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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
31/321

第31話 冒険者登録

 今日は5月6日、休日だ。毎日西区の食事を世話している料理人もこの日ばかりは休みとなる。従って住人自ら厨房に入り調理する。基本的に1軒から1人が出向き、ノルデン家からはソフィーナがその任を引き受けている。


 1階に下りて両親と挨拶を交わす。


「フリッツは朝食後だったか」

「うん」


 俺が訓練討伐に参加する上で手続きが必要らしい。クラウスも同伴し中央区の冒険者ギルドと騎士団出張所へ行く予定だ。


「じゃあ朝食まで身体強化の訓練をするぞ」

「え、うん、分かった!」


 何だかんだクラウスもヤル気だ。道が決まった以上、突き進むしかないね。ただ嬉しい反面、あまり熱心な指導をされるとついて行けないかも。


 外は薄っすら明るい。今日は天気がよさそうだ。


「西区の城壁内で全力疾走の訓練は難しい。まあ城壁沿いに走れば十分長さはあるが住人と衝突する危険性もある。だから短距離、10mくらいの加速をやるぞ、こっちだ」


 城壁の北端に来た。見張り台に上がる階段付近だ。ウチは西区の北端に位置するから家のすぐ隣りである。その城壁の西面と東面の距離は30mほど、ここを使うようだ。南北に通った屋根付き通路はウチの前で途切れるためここは何もない。


「魔力操作で筋肉を強化して瞬発力を高めるぞ」

「うん……」


 走る構えのまま集中する。


「行くよ!」


 ダッ! タッタッタッ……。


 マズい!


 ズザアァッ!


「うは……」


 一瞬で10mほど駆け抜け、その勢いを止めるため地面に足を滑らせた。減速が間に合わなかったら城壁にぶつかっていたぞ。これ、かなりの速度が出てる。


「やるな、集中も早い。次は逆向きで同じように加速だ」

「分かった!」


 おりゃっ! タッタッタッ……ズサアァ!


「すぐ反転!」


 くっ! タッタッタッ……ズザアァ!


「反転! 休むな」


 ぐぬ! タッタッタッ……ズザアァ!


「ほら魔物が来てるぞ!」


 ええい! タッタッタッ……ズザアァ!


「もう少しで振り切る!」


 うりゃあ! タッタッタッ……ズザアァ!


「よし逃げ切った!」

「ふーっ!」

「少し休憩だな」


 ハァハァ、これはキツイ。


「なんだ朝から精が出るな」

「おはよう、見張りか」

「入り口が開かないから日が昇ってからでも構わんがな」

「そうだな」


 住人が照明を点けながら城壁の階段を上っていく。順番的にフリッツの向こうの家の人だな。


「次は高所からの着地だ。魔物から逃げる時に平らな地面ばかりとは限らないからな」

「分かった!」

「こっちだ」


 城壁面近くまで来た。


「ここで待ってろ、俺が見本を見せる。着地する時の感じをよーく観察しろ」

「うん」


 そう告げると階段を駆け上り歩廊まで到達した。


「いくぞ」


 トンッ! ヒューン、スタッ!


「!」


 なるほど分かった! 着地の衝撃を制御、そういうことか!


「リオンは階段の5段目から練習だ」

「うん、ねーちゃんのやってたやつだね」

「そうだ」


 ディアナは今年の3月に学校へ行ったが、その頃には踊り場から着地できるほど上達していた。2階を超える高さだ。


「いくよ!」


 5段目なら1m20cmほど、俺の身長よりちょっと低いくらいだ。


 トンッ! スタッ!


 これは!


「父さん強化無しで1回試していい?」

「いいぞ」


 トンッ! ベタッ!


 全然違う!


「分かったか」

「うん、凄いね身体強化!」


 その場で少し跳んで下りた時と同等の衝撃だ。うひょー!


「凄いのはお前だ、見ただけでやってのけるとは」

「もう1回やるね」

「次は6段目でいけ、その後は自分で判断して段数を上げていくんだ」

「分かった!」


 トンッ! スタッ!


 全然余裕! 次は7段目だ。


 トンッ! スタッ!


 いけるいける! 8段目。


 トンッ! スタッ!


 まだいける! 9段目。


 トンッ! スタッ!


 もうちょいかな。 10段目。


 トンッ! スタンッ!


