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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
3章
310/322

第306話 鉱物探知

 使役部ゴーレム科の訓練風景をシーリンと眺める。カリムとシャラフ、そしてニスリンがゴーレム用の岩石や氷塊を生成中だ。


「あれは胸の辺りかな」

「はい。まず胸部、次に腰、そして四肢と頭の順番です」

「ニスリンはもう片腕に取り掛かっているよ。早いね」

「彼女の操氷抽出はレベル16です。他の2人は操石抽出レベル11なので差があります」

「定着時間ってこの段階から減るの?」

「もちろんです。従って生成に手間取れば作業時間が削られます。ニスリンは平均して7分、カリムとシャラフは10分ほど生成に時間を要しますね」


 となると実質の稼働時間は20分程度か。


「定着時間ってどのくらい延ばせる?」

「目安として抽出レベル20で1時間、レベル25で2時間ほどでしょうか。測算派生の時間があれば更に増えます」

「生成込みで2時間働けるなら現場でも支障は無さそうに思える」

「実際は休憩に多くの時間を割くため1日の稼働合計は5時間程度です」

「ああ、そうなの」

「生成に最も魔力を使いますから。2時間稼働すれば1時間は空けないと次の生成が正しく出来ません」


 なるほど。魔力を回復する時間が多く必要なのね。確かにマリカを除く3人はしっかり休んでいた。


「おいシャラフ! まだ片脚が残ってるぞ!」

「気が散るから黙ってくれ」


 ゴーレム生成を終えたカリムがシャラフを煽っている。彼は疲れた表情で生成を続けていた。


「シャラフは辛そうだね」

「あの子は保持魔力が平均より低いので2回目の生成にいつも苦戦しています。ただカリムも2回目は仕上がりが雑になりがちです」

「ちゃんと出来ている様に見えるけど」

「関節が正しい球体ではありません。特に右腕の肘部分は操作に支障が出るでしょう」


 シーリンの指摘個所を観察する。確かにやや歪な形だ。


「関節の球体は丸い方がいいの?」

「はい。接触面積が多いほど制御が容易ですから」

「じゃあ関節球を受ける各部位の窪みも大事だね」

「もちろんです。理想は双方とも滑らかな表面で隙間の無い接合です。ただ岩石はその性質上、不可能と言えます」

「念入りに磨いていたら作業時間が無くなっちゃう」

「この点は氷塊ゴーレムにとって有利です」

「ああそうか。溶けて滑らかになる」

「尤も一定以上の融解が進むとゴーレム自体が維持できません」


 ニスリンの氷塊ゴーレムは保温結界を施していない。気温は23度で晴天だから徐々に融解が進むだろう。しかしその分、制御面で恩恵があるのか。


「金属ゴーレムの接触面は問題無さそうだね」

「当然です。何しろ普通の金属ですから」

「えっとそれは、鉱物粉から作る金属ってこと?」

「はい」

「じゃあ金属ゴーレムも粉から?」

「はい」

「ええ!? 物凄い手間が掛かるよ!」

「それが作業現場で使われない理由です。操鉱粉を抽出した後、熱して操鉱液へと変え、冷やして固まった操鉱土を成形ですから。闘技場には専用の施設がありますよ」


 何てこった。そりゃ街中で見掛けないワケだ。


「闘技場の他にも道具や衣服類の製造過程で金属ゴーレムを使っていると聞きました」

「その具体的な稼働体制は?」

「詳しくは知りません」

「きっと精密な単純作業の繰り返しだよ」

「そうなのですか」

「ゴーレムを自動化するスキルはある?」

「自動化? ああ、使役の派生スキルに自動があります。恐らくそれが該当するかと。習得条件はレベル31以上とかなり高いですが」


 なーんだ。思ったより製造現場は機械化が進んでいるじゃないか。確かにこれだけの人口を抱えながら生活用品等が手頃な価格で手に入るからね。それなりの大量生産技術が無ければ成り立たない。


「そろそろ次の訓練場へ行きましょう」

「うん」


 ゴーレム訓練中の4人に軽く挨拶をして管理棟へ戻る。そう言えばゴーレム訓練に使う精霊石や魔石はここで保管しているのかな。試しに探知すると沢山の反応が棚の中から返って来た。やはり精霊石は土属性がほとんどだ。


 あれ? 何やら精霊石探知に違和感がある。


 これは……鉱物指定?


