頭のいい印象があるから動きがうっとおしいかもしれない。報酬は8000とEランクでは中位か。


 ラスティハウンドは猟犬の雰囲気がある。体毛は暗い赤茶、(さび)色だな。報酬は7000で犬系の動きを想像すればガルウルフの下位との認識でよさそうだ。


 そしてダークウィーゼル。俺は動きに翻弄されていたがジェラールたちは難なく倒していた。報酬6000から察するにヘルラビットと近い耐久力だろう。ただあの動きだからランクも一つ上のEなのも頷ける。


 訓練討伐の森にはEランク上位はほぼ出ない。普段戦う魔物はFランクのラビット、ラクーン、リンクス、Eランクのフォックス、ハウンド、ウィーゼル辺りと考えていいだろう。


 他の系統もしっかり見たいところだが、カスペルを待たせているし風呂の準備もしなきゃいけない。遭遇した魔物だけにしておくか。


 鳥系Fランク

 エビルヘロン:5000ディル


 昨日河原で襲ってきた魔物でアオサギに近い姿をしている、もちろん角や牙はあるけれど。報酬はヘルラビットと同じ5000だ。2班メンバーの倒し方を見ていると耐久力は低いように感じた。ただ視界外からの襲撃は危険だ、開けた場所では注意しないと。


 虫系Fランク

 キラースィケーダ:4000ディル


 今日倒した巨大な蝉だ。飛行しているが速度は知れているし耐久力も低かった。それでも報酬は4000か。どうも飛行系はやや高めの設定になっている模様。まあ今回は繰り出さなかった面倒な攻撃手段があるかもしれないが。


 トカゲ系Fランク

 マスタードリザード:4000ディル


 昨日遭遇した魔物、森の中では目立つ辛子色だった。全長4m近い大型だが2班の前衛だけで難なく倒していた。耐久力はかなり低い印象だ。動きは遅くもないが変なクセもないため戦いやすく見えた。


 トカゲ系Eランク

 グリーンガビアル:9000ディル


 今日、水中から出現したワニだ。報酬9000から察するにあの森ではあまり出ないだろう。いや、待てよ、ヤツは川から上がって来た。つまり対岸から泳いできた可能性もある。そう考えると鳥系含めて河原付近は意識して警戒しないとね。


「じいちゃんお待たせ、もういいよ」

「そうか」


 ギルドを出て中央区の城壁西口へ。西区へ続く道を進む。


 おや? 南の空に黒い物体がいくつも見える。かなり大きいぞ。


「あれは!」

「魔物だの」


 カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!


 西区城壁の南側から4体の巨大な鳥が下りてくる。


「リオン、搬入口へ走るぞ」

「うん!」


 身体強化して全力疾走だ。カスペルが気になって後ろを振り向くとしっかり俺について来ている。流石は冒険者、本気を出したら速いね。


 ギャアアァァーオ!


 うわ! 1体こっちに来るぞ!


 急降下し両脚の鋭い爪が俺に迫る、回避だ!


 バサバサバサッ


 魔物は一度地上に降りたが直ぐに飛び立つ。


 はっ、カスペルは?


「じいちゃん!」

「はは、転んでしもうた、先に行け!」

「えっでも」


 カスペルは膝を押さえて動けない様子。上空に目をやると先程の個体が旋回し降下するタイミングを見計らっている。もし負傷したカスペルへ向かえば回避は不可能だ。俺がやるしかない!


 急いで鞘のベルトを外し剣を抜くと魔物は急降下の体勢をとった。


「こっちだ!」


 戦うなら着地する寸前に避けて切り込む流れだが、魔物の大きさを考えると俺の身長で届く範囲は限られている。何とか脚くらい落とるか。ただ先程の着地に大きなスキは無く直ぐに飛び立った。接近すれば思わぬ反撃を繰り出すかもしれない。


 魔物は高度を落とし真っすぐ俺へ向かって来る、ひとまず注意を惹くことに成功した。なるべく引き付けて回避したら魔物の動きを見て切り込むか判断しよう。


 ズバッ! ザシュッ! ドスンッ!