「あーもう無理か、両手突きそうだった」

「手は絶対に突くな、骨折するぞ」

「え」

「あくまで体全体で制御するんだ、手に頼ったらそこへ負荷がかかる」

「分かった。今は多分10段目が限界っぽいよ」

「そのようだな」


 手を突くなって先に言ってくれよ。


 しかし不思議だ、10段目って2m50cmくらいだぞ。この高さから飛び降りて衝撃がほとんどないとは。落下エネルギーは一体どこへ行くんだ? 身体強化ってほんとファンタジー。


「数日でディアナを超えそうだな」

「踊り場って15段かな、うん、もうコツが分かったから繰り返せばできそう」

「よし、次はその場で高く跳ぶ訓練だ」

「最初にやったやつだね!」


 ピョン! ストン!


 それから5連続ジャンプと休憩を3セットやった。


「ハァハァ、もう限界……」


 今気づいたが無意識に着地制御も行使していたな。


「リオン、魔力量も増えたようだな」

「え、そうなの」

「消費効率が良くなったのもあるが加速と着地の後にしては長く跳べた」

「やったぁ!」


 ゴーーーーーン!


 朝の鐘だ。


「よし、しばらくは毎朝この訓練を続けよう。メシにするか」

「うん!」


 朝練か、部活みたい。


 しかしクラウスは説明不足なところがある。着地に手を突くなも後から聞いたし、最初のダッシュも早めに減速しなければ城壁に激突してた。自分がやると人に教えるでは勝手が違うから難しいところだが。


 恐らくは少しずつ段階を踏むが、俺の上達が早すぎるから戸惑っているのだろう。まあ怪我しそうな場面は大体分かる、俺が気をつければ済むことだ。


 それにしても身体強化は素晴らしい。もう魔物から逃げ切れる自信が少しついた。でも実際は慌ててうまくいかないだろう。ならば集中する時間を限界まで縮めないと。強化も自然にできるように徹底的に体に染み込ませる。


 通路で朝食。


「ちょっと朝の訓練を見かけたけど、リオンは凄いわね」

「えへへ」

「教えれば何でもすぐ出来るからな。正直どこまで伸びるか想像できん」

「これはフリッツも熱くなるわね」

「確かにな。訓練討伐は早いと思ったが案外適切な選択だったか」

「は? 訓練討伐?」


 近くのランメルトが絡んできた。


「そうだ。この後ギルドへ登録に行く」

「誰の? まさかリオンか」

「そうだ」

「うはー、まあ、あの魔力操作なら森でも動けるか。それにしてもどこの森だ?」

「騎士団監視所だ、あそこの周辺はFランクばかりだとよ」

「へーそうなのか、じゃあ町の子供も来るのか」

「らしいな」


 ランメルトも訓練討伐は知ってるみたいだな。町のギルドでは割と普通のことなんだね。


「この村では東区から子供が1人、既に参加しているそうだ」

「それは知らなかった。まあ人数いるし才能ある子もいるだろ。ところで武器はあるのか」

「まだだ。最初は見学になる」

「雰囲気を掴むのか、ただこの村に住んでいれば大体分かるだろ、なあリオン」

「うん、少しはね」


 昨日も見張り台からクリムゾンベアの動きを見たが、町で暮らしていれば経験できない。ワイバーンに睨まれるのだってそうだ、もう御免だけど。他にもガルウルフの戦闘も見たしクラウスの避け方はとても参考になった。そう、猪もだ。あれは魔獣だけど。


 どうも近接の戦闘スタイルは、引き付けて避けてを繰り返しスキを突く。決してこちらから切り込みはしない。猪の時は俺が後ろにいたから避けると同時に切ったけど。あれは今考えると凄い技だ。


「ん、どうした?」

「父さん、前に猪を倒した技、あれどうやって身につけたのかと思って」

「あの時に思い付いた」

「え!?」

「避けると同時に斬る、そんだけだ。後は体が勝手に動く」


 これはフリッツの言っていた実戦で身につけるだな。


「お前もできるようになるさ」

「そうかな」

「何たって俺の息子だ。次に猪が来たら試してみろ」

「えっと……」

「はは、冗談だ。ここに来る魔物・魔獣は大人に任せろ」


 そうさせてもらう、経験が全然違うからね。やっぱ場数だよなー。訓練討伐の頻度が不明だが、なるべく多く参加したいところだ。


「ところでリオンは剣で決まりか?」

「そうだな、リオン」

「え、ひとまずね」

「槍もオススメだぞ」

「あらメル兄さん弓もいいわよ、リオンも興味あるみたいだし」

「えっと……」


 よく考えれば剣にこだわる必要は無い。何せ100万の英雄だ、様々な武器の使い手がいるはず。ベアトリスだって魔導士だし。槍は分からんが弓は興味ある、今はランメルトの手前言えないけど。


