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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
3章
308/321

第304話 特待生

 10月10日、目覚めると温かく柔らかい感触に包まれていた。シーリンの胸に顔をうずめたまま眠ったらしい。起き上がると彼女も目を覚ます。


「おはようシーリン」

「はい……ユニス」

「昨夜の乱れっぷりは凄かったね。シーツがぐっしょりだよ」

「係の者が取り替えます」


 そう告げた彼女の表情からは恥じらいを全く感じない。


「機嫌悪いの?」

「は? いたって普通です。さあ朝の支度をしましょう」


 全裸のままベッドから降りると洗面台へ向かった。俺も続く。彼女が洗顔を始めると後ろで待つ俺の眼前には魅惑のお尻が迫っていた。思わず抱きつく。


「洗い辛いので止めてください」

「あ、はい」


 身支度を整えるとテーブルを挟んでソファへ腰を下ろした。


「では今日の予定をお伝えします」

「シーリン、ちょっといいかな」

「はい」

「キミは昨日の夜とても情熱的だったけど今朝はまるで別人の様だ」

「当然です。今は性教育の時間ではありませんから」

「なるほど。でも何だかそっけない態度に感じてちょっと寂しいな」

「私たちは恋人同士ではありません。ユニスが望むなら演技しましょうか」

「いや構わない」

「それにあなたの内面なら子ども扱いも不要でしょう。加えて私は脅されている立場です。媚びへつらっても事態が好転しないのなら無駄な労力は省きます」

「ま、まあその通りだね」


 若い女性と朝を迎えて勘違いしてしまった。この娘はフィルやアマーニとは違う。あくまで事務的に俺と接しているに過ぎない。


「恋愛を楽しみたいなら同年代を対象としてください。幸いにもここには沢山いますから。もちろん手を出しても構いません」

「いやいや」

「どうせ将来は魔物交配の相手です。あなたの腕前で早い内から開発すればいい。気に入った娘がいればいつでもこの部屋に連れ込んでください」

「あのさあ、俺を何だと思ってるの」

「色魔です。昨夜の経験からそう断定しました。私が喘いでいる姿をとても満足そうに眺めていたでしょう」

「はい。性欲に溺れるシーリンを見て興奮していました。なんなら今から始めようか」

「ダメです」

「脅迫されているのに断るの?」

「……分かりました。服を脱いでベッドへ行きます」

「あーいやいや冗談だよ」


 まあお楽しみは夜にするか。日中はスキル訓練を頑張ろう。


「じゃあ本日の予定を教えてくれるかな」

「はい。午前中は施設案内や子供たちとの顔合わせです。午後からはスキル訓練を始めます。恐らく鑑定でしょう。食事はここの1階の食堂で済ませます」

「ふーん分かった。ところで高レベルの感知持ちはどのくらいいるの?」

「子供たちの世話役では私だけです。他の職員は分かりません」

「ふむふむ」


 ひとまず盗視鑑定は子供らに限定しておくか。


「あとはシーリンのスキルについて聞きたい」

「はい」


『測算12

 角度9

 圧力7

 距離12』


「測算の圧力って何?」

「本来は水圧や空気圧を正確に把握するスキルです。私の場合は性教育の過程で身につきました。男性器を扱う上で役立ちます」

「ああ、そうなの」


 何だろう。竿を握る力加減か。


 続いて専門スキルだ。


『感知31

 鑑定31

 波長記憶23

 標的20

 結界13』


「感知レベル31はとても高いけど何か特殊な訓練を受けたの?」

「まず洗礼の時点で感知レベル20でした」

「あー、元々高かったのか」

「はい。もちろん一般的にはあり得ません。どんなに才能があってもせいぜいレベル7ですから」

「派生も覚えてた?」

「いいえ。でも直ぐ鑑定感知と波長記憶感知を習得しました。レベルは共に20です」

「ほほう。派生スキルもいきなり高レベルか」

「はい」


 なるほどね。こりゃチートだわ。


「鑑定感知の訓練はひたすら人物鑑定を受けるだけです。波長記憶も同様です」

「でもレベルに差があるよね」

「人物鑑定に比べて波長記憶の習得者が少ないからです。割合は10対1ほどかと」

「あー、基礎スキルが鑑定と探知だもんね。と言うことは同じ人からスキルを何度も行使されるよりも別の人から受けた方が訓練効率が高いのか」

「その通りです」


 ふむふむ。俺がスキルを伸ばす上でも参考になる。


「今も訓練を続けているの?」

「はい。しかし全く上がる気配を感じません。鑑定感知は13歳で31に達したのですが、それが私の限界の様です」

「あれ? 確か13歳から17歳くらいが最もスキルの伸び易い時期だと聞いたよ」

「一般的にはその通りですが魔物の血統は早熟傾向にある様です」


 ふーん、魔物の血ね。


「標的感知の訓練はどんなの?」

「まず覚えたのが14歳頃です。レベル16でした。主な訓練は胸の大きく開いた服と短いスカートを穿いて街を歩くだけです。男性から性的な視線を多く受けるためとても捗りました」

「恥ずかしくなかった?」

「初めは嫌でしたが途中から何とも思わなくなりました」

「ほほう。じゃあ裸でも歩ける?」

「訓練と割り切れば可能です」


 どうやら羞恥心を同時に鍛えられたらしい。ただ16歳の女の子としてそれでいいのか。


「じゃあ今後も成長が見込めるね」

「いいえ。去年レベル20に達してから全く動きが見られません。レベル21からは敵意や殺意に反応すると言われているためでしょう」

「へー、そうなんだ。確かに想定した訓練はやり辛いね」

「はい」


 俺の標的感知はレベル17だ。ドラルガ緋爵の覗き見で覚えたんだっけか。しかしうーむ。シーリンと同じ訓練では効果が全く期待できないじゃないか。このスキルに限っては女性が得だな。