 矢と魔法! 西区の城壁からだ!


 ギャアアァー……


 魔物はふらつきながら目の前に着地。体の一部が燃えているが倒れる気配はない。


「リオンやれ!」


 カスペルが叫ぶ。


 よおーし、強化共鳴!


 キュイイイィィィーーン


 うおりゃああぁぁーっ!


 スパン!


 ……ドスン


 やった! 体が真っ二つだ、倒した!


 搬入口から飛び出した住人がカスペルへ駆け寄る。ランメルトだ。


「さぁ肩を」

「すまんな」

「リオンも来い」

「うん!」


 俺たちは搬入口に到着。城壁のトンネル内に身を寄せる。


「ここなら安全だ」


 そう告げてランメルトは城壁の内側から鉄の扉を閉めた。


「じいちゃん大丈夫?」

「なあに……ちょこっと打っただけ」


 眉間にしわを寄せてカスペルが応える。かなり痛そうだ。膝は内出血で紫に変色している、骨を痛めてなければいいが。


 ズバッ! ドシュッ!


 ギャアアアァァス!


 ドサッ!


 住人が戦っている。


 ……。


 ドドン! ドドン! ドドン!


 勝利の太鼓! ふー終わった。


 しばらくして搬入口の扉が開きクラウスとランメルトが顔を出す。カスペルは2人に抱えられて荷車に横たわった。


「直ぐ礼拝堂へ行く」

「俺も!」


 礼拝堂横の建物に近づくと荷車の負傷者を確認した職員が案内する。中には若い女性が1人、治療士のヘンドリカと言ったか。


 彼女は荷車に乗ったままのカスペルの膝に両手をかざす。しばらくするとカスペルの表情が和らいだ。


「打撲です。治療は完了しました、もう立てます」


 カスペルが荷車から降りる。


「ああ平気だ、すまんのヘンドリカ」

「右手のひらを擦りむいていますね」


 手の治療も完了する。


「他に傷はありませんか」

「いやない」

「では住所と名前、それから怪我の原因を」

「西区14番、カスペル・ブラード、魔物対応で負傷した」


 男性職員が問いカスペルは応える。それにしても治癒スキルは凄いな、1分も経たずに完治だもん。ただ膝の治療後にヘンドリカは息を乱していた。それなりに魔力を使ったらしい。