「さあ片付けて帰るか」

「うん」


 家に戻り居間に座る。


「フリッツが来るまで待つか」

「そうだね」


 ギルドに登録ってちょっと楽しみだな。


「おはよう」

「来たね、もう行けるよ」

「では行こう」


 俺とクラウス、そしてフリッツは中央区へ向かった。


「登録って何するの?」

「冒険者証を発行するんだ」

「え!?」

「何を驚いている、魔物討伐なら当然だ」

「そうだけど」


 マジか。俺、冒険者になっちゃうワケ?


「多分、お子様専用の冒険者証だ。かなり制限されたな」

「それでも大人と同じように報酬はでるぞ」

「報酬もあるんだ!」


 うひょー! ええとヘルラビットはいくらだっけ、5000ディルかな。やべぇ金が貰えると分かったらテンション上がる! やっぱ人間の原動力は金だよ、金!


「嬉しそうだな、報酬は全額お小遣いでいいぞ」

「うん!」


 うっへっへ、もう魔物が金にしか見えん。


「父さん! 武器いつ用意できるの?」

「なんだお前、報酬が貰えると分かったら急にヤル気だな」

「中央区の商会でこの後見立てればいい」

「そうするか」


 冒険者ギルドへ到着。


「いらっしゃい! あらフリッツ」

「今日は新規登録をお願いしたい」

「そうかい、こっちのカウンターに座って待ちな」


 受付のおばさんに席を案内され俺とクラウスが腰を下す。


「ワシは後ろでいい」


 フリッツは俺たちの後ろに立つ。


 すると1組の冒険者パーティがギルドに入るなり声を上げた。


「なんで教官がここに!」

「知り合い?」

「出直そう」


 少し怯えるようにパーティは姿を消した。ははーん、教え子か。


「先生、営業妨害では?」

「知らん」


 カウンター奥の扉が開いて50代くらいの男性が出てきた。


「待たせたな、おやフリッツか。新規登録と聞いたが」

「この子供が登録対象だ、隣りが父親、2人とも西区住人だ」

「ほう、では訓練討伐か」

「そうだ」

「子供の登録は大人の保証人が2人必要だ。うち1人は生計を共にしていない条件だが、それはフリッツでいいな、そちらは……」

「クラウス、父親だ」

「そうかクラウス、では2人目をキミにするよ」


 へー保証人がいるのか。まあ子供だけではダメか。


「洗礼は終えているな。戦力確認するから鑑定証明書を提示してくれ」

「その必要はない、ワシが保証する」

「具体的に何だ?」

「魔力操作が長けている、多分もうワシと同じだ」

「なんだと!?」

「俺も確認した、息子はもう大人と同等だ」


 戦力確認なんてあるのか。まあ考えてみれば当然だな。しかし鑑定証明書やらでスキルを確認されたら俺の場合はアウトじゃないか。


「これは驚いた、西区にそんな子がいるとは」

「そうだリオン、表で跳躍くらい見せてみろ」

「先生、分かった」


 ギルド前に向かうと職員もカウンターから出てくる。


「いくよ!」


 ピョン! ストン!

 以降、跳躍を5回連続で行った。


「ふー、いいかな」

「あ、ああ十分だ……中に入ってくれ」


 職員は目を見開き表情を固めて告げる。


「坊主、いつ強化したのか」

「跳ぶ前だよ」

「一瞬だな、確かに大人と同等だ。それに息切れもしてない、魔力量も年相応ではないな」

「加えて消費効率がいい。日に日に上達しているぞ」

「それは逸材だな。騎士団は知っているのか」

「この後行く」

「そうしてくれ、監視所周辺で活動するからな」


 騎士との絡みが増える模様。でも偉そうだからあんまり話したくないな。


「それで戦力確認は今ので構わないか」

「もちろんだ。身体強化も完全に使いこなしている、他の動きは見ずとも分かるよ。それで武器種はなんだ?」

「剣だ」

「ふむ分かった。では登録の手続きに入るとしよう」


 いよいよか。


「基本的に大人の冒険者と規約は同じだ。それは後ほど保証人が本人に説明してくれ、長くなるからな。ただ子供はいくつか制限がある。まずパーティ人数は5人以上だ。村の東区より1人、メルキース在住の20人、そしてキミを含めて計22人の中で編成する」

