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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
40/321

第40話 役割分担

 晴天の下、森を進む。動けば汗ばむが風が心地いい。進路は風の通り道だ。小鳥のさえずりが聞こえる。初夏の爽やかでフワッとした日の光。正に行楽に適した季節だ。


 そんな森の中を小学2年生~6年生ほどの子供6人と祖父母6人が歩く。前世ではピクニックと思える光景だが、みな手に武器を持ち魔物を探している。この世界の森は決して自然を満喫する場ではないのだ。


「いないね」


 ヘルラビット討伐地点からかなり歩いた。500mは進んだか。


「進路周辺に魔物は出ないんだ、森の奥から流れてくる」


 ジェラールが応える。ふーん、進路には湧かないのか。


 森の奥を見る。木はそこまで密集してないが低木でやや見通しが悪い。地面は草で覆われており木の根や大きな石が散見される。西区の森はこんな道なき道を行くのだろう。それが本来の冒険者の姿かもしれない。


 それにしても初討伐は意外とあっけなかった。ヘルラビットが弱い部類で対処もある程度分かっていたが、それでも魔物だ。昨日は進路から出た時に全身に震えが来たほど。魔物に狙われる恐ろしさは日常生活とはかけ離れている。


 もちろん立ち回り訓練で動ける自信はあったし、いざとなれば逃げ切れる走力もある。それでも全く臆することなく立ち向かえた要因は共鳴強化だ。手間取っても本気を出せば必ず勝てる。大きな力が余裕と落ち着きをもたらしたのだ。


 ただ俺自身とは別に不安要素がある。他のパーティメンバーとの連携だ。マルガレータはヤル気を削がれて機嫌を悪くしたのだろう。確かに急に割って入られたら戸惑うね。


 おや、あれは。


「ダークウィーゼル……2体」


 10時方向30mほど先に黒い棒が2本立っていた。リュークが魔物種を特定する。


「俺は行っていいのかな」

「1体頼むよリオン。難しそうなら引っ張り出して」


 ジェラールに確認し走り出す構えをとる。近い方にするか!


 ダッ! タッタッタッ


 地面を踏むまで状態が分からないからあまり速度は出せない。なるべく草の少ない地形選ぼう。


 ギャアァァッ!


 うわ鳴き声か。


 1体が俺へ向かって来る。距離を取って観察だ。体長1m50cm、尻尾を含めると2mちょっとか。全身は黒い毛で覆われている。手足が短く胴長で首長な体型だ。


 2m付近まで近づくと跳び掛かって来た。寸前で避けて間合いを取ると魔物は直ぐにこちらへ向き直しそのまま近づく。視界に収めながら再び距離を取る。


 うわ、またこっちに来る。ええい!


 ブンッ


 威嚇に剣を振ると一瞬止まったが再び近づいて来る。間合いを離そうと走るが魔物もそれに続く。ええい、もうスキを伺わず一気に決めるか。


 キイィィン


 武器を共鳴して向き直ると魔物は動きを止めた。むむ、なんだ。跳び掛かる様子はない。ただ動かないなら狙い易い、一気に距離を詰めて首をはねるぞ!


 ダッ ブンッ


 くっ、避けた。うは近づいて来る!


 ブンッ


 また避けた。来るか? いや来ない。ひとまず距離を取って様子を見るか。


 タッタッタ


 ぴったりついてくるな。この魔物、速さはそこそこだが何も考えず突進はせずに、ちょこちょこ短い手足を動かして追尾する習性らしい。


 ギャアァァ!


 と思ったら跳び掛かって来た。避けて魔物を見る。やはり着地には幾らか硬直する時間がある。狙うならそこだ。動きながら観察する。相変わらずついて来るな。


 円の軌道を続けていると魔物は止まり姿勢を低くした。跳び掛かりだ、着地を狙って一気に終わらせるぞ。


 跳んだ! 寸前で回避! 一歩踏み込んで切り落とす!


 シュバッ!


 うわっ!?


 アブねぇ、背中から刃物が立ち上がったぞ、収納式とはやるじゃないか。直ぐ背中に収まったが付け根は両肩だった。わん曲した片刃の刃物が2本だな。ふっ、カマイタチとでも言うのか。


 ただあの刃を立てた後は完全に動きが止まっていた。さっきはビックリして何も出来なかったが次は仕留めてやる。


 再び円形に動き跳び掛かりを待つ。


 来た! 回避! そして近づくと見せかけて。


 シュバッ!


