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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
34/321

第34話 冒険者証

 搬入口裏でカスペルの付き添いの元に剣の訓練を終える。家に帰るとクラウスが待っていた。


「父さんごめん、早めに出るんだったね」

「冒険者ギルドは風呂までの道中にある。遠回りするワケではないぞ」

「そっか」

「まあ冒険者証の受取時に話が長くなるかもしれん、今から行くか」

「うん」


 風呂の準備をして冒険者ギルドへ向かった。


「金を用意する、ちょっと待て」


 クラウスは隣りの口座管理所で現金を引き出した。


「あら来たわね、支所長ー!」

「おおリオンか、冒険者証は先程届いたぞ、そこへ座ってくれ」


 受付のおばさんに呼ばれてアレフブレード支所長が出てきた。


「今から風呂か、西区は災難だったな」

「仕方ないさ」

「これが冒険者証だ」

「ここで作っていないのですね」

「ギルド本部で作る。さあ手に取ってくれ」


 冒険者証は金属製のカードで厚みもありしっかりしている。大きさは前世の運転免許証ほどか。リオン・ノルデンと名前が立体的に盛り上がっている、いわゆるエンボス加工だな。他の登録番号らしき数字も同様に加工が成されていた。まるでクレジットカードだ。


 目を引くのはこのゼイルディクと言う文字、カッコよく崩したデザインだ。そしてギルドのシンボルマークは異なった材質が貼り付けられ角度によって色も変わる。なんとも凝った作りだ。それらが違和感なくスタイリッシュにまとまっている。


「合計いくらだ?」

「13万3000ディルですが若い才能に期待を込めて13万で構いません」


 もうちょっと引かないのか。10万とかに。


「じゃあこれで」

「……確かに。この瞬間よりリオン・ノルデンは当ギルドの正規会員です。今後ともよろしく」

「頑張って稼ぎます!」


 俺とアレフ支所長は硬く握手を交わした。


「キミには未来がある。無理はしないようにな」

「はい!」

「それで、えーっと、同伴の大人だが」

「フリッツだな」

「実は条件があって冒険者ランクE以上だ。もちろんフリッツは満たしているが違う人物を向ける場合は気を付けてくれ」

「分かった、伝えておくよ」


 そりゃ討伐同伴だから戦えないと意味がない。それでEランクって冒険者の階級だよな、異世界ファンタジーにありがちな制度だ。


「訓練討伐の日程については2~3日前に当支所へ連絡が来る。参加者のほとんどは町に在住しているため、まずはそちらで日程調節をしてウチが合わせる形だ」

「じゃあ毎日見に来た方がいいな」

「すまんがそうなる。ただ時には討伐前日の夕方に連絡が来ることもある。その場合は私が西区へ伝えに行ってやろう」

「それは助かる」

「西区のどこだ?」

「15番、北端が俺の家だ」

「分かった」


 ふーん、急な予定もあるのか。


「アレフ支所長、討伐の頻度はどれくらいですか?」

「そうだな、週に2~3回ってとこか。監視所への集合は大体9時だ。そこから昼まで進路に入り午後は16時あたりまで活動する」

「16時まで向こうにいれば風呂に間に合わん。西区の風呂が直るまでは午前中に限った参加だな」

「父さん、多分武器が出来る頃に風呂も直るよ」

「そんなもんだな」


 武器が遅くなって10日かかっても、その頃には風呂も直ってそう。


「それと東区の9歳の子供だが名前を伝えておこう、シーラ・キーヴィッツ、女子の魔導士だ」

「へー魔導士なんだ」

「キミの情報も伝えておくがいいかね」

「はい」

「以上だ」

「色々ありがとう、アレフ支所長」

「仕事だからな」

「さあ風呂へ行くか」

「うん」


 へへー、冒険者証、嬉しいな。


「子供用は白か、初めて見たぞ」

「父さんは色が付いていたね、薄い緑ぽかったような」

「Cランクは緑なんだ。Fが灰、Eが紫、Dが青、Cが緑、Bが赤だ」

「へー、Aは?」

「銀らしいが持ってる人はゼイルディクでもいなかったはずだ」

「そうなんだー」


 クラウスが剣技24でCか。じゃあ26~30がBかな。それならAは31以上になる。王都騎士団長や国王近衛兵クラスらしいし全然いないのも頷ける。


 ベアトリスは40だから冒険者ならSランクか。さすが英雄。じゃあレベル53って何ランクだ。S4つくらいかな。うーむ、その域では最早ランク付けの意味はない気がする。


 まあ階級を決定する要素がスキルレベルの他にあるかもしれない。そう依頼をこなしてポイントを貯めるだの、特定の依頼が昇級試験だのありがちだ。きっと高ランクしか受注できない依頼もあるだろう。