「前衛、後衛の割合は?」

「それは自由だ」


 メルキースってゼイルディク北西部の地域名だな。へー20人来るのか、流石町は多い。


「次に活動区域、先ほども言ったが騎士団監視所周辺の森だ。ここ数年で確認されている魔物はFランクとEランクだけ、Eランクも下位が中心だ。ああ西の川は越えてはならんぞ、そっちは未確認だ」

「北側は村までとして南側は?」

「騎士が行っていい森を案内する、それに従ってくれ」

「分かった」


 ふーん、騎士が管理してるのか。


「基本的に監視所が拠点だ、食事トイレもそこで済ませる。あとは馬車だな。必ず馬車で拠点へ行き、そこで待機させる。東区の子供が利用している馬車に相乗りするといい。代金も折半できる」

「食事は持参するのか」

「皆、監視所の食堂を利用しているが村へ戻って食事でもいい。その辺はパーティメンバーと相談してくれ」


 ふーん、昼食に戻れる距離なのか。でも馬車代金が余計に掛かっちゃう。


「子供1人につき大人1人が必ず同伴すること。それは移動時も討伐時も含めてだ」

「保証人である必要は?」

「ない。それは登録時だけだ。……まあそんなところか。すまん、滅多に子供登録をしないから勝手が分からんのだ。抜けがあったら後で伝える」

「構わん」


 おいおい、仕事しろ。


「報酬は大人と同じ、魔石も素材も処理は同じだ。パーティメンバーでの分け方にギルドは関与しない」

「口座は?」

「そうだった! 本人口座をギルドに開設する」

「年会費や諸費用は同じか」

「同じだ」


 諸費用とは開設に伴う手数料だろう。それと年会費か。最初はクラウスにお願いして稼げるようになったら俺の稼ぎから出すとしよう。


「ではこの板に手を置いてくれ、えー名前は」

「リオン・ノルデンです」

「おおリオン、右でも左でもいいぞ」


 俺は右手を出された板に置いた。


「そのまましばらく待て……もういいぞ」

「はい」

「これで魔力波長を登録した。口座の入出金時に本人確認で使うからな。ここのコルホル支所でのみ有効だ。後はこの書類に目を通してサインしてくれ、家名含めてな。まあ規約はザッと読めばいい。同じことを記した書類も渡す」

「分かりました」

「書くのは住所もだ。コルホル村西区でいい。保証人の2人はリオンの下に続けて書いてくれ」

「……できたよ」

「……ワシも書いた」

「……俺も書いたぞ」

「ふむ、問題ないな。あとは冒険者証だが発行に時間が掛かる。今日夕方には渡せるからその頃また来るといい、私を呼んでくれ。ああ支所長のアレフブレードだ、アレフでいい」


 この人支所長だったのか、その割に頼りないな。


「新規登録費用と年会費、それから口座開設費用は冒険者証を渡すときにいただく。年会費は次年分を12月に引き落とすが、今5月だから2298年分は7カ月分だな。全部合わせてで13万ディルほどだろう」

