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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
3章
313/321

第309話 養親の思惑

 特待寮の応接室にてタルカザン蒼爵の長男イシュマと面会する。俺と同年代だったので高レベル感知スキルは無いと判断し、盗視鑑定と握手の際に魔力波長記憶を行った。


 魔物血統なら感知の恐れもあったが流石に貴族家では考えにくい。結果、家系に魔物はおらず、スキル構成も平凡より少し良い程度だった。


「シーリン、イシュマの鑑定内容について聞きたい」

「はい。お答えできる範囲なら」


 そんなやり取りの直後に応接室の扉が開き、次々と人が入って来た。15人くらいか。寮長の他は初めて見る顔だ。この雰囲気はクレスリン公爵宮殿で経験がある。目的は俺の魔力波長記憶だ。


「まずはユニスの個人情報を変更します。イシュマ様との面会を終え、正式にベンバレク家の養子となりましたから」


 ああ、そっちか。


 登録士と名乗った人物が俺の手に触れて変更作業へ入る。


『名前:リオン・ベンバレク』


 本物の個人情報が変わった。うう、いざノルデンの家名が消えると何だが切ない。


『名前:ユニス・ベンバレク』


 すぐさま偽装情報を書き変える。


「正常に反映されました」

「では帰りに事務所へその旨を伝えてください」

「承知しました」


 登録士は部屋を出る。よく考えたら本物の情報は俺しか見えない。だったら戻しておこう。


『名前:リオン・ノルデン』


 これでいい。ついでに住所もカイゼル王国へ戻そう。


『住所:カイゼル王国 ウィルム侯爵領サンデベール ゼイルディク伯爵領ゼイルディク アーレンツ子爵領コルホル 西区15番』


 馴染み深い地名のはずが、距離以上に遠く感じる。この数ヶ月、色々あったからな。


「これよりユニス・ベンバレクの魔力波長を記憶します」


 やはり始まった。クレスリンでは20人だったが今回は13人か。この作業は逃走意欲を削ぐ上で非常に効果的である。俺の人物波長探知は現在レベル28で有効範囲は半径300mだ。養成所の職員なら同等かそれ以上だろう。


 俺の手を握り、十数秒過ぎると次の人物へ代わる。波長記憶を終えた者は退室するが、入れ替わる様に別の人物が入って来た。あれも探知持ちか。結局10人が追加されたので計23人に記憶された。大半が魔物血統に違いない。


「本日はここまで。明日、続きを行います」


 まだいるのか! 逃げても必ず見つけ出す強い意志を感じる。


 夕食を終えて自室へ。


 そう言えば人物波長探知を感知するスキルは無いのか。絶対に探知されまくっているはずだが何も感じないぞ。


「シーリン、人物探知行使を被探知者が知り得るスキルはある?」

「あります。逆探知です」

「そうか!」


 よく考えたら習得していた。感知ではなく探知の派生だったね。これは確かドラルガ山地でオークに探知された時に習得した。


「逆探知は相手に悟られないの?」

「はい。特性は感知スキルと同じですから」

「じゃあ何で感知の派生じゃないの?」

「有効無効の切り替えができるからと聞きました」

「ほー、なるほど」


 確かに感知はずっと有効だ。つまりアクティブスキル。一方、逆探知はオンオフ可能なパッシブスキルなんだね。習得直後からオンのままだと思っていたが、いつオフに切り替えたのだろう。初めて街に出て探知無効をオフにした時、一緒にオフにしたかもしれない。


 ひとまずオンにしよう。ありゃ? 何も反応が無い。まあもう19時を過ぎている。波長記憶者たちも終業か。


「今日はお一人で入浴して下さい。着替えは脱衣所に準備しています」

「何処か行くの?」

「1時間ほどで戻ります。何かありましたら廊下奥の管理室へお願いします」


 シーリンはそう告げて部屋を出た。私用かな? まあ終日べったりでは息も詰まる。プライベートな時間も必要だろう。波長探知で追うと1階で動きが止まった。私室があるのかな。


 むむ、音漏れ防止結界だ。つまり相手がいる。まさか俺の素性を報告するのか。いや、昼間の様子では秘匿に協力的だった。むしろ現状維持を強く希望していたのはシーリンである。


 ただ急な態度の変化には違和感を覚えた。俺への印象を良くしても徒労に終わると言っておきながら、色目を使い媚びてきたのだ。間違いなく下心がある。


 よし、確かめに行こう。


 む! 逆探知が反応した。数は3つ。南40mと50m、北西80mだ。おや消えたぞ。ふーむ。ほぼ同時刻に探知され約10秒の継続か。これは予め決められた行使に違いない。


 ただ他の20人は探知しないのか。いや時間ごとに担当が分かれている方が自然だ。そもそも逆探知の範囲外から行使されれば気付けない。現在の逆探知レベルは21。恐らく習得できる最低レベルだ。有効範囲は半径100mほどだろう。


 逆探知反応は19時15分だった。じゃあ15分刻み? となると19時30分が次か。いやそう思わせて中途半端な時間に行使するかもしれない。探知座標が自室から大きく外れていたら怪しく思われるだろう。