「あれ? じゃあ俺はランク何?」

「そういや無いな、ランク子供じゃないか?」

「なにそれ」

「はは、えーっと確か13歳になる年かな、その年初からFランクにできたはずだ」

「そんな制限があるんだ」


 それまでお子様扱いか、まあ実際子供だし。


「13歳になる年には冒険者養成所に入れるからな。条件を満たしていれば入所と同時にFランク冒険者証を発行してくれる。俺もそうだった」

「父さんは訓練討伐へ行かなかったの?」

「当時はウィルムの学校で、そういうのは無かった」

「ふーん」


 ゼイルディクは冒険者の町だから積極的に取り組んでいるのか。


 北区の搬入口へ向かう。


「うわ、この辺は景色が変わったね」

「城壁予定地だろう、肥土を撤去してスッキリしたな」


 もうすぐ建設に取り掛かるのか。


「ねぇ城壁ってどう囲むの? 80軒だよね」

「北区の住人に聞いてみるか」


 搬入口付近の北区住人に問い掛ける。


「今日も世話になるな」

「好きに使ってくれ」

「ところで北区の城壁って、どういう形になるんだ? 今の城壁の周りに城壁を作るだろ、それで今の城壁が消えたらそこへ住居を建てる。東区はそうだったよな」

「ウチは80軒だからそれでは足りない。西へ同じだけ延ばすのさ」

「西へ?」


 同じだけ延ばすとは?


「そう西へ。今の東区の2倍の広さになるのさ」

「うわー、凄い!」

「じゃあ120軒建つじゃないか」

「そうなんだが先に建つのは60軒で今の20軒と合わせて80軒な。残り40軒は遅れて建つらしい」

「はー、そんなことになってたのか」


 最終的に6倍か、凄いな。


「後の40軒は冒険者が入るみたいだよ、ああ農業はしない専業冒険者だ」

「畑が足りないもんな」

「そういうこと。それでその冒険者と建設ギルドや騎士団が森を切り開くんだよ」

「討伐専門を森に近い区域に住まわせるワケか」

「西区もそんな話を聞いたぞ」

「俺もチラッと聞いた、100軒を超えるとか。なるほどそこには専業冒険者が入るのか」


 かなりの攻勢に出るな。ここ数年は魔物が活発に動くぞ。


「それだと北区の西端は西区に近くなるな。俺は西区北側の見張り台に上がっているから北区に任せることが多くなりそうだ」

「まあな、もう境の魔物はウチで対応してやるよ、人も多くなるし余裕だろう」

「ああ、頼むよ」

「見張り台も6個所を計画しているらしい」

「広くなるから必要だな。全部鳴らしたらさぞやかましいだろ」

「はは、だろうな」


 凄いな。この村どんどん堅固になっていくぞ。


「ありがとう、いい情報だった」


 クラウスは礼を告げ搬入口へ向かう。


 そうか東の森の先はカルニン村だ。向こうからもどんどんこっちへ開発を進めているはず。従っていずれはお互いの開発最先端が顔を合わせる。一方、北側と西側は先に森が広がってるだけ。開発の余地が多い分、戦力を多く配置するのかな。