「うわ!」

「ど、どうしました!?」


 こいつは凄い! 任意の鉱物が含まれた精霊石だけを探知できるのか!


 スキル条件は何だろう。現在の精霊石探知レベルは39だ。確かレベル36で属性の指定探知は出来た。じゃあ単純にレベル39が条件だったのか。でも何だか中途半端に感じる。


 そもそも鉱物を指定するのだから精霊石鑑定も必要だよね。現在のレベルは36だから、精霊石探知36以上と精霊石鑑定36以上が条件と見ていいだろう。


「体調が優れませんか」

「えっ? うーん……ちょっと座る」

「ではお好きな席へ」


 シーリンと並んで腰を下ろす。


 精霊石探知の範囲は静止状態で目を閉じれば半径600mだ。透過がレベル22なので地中も10mくらいは有効である。もちろん引き出しや箱の中でも問題ない。


 さて何を探すか。よしトランサスにしよう。


 ……。


 おおっ! そこそこあるぞ! 有効範囲内に70個ほどか。うち50個はひと区画に集中している。流石に含有量までは無理らしい。


 しかし妙だな。ドラルガ緋爵領ではトランサス合金自体が珍しい存在だった。同じザファル王国なのに流通が偏り過ぎている。まあここはガルダイアとの国境だから手に入れ易いのだろう。


 ともあれトランサスが身近にあるのなら極めて有意義な訓練が行える。


 現在、次元収納レベルは23だ。アマーニの話ではレベル26で定着物も収納可能となる。つまり武器も入るのだ。その調達先として注文製作や既製品を考えていたが、自ら作り出せるに越したことは無い。


「シーリン、この養成所では武器製作も訓練できるの?」

「もちろん可能です。錬成部には武器科がありますから」

「おお、いいね。そこでは鉱物抽出も訓練する?」

「抽出は鉱物科ですね」

「ああ鉱物士の資格が先か」

「はい。他にも武器職人は鉱物鑑定士の5級が必要です」

「5級ってレベル11かな」

「その通りです」


 フローラの話を思い出した。武器職人は錬成士、鉱物士、鑑定士の資格所持が普通だと。これを機会に詳しいスキル条件も把握しておこう。


「武器職人って具体的にどんなスキルが必要なの?」

「お答えします」


 シーリンの話をまとめるとこんな感じ。


 武器職人

  鉱物士

   鑑定11 鉱物粉

   鑑定11 鉱物液

   鑑定11 鉱物土

   錬成11 鉱物抽出


  鑑定士

   鑑定06 魔物素材

   鑑定11 製品


  錬成士

   錬成06 定着

   錬成11 接合延長

   錬成11 武器錬成


 一般的に3つの資格所持で武器職人と呼ばれるそうだ。よく考えたら全く接点のないカイゼル王国と同じ括りなので不思議ではある。


 鉱物士はこれに加えて土属性レベル10前後が必要らしい。確かに抽出した鉱物粉は定着できない。最終工程まで1時間あれば十分なので相当する土属性レベルが10とのこと。魔物素材鑑定と接合延長は魔物合金を扱うなら必須だが鉱物合金専門なら不要ではある。


 他にも測算の角度、重量、距離、時間も高ければより良い。また契約レベル11で覚える製品登録や所有登録もあれば手間が省けるそうだ。加えて錬成16で覚える加熱と冷却があれば鉱物粉を溶かす際に火を必要とせず、また鉱物液が固まるまでの時間を短縮できるとのこと。