 いや待てよ。建物探知によると俺の部屋の真下が事務室でその隣がシーリンの所在する部屋だ。つまり斜め下である。2階の床の端と1階の天井の端の距離は1mほど。これは誤差の範囲と言えるのではないか。


 壁と床に手を当てると物体通過が有効と出た。よし、いける。


 隠密で姿を消して仰向けに寝そべる。床を抜けると同時に重力操作で上下を逆転。目前には事務室の天井が現れる。そのまま空中浮遊で壁へ向かい再び物体通過を行使。視界にシーリンの姿を捉えた。


 彼女は見覚えのある女性とソファに腰掛けて向き合っている。寮長だな。先に盗視鑑定をするか。今は存在を完全に消しているから、万一、感知されても俺だと悟られはしない。


 ダーラ52歳。主なスキルは結界、鑑定、契約か。両祖父が魔物なのでシーリンと同じ魔人の子だ。兄弟は無し。未婚で子供もいない。


 2人の周りには音漏れ防止結界が施されている。しかし有効範囲内へ移動すると探知座標が自室から大きくズレてしまう。おおそうだ。遠聴スキルを使おう。口元が見えていれば問題なく機能するはず。


「つまりイシュマ様はユニスを気に入られたのですか」

「出来るだけ要望に応えるよう仰せつかってます」


 やった。成功だ。


「錬成部武器科への在籍を希望?」

「はい。大変興味を持っていました」

「錬成レベル3では武器科に入っても出来る訓練はありません。ひとまず錬成部鉱物科へ手配しましょう。武器職人は鉱物士も必須ですから」

「ありがとうございます」


 早速、俺の願いを伝えているね。


「ブカリ部長の報告では、闘技場の魔物戦闘を熱心に見ていたそうです。冒険者ギルドに立ち寄り魔物素材の保管庫も視察しています。海洋魔物について多くの質問を受けたとも。どうやら魔物に対して強い関心がある様子です」

「それが武器製作へ繋がったのでしょうか」

「分かりません。魔物つにいて言及はありましたか?」

「……いいえ」


 むむ。武器は唐突な印象だったらしい。もっともらしい理由を考えておくか。


「王都ではアウレオ・パラケル記念館へ入っています。入館は自ら希望し、館内展示も概ね理解していた様子です。シーリンはパラケルの功績を知っていますか?」

「はい。精霊結晶と魔力結晶、そして飛行艇を作りました。これらに関する話題は今のところありません」

「そうですか。パラケルは8歳男児が興味を示す対象として不自然に思えます。それとなく動機を聞き出しなさい」

「承知しました」


 やはり記念館絡みは怪しいと思うよね。


「ブカリ部長が感じたユニスの人格を伝えます。周りへの気遣いを常に意識しつつも、それが本人の負担にはなっていない。つまり自然な振る舞いです。これは相応の年月を経なければ身につきません」

「気遣い?」

「迷惑を掛けず、お互い気持ちよく過ごせる環境づくりです。話し方も落ち着いています。それは暗く内向的な印象ではなく、多くの知識や経験に基づいた余裕の現れに見えたそうです」

「子供とは思えませんね」

「はい。間違いなく大人の内面を備えていると結論付けていました」


 うーむ。それなりに8歳男児を装っていたはずだが、メフディには色々と見透かされていたらしい。それにしても優れた洞察力だな。流石は人事部長と言える。物腰の柔らかさも相手の本性を引き出すための手段に過ぎなかったと。


 ただこの2人のやり取りには違和感がある。どうやら最初から俺を普通の孤児だとは思っていないな。もちろん優秀な才能を持ってはいるが、それとは別の情報を基にして、ある意味、身構えている印象を受ける。