 いや西側は川があるからそこまでだ。それも橋を架ければ解決するか。


 風呂の脱衣所に入る。今着ていた服はカゴに入れず持ち帰る、西区の洗濯乾燥施設は無事だからね。服を脱いで棚に置いているとケイスが話しかけてきた。


「リオン、その白い板は何だ?」

「これは冒険者証だよ(ドヤッ」

「な、なんだって!? お前、冒険者になったのか!」

「そうだよ、訓練討伐に行くんだ」

「うへー、ちょ、ちょっと見せてくれよ」

「いいよ」


 ケイスに渡す。


「これ、なんて書いてあるんだ?」

「ゼイルディクだよ」

「えー、いいなー、かっこいいー」


 ざわざわ……。


 近くにいた西区住人が近寄り覗き込む。


「これは子供用か、初めて見たよ」

「どこに行くんだ?」

「騎士団監視所の近くだよ」

「へー、あそこの森に入るのか」

「町では稀に訓練討伐へ参加する子供もいたが、かなりの才能が必要だぞ」

「お前、凄いんだな」


 冒険者証を棚に置いて浴場へ入る。


 ふふ、悦だぜ。


「クラウス、お前の息子もう冒険者なんだって?」

「登録だけでまだ討伐は行っていない」

「この村から才能ある子が出るのは喜ばしいな」

「東区にも1人いるぞ。リオンも一緒に活動するんだとさ」

「他にもいたのか」


 シーラという魔導士の女の子で9歳。馬車も乗り合わせて行く。


「メルキースからは20人の参加だとよ」

「ほう、けっこういるな」

「騎士の子供なら装備だけ豪華にさせて放り込むだろ」

「確かにありそうだ」


 ははーん。実のところ本当に才能ある子はどれほどか。


 カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!


「おい、空からだぜ」

「でもどうしようもないな」

「ああ」


 北区に魔物が来たようだ。しかし裸ではどうすることもできない。そもそも他の区域の討伐には参加しない決まりだ。報酬とかややこしくなるからね。


 大きな声があちこちから聞こえる。落ち着いて風呂に浸かれないんですけど。


 ただ風呂が頑丈なのは安心だ。なるほど、こういう状況も想定して風呂がシェルターなのか。外は騒がしいが裸の不安感はない。ここなら安全だ。


 ギャアアァァス!


 お、やったか、これは……。


「キラーホーク?」

「だよな、俺もそう思った」

「アサルトカイトじゃねぇか」

「そうも聞こえた」

「あれだ、アルバトロスだ」

「おーそうかもな」


 などど、魔物当て大会が始まった。


「出たら答え合わせだ」


 パパパ、パーラーラー、パッパラー


 !?


「なんだこれ!?」

「勝利のファンファーレだ」

「太鼓じゃないのか」

「最近変えたって聞いたぞ」

「楽器の音なんか聴いたの何十年ぶりだ」


 これはトランペットだよな。この世界にも金管楽器があるのか。


「おい、あの操石士、ゴーレムほったらかして中央区へ逃げたってさ」

「ああ、鐘が鳴ったから慌てて走ったそうだな」

「エビルアントがゴーレム足場に城壁に上がって焦ったぞ」

「あの操石士はもう来ない」

「そうなのか、ちょっと感じ悪かったしな」


 へー、あいつチェンジになったのか。


「あの場合は城壁の欠落個所にゴーレムを座らせて、仮設城壁にして侵入を防いでくれとギルドには伝えていたのだが」

「慌てて頭から飛んだのさ、まあ若かったしな」


 そんな運用を考えていたのね。確かに壁にはなる。


 風呂を終えて外へ。


「今の魔物、何だった?」

「フレイムファルコン3体だ」

「そうか」


 全員ハズレ。断末魔の鳴き声で分かるはずがない。


 中央区へ続く道を進むと城壁の前で見知った顔が立っている。


「アレフ支所長?」

「おおリオンか。知らせがあってな、明日訓練討伐をすることに決まった」

「そうなんだ!」

「どうだ、行くか?」

「行きたいけど……」


 フリッツの予定はどうかな。あ、歩いてきた!


「先生!」

「なんだ」

「明日、訓練討伐あるんだけど行けますか?」

「何時だ」

「あー9時だ、騎士団監視所に集合がな。ここは8時30分に正門にシーラが来るから合流するといい」

「分かった、行けるぞ。ただし午前中のみだ」

「俺も風呂があるから午後は無理。あー、帰りの馬車どうしよう」

「事情を話せば騎士団の馬車に同乗できる、村とは何かと行き来してるからな。私から言っておくよ」

「頼む」


 おおー、早速見学できるぜ!