 もちろん鉱物液を流す型も必要だ。型は木製、金属製、合素製、粘土製など、型取りする対象の材質や形に合わせて準備するらしい。当然ながら型専門の資格も存在する。


 やはり異世界とは言え物づくりだね。工程も関連スキルも多岐に渡る。


 その中でも特に重要なスキルが武器錬成だ。成形した鉱物土を武器として仕上げる際に施すスキルである。この工程は職人の資質が大きく反映されるため、単純にスキルレベルが高ければ優秀とは限らないそうだ。


 そう言えばコーネイン商会から特別契約との名目で譲り受けたトランサス合金。同商会の高級ブランドであるミランデルを称していた武器だ。あれを鑑定したフローラは絶賛していたな。成分構成に加えて切断などの数値が高いと。確かトランサス割合は81%だったか。


 ゼイルディク伯爵お抱えのハーゼンバイン武器工房。あそこがハイマ製法でトランサイトを生産した話でも工房長コルヴィッツは似たような事を言っていた。トランサス80%超えは難易度が高くなり、85%以上は稀にしか成功しないと。


 と言うことは失敗もあり得る。その失敗がどういう状態を指すのか知らないが、少なくとも武器としての条件は満たしていないだろう。まあ希少な部類であるトランサスを多く使うからには絶対に成功したいよね。


 この辺は鉱物との相性も大きく関係しているはず。フローラはトランサスとの相性が良かったため、感度が低い精霊石からのトランサス抽出に力を発揮していた。カロッサ商会でトランサイト研究に打ち込めたのも彼女自身の才能が伴っていたからだ。


 その武器錬成スキルは武器製作において必須ではあるが、逆にそれだけでも武器は作れる。ぶっちゃけ他の工程は出来る人に任せればいいのだ。言うなれば俺がトランサイトを生産している最終工程みたいなもの。


 ただそんなのは武器職人と呼べない。そもそも俺1人で全工程の遂行が目的だ。人に頼らず武器を作る技術を身につければ神と対峙する上で非常に心強い。ここなら習得するための環境が全て揃っている。トランサス精霊石だって湯水の如く使えるぜ。


 しかし大きな問題点もある。スキルとの不一致だ。流石に錬成レベル3であれこれ出来たらマズいだろう。


「シーリン、もし俺が鑑定結果には無い能力を周りへ見せたらどうなるの?」

「それは……分かりません」

「音漏れ防止結界を隠密行使したから気にせず言って」

「分からないものは答えられません」

「ヒュドラの角を頭から落とすよ」

「ひっ……つ、角は止めてください。答えますから」


 角脅しは毎回確実に効く。流石はAランク魔物ヒュドラだぜ。いや待てよ。彼女は先月、ヘルラビットの角が腹へ刺さって死にかけた。単に魔物の角に恐怖心を抱いているだけか。


「答えるとは言いましたが、鑑定情報に存在しないスキルを行使した時、施設側がどのような対応を取るかは本当に分かりません。ただ鑑定情報が伴った著しい成長なら予想はつきます」

「ああ、じゃあ後者で。スキルに合わせて偽装すればいいからね」

「それなら特区へ移動するかと」

「特区?」

「特別訓練区域。略して特区。かつて私が過ごした場所です。そこの訓練生は皆、魔物の血を引いており、通常では考えられない成長を遂げています。特区はここタルカザン養成所の敷地内にあります」


 あー、そうか! よく考えたら普通の子供とは同列に扱えないよね。シーリンは洗礼時で感知レベル20だった。そんな魔物チートどもは隔離して別メニューの指導を受けるべきだ。