 出たな! 冒険者に同じ技は通じない!


 スパン!


 胴体が真っ二つになる。やれやれ面倒な魔物だった。あと1体は進路へ向かったな。


 ん? なんだこの臭いは。うげぇ、くっせえぇーっ!


 その場から離れ進路に戻るともう1体は倒されていた。近くのジェラールが止めを刺したらしい。首を切り落としたようだ。


「うはっ!」


 その亡骸に近づくと再び異臭が嗅覚を襲う。


「ハァハァ、風下に回らない方がいいぞ、こいつは倒すと臭いんだ。フゥー、血肉が消えれば臭いも消えるよ」

「そうなの」


 ジェラールの助言通り風上へ移動する。おならみたいな臭いだった。イタチの最後っ屁か。


 2班は集合し休憩する。


「リオンはよくダークウィーゼルを剣だけで倒したな」

「うん、頑張ったよ」


 無口なリュークが少し興奮気味に話しかけてきた。


「あいつは動きがうねうねして狙い辛い、普通は後衛に動きを止めてもらうんだ」

「攻撃すると逃げる、ほんとやり辛い」


 前衛の2人が不満を漏らす。いたちごっこか。確かに手間取った。


「リオンは1人で平気だもんね」

「うっ」


 マルガレータが不敵な笑みを浮かべる。くっそ、根に持つタイプか。


「ええと、今度ダークウィーゼルが来たらお願いします」

「アタシに任せて!」


 役割分担はその為にある。


 正直ちょっと過信した。収納武器なんてトリッキーな魔物もいるのか、気をつけないとね。


「2班行けまーす!」


 休憩を終えて出発。


 ほどなく進路の先が開けてた、河原だ。


「出たら上空注意」


 サンドラがメンバーに呼びかける。うん飛行系に警戒だ。


 河原に出て一斉に上を見上げる。澄み切った青空だ。遥か上空の黒い影は無視でいいだろう。西区の見張り台でもあの高さは鐘の対象ではない。


 100m程先まで河原は広がる。ザクザクと小石が敷き詰められ歩き辛いが見晴らしはいい。


「あ!」


 シーラは小走りに離れ座り込む。なんだ?


「やっぱり精霊石」


 そうか河原なら落ちている可能性は高い。大雨で増水した川へ上流から精霊石が流れて滞積するからだ。


「おーい、お前たち! 今回は時間にかなりの余裕がある、引き返すまでの時間で石探しをしてもいいぞ」

「やった!」

「わーい!」

「いけいけー!」


 みな一斉に散る。くっ、遅れてなるものか!


 ザッザッザッ……。せっかくだから水の近くまで行こう。


 川幅100mか。中央付近はかなり深そうだな。全体的に流れは緩やかで透明度は高い。


 子供たちは足元に集中して歩き回っているが同伴の大人は注意を怠っていない。中身が大人の俺としては一緒に見張るべきだが、今は子供だ、ウェーイ!


 目を凝らせ! 光を見逃すな! 10万が落ちているぞ!


 ……くぅ、無いな。


「あった! やった!」


 む、サンドラか。


「おー、見つけたぞ!」


 むむ、リューク。


 無口な2人も子供っぽいところがあるじゃないか。いや実際、子供だし。


 おのれ! 手ぶらで帰るワケにはいかーん!


 そうだ水だ、水中だ。河原を走り川へ近づく。


 ぐぬっ、水面が揺らめいて見づらい。故にありそうだが。


「リオン魔物だ!」

「え!」


 バシャッ!


 うわっ!


「みんな強化して!」


 マルガレータが声を上げる。


 びっくりした、水の中からワニが。いつの間に接近したのか。フリッツはよく気づいたな。


 バタバタバタ……。


 魔物は河原を走るが意外と速い、そして大きい。水から上がったその巨体は全長7mか。全身緑の間違いなくワニだ。上顎下顎は細く長い、前世のガビアルに似た特徴だ。もちろん魔物なので角は生えてる。


 さてどう戦えばいいか、ひとまず距離を維持して様子を見よう。とても跳び掛かる体型ではないな。スキはどこにあるのか。俺が動けばしつこく頭を向けるため回り込みも難しい。


 シャー!


 と思ったら加速して突っ込んできた! あぶねぇ。


 回避後に回り込もうと試みるが素早く頭を向ける。おのれ。


 ズバッ! ドスッ! ズシャッ!