「分かった」


 高い! 内訳は分からんけど多分それぞれ5万なのかな。年会費は月割りか。ギルドってぼったくりな気がしてきた。


「おお、冒険者証再発行は5万ディルだ。無くさないように」

「知ってる」

「これが規約書類だ、家で保管してくれ。たまに改定があるからギルドで確認するといい」

「では騎士団出張所に行くとしよう」


 俺たちはギルドを出た。


「あの支所長、ちょっと頼りないんだけど」

「まあそう言うな。ここで新規登録は子供でなくとも滅多にない」

「言われてみれば住人は冒険者ばっかりだもんね」

「みんなゼイルディクで登録しているぞ、あっちはもっと手続きが面倒でな、人物鑑定証明書だっけな、そういうのもいる」

「へー」


 俺は誕生した時に住人登録しているはずだから省略したのか。


「にしても馬車か、それの代金もいるな」

「ワシが出す」

「フリッツ、それはウチ持ちだろう」

「リオンが稼げば自分で払わせるが、それまではワシに任せろ」

「やれやれ、言っても無駄か。ただ登録やらの13万はウチだぜ?」

「そうだな」


 馬車代金はいずれ俺持ちか。まあ当然だな。


 礼拝堂を過ぎて幾らか進むと村の正門が近づいてきた。


「随分行くんだね」

「騎士団出張所は正門の近くだ」


 村に出入りする人を監視するのか。この世界、警察みたいな治安維持も騎士団が担っているのかな。


「着いたぞ」

「おや、フリッツ、何か用か」

「訓練討伐へ新たに参加する子供を連れてきた。ギルド登録は先ほど済ませている。副部隊長にお目通し願いたい」

「ほう、ちょっと待て」


 騎士が奥に引っ込むと別の騎士が出てきた。


「奥で話す、ついて来い」


 建物内へ移動する。


 少し廊下を歩き、騎士は扉を開けた。会議室か、長机と椅子がいくつか並んでた。騎士が1人立ってる。女性だ。


「そこへ並べ」


 案内した騎士に指示され机の前に並ぶ。すると向かいの女性騎士が声を上げた。


「私はゼイルディク騎士団、北西防衛部隊所属、同副部隊長、ミランダ・コーネインだ」


 その女性騎士は顔を少し上げ良く通る声でそう発した。防衛部隊の副部隊長。30代前半か、整った顔立ちで美人だが、その目は鋭く威圧感がある。


「コルホル村西区、魔物討伐指揮、フリッツ・レーンデルス」


 フリッツはそう声に出すとクラウスをチラッっと見る。


「俺はコルホル村西区、クラウス・ノルデン」


 クラウスが俺を見る、名乗るんだな。


「同じくコルホル村西区、クラウス・ノルデンの長男、リオン・ノルデンであります」


 副部隊長、ミランダと言ったな。彼女は俺の名乗りを聞いて、ふーんという仕草をする。


「3人とも座れ」


 ミランダの指示に席につく、彼女と横の騎士も座った。うへー、何ともやり辛い空気だな。


「リオンとか言ったな、お前が訓練討伐に参加するのか」

「はい」

「何ができる」

「魔力操作です」

「他は」

「ありません」


 ミランダは少し頷き強い視線を飛ばす。そして少し低い声で言った。


「舐めるな。死ぬぞ」


 うへー、怖いー。でもこれはきっと俺を試しているんだ。負けるか!


「舐めてはいません。西区の生活で俺なりに魔物の恐ろしさは理解しております。先日のワイバーン襲来時には討伐される瞬間を目の当たりにしました。そしてその巨体へ勇敢に立ち向かう冒険者たちに深い感銘を受け、このほど訓練討伐を志願するに至ったのです」


 どうだ。


「よく喋るな、それで終わりか」


 ぐぬう。


「騎士団に置かれましては日頃の我々への指導を大変感謝しております。そのワイバーン戦では的確な住人配置を瞬時に判断し、あれだけの強敵にもかかわらず死者無しという結果に導いてくださいました。この村は騎士団あってのものです」


 騎士団上げだ、どうよ。


「はっはっは! 薄気味が悪い! 今度は媚びるか!」


 くっ、逆効果か。


「いいだろう、訓練討伐参加を許可する。ただ魔物に理屈は通じぬぞ」


 ミランダはそう言い放ち、ニヤリと笑った。


「もういい、出ろ」


 騎士に告げられ廊下へ向かう。そのまま速足で通路を抜け中通りに出る。


「リオン、お前あの腹立つ騎士に動じなかったな」

「はは、ちょっとやり過ぎたかも」

「構わん。あれでリオンを気に入ったようだぞ」

「そうなの?」

「ミランダが笑うのはそういうことだ」


 うへー、それは喜ばしいのか。


「さて、ワシはここでもう一仕事ある。お前たちは行け」

「もしかして城壁のこと?」

「そうだ。ミランダがお前を気に入ったなら幾分話はし易くなった」

「へへ、なら良かった」

「何のことだ?」

「これから話すよ」


 中通りを歩きながらクラウスへ西区城壁の避難部屋計画を伝えた。


「なるほどな、いい案じゃないか。ぶっ壊れたからこの際やればいいんだ」

「うまくいくといいけど」

「さあ武器屋に行くぞ! お前の剣を買わないとな」

「うん!」


 おお、いよいよだ。楽しみー!

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