「最後は結界感知か。これは訓練環境が充実しているように思えるけどレベル13は他に比べると低いね」

「覚えたのが13歳頃でレベルも13でした。以来全く上がりません。恐らく上限でしょう」

「他の派生スキルは訓練しているの?」

「はい」

「例えば?」

「足音消去を行使した教官をひたすら眺めたり、視界外から紙の玉を投げつけられる訓練です」

「おおっ!」


 クラリーサとエマの特訓を思い出す。


「紙玉の訓練は辛いよね」

「はい。いじめられている錯覚に陥ります」

「俺は就寝中に覚えたから試しにシーリンの寝込みを襲ってみるよ」

「……ご自由に。ただ習得後の更なる訓練を考えると正直覚えたくありません」

「それはどんな?」

「対人戦闘を行います。一方的に殴られている現場を見ました。治療士が控えているとは言え痛いのは嫌です」

「ははあ、そっかー」


 まあ普通に暮らしていれば背後からゴブリンアーチャーに射られることなんて無いから不要かもね。


「後は魔物感知があるけど、この環境では訓練できないね」

「……定期的にメロウウェン養成所へ出向いて訓練します。あれが一番怖くて行きたくありません」

「それは第3児童保護教育施設のこと? 南の山奥で戦闘スキル持ちが多く在籍しているなら魔物戦闘も訓練しているでしょ」

「その通りです。先月は死にかけました。ヘルラビットの角がお腹に刺さって意識を失いましたから」

「おうふ、それは災難だったね」


 俺ならラビットくらい目を閉じてても全部避ける自信はあるけど、魔物に縁が無ければ怖いだけだよね。この辺は魔物の血を引いてても関係ないのか。


「あっ、朝食開始の時間を過ぎていました。急ぎ食堂へ向かいましょう」


 シーリンと共に部屋を出る。速足で階段を下り食堂へ入った。テーブルには7人の男子とそれぞれの隣りに女性が座っている。なるほど訓練生と世話役か。


「皆さーん!」


 シーリンが声を上げると一斉に注目を浴びる。


「食事中に失礼します。昨日から特待寮へ入ったユニス・マズラウィ8歳です。どうぞよろしく」

「おーう、よろしくな!」

「一緒に頑張ろう」

「フン、ガキか」

「バカっぽい面だな」


 ほほう、流石は特別待遇の訓練生たちだ。自信に溢れた反応じゃないか。


 カウンターでトレイを受け取り席へつく。すると向かいの男子が声を上げた。


「おいお前、何が出来るんだ?」

「え?」

「まあ8歳なら何も出来ねぇか! ははは!」


 いいねぇ。初対面でこのイキりっぷり。


「よせよバラカート、ビビっちゃってるじゃねぇか。俺はカリムだ。ゴーレム使うなら何でも聞いてくれ」

「は? お前、錬成無いから直ぐゴーレム消えちまうのに何を教えるんだ?」

「うるせぇ、錬成は祝福で覚えるんだよ。誕生日も近いし。バラカートこそ虫ばっか使役してないで早くゴーレムを動かしてみろ!」

「2歳も年下の俺にイキってんじゃねぇよ! おいスミヤ片付けろ! 飯は終わりだ!」

「まだ残ってるよ。ちゃんと最後まで食べな」

「もう腹いっぱいだ!」