「ただいくら特区でも鑑定偽装や次元収納の扱いは想像できません」

「流石にそこまでは披露しないよ。どうせ強権者が出てきて管理下に置こうとするから。もちろん余裕で抜けられるけど」

「しかしユニス、そもそもあなたは素性を隠したかったのでは?」

「えっ、あーうん」

「そのために私を脅迫し口止めしたのでしょう。現状、身分は特待生ですが、あくまで一般的な常識に収まる範囲です。それを超えてしまっても構わないのですか?」


 そこなんだよな。もちろん特区とやらに興味はある。きっとここより訓練環境は整っているはずだし。何より非常識なスキル構成でも変な勘繰りを受けずに済む。


 いや待てよ。


「もし俺が特区へ行くほどの成長を遂げたら魔物の血統を疑われる?」

「当然です。そしてベンバレク家はウェッドゼム玄爵領でも魔人研究が行われていると確信します」

「他所で魔人研究が進んでいたら何か問題がある?」

「高度な人材の独占状態が崩れるでしょう。またウェッドゼムの研究規模を把握するため探りを入れます」


 まあそうなるよね。こりゃ俺の出自も徹底的に調査されるな。


「あれ? 人材の独占って、魔人はアインハルから出られないの?」

「はい。魔人及び魔物の血筋を含む者は厳しく移動を制限されています。もちろん私も対象です。昨日、ユニスを商会本部へ迎えに行った際も、監視の者が少し離れて追走していました」

「そうだったの」


 と言うことは養成所の中で生涯を終えるのか。全く酷い話だよ。ああ、だから俺が脱走したと思ったのね。


「シーリンはここを出て自由になりたい?」

「いいえ」

「街の女の子みたいに恋愛したり友達と遊んだりしたいと思わない?」

「思いません」

「あ、そう」


 即答だな。これは本心か。


「でもこんな閉鎖された空間では楽しみも無いでしょ」

「興味があるのは魔人研究だけなので十分です」


 確かに昨日は妄想を膨らませて興奮気味だった。しかし随分と偏った思考だな。もう幼いころから洗脳されているのだろう。


「実を言うと魔人研究はガルダイアが盛んです」

「えっ!? そうなんだ」

「……意外でしたか」

「まあ、うん」


 おいおい、ガルダイアって危ない国じゃなかろうな。


「アインハルとは魔石の取引が多く行われていますよ」

「魔石? 魔人と何か関係あるの?」

「優秀なスキル構成に仕上げた魔物を殺して、残った魔石を売買するのです。魔物具現で新たな交配対象として使えますから」

「あー、そういうこと!」


 なるほどね。魔物自体が商品なのか。


「もしかして人物も取引対象になる?」

「当然です」

「俺がガルダイアに売られる可能性もある?」

「あります」


 おおっ! これは意外な手段を見つけたぞ。


「ガルダイアへ行きたいのですか?」

「まあうん」

「何故ですか?」

「秘密」

「魔物の血統が疑われると無理ですよ。ガルダイアは純粋な人間の子種を欲していますから」

「えっ、そうなの」

「普通の人間を装うなら特区へ行くほどのスキル行使は控えるべきです。その境界を私は熟知しています」

「ほ、ほう」

「現状維持が得策ですよぉ。私は全面的に協力しますからぁ」


 シーリンは顔を近づけて猫撫で声で訴えかける。何故だか知らんが急に女を出してきやがった。こりゃ絶対に裏があるぞ。


 ただガルダイア行きが本当なら利用する選択肢もありだ。まあ当面は常識の範囲内に収めるか。そんなに急いで動きを決める必要も無い。


「分かった。シーリンの提案に乗ろう」

「ふふっ、ユニス大好き」


 そう告げて彼女は俺を抱きしめる。おいおい一体どうした。急にデレても反応に困る。


「ところで武器製作なんかを身につけて何をするつもりですかー」

「いやー将来、稼ぐ手段の1つとして」

「ふーん。隠すにしては下手な理由ですね。まあ武器科への在籍を望むなら手配しておきます」

「うん、お願い」

「他にも伸ばしたいスキルがあれば教えてください」

「また思い付いたら伝えるよ」


 理由は分からんが自発的な協力姿勢を示している。何を企んでいるのやら。


「あれー? おまえらまだいたのか」


 カリムの声だ。その後ろから教官や子供たちが続いている。屋外訓練は終わったらしい。急いで音漏れ防止結界を解除だ。


「シーリン、午前中は施設案内と聞いていたが」

「掲示物を見ていました」

「そうか。これより昼食まで座学だ。ユニスと共に受けるか」

「いいえ。次へ行きます」


 教官の問いにシーリンが応えて管理棟を出る。

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