「リオンは冒険者証を持参してくれ。あとは好きな格好でいい」

「分かりました」

「正門に行く前にギルドにも顔を出してくれ」

「はい」

「では明日な」


 アレフ支所長は去った。


「リオン、よく見て勉強するんだぞ」

「うん、父さん」

「あの訓練用の武器を持っていくがいい。手元に何もないのは不安だからな」

「先生、そうします」

「では8時に家に迎えに行く」

「分かりました」


 うひょー、楽しみ。


 西区に帰る。


「うっわ、資材が山盛り」

「明日は建設関係の人が多く来るな」

「そんなに?」

「一気にやるんだよ、こういうのは」


 へー、まあその方が助かるけど。


「ここは城壁内だからいいが城壁の外で長々とやってると危険だからな」

「あーそうか、魔物が来ちゃう」

「だからなるべく人数かけて一気に進めるのさ」


 だから2週間で終えるのか。材料は揃っているようだし。それにしても何をするにも魔物を気にかけるから大変だね。


 食事を終えて厨房に入り皿洗いをする。料理の日はお手伝いだ。例によって隣りにはミーナが並ぶ。


「リオン、おじいちゃんから聞いたんだけど明日一緒に魔物討伐に行くの?」

「見学だよ、武器がまだだからね」

「へー、でも武器が出来たら戦うんでしょ?」

「そうなるね」

「凄い、リオンってほんと何でもできるんだね!」

「そんな、出来ないことも多いよ」

「例えば?」


 んー、この世界に無いことは言えないけど何が無いか分からんし、あ、そうだ。


「編み物かな」


 ソフィーナがやってたの見たことある。あれは俺には無理だ。


「編み物! 私出来るよ、お母さんに教えてもらったの!」

「へー、ミーナ、編み物できるんだ、凄いね」

「うん! こないだ小さいけどお人形が出来たんだ。今度見せてあげるね!」

「楽しみにしてるよ」


 確かミーナは絵を描くのも好きだったな、手先が器用で想像力も豊かなんだね。


「あんたたち、さっきからずっと同じ皿を洗ってるけど、もういいんじゃない?」

「あは!」

「ごめんベラおばちゃん、話すのに夢中で」

「いいのいいの」


 お手伝いが終えて家の居間に座る。


「明日かー、楽しみだけど、やっぱり怖いな」

「討伐見学? 夕食時に言ってたわね」

「父さんと母さんは怖くなかった?」

「俺は養成所でしっかり訓練してたからな、言われた通り動けばそうでも無かった」

「私も怖さは無かったわ、特に弓士は魔物と距離が離れてるから。それより味方に当てないように気を使ったわ」

「そっかー」


 俺も遠くで見守っていよう。危なくなったら回れ右で全力疾走だ。今日は初めて強化して長距離を走ったけど、あの速さなら逃げ切れる自信がある。


「格好はこれでいいの?」

「そうだな」


 普段着だけどいいのか。そう言えば住人は防具を装備していないな。


「体を守る装備をみんな使わないの?」

「鎧か、大昔は使っていたらしい、あとは盾だな」

「今は使ってないの?」

「騎士団でも軽装だぞ。今朝挨拶した時のあいつらの格好、あれで戦うのさ」

「へー」


 膝や肘などの関節と胸や肩に防具らしきものが見えたがそれだけだった。衣装がそれっぽいので一目で騎士と分かったが、鎧を脱いであれじゃなくて戦う時もあのままなのか。


「魔物の攻撃は全て避けるから防具は要らない」

「でももし避けられない時に攻撃されたら?」

「避けられない状況を作った時点で負けだ」

「うは!」

「そもそも盾なんかあって魔物の攻撃を受け止められると思うか?」

「えーっと」


 どうなんだろう、身体強化すれば可能な気がするけど。


「恐らく吹っ飛ぶか、堪えても骨が何本も折れるな」

「強化しても?」

「あれは運動能力の強化だ、体は弱い人間のままだぞ」

「そうなんだ」

「盾を構える暇があったらその場から立ち退けばいい。そもそも魔物の全力の攻撃を受ける理由はない」


 確かに避ければいいよな。何で盾で防ぐと考えたのか。


「防御手段は結界スキルの障壁だけだ」

「へー、スキルかー」


 専用の防御手段があるのね。


「例えAランクの冒険者でもヘルラビットの突進を受ければ立てないだろう。そのくらい魔物の攻撃は重いんだ。俺たち人間が殴るとは比較にならないほどにな」


 言われてみればその通り、全く別の生き物である。いや殺戮マシーン。その1撃は全力で殺しに来ている。受けるなんて考えちゃダメなんだ。


「なんだか心構えができたよ」

「危険を感じたら全力で逃げろ。お前は直ぐに身体強化ができるから絶対に逃げ切れる。分かったな」

「うん!」

「じゃあもう寝るか」


 お休みの挨拶をして2階に上がる。


 明日、森の中での戦闘は初めて見る。村の畑とは全然違う戦い方があるのだろう。しっかり見て勉強しないと。

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[気になる点] 34話まで読みましたが、物語の起伏が感じられず、始まったばかりなのにマンネリ化になり始めている傾向があると感じます。個人差かもしれませんが、私は小説ではなく、日記を読んでいるような感じ…
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