 バラカートと呼ばれた男子が隣りの女性に声を飛ばして席を立つ。


「ぷぷっ、自分こそ4歳も年下の新入りに偉そうにしてさ。あー、気にしないで、あいつバカだから」

「はい!」


 カリムと名乗った男子が俺に言葉を掛けた。なるほど、バラカートはいつもあんな調子なんだね。カリムも口は悪いが面倒見は良さそうだ。


「おっと!」


 その声に振り向くと体勢を崩した男子が不敵な笑みを浮かべていた。


「肩に手を置こうとしたら急に動くもんだから転びそうになったよ。食事中は大人しくしてようね」

「はあ」

「僕はシャラフ、この特待寮で最年長だよ。分からないことは何でも聞いてくれ。ところで先ほどは品の無い者たちが失礼をしたね。代わって詫びよう」

「おい、俺をバラカートと一緒にするな」

「カリムのその口の利き方が下品なのだよ。全く何度言っても直さないんだから。おっと失礼。僕も口が悪かったね。ユニス君は知性の低い先輩方に影響を受けないことを祈るよ。では失敬」


 シャラフと名乗った男子は世話役と共に食堂を後にした。


「うひー、気持ち悪い! おいユニス、あのシャラフの影響だけは絶対に受けるなよ」

「う、うん」

「ところでお前、さっきは意識して避けたのか」

「え? あー、ちょっと腰をひねって運動のつもりだった」

「はは、だろうな。まあシャラフの驚いた顔が見れて良かったよ。あいつ目ん玉ひんむいて踏ん張ってやんの。ははは!」


 ほう、このカリムとやら、なかなかに鋭い観察眼だな。確かに先ほどは背後からの接近を傷害感知で無意識に避けた。


 他の男子たちも食事を終えたらしく次々と食堂を出る。俺に向かって軽く手を挙げる者もいれば全く興味を示さない者もいた。


「お前、ここへ入ったからにはスキルが優秀なんだろ。教えてくれ」

「えーっと……」

「私が伝えましょう。ユニスは土属性がレベル5、鑑定、錬成、使役が共にレベル3です」

「はっ! なんだそれ! 操石士として完璧じゃないか! その上、鑑定まであるのか!」


 シーリンが代わりに応えるとカリムは身を乗り出して声を荒げた。


「ははっ! バラカートに伝えよう! どんな反応するか楽しみだ! シャラフの引きつった顔も見えるぜ!」


 カリムはまんめんの笑みを浮かべて足早に食堂を出る。残ったのは俺とシーリンだけだ。


「賑やかだね」

「カリムは特に元気ですから」

「ここって男子だけ?」

「はい。女子の特待寮は隣りです。この後、案内します」

「みんな何処へ行ったの?」

「それぞれの訓練場へ向かいました。そちらも一緒に見て回ります」

「訓練生は沢山いる?」

「この施設だけで800人ほどです」


 おー、いいね。盗視鑑定が捗るぜ。


 食事を終えてシーリンと共に寮を出る。さーて、この施設でどのくらい世話になるか分からないけど、せめてその期間は久々の学生気分を味わうとするか。友達100人できるかな。

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