 魔法と矢だ! 首筋に風の斬撃、前脚付け根に氷の矢、後脚付け根の矢は刺さった個所から火が出ている。魔物の動きが止まった。


「リオン今よ!」


 マルガレータが叫ぶ。


 よおーし、共鳴! キイイィィン


「たあっ!」


 スパンッ!


 ……ドサッ


 やった、首を落としたぜ。


 河原に集合し休憩。


「グリーンガビアル、Eランクだな、お疲れリオン」


 ジェラールが労いの言葉を掛ける。


「川の近くは気を付けてよ、水の中だって魔物がいるんだから」

「うん」


 そう言うマルガレータも足元しか見ていなかった。俺もだけど。


「先生ありがとう」

「ふっ、いい経験になったな」


 フリッツはニヤリと笑う。くっ、まあ身を持って危険性は分かった。


「みんなはいくつ見つけた? 私は2つ」

「私は3つだよー」

「2つ」

「1つ」

「俺も1つだ」

「……」

「リオンは?」


 ぐぬぬ。


「み、見つけたけど、魔物に驚いて、川に落としちゃった、テヘッ」

「あらー残念ー」


 マルガレータの目は信じていない。


「あのさ、魔法と矢、助かったよ」

「ふふ、どういたしまして!」

「普通よ」

「リオンが引っ張ってくれたからね!」


 マルガレータの機嫌が直ったようで良かった。しかしさっきの魔物は1人ならどう戦えばいいのか。


「休憩終わり、2班行けまーす!」

「では引き返すぞ」


 再び森へ入る。


 討伐報酬と魔物素材は人数割りだが、拾った精霊石は自分のもの。1個も拾えなかった、やっぱり河原を辛抱強く探すべきだったか、ブツブツ……。


 ブーーーン


 む、羽音!? でも大きいぞ。


「キラースィケーダ3、いや4体!」


 リュークが叫ぶ。


 うは! (せみ)のお化け。体長70cmの巨大な蝉だ。蝉か? もうなんでもいい。


 ブーーーン、ブーーーン、ブーーーン


 前から3体向かってくる、あの高度では剣は届かない。


 と思ったら急降下!


 共鳴! キイィィン


 スパッ!


 バタバタバタ……。


 羽根を損傷した魔物は地面でバタついている。


 スパンッ!


 体の中央に剣を振り下ろし真っ二つに分かれる。


 ブーーーン、ブーーーン


 2体が上空から襲い掛かる。


 ドスッ! ズバッ! ヒュン!


 魔法と矢が飛ぶ。氷の矢は外れた。風の斬撃が命中した1体は落下し動きを止める。矢が命中した1体も落下し地面でバタバタする。


 ズバッ!


 近くのジェラールが止めを刺した。


 もう1体は同伴大人へ近づき瞬殺だった模様。


「休憩!」


 飛行する虫系か、ちょっとクセがあるな。落ちたら弱いけど。しかし蝉のくせにお決まりの角、そして長ーい口? 傘の様な棒が頭から伸びていた。もしや牙か? 樹液を吸う口吻(こうぶん)は不要だろうし。


「出発しまーす!」


 森を進む。


 ダークウィーゼル討伐地点まで戻った。大人が素材を回収する。あの鎌みたいな角? 危ないなぁ。


 次のヘルラビット討伐地点まで500mほど。その先は300mで森を抜ける。あと1回遭遇するかどうか。ヘルラビット以降は少ないと感じたけどそれなりに出てきたね。


 森をどんどん進む。太陽も高くなってきた、もう11時前か。西区の風呂が直って1日滞在するなら監視所で昼食をとった方がいい。村へ食べに帰るのが面倒に思えてきた。


 おや、ヘルラビットか。


「ヘルラビット3体、俺が右を行く」

「じゃあ真ん中」

「んじゃ左」


 リュークが左、ジェラールが右、真ん中正面は俺だ。いくぜ!


 ダッ! タッタッタッ


 俺を見つけた魔物は突進してくる。それを寸前で避けて直ぐ追いかけると、魔物は引き返そうと体を横向きにしていた。


 いける!


 スパン!


 頭を落とした。あと2体は?