「他に報告はありますか」

「彼は女性の身体に大変興味を持っています。昨夜は基本的な性教育を行いました」

「それは良い報告です。彼の将来は優秀な魔物交配の種ですから。加えてあなたは性教育において高く評価されています。今後も大いに励みなさい」

「はい!」


 エロガキが漏れてしまった。


「なるほど。性欲も備えているなら大人の内面も納得がいきます。これは手強い相手ですよ。もし手に余るなら他の世話役へ交代しますが」

「いいえ。問題ありません」

「そうですか。期待しています」


 シーリンは小さく頷き立ち上がる。話は終わったようだ。廊下へ出ると階段に向かっている。俺の部屋へ戻るらしい。では俺も戻ろう。


「あら? 着替えが見つかりませんでしたか?」

「風呂には入っていないよ。シーリンと一緒がいいから待ってた」

「そうですか。では行きましょう」


 入浴を終えてベッドへ入る。


「ユニスは錬成部鉱物科へ在籍できます。錬成レベル3では武器科において何も出来ませんから。まずは鉱物士としての訓練が自然な流れです」

「うん。それで構わない」

「今夜も性教育を望みますか?」

「もちろん」

「承知しました。正しく指導しましょう。その前にお礼を伝えます。悪魔召喚の際に私を守って下さり、大変ありがとうございました」

「当然だよ。そもそも俺が引き起こした事態だし」

「それでその……嬉しかったです」

「え?」

「悪魔に立ち向かう姿も勇敢でした」

「ああ、そう」


 シーリンは恋する乙女の様な眼差しで俺を見つめる。これは演技なのか本気なのか。


「では始めましょう。服が濡れるので裸になります」

「その前に聞きたい事がある」

「はい」

「何故、俺を探っている?」

「……え?」

「記念館へ立ち寄った理由を知りたいか?」

「!」


 彼女は目を丸くして固まった。


「言っただろう。その気になれば王城でも難なく忍び込めると」

「……寮長との会話を聞いていたのですか」


 俺が頷くと小さく息を吐いて視線を落とした。


「分かりました。ユニスがここへ来る前に、商会本部から指示された役割をお伝えします。事の発端はアルケビル陽爵の六男レマドナ様からの情報でした。内容はドラルガ緋爵領のザラーム教神職者ギルドへの寄付依頼です」


 アマーニがシュクリを通じてベンバレク海運商会へ繋いだ流れだな。恐らくそのレマドナがシュクリとの魔物研究仲間か。


「ベンバレク家はドラルガ地域、及び領主であるカナディ家とは深い縁も無く、とても不思議に思われていました。確かに国内多くの孤児院は神職者ギルドの管轄です。優秀な孤児を養子とするなら寄付を積んでおくのが常套手段。言うまでもなくベンバレク家はこれまで多方に寄付を納めています」


 まあ付き合いのある地域を優先するよね。大して絡みの無い相手だと唐突感は否めない。


「確かにドラルガは魔物被害によって多くの孤児を生み出していました。しかし既に周辺領主から寄付が集まっており、ベンバレク家がそこへ加わる必要は無いと判断されていたのです」

「もしかして気を使ったのかな」

「ウェッドゼム玄爵が寄付していたら上回る金額は失礼でしょうね」


 かと言って少額では大手商会として体裁が悪いし。だったらしない方がマシか。


「ただもう3年の月日が流れました。厳しい復興の時期は終え、且つ優秀な孤児は既に寄付主の元へ引き取られています」

「じゃあ周りに気を使わなくていいね」

「とは言え、他に優先する寄付候補はあります。敢えてドラルガを選ぶ必要性は無いのですが、それを見越してか、先方は品を送って来ました」


 ああー、ここで取引か。


「内容は土の精霊石12個でしたが、その含有成分の価値が依頼金額を遥かに超えていたのです。いえ、値段が付けられない希少鉱物も含まれていたと聞きました」


 レア度5だね。確か2個仕込んでいたな。


「全くもってカナディ家の狙いが分かりません。当方は大変困惑しましたが、同時に興味を持ちました。結果、この話に乗ると決めたのです」

「へー、凄いね」

「先方は何か大きな勝負に出ている。ならば応えてやるのが筋とのことです。私では高位貴族のお考えは理解できません」


 ミランダも言っていたな。貴族は常に新しい芽を探している。他より優位に立てる機会があれば決して逃さないと。恐らくベンバレク家は有益な匂いを察知して踏み切ったのだろう。


「寄付から半月ほど過ぎ、エンサール支部へカナディ家から連絡が入りました。ユニス、あなたの洗礼結果が伝わったのです」

「ほ、ほう」

「実は一定条件を満たした孤児ならば、商会本部の了解を得ることなく、養親として名乗り出て構わないと通達されています。あなたは見事に条件を満たしていました。まるでこちらの思惑に合わせたかの様に」


 だから洗礼の翌日にドラルガ緋爵からベンバレク家が養親だと告げられたのか。アインハルとは距離があるのにおかしいとは思った。なるほど。支部が単独で動けるように予め指示していたのね。


「明らかにこの孤児をベンバレク家へ入り込ませる流れです。その先に何を目論んでいるのかは分かりませんが、ひとまず手元に置いて注意深く観察する方針となりました」

「それが俺を探っている理由か」

「はい」


 まあ経緯を考えればベンバレク家の対応は妥当と言える。


「シーリン、正直に話してくれてありがとう。今夜もご褒美をあげるから服を脱いで」

「褒美? 勘違いしないでください。私があなたに性教育を施しているのです」

「は? あんな艶めかしい声を上げて身体をくねらせているのに」

「正しい反応をしているだけです。さあ私の身体を教材として存分に使いなさい」


 シーリンはそう告げ、意気揚々と全裸でベッドへ横たわる。今からエロいことをされるのに何を威張り散らしているのだ。


 それから小一時間攻め続けた。


「おいおい、教材がへばってどうする。俺はもっと学びたいのだ」

「も、もう……許して」


 今日はこのくらいで勘弁してやるか。


 それにしてもシーリンは変わった娘だな。どう見ても性欲に溺れているだけなのに、あくまで教育だと言い張る。あんたが気持ち良くなっているだけじゃないか。まあ俺も楽しんでいるけど。


 ともあれ若い女性と毎日楽しめる環境は最高だ。どう考えても怪しい俺を受け入れてくれてありがとう。ベンバレク家、万歳!

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