 空の荷車を引きながら中通りを歩く。


「久々に思いっきり走ったら足がもつれての」

「じいちゃんごめん、俺が連れ出したばっかりに」

「はっは、気にするな」


 それにしても先程の魔物は大きかった、翼開長8mを超えていたな。


「キミがリオンか」

「あ、はい!」


 騎士だ。


「先程の西区魔物対応、ダークイーグル4体だが、うち1体の止めはキミで間違いないか」

「ええと……」

「ワシだ、名はカスペル、西区の住人だ。弓で止めを刺した」

「そ、そう、じいちゃんだよ!」

「……分かった」


 騎士は去った。


「すまんリオン」

「いやその方がいいね」

「あれ? 確かリオンが……」

「見間違いだよメルおっちゃん、じいちゃんの弓で止めだよ」

「あー……そうか」


 ランメルトは何かを察してくれた。


「住人には何と言ったかの」

「騎士に聞かれたら1体はリオンと伝えてくれと」

「見間違いでワシだったと訂正しておけ」

「……分かった」

「城壁に上がっていた住人は目撃したかの」

「いいや、直ぐ次を狙っていたから見ていない。落ちたヤツに俺が向かったから任されたのさ、女たちが風呂で東区だから人数に余裕が無かっただろ」


 そうか、男性だけで戦ったと。


「見られたらマズいのか……帰ったら聞かせてくれよ」

「うむ」


 仕方ないね。ランメルトには俺の共鳴を伝えよう。


 西区へ到着。


「風呂の準備をしないとな」

「メル、夕食のあとにウチへ来てくれ。そこで話すよ」

「分かったクラウス」


 北区で風呂を済ませ食堂へ。


「おいリオン、風呂前のダークイーグルはお前がやったのか」

「ううん、カスペルじいちゃんだよ」

「何だそうか」

「ほらやっぱり見間違いだよ」

「当然だろ相手はダークイーグルだぜ、いくら訓練討伐に参加しているからって相手の格が違い過ぎる」


 ほっ、どうやらカスペルで落ち着きそうだ。


「さあ帰るか、メルと義父さんを連れてくるぞ」


 居間のソファにはクラウスとソフィーナ、その向かいにカスペルとランメルトが座る。俺は剣を構えて立つ。


「まずはこれを見てくれ、リオン頼む」

「うん」


 強化共鳴。


 キイイィィン


「共鳴早いな!」


 キイイィィーーン


「は!?」


 キュイイイィィィーーン


「……お、おい」


 ふぅー。


 シュウゥゥーーン


 80%ほどか。ダークイーグルに切り込んだ時も同じくらいだ。剣を鞘に納めソフィーナの横へ座る。


「やっぱり見間違いじゃなかった!」

「うん」

「凄いじゃないかリオン、ダークイーグルが真っ二つだったぜ! 今のを見たらその力量は納得できる。お前、特待生になれるぞ」

「それも王都の士官学校だ」

「あーそうか、俺も詳しく知らんが」


 クラウスは昨日フリッツに聞いた懸念も話す。


「んー、考えすぎじゃないか、なあ父さん」

「強い力を欲しがる者は多い。良い方向に行けばいいが」

「メルおっちゃん、じいちゃん、俺の力を利用しようとする人たちは嫌だけど、もし何かあったら対応するしかないし、そうならない様に隠しておきたい。士官学校なら安全だろうけど今のところ騎士になる気はない。とにかく環境を急に変えたくないんだ」

「まあ気疲れもするしな」

「村の生活が気に入っとるんだの」

「そうだね、まだ西区で暮らしたい」


 とにかく英雄の力を解放するのだ。


「でも今日みたいな状況に出くわしたら本気を出す。それで隠しきれなかったら仕方がない」

「魔物に手加減はいらねぇぞ!」

「はは……」

「ソフィはどうなんだ?」

「兄さん、父さん、私はリオンが幸せならいいの。西区にいたいなら協力するわ」

「分かった俺も協力する、なあ父さん」

「そうだの」


 よしこれでいい。


 カスペルとランメルトは去った。


 ソフィーナに事の経緯を話す。


「お風呂の間にそんなことがあったの」

「大型4体は少し手間取った」

「ねぇダークイーグルって強いの?」

「討伐報酬じゃレッドベアやデスアリゲーターより上だ、Dランク上位だからな」

「え」

「確か20万ね」


 うひょー、高い!


「Cランク冒険者なら落とすために3人は必要だ。止めを刺すのもCランク以上の腕前じゃないと無理だ」

「えっと、じゃあ」

「お前の1撃はCランク冒険者以上ってことだ。しかも体を真っ二つだろ? 普通は首を落とすぜ、ははは」

「へへへ……」


 俺の身長で首まで届きはしない。頑張っても脚の付け根付近だろう。そう片脚でも切り落とせればと剣を振るったが、まさか体ごと真っ二つになるなんて。


 しかしあの剣身の長さで上まで切れたのは何故だ。もしや斬撃波の様な攻撃範囲拡大が成されていたのか。だとしたら危なっかしくて使い辛い。向こう側に人がいたら大変なことになるぞ。これはよく考えて共鳴しないと。


「さあ寝るか、毎日こんなんじゃ疲れるよ」

「ごめん……」

「いやリオンのせいじゃない、俺の器の問題だ」

「父さんは難しく考えすぎなのよ」

「まあ……そうかな」


 おやすみの挨拶を交わして2階へ。


 振り回してしまって申し訳ないクラウス。


 ふと机の上の編み物を見る。


 はは……ミーナ。


 寝よう。

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