 進路を外れたリュークを追うため止まっところへ魔法と矢が突き刺さる。そこへリュークが切り込み倒す。もう1体はジェラールが切り込むところで止めになった模様。


「きゅーけい!」


 2班のメンバーには流石に疲労の色が見えている。2時間以上森を歩き、討伐も5回こなしたからね。皆、静かに回復を待つ。体力面は休めば解決するが、緊張感は続くため精神的疲労は変わらない。魔物はいつどこから来るか分からないのだ。


「終わり、しゅっぱーつ!」

「おー」


 マルガレータは元気だ。掛け声はヤル気に繋がる。


 森を進みヘルラビット討伐地点に差し掛かる、もうすぐ抜けるね。


 進路の先に街道沿いの草原が見えてきた。荷車もある。


「抜けたー」

「ふー」

「お疲れー」


 やっぱり気が緩むと笑顔になるね。ほどよい疲労感と達成感。仕事したぞ。


 2班は監視所の城壁前までへ戻った。


「そう言えばリオンの報酬をどう計算したらいいのかな」

「もうできている」


 ジェラールの問いに同伴大人のリーダー、アードルフが応える。


「討伐報酬はヘルラビット6体、ダークウィーゼル2体、グリーンガビアル1体、キラースィケーダ3体、合計で6万2000ディル、それを6等分で1万400ディルだ」


 1万333ディルだけど10の位は切り上げか。


「素材は売却後に6等分して口座へ振り込む」

「はい、分かりました」


 鞘のベルトを外し剣を納める。


「我々は昼食へ向かう、リオンは明日も来るのか」

「はい」

「分かった」


 2班の子供と大人はぞろぞろと城壁へ向かった。


「リオーン、また明日ー」

「ばいばーい」

「うんー」


 みんなに手を振る。するとジェラールが駆け寄って来た。


「武器助かったよ、ほんとにありがとう」

「それよりガビアルを倒した時、本気だったか?」

「え?」


 攻めあぐねていたところへ後衛の働きで動きが止まり、直ぐ倒さないとと焦ったから共鳴の調整が上手くいかなかった。15%ほどだろう。


「んー、割と本気だったかな」

「お前凄いな!」


 俺の肩をポンッと叩くとジェラールは城壁へ去った。


 まあ実戦だもん、その最中なら上出来だ。


「あの子はよく見ている」

「うん、フリッツ」


 自分の使っていた武器なら俺の力量も想像できるか。


「大人の反応は?」

「かろうじて常識の範疇だ、安心しろ」

「なら良かった」


 監視所の街道口へ向かう。


「あの馬車だ、乗れ」


 騎士に示された馬車へ向かう。昨日と同じ型で荷台には3人の騎士が乗っていた。コルホル出張所で見た顔もいる。俺たちが乗り込むと後ろの階段を収納し御者に声を掛けた。馬車が動き出す。


「ははは……」

「そうだよなー」

「俺もそう思うぜ」


 談笑が聞こえてくる。騎士も気の許せる仲間内なら俺たちと何ら変わらない。


「リオン」

「なに?」

「その、ミーナがな、編み物はいつ見せたらいいのかと」

「あ!」


 忘れてた。小さいお人形を作ったから見る約束だったね。


「その様子だと忘れていたか」

「うん、ごめん」

「昼食の後はどうだ、ミーナは家にいるぞ」

「分かった行くよ」


 ミーナから頼まれてたか。フリッツはミーナ大好きだからな。


「孫は可愛い?」

「無論だ」

「エドと比べてミーナの溺愛っぷりが目立つね」

「はは、そうか……実はエドを厳しく躾けてな、あの子はそれに応え、見ての通り立派に育った。それで同じようにミーナも躾けたら、すっかり嫌われてしまってな」

「だから優しくしてるのね」


 講義の様子だとフリッツを嫌がってるように感じなかったが。近頃は仲良くなったらしい。


「明日も討伐だけど来れる?」

「もちろん」

「悪いね付き合わせて」

「気にするな」


 幌の隙間から外の景色を眺める。森の緑が日に輝いていた。こんな美しい森を気軽に散策できないとは、もったいないね。


 おや道が。


「ねぇ街道から道が分かれているけど、何の道?」

「あれは西区に向かっている」

「そんなのあったの」

「まだ途中までだ。2年後の城壁拡張までには繋がる」

「あー、資材運搬に中央区経由は厳しいね」

「そういうことだ」


 村の入り口が1個所だと集中して混雑もする。


「既に東区方面は開通している」

「そうだったの」

「ただ拡張完了後は放置していたため荒れている。今年の北区拡張に合わせて再整備する話だ」

「じゃあその道が東区へ繋がってそのまま北区へ抜けられると」

「そんな感じだ」


 ほどなく村へ到着。


「ありがとうございました」


 同乗の騎士、そして御者と馬に礼を告げてギルドへ向かう。

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